【今日の1枚】Il Volo/Il Volo(イル・ヴォーロ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Il Volo/Il Volo
イル・ヴォーロ/イル・ヴォーロ
1974年リリース

実力派のミュージシャンが集結した
イタリア屈指のスーパーグループ

 イタリアの類まれなる腕利きのミュージシャンが集まった、“飛翔”という意味を持つイル・ヴォーロのデビューアルバム。本アルバムは繊細で緻密なドラマティック性の高いジャズロックとなっており、その豪華な顔ぶれとは対照的に、ヴォーカルを打ち出した意図的ともいえる“歌モノ”を披露したことでリスナーを驚かせた作品としても有名である。後に「ヴォーロ一派」という音のカテゴリーを生み出した情熱的ともいえる技巧性と抒情性のあるサウンドは、数あるイタリアンロックの王道を指し示した1枚である。

 イル・ヴォーロは、元フォルムラ・トレのメンバーを中心に、イタリアのRCA傘下のヌメロ・ウーノ・レーベルを設立した1人、ルーチョ・バッティスティの力添えで、有名ミュージシャンを集めて自身のレーベルを売り出すために作り出したグループである。メンバーは元フォルムラ・トレのアルベルト・ラディウス(ギター、ヴォーカル)、同じく元フォルムラ・トレのガブリエーレ・ロレンツィ(キーボード)、元カマレオンティ、フローラ・ファウナ・エ・チェメントのマリオ・ラヴェッツィ(ギター、ヴォーカル)、元リコルディ、スーパーグルッポのジャンニ・ダッラーリオ(ドラムス、ヴォーカル)、元イ・ジガンティのアレンジャーを務めたヴィンチェ・テンペラ(ピアノ)、そして元オサージュ・トリベ、ドゥエッロ・マードレに参加したボブ・カッレーロ(ベース)の6人である。それぞれ、イタリアの名グループを渡り歩き、売れっ子のスタジオミュージシャンであり、ほとんどがヌメロ・ウーノ・レーベルの専属ミュージシャンばかりである。

 グループ結成までの経緯は、1968年にビートロック、サイケデリック音楽の影響を受けて結成されたフォルムラ・トレの存在がある。フォルムラ・トレは1972年にリリースしたサードアルバム『Sognando E Risognando(夢または夢)』で一躍プログレッシヴロックグループに転身し、翌年の1973年の4枚目のアルバム『La Grande Casa(神秘なる館)』では、フォークタッチのプログレッシヴポップとして独自の音楽性を確立している。しかし、同年にP.F.M.やニュー・トロルス、オザンナという表舞台で大活躍をしていたグループの陰に隠れる形で、高い評価を得られずに解散してしまう。そこでフォルムラ・トレのギタリストだったアルベルト・ラディウスとキーボード奏者のガブリエーレ・ロレンツィの2人が、新たなグループとしてイル・ヴォーロを結成することになる。そのイル・ヴォーロは当時イタリアではよく知られていたミュージシャンが集められたことで、当時はスーパーグループとして注目されたという。元シンガーでありプロデューサーでもあったルーチョ・バッティスティの力添えで結成したイル・ヴォーロは、1973年に誕生させたP.F.M.に次ぐヌメロ・ウーノ・レーベルの期待のグループとして売り出そうとしたのである。こうしてツインギター、ツインキーボードという編成で、1974年5月にデビューアルバム『イル・ヴォーロ』がリリースされる。アルバムは明朗な歌曲を中心に構成されたものだが、ヴォーカルのバックではメンバーそれぞれが火花を散らすような技巧的な演奏が繰り広げられた逸品となっている。

★曲目★
01.Come Una Zanzara(一匹の蚊の如く)
02.La Mia Rivoluzione(魂の変革)
03.Il Calore Umano(情念)
04.Il Canto Della Preistoria ~Molecole~(創世記)
05.I Primi Respiri(始まりの吐息)
06.La Canzone Del Nostro Tempo(讃歌)
07.Sonno(睡魔)
08.Sinfonia Delle Scarpe Da Tennis(テニス靴のシンフォニア)

 アルバムの曲はギタリストのアルベルト・ラディウスとキーボード奏者のガブリエーレ・ロレンツィの2人が中心となって作られている。1曲目の『一匹の蚊の如く』は、繊細な12弦ギターとエレクトリックギター、そしてベースによる幽玄な世界から始まり、キーボードの音と共に一気にジャズスタイルのアンサンブルに変貌する楽曲。リリカルなキーボードとエレクトリックギターが中心となったサウンドだが、テクニカルなベースの主張が凄まじい。この曲がヴォーカル曲だと言っても個々の奏でる楽器の存在感は圧巻である。2曲目の『魂の変革』は、アコースティックギター上で囁くようなヴォーカルが瑞々しく、後に独特のリズムを刻むキーボードとベースラインによるアンサンブルが特徴の楽曲。さらに雄大なシンセサイザーをバックに、抒情的なエレクトリックギターが泣きまくる逸品である。3曲目の『情念』は、イタリアのカンツォーネを思わせるギターの爪弾きと優しいコーラスで始まり、シンセサイザーで徐々に盛り上がった途端、アルベルトの情熱的なギターソロが奏でられる楽曲。バラードに近いメロディアスな楽曲にも関わらず、手数の多いドラミングやリリカルなエレクトリックピアノが技巧的である。4曲目の『創世記』は、アコースティックギターとオルガンを駆使したフォーク色の強い楽曲。ムーヴかクラヴィネットで擬態したようなヴォーカル音が効果的に使われているが、後半ではキーボードによるシンフォニックなサウンドに変貌していく。5曲目の『始まりの吐息』は、エレクトリックピアノと2本のギターをバックに揚々としたヴォーカルが特徴の楽曲。美しい響きのハープシコードと甘美なエレクトリックギターのソロがあるなど、イタリアらしいメロディが満載の内容になっている。6曲目の『讃歌』は、タイトなリズム上で歌われるヴォーカル曲だが、リリカルなエレクトリックピアノとギターが情熱的な楽曲。途中でバラード調に変化し、アコースティックギターとシンセサイザーによる美しいアンサンブルになり、後半では再びエレクトリックピアノとギターによるハードなジャズロックになる。7曲目の『睡魔』は、優しい2本のギターとシンセサイザーをバックに憂いのあるヴォーカルが印象的なメロディアスな楽曲。後半ではアルベルトのテクニカルなギターソロが堪能できる。8曲目の『テニス靴のシンフォニア』は、荘厳なオルガンからパーカッションを中心としたアンサンブルをバックにしたポップテイストの強いヴォーカル曲。躍動感のあるピアノと煌びやかなキーボードを奏でたままフェードアウトしていく。こうしてアルバムを通して聴いてみると、2人のギタリストと2人のキーボーディストを中心としたポップ性のあるメロディアスな楽曲に、テクニカルなドラムとベースが加わったことにより、非常に緩急のあるダイナミックな内容になっている。特にベーシストのボブ・カッレーロの存在感は大きく、ギターやキーボードにも負けない技巧的なベースラインを作っている。個々の技量は申し分なく、往年のジャズロックスタイルを背景に、何ものにも代えがたいイタリアならではの情熱と抒情性を打ち出した傑作であるといえる。

 アルバムはメンバーの顔触れとは対照的に、明確なヴォーカル曲で構成されているために、リスナーたちは驚きを持って迎えられたという。しかし、そんな曲の中でスーパーグループらしい存在感のある演奏を魅せており、やがてファンたちの熱烈な支持を得ることになる。翌年の1975年にリリースされたセカンドアルバム『Essere O Non Essere? Essere,Essere, Essere!(イル・ヴォーロⅡ)』は、打って変わって全曲インストゥメンタルとなっている。前作を期待していたファンたちは戸惑うことになるが、その繊細で緻密さにあふれた技巧的な楽曲は、イタリアンロックの最高峰とまで言われている。しかし、そんな評価とは裏腹に市場の反応は鈍く、失望したメンバーたちはグループの継続をあきらめて解散することになる。たった2枚のアルバムを残してイル・ヴォーロは活動に終止符を打ってしまったが、後のメンバーの活躍はめざましい。ギタリストのアルベルト・ラディウスは、ルーチョ・バッティスティのプロデュースの下で本格的にソロ活動を開始しアルバムを発表。1986年まで計7枚のアルバムをリリースし、イタリアを代表するロックアーティストとして活躍している。キーボーディストのガブリエーレ・ロレンツィは、ルーチョ・バッティスティのレコーディングに参加後、1990年にフォルムラ・トレを再結成させて3枚のアルバムを残している。ギタリストのマリオ・ラヴェッツィは、解散後にソロ活動に入り、カンタトゥーレとして良質な5枚のアルバムを発表。後にロレダーナ・ベルテやフィオレッラ・マンノイアといった美形女性アーティストのプロデューサーとなっている。1990年代には再度ソロ活動を開始し、中でも有名なのがスティーヴ・ルカサーやリー・リトナー、リタ・フォードなどが参加した1997年のセッションアルバム『Voci E Chitarre』のメンバーになっていることだろう。ドラムスのジャンニ・ダッラーリオは、後に売れっ子のスタジオミュージシャンとなり、現在では故郷のマントーヴァでドラムサークルを運営しているという。ピアニスト&オルガニストのヴィンチェ・テンペラは、解散後にチロ・ダッミッコと共にダニエル・センタクルス・アンサンブルを結成して、シングル『哀しみのソレアード』をヒットさせている。後に様々なグループのアレンジャーとして有名となり、イタリア音楽界では「マエストロ」の称号を得ている。ベーシストのボブ・カッレーロは、スタジオミュージシャンとして活動を続け、アンナ・オクサのアルバムではベースだけではなく作詞も担当。1980年代ではベースの他にスティックという楽器による演奏も行い、イタリアではスティック使いの神様的な存在となっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は当時イタリア屈指のスーパーグループと呼ばれたイル・ヴォーロのデビューアルバムを紹介しました。スーパーグループというと英国のエイジアを思い浮かべますが、エイジアはプログレッシヴロックグループを渡り歩いた歴戦のメンバーによるグループであることに対して、イル・ヴォーロは売れっ子のスタジオミュージシャンを集めたグループという感じで、どちらかというとTOTOのグループに近いかな~と思います。とはいえ、フォルムラ・トレのプログレッシヴな音楽性を継承するために、腕利きのミュージシャンを集めたグループが、1970年代のイタリアで起こっていたというのは非常に興味深いです。イル・ヴォーロのメンバーすべてが、ルーチョ・バッティスティの下で活躍していたミュージシャンということでもあり、P.F.M.(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)を成功させた彼にとって、話題性のあったイル・ヴォーロも成功すると思い描いていたのでしょう。しかし、楽曲があまりにも洗練しすぎたためかリスナーが着いて来れない結果となってしまったようです。たぶん、イル・ヴォーロの真価が発揮されたのが、セカンドアルバムの『イル・ヴォーロⅡ』だと思います。このセカンドアルバムはとにかく楽器そのものの演奏が繊細で緻密であり、エキゾチックな音階や転調に転調を重ねる楽曲に舌を巻くほどですが、あまりにも1曲1曲が凝縮され過ぎているために取っつきにくさがあります。もう1、2枚アルバムを残せば、もしかしたら市場の反応も大きく変わったかも知れません。

 さて、本アルバムは腕利きのスタジオミュージシャンとフォルムラ・トレのメンバーによる、ジャズスタイルのドラマティックなアルバムとなっています。ヴォーカル入りのインスト曲と言っても過言ではなく、バックの演奏が技巧的で個々の楽器の自己主張が強いです。12弦ギターとピアノによるアコースティックな一面とエレクトリックギターやムーヴシンセサイザーを駆使したシンフォニックな一面があり、ツインギターとツインキーボードが良い意味で昇華しています。イタリアらしい抒情性のあるメロディアスな楽曲が多い中、よくよく聴いてみると火花を散らすようなテクニカルな演奏が繰り広げられていることに気づきます。とくにボブ・カッレーロのベースはなかなかの曲者です。

 ちなみにイル・ヴォーロを検索すると、2010年から活躍するイタリアのオペラポップトリオのイル・ヴォーロに行き着きます。もちろん全然別モノですが、一瞬、「イル・ヴォーロが復活したのか!!やほ~い!」と喜んでしまった私の気持ちを返してほしいです。いやホントに。
+。:.゚ヽ(´∀`。)ノ゚.:。+゚
… (つд⊂)ゴシゴシ (;゚д゚) …チガウジャン

それではまたっ!