【今日の1枚】Gravy Train/(A Ballard Of) A Peaceful Man | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Gravy Train/(A Ballard Of) A Peaceful Man
グレイヴィ・トレイン/ア・バラード・オブ・ア・ピースフル・マン
1971年リリース

多彩な曲想で聴き手の予測を越えた
英ヴァーティゴレーベルの傑作

 百花繚乱の1970年代初期のブリティッシュロックシーンにおいて、多様な音楽性を取り込み、創造性の高い楽曲を提示し続けたグレイヴィ・トレインのセカンドアルバム。フォークやブルース調の楽曲が多かったデビュー作と比べて、本作ではクラシカルなオーケストラアレンジを導入し、プログレッシヴな領域へと飛躍した彼らの最高傑作となった作品である。これだけ完成度の高いアルバムながら、当時のセールスはたった数百枚だったらしく、後に数多い英ヴァーティゴレーベルの中でもトップクラスのコレクターアイテムとなった作品である。

 グレイヴィ・トレインは、1969年にヴォーカル兼ギタリストのノーマン・バレットを中心に、イギリスのランカシャーのセントヘレンズで結成されたグループである。ノーマン・バレットはマンチェスターに程近いニュートン・ルウィローズで生まれており、ギタースキルを身に付けた彼は学校を卒業後にザ・ハンターズというローカルグループを結成している。しばらくは日雇いの会計士の研修生として仕事をしつつ、会計士の試験に合格した後に1960年後半にロンドンに移住。この時にロンドンで盛んだったビートミュージックやロックに影響され、自らプロの音楽の道に進むことを決めている。バレットはロンドンで様々なグループとセッションし、中にはロッド・サッチ率いるヘヴィ・フレンズというグループで、一時ジミー・ペイジの代役として参加した実績を持っている。彼はセントへレンズに移り、ライヴハウスのスパゲッティハウスで出入りしていた際、キーボード兼サックス奏者のJ.D.ヒューズと出会うことになる。ヒューズは幼少の頃からピアノを習い、独学でサックスを学んだミュージシャンであり、スパゲッティハウスを拠点に演奏していたミュージシャンである。バレットとヒューズは意気投合し、自分たちのグループを結成するために、スパゲッティハウスでインカというグループで演奏していたベーシストのレスリー・ウイリアムス、ジョン・ロザラム・トリオというジャズグループに所属していたドラムスのバリー・ダヴェンポートの2人に声をかけ、1969年にグレイヴィ・トレインというグループを結成することになる。ブルース、ジャズ、クラシックなど、それぞれ違うジャンルで演奏してきたメンバーのアイデアを元に曲は作られ、1969年の夏にセントヘレンズ・クリケット・クラブでリハーサルを始めている。彼らはアルバムの制作を念頭にデモテープを作り、当時、フィリップスの傘下で新進気鋭のグループを輩出していたヴァーティゴレーベルと契約する。プロデューサーにジョナサン・ピールが迎えられ、ロンドンにあるオリンピックスタジオでレコーディングを開始し、1970年にデビューアルバムとなる『グレイヴィ・トレイン』がリリースされる。そのアルバムはフルートをリード楽器としたブルース調のロックになっており、先に結成されたフルート奏者イアン・アンダーソン率いるジェスロ・タルと比較されることが多い。しかし、強烈な個性を放つイアン・アンダーソンのような存在がなかった分、グレイヴィ・トレインは楽器の持つフレキシブルな特性を最大限に利用したといえる。そうした様々なジャンルを組み入れては音楽的な幅の大きさをオリジナリティとし、グループにとって最高傑作となったのが、1971年にリリースした『ア・バラード・オブ・ア・ピースフル・マン』である。このアルバムはオーケストラアレンジにニック・ハリスンを迎えて、ブルースロック寄りだった前作からクラシカルなプログレッシヴロックに変貌した画期的な作品となっている。

★曲目★
01.Alone In Georgia(アローン・イン・ジョージア)
02.(A Ballard Of) A Peaceful Man(ア・バラード・オブ・ア・ピースフル・マン)
03.Jule’s Delight(ジュールズ・デライト)
04.Messenger(メッセンジャー)
05.Can Anybody Hear Me(キャン・エニバディ・ヒア・ミー)
06.Old Tin Box(オールド・ティン・ボックス)
07.Won’t Talk About It(ウォント・トーク・アバウト・イット)
08.Home Again(ホーム・アゲイン)

 アルバムの1曲目の『アローン・イン・ジョージア』は、牧歌的なフォークロックをベースにした爽やかなフルートの音色から始まり、豪華なストリングスが広がる美しい楽曲。力強いノーマン・バレットのヴォーカルと伸びやかなコーラスが冴えており、後にシングルカットもされた彼らの名曲である。2曲目の『ア・バラード・オブ・ア・ピースフル・マン』は、前曲からつながる形でクラシカルなストリングスが響き、イントロの抒情的なフルートのソロが素晴らしい楽曲。往年のブリティッシュロックのようなヘヴィなアンサンブルを経て、後半では哀愁のヴォーカルとバックの美しいストリングス、そして泣きのギターという三拍子がそろった演奏を聴かせてくれる。3曲目の『ジュールズ・デライト』は、牧歌的なフルートとチェンバロのようなクラシックギターの効いた美しいナンバー。中盤からのストリングスとフルート、クラシックギターのアンサンブルは鳥肌モノであり、レスリー・ウイリアムスの冴えたベースラインは必聴モノである。4曲目の『メッセンジャー』は、エレクトリックギターとフルートがスリリングなユニゾンを聴かせた楽曲。リズム隊がブルース調からジャズ調に変化し、繊細な演奏になっている。後半ではフルートの響きが荒々しくなり、エレクトリックギターが前面に出たハードロックスタイルになる。5曲目の『キャン・エニバディ・ヒア・ミー』は、タイトなリズムとヘヴィなエレクトリックギター、力強いフルートを駆使したハードロックナンバー。ここではノーマン・バレットのパワフルなヴォーカルが堪能できる。6曲目の『オールド・ティン・ボックス』は、サックスをフィーチャーしたファンクっぽいノリの楽曲。変拍子のあるパーカッションを中心に、どこか崇高な雰囲気にさせてくれるコーラスが印象的である。7曲目の『ウォント・トーク・アバウト・イット』は、フルートがリードを担い、16ビートのアップテンポで突き進むハードロックナンバー。泣きのエレクトリックギターが響き、1970年代初期のハードロックにも通じる楽曲になっている。8曲目の『ホーム・アゲイン』は、重々しくも穏やかな表情を魅せるブルージーな楽曲。伝統的なブリティッシュロックとトラディショナルな要素を組み入れた感じの内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、レコードでいう1~3曲目のA面のオーケストラアレンジが施されたクラシカルな楽曲と、4~8曲目のB面のハードロック調の楽曲に分かれた内容になっていることが分かる。曲想は多彩でありながら、それでいて曲間のつながりが非常に自然であり、極めて統一感のあるアルバムになっていると思える。百花繚乱の様相を呈していたブリティッシュロックシーンにおいて、ブルースやフォークをベースに、ハードロック、クラシック、ジャズといったエッセンスを大胆に取り入れた彼らの本アルバムは、決して他に引けを取らない逸品である。

 今でこそ本アルバムは、グレイヴィ・トレインの作品の中でも最高傑作との呼び声が高いが、当時は多くのヴァーティゴレーベルからリリースされた多くのアルバム同様に、たった数百枚というセールスで終わっている。彼らはめげずにライヴなどの演奏を続けていたが、1972年2月にドラムスのバリー・ダヴェンポートが脱退。同年5月にドラムスのラッセル・コールドウェル、ギター兼ヴォーカルにジョージ・ライノンが加入し、5人編成のグループとなっている。彼らはヴァーティゴレーベルから離れ、パイ傘下のドーンレーベルに移籍し、1973年にサードアルバムとなる『セカンド・バース』、1974年にロジャー・ディーンの描いたジャケットアートが印象的な4枚目のアルバム『ステアケース・トゥ・ザ・デイ』をリリースしている。シンセサイザーを導入し、メロディを主体とした楽曲となるが、ヴァーティゴ時代のような意欲的な作品からはすでに遠ざかっていたという。商業的にもあまり奮わず、結局、1975年にグループは解散することになる。J.D.ヒューズは解散後に、ニューソウルメッセンジャーズの創設メンバーとなって、キーボードやサックスを演奏する活躍を見せている。ベーシストのレスリー・ウイリアムスは、音楽エージェントのオーシャン・エンタテインメントに入社。グループの中心人物だったノーマン・バレットは、1978年にリリースしたマンダラバンドの『アイ・オブ・ワンダー』に参加し、1980年には自らのグループであるノーマン・バレット・バンドを結成。1981年には『プレイング・イン・ザ・シティ』、1983年に『ヴォイス』という2枚のアルバムをリリースしている。その後もノーマン・バレットは音楽活動を続けていたが、2011年に術後合併症により死去している。62歳である。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフォーク&ブルース調の音楽性からプログレッシヴな音楽性に変わったグレイヴィ・トレインのセカンドアルバム『ア・バラード・オブ・ア・ピースフル・マン』を紹介しました。ここ最近、私はCD棚で埃をかぶっているような過去のCDを聴き返しているのですが、ときどき、こんな良いアルバムだったっけ?と思わずびっくりするようなアルバムが出てくることがあります。今回紹介したグレイヴィ・トレインのアルバムもそのひとつです。3枚目の『セカンド・バース』や4枚目のアルバム『ステアケース・トゥ・ザ・デイ』も持っていて、どちらかというと4枚目のアルバム『ステアケース・トゥ・ザ・デイ』のシンセサイザーを駆使した多彩なインストゥメンタル曲や収録している『スターブライト・スターライト』といったキャッチーなメロディの曲のイメージが強かった感じがありましたね。元々はブルースハードのグループだったのですが、本アルバムではニック・ハリスンによるオーケストラアレンジが全編にわたって冴えまくっていて、特に1曲目から3曲目のストリングスとフルート、ギターのアンサンブルはブリティッシュロックの中でも上位に来るような素晴らしい楽曲になっています。

 

 1970年当時はプログレッシヴロックをはじめ、多くのロックグループが花開いた時期です。さらにマイナーレーベルだったヴァーティゴからリリースされたこともあって、グループがなかなか認知されなかったというのも仕方ないのかも知れません。しかし、本アルバムは1980年代から1990年代にヴァーティゴレーベル屈指のコレクターアイテムとなったことは先にも述べました。プログレッシヴロックは時代を越えるといいますが、40年以上経って、こうして紙ジャケとなってリマスターされ、手元で聴くことができるのは幸せなことなのかも知れません。こんな発見があるのなら、棚の奥にあるCDを引っ張り出してみるのもいいかも知れませんね。

それではまたっ!