【今日の1枚】ColosseumⅡ/Wardance(コロシアムⅡ/ウォーダンス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ColosseumⅡ/Wardance
コロシアムⅡ/ウォーダンス
1977年リリース

ジャズとロックの融合を具現化した
コロシアムⅡの最後のアルバム

 今は亡きドラマーのジョン・ハインズマンと、同じく2011年に急死した天才ギタリストのゲイリー・ムーアが結成したコロシアムⅡの3枚目にして最後のアルバム。本作は高度なテクニックによるインプロヴィゼーションが飛び交うジャズロックになっており、過去のテンペスト時代の反動から、より技術至上主義を貫くインストゥメンタルパートに比重を置いた作品となっている。ロックそのもののイデオロギーが失いかけていた1977年の時代の中で、妥協の無い職人気質とブリティッシュロックにおける革新的な側面を伝えた歴史的名盤である。

 名ドラマーとして名を馳せていたジョン・ハインズマンは、1971年に自ら結成したジャズロックグループ、コロシアムの活動に終止符を打ち、1972年に新たにテンペストというグループを結成する。テンペストは元ジューシー・ルーシーのポール・ウィリアムスをヴォーカルに据えて、さらに元ニュークリアスのアラン・ホールズワースという実力派のギタリストを迎えて、ハードロック寄りの音楽性となった高水準のプログレッシヴロックとなっている。しかし、デビューアルバムをリリース後にポール・ウィリアムスとアラン・ホールズワースが脱退したため、1974年に3人編成となったセカンドアルバム『眩暈』を最後にテンペストは解散することになる。ジョン・ハインズマンは、コロシアム時代に完成させたジャズ・オリエンテッドのビッグバンド・イデオロギーにコンプレックスを持ち続けており、次のテンペストでは少人数によるビッグバンドを狙ったものの、ロックオーケストレイションの要素が昇華しきれなかったことに不満を感じていたという。そんなコロシアム時代の幻想を抱きながら、テンペスト時代の中途半端だったヴォーカル要素を排除し、徹底的な技術至上主義ともいえるインストゥメンタルパートに比重を置いた演奏にこだわるようになる。そこで彼はギタリストのゲイリー・ムーアと手を組んで新たなグループの結成に動き始める。ゲイリー・ムーアはかつて旧友であるフィル・ライノットに乞われ、ギタリストのエリック・ベルの代役としてシン・リジィで数ヶ月間プレイしてきたギタリストで、ハインズマンの新グループの構想に共感したといわれている。

 ジョン・ハインズマンとゲイリー・ムーアの2人はメンバーの人選を行い、後にレインボーやジェスロ・タルのメンバーとなるキーボーディストのドン・エイリー、後にホワイトスネイクのメンバーとなるベーシストのニール・マーレイ、そしてヴォーカリストのマイク・スターズが加入し、コロシアムⅡが結成される。このコロシアムⅡのグループ名に決定する前は“ゴースト”というグループ名が候補としてあったらしい。しかし、難色を示したレコード会社側が、ジョン・ハインズマンが活躍していたコロシアムの名前にちなんだものを要求したため、不本意ながらコロシアムⅡと名づけている。こうして実力派のメンバーをそろえたコロシアムⅡは、短期間のレコーディングの末、1976年にブロンズレコードからファーストアルバムとなる『ストレンジ・ニュー・フレッシュ』をリリースする。アルバムはメンバーが後にHR/HMで活躍するミュージシャンばかりだったこともあり、極めてハードロック色の強いサウンドとなっている。このアルバムでニール・マーレイが脱退し、後任ベーシストにジョン・モールが加入。また、専任ヴォーカリストだったマイク・スターズもグループから離れることになる。新体制となったコロシアムⅡはレコード会社をブロンズレコードからMCAに移籍し、1977年にセカンドアルバム『エレクトリック・サヴェージ』をリリースする。このアルバムでは必要に応じてゲイリー・ムーアがヴォーカルを担当するなど、ハインズマンが目指すよりテクニカルなインストゥメンタル志向の強いサウンドとなっている。本アルバムの『ウォーダンス』は、セカンドアルバム発表から半年後にリリースされており、前作の発展系と言われている。火花を散らすような即興演奏に近い緊張感を狙った色合いが強く、それでもジャズオリエンテッドロックにこだわるジョン・ハインズマンの精神性が表れた究極のアルバムとなっている。

★曲目★
01.Wardance(ウォーダンス)
02.Major Kays(メイジャー・キーズ)
03.Put It That Way(プット・イット・ザット・ウェイ)
04.Castles(キャッスルズ)
05.Faighting Talk(ファイティング・トーク)
06.The Inquisition(インクイジション)
07.Star Maiden(スター・メイデン)
 a.Mysterioso(ミステリョーソ)
 b.Quasar(クエイサー)
08.Last Exit(ラスト・イグジット)

 アルバムの1曲目の『ウォーダンス』は、まさしくジョン・ハインズマンの目指したビッグバンドのイデオロギーが表れた楽曲になっている。ハインズマンの妥協の無いドラミングに挑みかかるように、ゲイリー・ムーアのギターとドン・エイリーのキーボードが交錯するように展開し、勇ましい楽曲ながら情熱的ともいえる彼らの演奏テクニックが冴えたスリリングな内容になっている。2曲目の『メイジャー・キーズ』は、明るいキーボードとカッティングするギター、強調したベース音から始まり、甘いトーンのギターソロを加味した起伏のある楽曲。後半は淡いギターを中心としたノリの良いアンサンブルに切り替わり、美しくも質の高いジャズロックに変貌している。3曲目の『プット・イット・ザット・ウェイ』は、セカンドアルバムに収録された曲のアレンジ盤。冒頭からハードなギターを中心とした疾走感あふれるメロディアスな楽曲になっており、エッジの利いたテクニカルなゲイリー・ムーアのギターとドン・エイリーの躍動感あふれるキーボードが冴え渡った内容になっている。4曲目の『キャッスルズ』は、ブロンズレコードと契約交渉に使用したデモ用の曲であり、当時在籍していたマイク・スターズからゲイリー・ムーアのヴォーカルヴァージョンにアレンジした内容になっている。美しいキーボードを中心としたバラード曲になっており、悠々と歌い上げるゲイリーのヴォーカルが心地よい逸品になっている。5曲目の『ファイティング・トーク』は、冒頭からハードロックテイストのギターチューンから始まり、途中からキーボードとユニゾンしてより煌びやかなアンサンブルに変わっていく楽曲。歪んだキーボードの音色から繰り出す技巧的なギター、熱いドラミングが重厚なメロディを作り上げている。6曲目の『インクイジション』は、手数の多いハインズマンのドラミング、そして疾走感のあるギターとキーボードが交錯する非常にハイテンションの楽曲。途中から高速の展開の中でアコースティックギターとエレクトリックギターが交互に演奏されるなど、ゲイリー・ムーアの真骨頂が垣間見れる内容になっている。7曲目の『スター・メイデン』は2楽章になっており、最初の『ミステリョーソ』は、スローテンポの中でドラムとギター、そしてキーボードによるしっとりとした演奏の楽曲。途中から鐘の音と合図にスリリングなジャズロックに変わり、緊張感あふれる展開になる。後半の『クエイサー』は、鐘の音を活かした流麗なキーボードとジャジーなギターによるメロディアスな楽曲になっている。8曲目の『ラスト・イグジット』は、パワフルなドラミングとハードなギター、そして煌びやかなキーボードを中心とした楽曲になっており、伸びやかで泣きのあるゲイリー・ムーアのギターが余韻となりつつフェードアウトしていく。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前作よりもグループとしての一体感が加わり、楽曲構成の完成度が一段と増した作品になっている。特にジョン・ハインズマンの目指すジャズオリエンテッドロックの精神性を、まるでギタリストのゲイリー・ムーアとキーボーディストのドン・エイリーが体得したかのように、絶妙ともいえる演奏を披露している。高度なテクニックに支えられたインプロゼーションが飛び交う中で、しっかりと自分達の確固たる姿勢を貫いているのが、このアルバムが名盤と言われる所以だろう。

 本アルバムがリリースされた1977年のイギリスは、まさにパンク/ニューウェイヴの真っ盛りである。彼らの目指した技術至上主義の感性は、残念ながら商業的に結びつくことはなかったという。1978年の1月、グループはアンドリュー・ロイド・ウェーバーが企画した『ヴァリエイションズ』で、パガニーニの『カプリース第24番』に挑んだ意欲作に参加する。コロシアムⅡとは同じMCA所属だったために実現した企画だったが、実はアンドリューが偶然MCAのオフィスでコロシアムⅡのレコードを聴いて気に入ったことから参加の要請に至ったとされている。乗り気ではなかったゲイリー・ムーアだったが、このヴァリエイションズに参加したのを最後にグループを脱退。ゲイリーを失ったハインズマンはコロシアムⅡの解散を決意することになる。解散後のジョン・ハインズマンは、ドイツ人とイギリス人を中心に常時10人編成のメンバーからなるユナイテッド・ジャズ+ロック・アンサンブルに参加し、一方で音楽プロデューサーを兼ねながら活躍をすることになる。1994年にはかつて在籍していたコロシアムを再結成し、2007年に同メンバーとして来日している。ハインズマンはコロシアムが2015年に活動休止するまでドラマーとして精力的に演奏していたが、2018年6月12日に脳腫瘍により永眠している。一方のゲイリー・ムーアはコロシアムⅡに在籍したままシン・リジィに正式加入し、MCAでソロ名義のアルバム『バック・オン・ザ・ストリーツ』をリリースしている。また、1980年に元CBSのディレクター、ドン・アーデンが立ち上げたジェット・レコードと契約して、G-FORCEを結成。1枚のアルバムを残して解散するが、後に様々なミュージシャンのソロアルバムの参加やセッションを行ってきたことで、1980年代にはスーパー・ギタリストの1人となっている。1990年代には日本の浜田麻理や本田美奈子といったアーティストに楽曲を提供したりする一方、演奏では親交のあったジョージ・ハリスンの影響でブルースに回帰したりしている。ゲイリー・ムーアは晩年に「自分のスタイルが確立したのは、コロシアムⅡの時代からだ」と敬意を表し、元メンバーだったドン・エイリーとコロシアムⅡの再結成を目論んでいたという。しかし、彼は2011年2月6日に休暇先のスペインで心臓発作が原因で急死してしまい、自身が望んだコロシアムⅡの再結成は叶わぬ夢となった。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はジョン・ハインズマンとゲイリー・ムーア、そしてドン・エイリーという凄腕のメンバーがそろったコロシアムⅡの最後のアルバム『ウォーダンス』を紹介しました。前回、テンペストのデビューアルバムを紹介しましたが、アラン・ホールズワースという類まれなギタリストを擁して、ジョン・ハインズマンが理想とするジャズとロックの融合を試みた傑作となっています。今回のコロシアムⅡではゲイリー・ムーアという若きギタリストと組んで、このサードアルバムで徹底的な技術至上主義を貫いたジャズロックを具現化した作品に仕上げています。とにかくハインズマンのパワフルなドラムに果敢に挑むゲイリー・ムーアのギターとドン・エイリーのキーボードは凄まじいのひと言です。特に6曲目の『インクイジション』は、かっこいいを遥かに越えてもう美しいとすら思えます。ジャズロックはフュージョンやクロスオーヴァーといったカテゴリーに押し込むことが多いですが、ジョン・ハインズマンの理想とする少人数でのビッグバンドやロックオーケストラといった追求は続いており、これもまたプログレッシヴなサウンドであると言わざるを得ません。そんなジョン・ハインズマンとの演奏の格闘から、ゲイリー・ムーアという確固たるギタリストを作り上げてしまったのも事実です。彼はヘヴィなブルースロックからジャズロックに身を投じて、ハインズマンの精神性とテクニックを会得しましたが、その結果、ブルースロックとジャズロックの両方の融合と応用に向けたギターサウンドを目指すようになります。1980年代のゲイリーが天才ギタリストと言われるようになったのは、コロシアムⅡの中で鍛えられた賜物であると言っても良いと思います。

 初期のゲイリー・ムーアのギターの才能が開花した本アルバムは、ジャズロックやハードロック好きにはたまらない1枚です。スリリングでテクニカルな演奏を披露する4人のメンバーによる革新的なサウンドをぜひ堪能してみてほしいです。

それではまたっ!