【今日の1枚】Step Ahead/Step Ahead(新たなる出発) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Step Ahead/Step Ahead
ステップ・アヘッド/新たなる出発
1982年リリース

爽快なギターとキーボードによるインタープレイが

魅力のテクニカルシンフォニックロック

 ミシェル・シニエによる美しいカヴァーイラストに包まれたフレンチ・シンフォニックグループ、ステップ・アヘッドの唯一のアルバム。クリスチャン・ロビンのテクニカルなギターを中心に、ハイトーンのヴォーカル、リリシズムにあふれるキーボードを駆使した壮大なシンフォニックロックになっており、さらに1980年代の産業ロック的なポップテイストを加味した爽快なサウンドが魅力となっている。そのクラシカルなアプローチと技巧的なプレイから、後に誕生するネオ・プログレを意識した非常に完成度の高い逸品である。

 ステップ・アヘッドは、ギタリストのクリスチャン・ロビンを中心にフランスのニースで結成されたグループである。クリスチャン・ロビンは17歳からギターをはじめ、ザ・ローリング・ストーンズやザ・ビートルズに憧れて独学でロックギターを学び、短期間でマスターしたという。彼のギタースタイルを大きく変えたのが、かのジミ・ヘンドリックスである。ジミ・ヘンドリックスばりの奏法を得たクリスチャンは、ニースのクラブを中心に演奏していたが、1972年にプロのアーティストとして活動するため、単独でイギリスに渡っている。イギリスのロンドンに居住を構えた彼は、プロ・アマ問わず様々なジャンルのジャム・セッションを行ったが、結局広告用のシングルなどの作曲で糊口をしのぐ毎日だったという。しかし、ロンドンで滞在した7年のあいだに、彼はフランス人ジャズ・ピアニスト、ジャック・ルーシェのために働いていた時、英国でレコーディングしに来ていたRCAのチームと知り合いとなる。そこで医者でアマチュアのギタリストだったアルド・グリーノと出会い、クリスチャンはアルドと共にグループを作ろうと決心する。1980年にジャン=イヴ・デュフールニエ(ドラムス)、アラン・ルジュンヌ(キーボード)、アントワーヌ・フェレイラ(ベース)、エリック・マチュー(ヴォーカル)がメンバーとして加わり、ステップ・アヘッドというグループ名で活動を開始する。結成時はクリスチャンとアラン以外はアマチュアであり、あくまで趣味的な位置づけで楽しみながら演奏していたという。彼らはショパンやモーツァルト、ワーグナーといったクラシックの作曲家に傾倒した趣味を持っており、サウンドは自然にシンフォニックロック的なものになったという。1980年の夏ごろにグループとして初めてのギグを2,500人の観客の前で行い、同時にレコード会社にクリスチャンが作曲したメロディーにリフやコード進行、そして歌詞を加え、そこにメンバーが演奏で肉付けしたデモテープを制作。1981年にRCAと3年の契約を結ぶことに成功している。しかし、アルバムのレコーディングを行おうとした矢先に、アルドが本職の医者に戻るために脱退。代わりにジェラルド・マシアが加わったものの、今度はアラン・ルジュンヌとエリック・マチューが続けて脱退してしまう。アランの代わりにクリスチャンが招いたのが、Carpe Diemのキーボード奏者のクリスチャン・トリュシである。クリスチャン・トリュシは、キーボードのアレンジなどグループの曲作りに貢献したが、別のプロジェクトのレコーディングのために参加できず、代わりに彼の妹のクラウディ・トリュシが加わる。彼女は地元のプログレッシヴロックグループのアークホーンのメンバーであり、作曲やアレンジにも長けたミュージシャンでもある。レコーディングまで残り1ヵ月を切った時、ヴォーカリストが決まらず、あちこちに打診していたクリスチャンだったが、偶然友人から紹介されたのが地元のグループでヴォーカルを務めていたダニー・ブラウンである。こうして1981年9月にピンク・フロイドの『ザ・ウォール』が録音されたことで知られるフランスのミラヴァル・スタジオに入ってレコーディングを開始。やがてマルセイユ・フィルハーモニック・オーケストラの第一チェロ奏者であるジェネヴィエーヴ・トゥリエール、CARPE DIEMのフルート奏者であるクロード=マリウス・デヴィッドがゲストで参加したデビューアルバム『ステップ・アヘッド(新たなる出発)』が、1982年の初頭にリリースされる。

★曲目★
01.Eyes(未来への考察)
02.Right Or Wrong(我らを救う者)
03.Thinking(追想)
04.Heaven(天国)
05.Eleven Days(終りのない生活)
06.Hell(地獄)
07.White Lady(運命の女神)
08.The End(終幕)
★ボーナストラック★
09.Heaven~Live~(天国~ライヴ~)
10.White Lady~Live~(運命の女神~ライヴ~)
11.The End~Live~(終幕~ライヴ~)
12.The Sun Will Rise Again(ザ・サン・ウィル・ライズ・アゲイン)
13.Shangri-la(シャングリ・ラ)

 アルバムの1曲目の『未来への考察』は、ロマンティックなアコースティックピアノに導かれるようなイントロから、一気にテクニカルなインタープレイへと流れ込むドラマティックな曲展開が素晴らしい楽曲。技巧的なクリスチャン・ロビンのギターとクラシカルなピアノの対比、そしてハイトーンのダニー・ブラウンのヴォーカルなど、ステップ・アヘッドの魅力が詰まった1曲である。2曲目の『我らを救う者』は、ハイトーンのヴォーカル、アコースティックギターとエレクトリックギター、そしてピアノが効果的に配置された楽曲になっている。静と動の流れから抒情的なヴォーカル、良く泣くギターが聴く者の情感を湛え、最後には荘厳ともいえるギターとキーボードのアンサンブルで終えている。3曲目の『追想』は、アグレッシヴなエレクトリックギターとリリカルなアコースティックギターの対比が美しい楽曲。クロード=マリウス・デヴィッドのフルートが登場し、クラウディ・トリュシのアグレッシヴなキーボードも聴き逃せない。4曲目の『天国』は、アコースティックギターの調べから、ハードロック的な展開を魅せるインストゥメンタル曲。クリスチャン・ロビンのテクニカルなギターが堪能できる1曲である。5曲目の『終りのない生活』は、チェロ奏者であるジェネヴィエーヴ・トゥリエールが加わったギター中心のナンバー。中盤から疾走感あふれるギターサウンドから静謐なギターサウンドに変化するなど、緩急にあふれたアグレッシヴな演奏が聴ける。6曲目の『地獄』は、2本のギターとチェロによるクラシカルで美しいナンバー。エレクトリックな部分だけではなく、こうしたアコースティックな演奏ができるのも、このグループのもう1つの特徴ともいえる。7曲目の『運命の女神』は、アコースティックピアノからタイトなリズム上で歌うポップテイストあふれるヴォーカル曲。後半ではギターとキーボードを駆使した壮麗なインストゥメンタルを披露している。8曲目の『終幕』は、跳ねるようなピアノと泣きのギター、情感的なヴォーカルなどが満載の曲。変拍子のある曲展開に、改めてこのグループがプログレッシヴロックグループであることを認識してくれるクライマックスにふさわしい曲である。後の3つのライヴ曲はアルバムリリース後に行ったコンサートの模様を録音したもので、オリジナルの2曲はセカンドアルバム用として制作した曲となっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、クリスチャン・ロビンの卓越した作曲能力と演奏するメンバーの力量の高さ、さらにキーボード奏者のクリスチャン・トリュシとクラウディ・トリュシの2人が1980年代にふさわしいポップアレンジを施した見事なアルバムだと言える。ハードロック的なニュアンスの強いギターワークで終始せず、アコースティックギターやピアノ、チェロを加えた弦楽器をうまく組み入れ、曲に高い抒情性を作り出している。こうしたサウンドが生み出せたのは、メンバーチェンジを経てクラシックやジャズ、ポピュラーミュージックといった様々な出自を持ったメンバーの音楽性がうまく融合したためだろう。

 実はアルバムレコーディング後に、ベーシストのアントワーヌ・フェレイラとドラマーのジャン=イヴ・デュフールニエ、そしてキーボード奏者のクラウディ・トリュシの3人が脱退しており、元メンバーのアラン・ルジュンヌがキーボード奏者として復帰している。また、ドラマーには当時17歳のエマニュエル・リキエ、ベーシストにエルヴェ・フェリウが加入し、新たなリズムセクションを組んでいる。このメンバーチェンジの背景には1982年に本アルバムがリリースした時、不幸なことにRCAレコードのプロモーション担当者が病気になったため、アルバムのプロモーションがほとんどできなかったとされている。それでもラジオでオンエアされ、アルバムの収録曲である『White Lady(運命の女神)』が好評を得て、数か月後にグループは3曲入りのプロモーションEPを制作し、フランス国内でコンサートを行う活動をしている。後にエルヴェ・フェリウが脱退し、代わりにフィリップ・レシュがベース担当となった頃にビデオクリップを制作し、テレビでも放映されるようになる。このテレビ放映がアルバムの売り上げに貢献し、最終的に3万枚のセールスを記録している。しかし、1983年になるとよりプログレッシヴなスタイルを維持しようとするグループに嫌気を指していたギタリストのジェラルド・マシアが脱退してしまう。グループ内で不協和音が続く中で、クリスチャン・ロビンは何とかセカンドアルバムのレコーディングを行おうと動いていた中、偶然にもアラン・パーソンズと出会い、何と自分たちのアルバムのプロデュースを引き受けてくれる約束をもらっている。しかし、そんな好材料を持ってしても、RCAレコード側はグループに対してシングルリリースを強要し、それを拒否したグループはついに契約の打ち切りを受けることになる。こうしてステップ・アヘッドは1984年の初頭に解散することになる。

 解散後、クリスチャン・ロビンは音楽業界に見切りをつけて、パリを拠点とする広告会社を立ち上げて経営者となっている。他にアラン・ルジュンヌは音楽プロデューサーとなり、フィリップ・レシュはセッション・ベーシストとしてしばらく音楽業界で活躍したという。時代に翻弄されつつも、これだけクオリティの高いアルバムを残せたのは奇跡的であり、その洗練されたサウンドは40年近く経った今でも全く色褪せることはない。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1980年代のフランスを代表するプログレッシヴロックグループ、ステップ・アヘッドの唯一のアルバムを紹介しました。このアルバムは1992年頃にリリースされたヨーロピアン・ロック・シリーズ・エディションのCDを入手し、20年近く大事に聴いていましたが、2012年のリマスター盤が出た時は大変喜んで真っ先に購入したものです。当時、ハードロックとプログレッシヴロックの両方を好んで聴いていた私にとって、このステップ・アヘッドのサウンドはハマりまくりでした。ハイトーンのヴォーカルやテクニカルで泣きまくりのギター、跳ねるように刻むドラミング、荘厳なキーボード、そして何よりもクラシカルな静とアグレッシヴな動の対比が素晴らしく、そのドラマティックな曲展開に驚いたものです。意外にも日本ではあまり認知されたグループではないらしく、紙ジャケで復刻したことで初めて知った人も多いと聞きます。たった1枚のアルバムで解散したとはいえ、もっと評価されてもおかしくはないグループだと私自身は思っています。

 さて、2012年のリマスター盤にはライヴ曲が3曲、そして『ザ・サン・ウィル・ライズ・アゲイン』と『シャングリ・ラ』の2曲がボーナストラックとして追加されています。ライヴ曲はアルバムリリース後に、復帰したキーボード奏者のアラン・ルジュンヌと、交代したベーシストのフィリップ・レシュ、ドラマーのエマニュエル・リキエが参加しています。アルバムとはまた違ったハードなノリで弾きまくるクリスチャン・ロビンのギターや17歳とは思えないパワフルで手数の多いエマニュエル・リキエのドラミングが堪能できます。観客の声の雰囲気から、かなり規模のあるライヴコンサートだったのだろうと思います。2曲のオリジナル曲は、ダニー・ブラウンのハイトーン・ヴォーカルを強調した1980年代を彷彿とさせるポップテイストな曲になっています。当時のグループの雰囲気を伝える貴重な音源ですね。そうするとライヴ曲とオリジナル曲を含んでいるリマスター盤がオススメということになります。

 一瞬、フランスのグループとは思えない英語歌詞とアグレッシヴなサウンドを誇る本アルバムは、今聴いてもその曲構成とアレンジ力に驚きます。個人的にもぜひオススメしたい1枚です。

 

 それと、似たようなグループ名でSteps Ahead(ステップス・アヘッド)というアメリカのモダンジャズグループがあります。こちらも1980年代に活躍したグループなので、よく間違えられるそうです。“s”が無いほうなので気を付けてくださいな。

それではまたっ!