【今日の1枚】Yes/Tales From Topographic Oceans | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Yes/Tales From Topographic Oceans
イエス/海洋地形学の物語
1973年リリース

楽曲のテーマの難解さと長大さが増した

スケール感あふれる世界を描いた傑作

 『こわれもの』、『危機』のアルバムで一躍トップグループとなったイエスが、ビル・ブルーフォードの脱退、アラン・ホワイトの加入を経て、イエス史上もっとも挑戦的で野心的な作品となった6枚目のスタジオアルバム。そのアルバムはパラマハンサ・ヨガナンダの「あるヨギの自叙伝」の一節、生命や宗教に関する4つの記述を基盤とした壮大なスケールの内容となっており、初の2枚組のアルバムとなっている。イギリスのアルバムチャートで1位を記録したが、曲の長さだけではなく内容の難しさに不満を露わにしたリック・ウェイクマンが収録途中で脱退するなど、イエスファンですら賛否両論に分かれた作品である。

 1968年にデビューしたイエスは、荒れ模様だった創世期のあと、ギタリストのスティーヴ・ハウを獲得してアメリカで大ヒットした1970年の3枚目のアルバム『サード・アルバム』で足場を固めたと言っても良いだろう。創作意欲に乗っていた彼らは、キーボーディストのリック・ウェイクマンが加入した『こわれもの』、『危機』で、彼らのサウンドは完成することになる。しかし、アルバムの制作過程で完璧主義と言っても良いほどの多くのリハーサルを重ね、作る曲が複雑で難解になっていく流れに嫌気を差したドラマーのビル・ブルーフォードが脱退。ビルの脱退は、ある意味イエスというグループへの警鐘だったのかも知れない。なぜなら、そんなグループ内の不穏な状況下でも、ジョン・アンダーソンとスティーヴ・ハウの2人は、前作の成功でより野心的になり、よりスケールの大きなプロジェクトに挑もうとしていくからである。『危機』のレコーディング後、新ドラマーにはジョン・レノンのプラスティック・オノ・バンドで活躍し、イエスのプロデューサーであるエディ・オフォードと同じ部屋で一時期暮らしていた縁でアラン・ホワイトが加入する。1972年のライヴツアーの模様を収録した『イエス・ソングス』では、ほとんどの曲のドラムをアラン・ホワイトが担当しており、この時からイエスのメンバーの一員として活動をしていたようである。1973年3月よりイエスは「クローズ・トゥ・ザ・エッジ・ツアー」と題した来日公演を行っている。その来日ツアー中にジョン・アンダーソンが読んでいたヒンドゥー教僧侶のパラマハンサ・ヨガナンダの著書「あるヨギの自叙伝」の一節、生命や宗教に関する4つの記述に興味を持ち始め、これが次のイエスの大作『海洋地形学の物語』のテーマとなる。

 ツアーの途中でジョン・アンダーソンとスティーヴ・ハウはたびたび蝋燭の灯りのもとで集まり、この「あるヨギの自叙伝」の記述についてインスパイアされた4つの曲の基本構成を練り始めている。この2人の熱のこもったやりとりを横目で見ていたプロデューサーのエディ・オフォードをはじめ、他のメンバーは不安を露わにしたという。理由は過去に例がないほどの複雑でスケールの大きい音楽がそこで語られていたからである。最終的にはメンバーは賛同し、イギリスのモーガンスタジオでレコーディングを開始している。このモーガンスタジオでレコーディングをする前は、街中のレコーディングをするか田舎に引きこもってレコーディングをするかといった、メンバーの意見が2つに分かれていたが、結局24トラックの最新設備のある街中のモーガンスタジオに決めている。さらにそのスタジオの壁に田舎の風景の写真が飾られる折衷案が取り入れられたという。レコーディング作業に関しては基本的なラインは決まっていたものの、詳細に関しては未定の部分が多く、やはりジョンとスティーヴが何度も個室にこもって会議を行って決めていたと言われている。曲の素材を元に、それを解釈し、ひとつにまとめあげ、最終的にテーマのもとに集約された組曲として完成したのが、1973年に発表の『海洋地形学の物語』である。本アルバムは前作以上の大作志向となっており、楽曲から歌詞にいたるまで幻想感と抽象性が強くなった意欲的な作品となっている。

★曲目★
01.The Revealing Science Of God Dance Of The Down(神の啓示)
02.The Remenbering High The Memory(追憶)
03.The Ancient Giants Under The Sun(古代文明)
04.Ritual Nous Sommes Du Soleil(儀式)
★ボーナストラック★(2002年リマスター盤より)
05.Dance Of The Down~Studio Run-Through~(ダンス・オブ・ザ・ドーン~スタジオ・ラン・スルー~)
06.Giants Under The Sun~Studio Run-Through~(ジャイアンツ・アンダー・ザ・サン~スタジオ・ラン・スルー~)

 アルバムはレコードで言う片面に1曲ずつ計4曲で構成された内容になっており、それぞれ20分前後の大曲になっている。1曲目の『神の啓示』は、静かな波の音とかすかに聞こえるキーボードの音色をバックに、はるか遠くから響くようなジョンの歌声から始まる。2分50秒あたりから徐々に楽器が加わって次第に盛り上がり、テーマとなる力強いアンサンブルに繋がっていく。静の部分とロックの部分が交互に訪れる、イエスらしい圧巻のテクニックが伴ったサウンドになっている。『危機』にあったような切迫感はなく、朗々としたジョンのヴォーカルを始めとしたそれぞれの楽器が非常に明瞭である。個々の楽器が織りなす宇宙的な広がり、想像力を掻き立てる歌詞、まるで水平線の向こうを見つめるかのような感性が詰まった1曲となっている。2曲目の『追憶』は、リュートを効かせた軽快なイントロから始まり、緩やかなアンサンブル上で歌うヴォーカルが印象的な楽曲。海洋地形学のテーマの通り、水の神秘を解き明かすようなフレーズの歌詞と共に、モーグやメロトロンといった流動的なリック・ウェイクマンのキーボードが冴えわたっており、クリス・スクワイアがフレットレス・ベースを弾き、スティーヴがエレクトリックギターとアコースティックギターを持ち換えつつ、古楽器のリュートを弾いている。難解でありながら計算された内容であり、イエスだからこそ可能な技巧的な楽曲になっている。3曲目の『古代文明』は、いきなり不思議な異世界に飛んだようなパーカッションから始まり、原始的なリズムとシュールなリードギターによる古代人のイメージを作り上げている楽曲。アラン・ホワイトによる複雑なリズムセクションや即興的なギター、変幻自在なキーボードといったインスピレーションまかせの楽曲になっており、個々の力量に依った躍動感あふれる内容になっている。とにかく後半のクラシカルなギターソロをはじめとした圧倒的ともいえるスティーヴ・ハウのギターの表現力が素晴らしく、多彩な演奏による多種多様をイメージした古代文明を見事に表している。4曲目の『儀式』は再び1曲目に戻ったようなロック形式になり、これまでのテーマを集約させたような内容になっている。クリス・スクワイアの力強いソロ、アラン・ホワイトの才能あふれるリズムセクション、リック・ウェイクマンの雄大なキーボード、スティーヴ・ハウの技巧的なギター、そしてジョン・アンダーソンの心安らぐようなヴォーカルなど、途切れることのない緩急のあるドラマティックなアンサンブルを披露している。最後はギターを筆頭に盛り上がりながら終焉に向かい、ティンパニをはじめとする多彩なパーカッションを含む演奏で締めくくっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前作の『危機』と比べて切迫感は無く、全体的に緩やかなアンサンブルと各メンバーのソロを重視した楽曲が多くなっていると思える。特にスティーヴ・ハウの表現力豊かなギターテクニックは素晴らしく、リック・ウェイクマンのメロトロンの使用頻度はこれまで以上である。4曲で80分という大曲は例がなく、結果的に難解で長大となった本作品は、当時のイエスだからこそ成し得たアルバムとも言える。

 アルバムはイギリスでのアルバムチャート1位を獲得し、アメリカでは6位、日本でも9位にランクインする好成績を収めている。しかし、本来は1973年10月26日にアルバムがリリースされる告知がなされていたが、12月22日に遅延している。理由はリック・ウェイクマンの脱退である。リックは日頃からイエスのますます長大で難解なアルバム作りに異議を唱え続けていたという。また、彼はイエス加入後に発表したソロアルバム『ヘンリー八世の六人の妻』が成功したことから、ソロに転向する意志を固めたとも言われている。彼はレコーディングの最後まで参加しなかったために、収録曲の『儀式』の終盤のピアノはアラン・ホワイトが弾いている。リック・ウェイクマンの後任には、レフュジーというグループでキーボードを務めたスイス人のパトリック・モラーツがスカウトされて就任している。この公認候補には他にギリシャ人のヴァンゲリスの名もあったらしく、当時、外国人音楽家の活動を国内で制限するユニオンの問題で実現できなかったという経緯があったらしい。メンバーとなったパトリック・モラーツは、その華麗なる鍵盤裁きとイエスにフュージョンという要素を多くを持ち込み、新たな息吹を与えている。それが1974年にリリースされた7枚目のスタジオアルバム『リレイヤー』である。このアルバムは『戦争と平和』というコンセプトに、アグレッシヴな即興タイプの演奏を基軸とし、モラーツが心酔しているラテン音楽やジャズの要素が色濃く加味された内容になっている。しかし、彼がイエスで活躍したのはこの1枚のみで、急遽脱退することになってしまう。理由は1976年にリック・ウェイクマンが復帰したためである。次のアルバムのリハーサルの途中で脱退することになったモラーツは、ソロに転向してブラジルを拠点に活動することになる。一方、リック・ウェイクマンが復帰したことで話題となった8枚目のスタジオアルバム『究極』だったが、これまで6人目のメンバーであると仲間から信頼されてきたプロデューサーのエディ・オフォードが降板し、また、ロジャー・ディーンが担当してきたアルバムジャケットがヒプノシスに変わるなど、イエスを取り巻く状況は一変することになる。

 2022年5月26日にイエスのドラマーとして長年務めてきたアラン・ホワイトが、残念ながら死去したとの発表があった。享年72歳である。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は数あるイエスの作品の中でも1つの到達点であり、このアルバムからイエスの音楽性大きく変わっていく分岐点となった6枚目のスタジオアルバム『海洋地形学の物語』を紹介しました。初の2枚組のアルバムであると同時に、1曲が20分前後の大曲であり、その複雑で難解な楽曲はイエスを知る人にとっては行き着くところまで行ってしまった感があります。イエスは1つのテーマを元に練りに練って曲を完成していくタイプのグループであり、その中心人物はジョン・アンダーソンとスティーヴ・ハウの2人です。彼らが前作の『危機』の成功で味を占めてしまったのは間違いなく、今度はパラマハンサ・ヨガナンダの「あるヨギの自叙伝」から生命と宗教に関する4つの記述をテーマにするというから、周囲のメンバーは唖然どころか不安になったことは言うまでもありません。しかし出来上がったアルバムは、想像力を掻き立てる素晴らしい楽曲であると褒めるリスナーがいる一方、単なる水増しではないかと批判するリスナーもいて、賛否両論を呼んだアルバムでもあります。1つのテーマを多彩な楽器で自在に演奏する彼らのテクニックは圧巻であり、神秘的で宇宙的ともいえる広がりを感じさせる楽曲は、イエスが常に挑戦し続けるグループであることの証でもあります。そう言う意味では、このようなアルバムが作れるのは当時のイエスでしかなく、またイエスでしか出来ない芸当であったとも言えます。心象性のある音楽は聴き手の想像力に委ねた作りが良いのか、聴き手に伝わる明快さがあった方が良いのかといった、私たちの聴き手側が考えさせられたアルバムであると私は思っています。

 実はご存じの方も多いと思いますが、5月26日に50年に渡ってイエスのドラマーとして活躍してきたアラン・ホワイトが亡くなったという発表がありました。『90125(ロンリー・ハート)』のアルバムでイエスを知った私にとって、2015年6月28日に急性骨髄性白血病で亡くなったクリス・スクワイアと共にイエスの屋台骨を支えてきたメンバーが亡くなるのは非常に残念であり淋しいものがあります。アランの場合は今年の9月に『危機』50周年を記念した来日公演をひかえており、参加メンバーに名前があったにも関わらず、5月23日に体の不調を理由にジェイ・シェレンが代行すると発表がなされたばかりでした。残り4か月であのアランが叩く『危機』のレパートリーのドラミングが見られると歓喜したファンはもとより、本人もさぞかし悔しい思いをしたに違いありません。ここで謹んでご冥福をお祈り致します。

それではまたっ!