【今日の1枚】Wally/Valley Gardens(ウォーリー/幻想の谷間) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Wally/Valley Gardens
ウォーリー/幻想の谷間
1975年リリース

クリアなヴォイスを核に牧歌性を演出した
ロマンあふれるブリティッシュロック

 カントリーミュージックの要素が強かったファーストアルバムから、一転して大曲志向のインストゥメンタルの要素の強い音楽性に変わったウォーリーのセカンドアルバム。クリアなヴォーカルとキーボードを中心に、メロトロン、ヴァイオリン、スティールギターを駆使した幻想的なサウンドになっており、彼らがフォークグループだったとは信じられないほどの高い演奏テクニックと表現力になっている。彼らのデビューアルバムをプロデュースしたのはイエスのリック・ウェイクマンであり、本アルバムでは彼のノウハウを巧みに取り入れたかのようなプログレッシヴな作品に仕上がっている。

 ウォーリーは1970年初頭に、イギリスのノースヨクシャーにあるハロゲートという街でシンガーソングライターのロイ・ウェバー(ヴォーカル、ギター)を中心に結成されたグループである。そこにピート・セージ(エレクトリック・ヴァイオリン、ベース)、ポール・ミドルトン(スティールギター、ヴォーカル)、ロジャー・ナラウェイ(ドラムス、パーカッション)、ピート・コスカー(エレクトリックギター、アコースティックギター、ヴォーカル)、ポール・ジェレット(キーボード、ピアノ、メロトロン、チェンバロ)、アラン・クレイグ(ベース・ヴォーカル)の合わせて7人のメンバーで活動を開始している。地元のハロゲートでパブを中心にライヴを行い、回数をこなす毎にグループの知名度が少しずつ高まっていったという。ベーシストのアラン・グレイグが脱退して6人編成となったウォーリーは、1973年にはイギリスのマンチェスター、ハロゲート、リーズ、ブラッドフォードの会場を含む北部のパブロック・サーキットで腕を磨き、1974年には音楽誌メロディメイカーが主催するニューアクト・コンベンション(無名のバンドコンテスト)に参加。彼らは決勝まで進み、ロンドンにあるコンサートホールのラウンドハウスで演奏したものの、最終的にはイギリス南部のハートフォードシャー出身のドルイドが優勝を果たしている。しかし、準優勝だったウォーリーの演奏に将来性を見たBBC2の音楽プロデューサーであるボブ・ハリスの目に留まり、ウォーリーは彼が持つBBCラジオ番組に出演する。リスナーから高い評価を得ることができた彼らは、ハリスの紹介でアトランティック・レコードと契約することになる。

 すでにウォーリーは自分達で作成したオリジナルの楽曲が多数あったという。そんな彼らがデビューアルバムで取り上げる楽曲を選んでレコーディングを行おうとしていたところ、かのイエスのキーボーディストとして名高いリック・ウェイクマンがウォーリーのデビューアルバムのプロデュースをボブ・ハリスと共同で担当することになる。リック・ウェイクマンは先のコンテストの決勝会場だったラウンドハウスで彼らの演奏を見ており、ボブ・ハリスと共にウォーリーを育てる名目で依頼されたという。こうしてウォーリーは、1974年9月に『ウォーリー・ファースト』でアルバムデビューを飾ることになる。アルバムはフォークタッチによる牧歌性あふれるカントリーミュージックになっており、商業的に成功はしていないものの、着実な支持を集めたという。アルバムリリース後、ハリスがホストとして務めるBBC2の番組「オールド・グレイ・ホイッスル・テスト」に2回出演し、その高い演奏力で彼らの存在感を知らしめている。また、イエスのマネージャーだったブライアン・レーンは、ウォーリーをイエスのコンサートの前座やリック・ウェイクマンの『地底探検』のコンサートにも出演させている。意気揚々のウォーリーだったが、1975年にセカンドアルバムの制作に入ったとき、オリジナルのメンバーだったキーボーディストのポール・ジェレットが脱退してしまう。ポール・ジェレットはその後、興行会社のPGプロモーションを設立し、音楽とは全く違う分野に進むことになる。ポールの代わりに後に映画音楽を手がけるニコラス・グレニー・スミスが担当し、モーガン・スタジオでレコーディング作業に入る。すでにリック・ウェイクマンはソロアーティストとして大成功を収め、ブライアン・レーンと共にウォーリーから離れており、セカンドアルバムはボブ・ハリス1人で担当することになる。ウォーリーはカントリー調の音楽では商業的に難しいと認識し、これまでとは違う音楽スタイルを追求していたという。ゲストにサックスでレイ・ヴェルシュタイン、ヴォーカルにニコラスの弟であるジャン・グレニー・スミス、黒人の女性ソウルシンガーであるマデリーン・ベルを迎えて、ニコラスのキーボードを前面に出したレコーディングを行っている。こうして完成したセカンドアルバムは前作のフォーク調の牧歌性を継承しつつ、大曲志向のインストゥメンタル曲が増したプログレッシヴな作品になっている。

★曲目★
01.Valley Gardens(幻想の谷間)
02.Nez Perce(君は何処に)
03.The Mood I'm In(ぼくの気持ち)
04.The Reason Why(理由を教えて)
 Ⅰ.Nolan(ノーラン)
 Ⅱ.The Charge(ザ・チャージ)
 Ⅲ.Disillusion(幻滅)

 アルバムの1曲目の『幻想の谷間』は、10分に及ぶ大曲になっており、グレニー・スミスのカラフルなキーボードから始まる。このイントロだけでもこれまでのウォーリーには無い新鮮な息吹が感じられ、フェイズのかかったギターに手数の多いドラミングに心を踊らされる。2分20秒過ぎから静寂な雰囲気の中でエレクトリックピアノをバックにしたロイ・ウェバーの伸びやかなヴォーカルパートに移る。4分過ぎの叙情的なギターソロのバックで弾くベースが、まるでイエスのクリス・スクワイアのようなイメージがあり、イエスを意識した作りにしているように感じる。6分過ぎには曲調が変わり、最後には再びイントロにあったカラフルなキーボードと明朗なギターで終わっている。2曲目の『君は何処に』は、アメリカのアイダホ、ワシントン、オレゴン、モンタナの4州にまたがる山岳地帯で生活していたネズ・バース族にちなんだ曲。リリカルなピアノソロをバックにしっとりと歌うロイ・ウェバーのヴォーカルとコーラスが印象的であり、コーラスにはゲストの黒人シンガーであるマデリーン・ベルが参加している。途中からヴァイオリンの調べが入り、ピアノとギターと合わせたアンサンブルは、彼らのアイデンティティでもあるカントリーミュージックらしい牧歌性を兼ねた美しい内容になっている。3曲目の『ぼくの気持ち』は、アコースティックギターとエレクトリックピアノをバックにしたフォーク調のヴォーカル曲になっており、途中からフェイズのかかったエレクトリックギターによるソロが素晴らしい。レイ・ヴェルシュタインのソプラノサックスが参加しており、後半は70年代後半のAOR的な雰囲気に包まれたゴージャズなサウンドが展開される。4曲目の『理由を教えて』は、19分に及ぶ3部作になった大曲。『ノーラン』は、ギターとヴァイオリン、キーボードによる厳かな雰囲気で始まる。ヴォーカルのバックでピート・セイジのヴァイオリンが縦横無尽に弾きまくっており、グレニー・スミスの静かなメロトロンの響きが効果的な曲になっている。6分30秒あたりから始まる『ザ・チャージ』では、ポール・ミドルトンのスティールギターとピート・コスカーのリードギターがフィーチャーされた軽快なロックになっている。グレニー・スミスのシンセサイザーが加わって、無調構造のサウンドスケープへと広がっていく。13分40秒辺りから始まる『幻滅』は、静かなアコースティックギターとヴァイオリンをバックにしたコーラスバラード曲に変わり、飛び交うように弾くヴァイオリンが印象的である。ヴァイオリンとエレクトリックピアノ、メロトロンの楽器が加わり、次第に盛り上がりながら美しくも儚い物語は終わりを告げる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、彼らのアイデンティティであるカントリーミュージックの牧歌的なメロディを継承しつつ、イエスやピンク・フロイドを意識したようなプログレッシヴな要素を強めたサウンドに変化している。特に新たに加入したグレニー・スミスのカラフルなキーボードと、ピート・セージのところ狭しと弾きまくるヴァイオリンが冴えており、古き良きブリティッシュロックの叙情性も感じられ、彼らの巧みな表現力には感心せざるを得ない。

 本アルバムのレコーディングが終了した後、ウォーリーはフレンチポップの雄であるミッシェル・ポルナレフのジャパンツアーのバックバンドの仕事を引き受けている。ポルナレフのツアーバックバンドはかつてフランスのプログレッシヴグループのディナスティ・クリシスが担当しており、その後釜としてウォーリーに白羽の矢が立ったという。このポルナレフの3度目の来日ツアーは、1975年6月23日の福岡から7月11日の仙台までの11都市全15公演を行っており、ウォーリーはバックバンドとして役目を果たしている。本アルバムはそんなジャパンツアーが終了した1975年7月にリリースしたことになる。しかし、アルバムの売り上げは芳しくなく終わったため、アトランティック・レコードとの契約更新が出来ず、グループはその年に解散することになる。ロイ・ウェバーはグラフィックデザインの会社を設立して、主にヨークシャーのTV局や王立博物館で働くことになり音楽業界から離れている。キーボーディストのニコラス・グレニー・スミスはセッションミュージシャンになり、後に映画音楽の作曲家兼指揮者となっている。彼はアカデミー賞を受賞した1994年公開のアニメーション映画『ライオンキング』のスコアに貢献したり、1993年のスパイスリラー映画の『ポイント・オブ・ノー・リターン』、1996年のアクション映画『ザ・フロック』、1997年の『ホームアローン3』といった多くの映画音楽を手がけることになる。ヴァイオリニストのピート・セージは、ポップグループのボニーMのサウンドエンジニアとなりドイツに渡っている。ギタリストのピート・コスカーはヘロインの過剰摂取により、1990年に亡くなっている。解散後のメンバーはバラバラになってしまったが、34年後の2009年にロイ・ウェバーの呼びかけで、故郷のハロゲートでウォーリーを再結成。ニコラス・グレニー・スミス、ピート・セージ、ポール・ミドルトン、ロジャー・ナラウェイのオリジナルメンバーに、リードギターにウィル・ジャクソン、ペダルスティールにフランク・ミゼンを新たに加えて行ったハロゲートのライヴは完売となり、その模様はDVDとしてリリースされている。また2010年2月には当時のデモ演奏を加えた3枚目のアルバム『モンペリエ』がリリースされ、故郷であるハロゲートを中心に現在でも定期的にコンサートを開いているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はカントリーミュージックから華麗にプログレッシヴなサウンドに転じたウォーリーのセカンドアルバム『幻想の谷間』を紹介しました。このアルバムは最近になって聴いたものですが、デビューアルバムはリック・ウェイクマンがプロデュースしているのですね。ちなみにデビューアルバムの『ウォーリー・ファーストアルバム』は、ヴァイオリンやアコースティックギター、チェンバロを中心としたフォーク調の美しいバラード曲になっています。また、ウォーリーはイエスの前座として演奏していたり、フランスの歌手のミッシェル・ポルナレフのバックバンドとして来日したりしている点から、当時を知る人にとってはウォーリーはちょっとしたメジャーグループだったのではないかと思われます。本アルバムはそんな牧歌的なフォーク調だったウォーリーが、セカンドアルバムでプログレッシヴな大曲志向となった画期的なアルバムです。まるでリック・ウェイクマンやイエスの演奏を目の当たりにした彼らが、方向転換したかのようなキーボードをメインに、ギターやヴァイオリンをエレクトリックに変えて厚みのある演奏を繰り広げています。それでも彼らのアイデンティティであるフォーク調のメロディアスなアンサンブルは健在であり、ロマンティックな印象を楽曲から与えてくれます。

 さて、アルバムの2曲目にある『Nez Perce(君は何処に)』という曲は、アメリカの山岳地帯で生活をしていたネズ・バース族について歌ったものです。アメリカ開拓時代の戦乱の犠牲者となったネズ・バース族はもういませんが、彼らが残したものはその土地の名前と多くを望まない質素な生活だけだったという内容になっています。アメリカに憧れるロイ・ウェバーらしい美しいバラード曲になっていて、シングルカットもされています。このシングルのB面には『Right By Me』という曲が収録されていますが、実はこの曲はアメリカのミュージシャンであるデヴィッド・クロスビーに捧げたフォーク調の曲になっています。この曲のデモテープは英アトランティックレコードのフィル・カーソンから、アメリカのアトランティックレコード代表のアーメット・アーティガンに届けられたそうです。その曲のテイストを気に入ったアーティガンは、何とそのコピーをクロスビー本人に届けたというエピソードが残っています。その曲についてクロスビー本人から特にメッセージは無かったそうですが、レコード会社を通じて本人に曲が届けられるほど、彼の卓越したメロディセンスの高さが物語っているように思えます。

 古き良きブリティッシュフォークの美しいバラードに支えられた、カラフルともいえるキーボードとヴァイオリンをフィーチャーした幻想的な楽曲が素晴らしいです。ぜひ、彼らのロマンティックなサウンドを聴いてみてほしいです。

それではまたっ!