【今日の1枚】Atila/Intencion(アッティラ/インテンシオン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Atila/Intencion
アッティラ/インテンシオン
1976年リリース

スペインでカルト的な人気を誇る
サイケデリック風味のプログレハード

 スペインの自主レーベルからデビューし、その高い演奏力と熱狂的なファンによって、大手BASFレーベルからリリースされたアッティラのセカンドアルバム。トリオ編成だった前作からベーシスト、音響担当のメンバーが加わったことにより、ジャズ要素をベースに鮮やかなハモンドオルガンやシンセサイザー、サイケデリックなギターが渾然一体となったオルガンハードロックとなっている。メンバーそれぞれの演奏技術は高く、クラシカルなキーボードを中心に、グルーヴの効いたリズムセクションに支えられたインタープレイが見事と言っても良い傑作アルバムである。

 アッティラはスペインのカタルーニャ地方にあるジローナで、1973年に結成されたグループである。オリジナルメンバーはエドゥアルド・アルバレス・ニエプラ(ギター)、フランシスコ・パコ・オルテガ(キーボード)、ホアン・プンジェト(ドラムス)のベース不在のトリオ編成であり、主に英国のエマーソン・レイク&パーマーに影響された演奏をしていたという。彼らは自分たちで曲のアイデアを出し合い、もっぱらスタジオに籠ってリハーサルを繰り返す毎日を送り、そのため小さなバーで演奏する以外、ライヴの活動はほとんど行っていない。リハーサルを重ねるうちにアルバムのレコーディングを考えるようになり、1975年にデモテープを録音したが、自分たちの音楽がレーベルの関心を寄せるものではないと悟り、自主制作に踏み切っている。バルセロナのゲマ2スタジオに入った彼らは、ファーストアルバムをスタジオライヴ形式で録音。わずか1,000枚のプレスのみのデビューアルバム『El Principio Del Fin(終焉の兆し)』をリリースする。アルバムはバッハを思わせるチャーチオルガンやスリリングなリズムセクション、饒舌なギターによる壮絶なインプロヴィゼーションを散りばめた内容になっており、スタジオライヴであることを証明するために、わざと友人を招いて実際にライヴを見学させて拍手などを録音している。アルバムリリース後にスペインのプログレッシヴ・フェスティバルに出演するようになり、さらにフランスにも遠征し、パリで行われたゴルフ・ドルオ・フェスティバルでは賞を獲得している。この時にメンバーチェンジがあり、ベーシストのミゲル・アンヘル・ブラスコが加入。キーボード奏者のフランシスコ・パコ・オルテガが脱退し、代わりにベネト・ノグエが加入している。カルテットとなったアッティラは、様々なフェスティバルに参加し、マドリードで行われたパティ・スミスやジョン・ケイル、グラナダといったアーティストが出演したビスタ・アレグレの9時間に及ぶコンサートにも出演している。このような成果から1976年に、アッティラはドイツの大手BASFレーベルからセカンドアルバムの打診があり、彼らにとって初めてのスタジオレコーディングが行われる。こうして1976年にセカンドアルバム『インテンシオン』がリリースされる。アルバムはオルテガのクラシック指向が強かった前作とは趣が変わり、効果的なジャズを使用したインタープレイを中心に、エマーソン・レイク&パーマーやトレースを思わせるサイケデリックなオルガンハードロックとなっている。

★曲目★
01.Intencion(インテンシオン)
02.Cucutila(ククティラ)
03.Dia Percecto(完璧な一日)
04.El Principio Del Fin(終焉の兆し)
★ボーナストラック
05.Un Camel De Xocolata(チョコレートの駱駝)

 アルバムの1曲目の『インテンシオン』は、バロック風のオルガンとギターのアルペジオ、荘厳なコーラスから始まり、リズムセクションが加わると疾走感あふれるアンサンブルに変貌する。クラシカルなオルガンがリードしつつ、イフェクトを効かせたギター、ジャジーなドラミングが渾然一体となった内容になっている。中盤からシンフォニックなバックを下に、伸びやかなヴォーカルがあり、ブルージーなギターソロが展開される。後半ではシンセサイザーの効果音が炸裂し、サイケデリック風味のジャズロックとなっている。2曲目の『ククティラ』は、キーボードを中心としたクラシックテイストの強いインストゥメンタル曲。荘厳なオルガンから始まり、手数の多いドラミングとベース上で繰り出される鮮やかな鍵盤プレイは、エマーソン・レイク&パーマーやトレースにも通じる。学校の鐘のような音階から今度はシンセサイザー、ハイトーンのコーラスが展開し、ワウワウのギターとともに段々とスピードアップしていく。3曲目の『完璧な一日』は、モーグシンセサイザーを使用したイントロから、ドラムロールで転調した途端、クラシカルなオルガンとストリングセクション、ギターによる壮麗なアンサンブルになる。オルガンのクラシック調とブルージーなギターのロック調が行き来する内容になっており、スリリングな展開が聴きどころである。後半ではリズムレスのキーボードソロになり、優しい雰囲気に包まれた美しいサウンドになっている。4曲目の『終焉の兆し』は、ファーストアルバムにも収録されたナンバーで、約半分の長さに凝縮アレンジした内容になっている。イントロはまさしくバッハの『トッカータとフーガ』であり、後にハードロック風のファズを効かせたギターソロになる。クラシカルなオルガンに対抗する形でジャジーなギターが加わり、そしてモーグシンセサイザーが重なっていく内容になっている。グルーヴの効いたリズムセクションに安定性があり、ジャズをベースにした自然なインタープレイが展開されている。中盤ではホアン・プンジェトによる長いドラムソロがあり、再び軽快なリズムに乗せたキーボードプレイになる。後にバッハの『トッカータとフーガ』によるバロック調のアンサンブルになり、ファズの効かせたギターソロを経て、最後は電子音で幕を下ろしている。ボーナストラックの『チョコレートの駱駝』は、バラード調のヴォーカル曲になっており、甘いヴォーカルとメロディアスなギターが素晴らしい逸品になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、クラシカルなオルガンとハードロック調のギターに対して、ジャズをベースにしたリズムセクションがバランスよく配置されており、極めてインタープレイ色の強い作品になっている。サイケデリック兼クラシックの強かった前作よりも格段に洗練されたアレンジになっており、安定したバックに支えられた多彩なオルガンプレイは壮麗であり鮮やかですらある。

 アルバムリリース後にグループは欧州ツアーを慣行し、CANを含む欧州のプログレグループと共演を果たしている。同年の10月にはギタリストのエドゥアルド・アルバレス・ニエプラが兵役のために一時的にグループから離れ、ベーシストのミゲル・アンヘル・ブラスコがギターを兼ねることになり、代わりのベーシストにはホセ・マヌエルが参加することになる。彼らは積極的に欧州のロックフェスティバルに参加し、1976年末にはスペインのベストライヴバンドに選ばれる快挙を成し遂げている。それと合わせて本アルバムの売り上げもアップし、スペインでは一躍トップグループの仲間入りとなっている。1977年2月にEMIオデオンと契約し、サードアルバム『Revivir』のレコーディングを開始。より良い予算の下で録音していたが、ベーシストにはホセ・マヌエルが脱退してしまい、代わりにジャン=ピエール・ゴメスが参加。ゴメスはギタリストだったが、ベーシストとして参加している。こうしてリリースしたサードアルバムだったが、カタルーニャのナショナリスト運動に関する宣言が含まれた歌詞があり、一部の批評家から酷評を得ることになり、アルバムの出来は良かったものの市場の反応は冷たかったという。失意の中、スペインの全国ツアー後にベーシストのジャン=ピエール・ゴメスが脱退し、代わりにハウメ・リベラが参加。兵役に出ていたギタリストのエドゥアルド・アルバレス・ニエプラが復帰するも、音楽性の不一致でギタリストのミゲル・アンヘル・ブラスコ、キーボード奏者のベネト・ノグエ、ベーシストのハウメ・リベラが脱退する羽目になってしまう。こうした事態にグループとして存続することができなくなってしまい、1978年にアッティラは解散することになる。解散後、ニエプラは映画やTVのサントラの制作に携わり、ベネトとブラスコはACRAというグループを結成し、プンジェトは学校でドラムを教える教師となっている。アッティラは解散後にフランスを中心に欧州で熱狂的なファンが多く残り、ファーストを含むアルバムレコードは高値で取引されるようになったという。しばらく音沙汰なく10年以上が経過した1990年代に、ロスト・ヴァイナル・レーベルが本アルバムを含むアッティラのアルバムをCDで再発してから、プログレッシヴロックの評論家から高く評価されるようになる。この風向きから1999年11月にドラマーのホアン・プンジェトとキーボード奏者のベネト・ノグエが、イグナシ・ボッシュ(ギター)、ペレ・マルティネス(ベース)、ホアン・カルドネール(ギター)を加えたリユニオン・コンサートを開催。この模様は1999年に『インテンシオン+Reviure』としてリリースされている。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はスペインのカルト的な人気を誇るプログレッシヴロックグループ、アッティラのセカンドアルバム『インテンシオン』を紹介しました。このアルバムは2、3年前に購入したものですが、この『インテンシオン』は個人的にお気に入りで、かなり聴く部類に入っています。スペインのプログレッシヴロックというと、イセベルグやグラナダ、トリアーナ、フシオーンといったグループがありますが、ほとんどジャズロックを基調としたものが多く、アッティラのようなクラシカルなキーボードを中心としたグループはなかなか少ないと思います。アッティラはかなり後になって聴いたグループだったので、ここまでクラシカルな演奏が繰り広げられているのに結構びっくりしたものです。たぶん、ジャズロックの多いスペインではかなり異種的な存在だったのだろうと思われますが、スペイン国内よりもフランスで特に人気が高かったというのも何となく分かるような気がします。本アルバムはベネト・ノグエの鮮やかなキーボードプレイが中心となっていて、そこにファズを効かせたハードロック調のギター、そして手数の多いジャジーなドラミングが混在したスリリングなサウンドになっていることが大きな特徴となっています。多くの転調があり、めぐるましく曲調が変化する変幻自在な演奏は非常にユーモラスです。個人的に2曲目の『ククティラ』のような壮麗なキーボードを中心としたアンサンブルは大好きです。

 さて、アッティラの3枚目のアルバムは、カタルーニャのナショナリスト運動に関する宣言が含まれた歌詞が盛り込まれたために、大ひんしゅくを受けてしまいます。これはカタルーニャが過去に5度ほど独立宣言をしたことに由来しています。スペインのフランコ政権が確立してから、民主主義を否定した保守的、伝統主義的なイデオロギーを背景とした独裁政治体制が続いていたため、カタルーニャの独立の話は封印されますが。1975年に独裁者フランコ将軍が死去したのを契機にスペインの自由化、民主化が進むに連れて再度浮上してきたものです。しかし、カタルーニャの独立はスペインを分断することになり、反対する国民も多かったそうです。アッティラもまさか歌詞の一部分でここまで話題になるとは思っていなかったようですが、それだけスペインで注目されたグループだったことを裏付けることになります。

 アッティラはリリースした3枚のアルバムすべて格調高いキーボードを中心としたインタープレイが聴きどころのグループです。その中でも前作のクラシカルな要素を引き継ぎ、ジャズエッセンスをうまく取り入れた本アルバムは、洗練されたアレンジが冴えまくった素晴らしいアルバムです。聴いたことのない人は、ぜひ、味わって欲しいです。

それではまたっ!