【今日の1枚】Sandrose/Sandrose(サンドローズ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Sandrose/Sandrose
サンドローズ/サンドローズ
1972年リリース

甘美なギターワークとハモンドオルガンによる
極上のシンフォニックロック

 天才ギタリストのジャン・ピエール・アラルサンが、名キーボード奏者のアンリ・ガルラと女性ヴォーカリストのローズ・ポトヴィニーらと組んで結成したサンドローズの唯一作。ローズのソウルフルで迫力のあるヴォーカルをはじめ、ジャンのテクニカルでありながら甘美なギタープレイ、そしてアンリの抒情性のあるハモンドオルガンやメロトロンの響きが、まさに極上ともいえるメロディを紡ぎだしたフレンチ・シンフォニックの名盤である。結成後にたった1枚のアルバムを残して1年あまりで解散してしまうが、後のフランスのプログレッシヴグループに与えた影響は計り知れない。

 サンドローズは、ギタリストのジャン・ピエール・アラルサンが、自身の音楽を追究するために結成したグループである。彼はダンスグループのギタリストからキャリアスタートし、1966年にLESMODSというロックグループを結成。後にレコード会社に出入りしているうちに、フランスのシンガーであるジャック・デュトロンのグループのギタリストになっている。2年程ジャックのギタリストを務めたのち、1968年にザ・ビートルズの影響を受けたLe system Crapoutchikというグループに加入。1969年にフランス最初のトータルアルバム『Aussi Loin Que Je Me Souvienne』をリリースするが、商業的に失敗して1970年にグループは解散している。しかし、ジャン・ピエールは解散前にマルセイユ出身のポップグループ、エデン・ローズと知り合い、1969年にリリースされた唯一のアルバム『On The Way To Eden』のレコーディングに参加している。そのアルバムはオルガン奏者のアンリ・ガルラが全曲担当するオールインストゥメンタルになっており、ジャン・ピエールは深い感銘を受けたと言われている。ジャン・ピエールはエデン・ローズのツアーにも同行しつつ、ミュージカル『ヘアー』の音楽を担当するグループにも加わるなど、スタジオミュージシャンとして主に活動をしていたが、次第に自身のグループを作りたいと考えるようになったという。彼はまずエデン・ローズのオルガン奏者であるアンリ・ガルラとドラマーのミシェル・ジュリアンの参加を取り付け、アンリの推薦でベーシストのクリスチャン・クレアフォンを加入させている。そして最後に知人からウイリアム・シェラーが書いた曲の舞台の練習をしていた女性シンガーのローズ・ポトヴィニーを紹介される。こうして5人のメンバーとなった彼らは、英語の歌詞を提供してくれていたアメリカ人のメリー・クリストファーのアイデアを元に、1971年にサンドローズというグループ名で活動を開始する。ジャン・ピエールとアンリが作曲を担当し、何度かリハーサルを重ねてレパートリーを増やしてはデモテープを作る毎日だったが、ついにポリドール・レコードとの契約に成功する。彼らはフランスのパリにあるスタジオ・デボートで一週間ほどレコーディングを費やし、1972年4月にデビューアルバムである『サンドローズ』がリリースされることになる。アルバムはジャン・ピエールのテクニカルで甘美なギターとアンリ・ガルラの惹き込まれるようなメロトロンの響き、ローズのR&Bを思わせるソウルフルなヴォーカルなど、まさに個々のメンバーが紡ぎだした高水準のシンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.Vision(ヴィジョン)
02.Never Good At Sayin’ Good-bye(ネヴァー・グッド・アット・セイイング・グッドバイ)
03.Underground Session~Chorea~(アンダーグラウンド・セッション~コレア~)
04.Old Dom Is Dead(オールド・ドム・イズ・デッド)
05.To Take Him Away(トゥ・テイク・ヒム・アウェイ)
06.Summer Is Yonder(サマー・イズ・ヤンダー)
07.Metakara(メタカラ)
08.Fraulein Kommen Sie Schlaffen Mit Mir(淑女の来訪)

 アルバムの1曲目の『ヴィジョン』は、スリリングな主旋律を示すアコースティックギターから始まり、パワフルでR&B色が強いローズのヴォーカルが意外とマッチした楽曲。アンリのメロトロンとオルガンが幽玄であり、緩急のあるストレートなナンバーである。中間部の技巧的なジャン・ピエールのギターソロは聴きどころである。2曲目の『ネヴァー・グッド・アット・セイイング・グッドバイ』は、ジャジーなギターのアルペジオで導き、ささやくようなローズのヴォーカルが印象的なバラード曲。バックでは夢見がちなメロトロンの響きが、まるで初期のキング・クリムゾンを彷彿させるようである。3曲目の『アンダーグラウンド・セッション~コレア~』は、本アルバムのハイライトとなるセッション風インストゥメンタル曲。コーラスを経て、ジャジーなオルガンとリズムセクションをバックに、多彩な奏法で魅せてくれるジャン・ピエールのギターによる重厚なアンサンブルである。前半は緊迫感のあるジャズロックであり、後半はメロトロンやオルガン、フルートを加えた抒情的なシンフォニックスタイルになっていく。静と動のある様々な展開がまるで1つの大きなドラマのようであり、サンドローズの実力を余すことなく伝えた素晴らしい楽曲である。4曲目の『オールド・ドム・イズ・デッド』は、枯れたようなメロトロンとフォークタッチのギターをバックに哀愁のヴォーカルが響き渡った楽曲。徐々にメロトロンの音が強くなると同時に情熱的なヴォーカルになっていき、ジャン・ピエールの絡みつくような泣きのギターが胸を熱くさせてくれる。5曲目の『トゥ・テイク・ヒム・アウェイ』は、アメリカンロックのようなメロディアスなギターから始まるポップスタイルのナンバー。後半ではメロトロンやストリングス、そして伸びやかなギターによる雄大なシンフォニックロックを聴かせてくれる。6曲目の『サマー・イズ・ヤンダー』は、幻想的なオルガンと絶妙なコントロールによるギターに支えられた楽曲。全体的に抑え気味の音作りが、かえって1つ1つの楽器の輪郭を際立たせている。7曲目の『メタカラ』は、タイトなリズムセクション上で、チェンバロ風のオルガンとギターをフィーチャーしたジャジーなインストゥメンタル曲。シンプルな楽曲であるにも関わらず、ジャンの駆け巡るギターやアンリの流麗な鍵盤プレイなど実にスリリングな内容である。最後の『淑女の来訪』は、管楽器とオルガン、そしてギターが入り乱れたような内容になっており、どこか民族音楽風にも聴こえる実験的で奇妙な楽曲になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、やはりジャン・ピエール・アラルサンの繊細で技巧的なギターワークが素晴らしく、さらにアンリ・ガルラのメロトロンをはじめとするオルガンが全く負けていない。このメインの楽器が紡ぎだした極上ともいえるメロディがアルバムの肝であり、英国にも劣らないシンフォニックロックの傑作と言っても良いだろう。

 アルバムはフランスをはじめとするヨーロッパで好意的に受け入れられたが、セールス的には伸び悩んだという。その後、メンバーはパリのクラブを中心に数回のコンサートを行ったが、すでにこの時にキーボード奏者がアンリ・ガルラからジョージズ・ローディと代わっており、メンバー間の意見の相違や思想的な対立があったという。コンサートを終えたサンドローズは、1972年12月に正式に解散している。結成してわずか1年余りの活動期間である。ヴォーカルを務めたローズ・ポトヴィニーは、ローズ・ローレンという名前でソロシンガーとなっている。後に彼女はミュージカル『レ・ミゼラブル』の登場人物であるファンティーヌ役として、1980年9月24日に初めてフランスのパリで実演した人物として有名となる。その後はフランスを代表するポップシンガーとして、1980年代から2015年までに9枚のアルバムと多数のシングルをリリースする活躍を見せていたが、2018年4月29日に残念ながら亡くなっている。キーボード奏者のアンリ・ガルラは、解散後にセッション・ミュージシャンとなり、後に作曲家、アレンジャーとして活躍していくことになる。ギタリストのジャン・ピエール・アラルサンは、フランスの大御所シンガーであるフランソワ・ベランジェなどと共演後にソロに移行。1978年『Jean-Pierre Alarcen』、1979年には『Tableau N゚1』というソロアルバムをリリースし、フレンチ・シンフォニックロックの傑作を生みだしている。その後、何の音沙汰もないまま20年近くが過ぎたが、1998年に突然復活。『Tableau N゚2』というアルバムをリリースし、当時と変わらぬ天才ギタリストぶりを発揮している。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフランスで最初で最高のプログレッシヴロックグループと評される、サンドローズのデビューアルバムを紹介しました。オランダのフォーカスのギタリストであるヤン・アッカーマンやオーストラリアのセバスチャン・ハーディーのギタリストであるマリオ・ミーロ好きの私にとっては、押さえておきたかったアルバムで、プログレッシヴロックを聴き始めた初期の頃から聴いています。ジャン・ピエール・アラルサンのギターワークは、決してアグレッシヴではありませんが、スリリングでありながら非常に繊細で泣きまくりの奏法には感嘆としたものです。そんな甘美とも言えるギターに、夢見がちなメロトロンやオルガンが洪水のように押し寄せてくるという、メロトロンマニア泣かせの至福の瞬間が随所にあります。ついこの間、紙ジャケリマスター盤を入手して改めて聴いたのですが、初期のキング・クリムゾンを彷彿とさせるフレーズが聴きとれる箇所があることに気づきます。それはジャン・ピエール・アラルサンが当時を振り返るインタビューでも語っていますが、当時の音楽的背景にはキング・クリムゾンの登場とマハヴィシュヌ・オーケストラの偉大なギタリスト、ジョン・マクラフリンの存在が大きかったと言っています。ジャズをはじめ、インド音楽やフラメンコ、クラシックなど幅広く演奏するジョン・マクラフリンのギター奏法に憧れつつ、英国を席巻していたプログレッシヴロックを大胆に取り入れようとする彼の巧みな曲作りがうかがえます。今でこそ傑作アルバムとして評価されていますが、1972年当時のフランスはロックがやっと根付き始めた頃で、いまだシャンソンやポピュラーミュージックが盛んであったため、なかなかプログレッシヴロックという音楽が受け入れにくかったそうです。そんな時代に誕生した本アルバムは、後のフレンチ・プログレッシヴロックのミュージシャンに大きく影響を与えることになります。

 ちなみにサンドローズの母体となったエデン・ローズというグループですが、1969年のアルバム『On The Way To Eden(エデンへの道)』もなかなか聴きごたえのあるアルバムです。こちらはキーボード奏者のアンリ・ガルラを中心としたグループですが、彼のオルガンプレイが満載のキーボードプログレの逸品となっています。アンリ自身も英国のプログレを相当意識していたようで、ジャン・ピエール・アラルサンと組んだサンドローズでさらに表現力が増したといっても良いかも知れません。そんな2人が紡ぎだした極上ともいえるメロディを、ぜひ一度聴いてほしいです。

それではまたっ!