【今日の1枚】Renaissance/Ashes Are Burning(燃ゆる灰) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Renaissance/Ashes Are Burning
ルネッサンス/燃ゆる灰
1973年リリース

エレガントなアニーの声を際立たせた
シンフォニックロックの名盤

 スタジオアルバムとしては通算4作目であり、アニー・ハズラムが加入した第2期ルネッサンスの2作目にあたる作品。本アルバムはピアノを中心としたトラディショナルフォーク系だった第1期ルネッサンスの時代から、よりシンフォニックに推し進めたアンサンブルと5オクターブの声域を持つアニー・ハズラムの澄んだヴォーカルを活かし、エレガントさとクラシカルさが際立ったサウンドになっている。『燃ゆる灰』はイギリス国内にみならず、アメリカのビルボードでもチャートインする大ヒットとなり、ルネッサンスというグループが一躍有名になった歴史的な名盤である。

 1970年代のルネッサンスは今でこそ歌姫アニー・ハズラムを象徴するグループとなっているが、彼女が加入する以前のオリジナル・ルネッサンス時代と、彼女が加入した後の新生ルネッサンスの時代に大きく分かれている。ルネッサンスは元ヤードバーズのヴォーカリストだったキース・レルフが中心となって1969年に結成されたグループである。他にジム・マッカーティ(ドラムス)、ルイス・セナモ(ベース)、元ナッシュビル・ティーンズのジョン・ホウケン(キーボード)、キースの妹であるジェーン・レルフという顔ぶれで、同年にファーストアルバム『ルネッサンス』をリリースしている。しかし、次作のアルバムに録音する頃には解散状態に陥っており、ジェーン・レルフとジョン・ホウケンが残って、ホウケンの知人であるマイケル・ダンフォードが協力する形で制作を引き継ぎ、1971年にセカンドアルバム『幻想のイリュージョン』をリリース。クラシカルなピアノとリリカルなアコースティックギターを中心としたトラディショナルフォークを基調としたサウンドを生み出したが、グループはリリース後に離散している。この2枚のアルバムをリリースしたラインナップがオリジナル・ルネッサンスと呼ばれ、その遺志は1977年にジェーン・レルフを中心に再結成されたグループ、イリュージョンに受け継がれていくことになる。

 一方、セカンドアルバムをリリースした後、ルネッサンスはマイケル・ダンフォードに主導権が移行し、残ったメンバーによるヴォーカル・オーディションを行う。1972年に行われたオーディションに応募してきたのが、当時23歳のアニー・ハズラムである。彼女はグレーター・マンチェスター州にあるボルトンで生まれ、最初は服飾デザイナーを目指していたが、やがて歌手になろうと決心して、シビル・ナイトというオペラ歌手から歌を習っていたという。ちょうどルネッサンスというグループのヴォーカル・オーディションが行われる話を聞き、周囲の後押しもあってオーディションに臨んだと言われている。マイケル・ダンフォードをはじめとするメンバーは彼女の澄んだ歌声と5オクターブの声域に魅了され、アニー・ハズラムはルネッサンスのヴォーカリストとして迎え入れられることになる。こうしてメンバーはアニー・ハズラム(ヴォ-カル)、ジョン・タウト(キーボード)、ジョン・キャンプ(ベース)、テレンス・サリバン(ドラムス)、ロブ・ヘンドリィ(ギター)の5人によって、同年の1972年にEMI傘下のSovereignレーベルより、新生ルネッサンス第1弾となるアルバム『プロローグ』をリリースする。アルバムはジョン・タウトのピアノ演奏によるショパン『革命のエチュード』で幕を開け、ラフマニノフの『前奏曲』やラヴェルの『ボレロ』、ショスタコーヴィチの『交響曲第8番第3楽章』が引用されるなど、クラシカル・プログレッシヴロックの域を極めた美しい作品となっている。アルバムリリース後にギタリストのロブ・ヘンドリィが脱退し、これまで裏方に回っていたマイケル・ダンフォードがゲストメンバーとなって作られたアルバムが、1973年にリリースされる『燃ゆる灰』である。本アルバムは前作よりもアンサンブルを重視し、アニー・ハズラムの歌声が最大限に活かされたシンフォニック・プログレの傑作となっている。ジョン・タウトと知り合いだったというウィッシュボーン・アッシュのギタリストであるアンディ・パウエルがゲスト参加し、アルバムジャケットはヒプノシスによってデザインされたメンバーの写真の効果もあって、ルネッサンスが一躍有名になった作品である。

★曲目★
01.Can You Understand?(キャン・ユー・アンダースタンド?)
02.Let It Grow(レット・イット・グロウ)
03.On the Frontier(オン・ザ・フロンティア)
04.Carpet of the Sun(カーペット・オブ・ザ・サン)
05.At the Harbour(渚にて)
06.Ashes Are Burning(燃ゆる灰)

 アルバムの1曲目の『キャン・ユー・アンダースタンド?』は、銅鑼の音と共にリリカルなピアノによるアンサンブルが鮮烈なオープニングから、アコースティックギターをベースにした澄み渡ったアニー・ハズラムのヴォーカルが美しい楽曲。トラディショナルなフォークを演出するも、きめ細やかなリズムセクションとオーケストレイションを加味しており、非常にドラマティックな内容になっている。この1曲で英国の牧歌性を帯びたトラディショナルな演奏をベースに、ピアノや様々な弦楽器による奥行きのあるアンサンブルを実現している。2曲目の『レット・イット・グロウ』は、美しいピアノをバックに讃美歌のように歌うアニーの歌声が心に染み入る楽曲。ゆったりした流れの中で力強く可憐なアニーのヴォーカルが際立っており、中間部のリズミカルなピアノと共に広がっていくコーラスは何とも言えない優雅さがある。3曲目の『オン・ザ・フロンティア』は、アコースティックのなだらかなストロークとピアノをバックにしたカントリー調の楽曲。中盤のコミカルなピアノの旋律とベースの掛け合い、伸びやかなコーラス、力強いドラミングが随所にあり、ダウトのピアノを中心としたクラシカルな展開が心地よい内容になっている。4曲目の『カーペット・オブ・ザ・サン』は、こちらもギターのストロークとリリカルなピアノを中心としたアニーのヴォーカルが冴えた曲になっているが、オーケストレイションをバックにした重厚なサウンドになっている。チェンバロ風のオルガンが効果的であり、全体的に優しさに包まれた朗らかなメロディにあふれた曲である。5曲目の『渚にて』は、クレジットにもあるドビュッシーの前奏曲集第1巻より第10曲『La Cathedrale Engloutie(邦題:沈める寺)』による荘厳なピアノソロから始まり、アコースティックギターのアルペジオやチェンバロ、弦楽器をバックに流麗に歌うアニーの歌声がどこかセンチメンタルを誘う楽曲。後半はピアノをバックに天上から響くようなコーラスを披露するアニーの声は、まさに神掛かっているといえる。6曲目の『燃ゆる灰』は10分近くの曲になっており、風の効果音に導かれ、モダンでロマンティックともいえるピアノを中心としたアンサンブル上でエレガントに歌うアニーのヴォーカルが素晴らしい曲。アニーの高らかなスキャットの後の3分35秒過ぎに、ソリッドなピアノとチェンバロによるハードなアンサンブルに変化する。ハモンドオルガンを中心としたシンフォニックな展開から静寂になり、オルガンソロをバックにアニーの歌声が響き渡り、8分35秒あたりからアニーの高らかな歌声を合図にゲスト参加したアンディ・パウエルのメロディックギターのソロが展開される。そしてマーチにように繰り広げるリズム隊が加わり、徐々に盛り上がりながら幕を閉じている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、アニー・ハズラムの澄み切った歌声に惹かれてしまうが、ピアノやチェンバロ、ハモンドオルガンを中心とした鍵盤楽器やギター、弦楽器による静と動のメリハリの効いたドラマティックなアンサンブルに徹した楽曲なっている。前作はジョン・タウトのクラシカルなキーボードをメインに曲が綴られていたが、本作はアニーの卓越したヴォーカルに寄せた楽曲が多く、クラシカルな演奏の中にエレガントさを引き出している。劇的ともいえる曲展開に聡明さがあるのは、英国の牧歌的なメロディを基調とした曲作りにあり、このスタイルが後に大ヒットとなるアルバム『運命のカード』、『シェエラザード組曲』へとつながっている。

 アルバムはイギリス国内で4週にわたるチャートインを記録し、アメリカでもビルボードで最高位171位に初ランクインする大ヒットとなる。とくにイギリスやヨーロッパではルネッサンスがプログレッシヴロックグループとして注目され、現在でも数あるアルバムの中で人気の1枚となっている。ゲスト扱いだったマイケル・ダンフォードは後に正式にメンバーとなり、グループはBTMレコードに移籍。1975年に『運命にカード』、『シェエラザード組曲』を立て続けにリリースし、後にオーケストラを率いて大規模な全米ツアーを行っている。そのツアー中にニューヨークの音楽の殿堂カーネギー・ホールで開いたコンサートの模様を収録した『ライヴ・イン・カーネギー・ホール』をリリースしている。ルネッサンスの人気は絶頂期にあり、最も充実していた1977年頃に、アニー・ハズラムはムーヴ、エレクトリック・ライト・オーケストラのロイ・ウッドとの親交からソロアルバム『不思議の国のアニー』をリリースしている。グループはWEAと契約して1977年に『お伽噺』、1978年に『四季』、1979年に『碧の幻想』といった高水準のアルバムをリリースし続けるが、1980年のジョン・タウトとテレンス・サリバンが脱退。IRSレコードに移籍したグループは、1981年に『CAMERA CAMERA』、1983年に『TIME LINE』を発表するも、今度は中心的存在だったマイケル・ダンフォードとジョン・キャンプが脱退し、グループは危機を迎えてしまい1987年に解散することになる。アニー・ハズラムはソロに転身し、メンバーは再度離散してしまうが、1990年代にマイケル・ダンフォードが自身のグループが活発化したことで、2000年にアニー・ハズラムとテレンス・サリバンと合流。17年ぶりのアルバム『トスカーナ』を発表している。2009年にルネッサンス結成40周年を迎えて創作活動に力を入れていたが、2012年にマイケル・ダンフォードが脳内出血のため死去。2013年にはダンフォードが書き残した曲を集めたアルバム『消ゆる風』をリリースしている。2015年には全盛時代のキーボーディストのジョン・タウトがロンドンで死去するなど悲劇が続いたが、初期の唯一のメンバーであるアニー・ハズラムを中心に活動を続け、2018年9月に8年ぶりの来日公演を果たしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は歌姫アニー・ハズラムが加入した新生ルネッサンスの2作目のアルバム『燃ゆる灰』を紹介しました。ルネッサンスは初期のオリジナルメンバーによるアルバムも聴いていますが、アニー・ハズラムがヴォーカルを務める本アルバムと『運命のカード』、『シェエラザード組曲』、飛んで『碧の幻想』が大好きで、プログレッシヴロックを聴き始めた初期の頃から入手して聴いています。このブログでは前回にアニー・ハズラムのソロアルバム『不思議の国のアニー』を先に紹介するほど、彼女の美貌と天性のヴォーカルに惚れ込んでいます。彼女の5オクターブの声域は驚愕に値しますが、実はオペラ歌手を目指していたという話に納得です。そんなアニーのエレガントのヴォーカルを最大限に活かし、腕利きのメンバーによるクラシカルなアンサンブルが絶妙ともいえる作品が、本アルバムの『燃ゆる灰』になります。とにかくジョン・タウトのピアノをはじめとするリリカルなキーボードと繊細で力強いドラミングの演奏の中で、英国然としたトラディショナルフォークが息づいていて、聴いていて非常に心が洗われます。静と動のドラマティックな曲展開が劇的であり、このアルバムが『ローリング・ストーン』誌が2015年に選出した「オールタイム・グレイテスト・プログ・ロック・アルバム50」で31位にランクインしたことも分かるような気がします。

 

 さて、本アルバムの最後のタイトル曲『燃ゆる灰』には、ゲストとしてウィッシュボーン・アッシュのギタリストのアンディ・パウエルが参加しています。メロディックなギターソロを披露するアンディですが、このアルバムに参加した理由が、キーボーディストのジョン・タウトがウィッシュボーン・アッシュの1972年の名盤『百眼の巨人アーガス』に参加したことによる返礼だそうです。アンディ・パウエルは、ジョン・タウトがルネッサンス加入前のルパーツ・ピープルというグループに所属していた頃から知り合いだったそうです。

 本アルバムのジャケットは上記の通り、イギリスのデザイン・アート・グループであるヒプノシスによってデザインされたものです。メンバー4人の少しぼやけた写真が見開きジャケットの表と背面に使用されており、表情が異なる2種類のバージョンがあるそうです。私は少し微笑んでいるアニー・ハズラムをはじめとしたメンバーの写真のほうがいいですね。何となく内なる炎をイメージしているようで、グループが音楽に対する自信というものが見え隠れしているように思えます。皆さんはどう思われますか?

それではまたっ!