【今日の1枚】Aardvark/Aardvark(アードヴァーク) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Aardvark/Aardvark
アードヴァーク/アードヴァーク
1970年リリース

英国アンダーグラウンド特有の歪みのある
サウンドを放ったオルガンハードロック

 1960年代後半に本格的なブルースロックに突入する流れにおいて、旺盛を極めたサイケデリックロックの名残ともいえるアンダーグラウンドシーンの中から誕生したアードヴァークの唯一のアルバム。そのサウンドはギターレスのハモンドオルガンを中心としたマイナー調のメロディ、叙情性を感じさせながらもへヴィでアグレッシヴな演奏が印象的であり、英国の陰影を映し出したような強烈な個性を描いた作品になっている。前衛的なサウンドとは裏腹にメルヘンチックなアルバムジャケットが話題を呼び、多くのアンダーグラウンドグループを世に出してきたノヴァレーベルの中でも極めて人気の高い作品となっている。

 アードヴァークは1967年に、ヴォーカリストのデヴィッド・スキリンが中心となって結成されたグループである。彼は元々、事務系のサラリーマンの仕事をしていたらしく、仕事を辞めて音楽グループの結成に動いたという珍しい経歴を持っている。最初に参加したのがベーシストのスタン・アルダスで、彼はサム・ゴバル・ドリームやクラーク・ハッチンソンのミック・ハッチンソンと共に、1964年からサンズ・オブ・ブレッドというグループで演奏していたアーティストである。1966年にオデッセイというグループに改名してシングルをリリースした後に、グループから離れてアードヴァークに参加することになる。しばらくは2人でセッションミュージシャンを交えてライヴを行っており、この時のキーボーディストには後にアフィニティーに加入するディヴ・ワッツや後にナチュラル・ガスに加入するピーター・ウッドなどが参加していたという。やがて1969年2月に弱冠17歳のドラマー、フランク・クラークがアードヴァークに加入する。彼は多くの無名のグループで下積みをしてきたドラマーで、アルダスが前から目を付けていたアーティストだったという。そしてレーベルメイトのブラック・キャット・ボーンズに在籍していたキーボーディストのスティーヴ・ミリナーが加わる。彼はイングランドのウェスト・ミッドランズ州にある都市コヴェントリー出身で、9歳から聖歌隊に入隊しており、クラシックピアノを学んでいる。ハダースフィールド音楽学校を卒業後に、イギリスでブルースバンドとして知名度の高いブラック・キャット・ボーンズに加入してプロとして活躍していたアーティストである。こうして4人組となったアードヴァークは、作曲やアレンジもできるミリナーが加わったことでオリジナル曲を作るようになり、レコード契約を結ぶために動き始める。この時、名門レコード会社であるデッカ/デラムが設立したノヴァレーベルの17番目のグループとして契約に成功している。プロデューサーにデッカレコードのデヴィッド・ヒッチコックが担当し、1970年デビューアルバムとなる『アードヴァーク』がリリースされる。そのアルバムは攻撃的なリフと叙情性を含んだマイナー調のハモンドオルガンを中心に展開されており、まさに英国アンダーグラウンドシーンを代表した歪みのある個性的なサウンドになっている。

★曲目★
01.Copper Sunset(カッパー・サンセット)
02.Very Nice Of Tou To Call(ヴェリー・ナイス・オブ・ユー・トゥ・コール)
03.Many Things To Do(メニー・シングス・トゥ・ドゥ)
04.The Greencap(ザ・グリーンキャップ)
05.I Can't Stop(アイ・キャント・ストップ)
06.The Outing Yes(ザ・アウティング・イエス)
07.Once Upon A Hill(ワンス・アポン・ア・ヒル)
08.Put That In Your Pipe And Smoke It(プット・ザット・イン・ユア・パイプ・アンド・スモーク・イット)

 アルバムの楽曲はスキリンが作詞を行い、それにメロディをつけて3人が出来上がったフレーズにアイデアを追加して肉付けをする流れで曲を作っており、各曲はメンバーの曲想が色濃く反映した内容になっている。1曲目の『カッパー・サンセット』は、手数の多いドラミングに歪んだハモンドオルガンによるスリリングなハードロックになっている。ディープ・パープルを彷彿とするヘヴィなインプロヴィゼーションが際立った曲である。2曲目の『ヴェリー・ナイス・オブ・ユー・トゥ・コール』は、曲調がピアノをベースにしたモダンなロックに変わり、後に美しいオルガンによるソロがあるものの暗鬱とした叙情性をはらんだ曲である。3曲目の『メニー・シングス・トゥ・ドゥ』は、ピアノとオルガン、そして激しいドラミングをバックにブルージーに歌うヴォーカルが印象的な曲。途中からキーボードによる激しいリフからリリカルなオルガンに変化するなどめぐるましい展開があり、彼らの持つ独特のメロディラインが良く表れた楽曲になっている。4曲目の『ザ・グリーンキャップ』は、スピーディーな展開のあるオルガンロックになっており、マリンバを使用した独特のメロディセンスが随所に光るナンバー。ディヴ・スチュワート率いるエッグに通じるオルガンプレイが堪能できる逸品である。5曲目の『アイ・キャント・ストップ』は、静謐なオルガンのイントロから次第に激しくなっていき、独自性のあるオルガンフレーズをベースにした楽曲。途中からアグレッシヴなオルガンプレイになり、暗鬱としたハードロックになっている。6曲目の『ザ・アウティング・イエス』は9分を越える大曲になっており、前半は軽快なオルガンとコーラスを主体としたヴォーカルが印象的な狂騒曲である。後半は歪んだメロディのオルガンを弾きまくっており、サイケデリックの名残ともいえる強烈なサウンドになっている。7曲目の『ワンス・アポン・ア・ヒル』は、美しいヴィヴラフォンに導かれるように優しく歌うバラード曲。中盤からリコーダーの響きがあるなどデヴィッド・ミリナーの多彩な楽器による演奏が堪能できる。8曲目の『プット・ザット・イン・ユア・パイプ・アンド・スモーク・イット』は、ミリナーの壮絶ともいえるオルガンプレイが全編にあふれたインストゥメンタル曲。ザ・ナイスのキース・エマーソンを彷彿とさせるアグレッシヴな鍵盤さばきは爽快ですらある。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前半の楽曲はヴァニラ・ファッジやディープ・パープル風のオルガンハードロックになっており、後半の楽曲はザ・ナイスやエッグ風のオルガンのソロプレイをメインとした楽曲になっていると思える。後半ではエッジの利いたキーボードだけではなく、チェレステやビブラフォン、マリンバ、リコーダーを使いこなす、デヴィッド・ミリナーの存在感が非常に大きい。独特のセンスを持っているとはいえ、演奏テクニックは申し分なく、このようなレベルの高いグループがアンダーグラウンドシーンに埋もれていたとは今でも信じ難い。

 アードヴァークは強烈な個性を放った1枚のアルバムを残して解散している。アンダーグラウンドシーンだけではなくプログレッシヴグループにはよくある話だが、結局、セールス的に芳しくなかったということだろう。解散後のメンバーの動向は不明だが、ヴォーカルのデヴィッド・スキリンは、後にウイッシュボーン・アッシュに参加するローリー・ワイズフィールドが在籍するホームというグループに参加し、3枚目のアルバム『アルケミスト』の作詞を担当している。キーボーディストのデヴィッド・ミリナーはセッションマンを経て、女性ヴォーカルのサミ・ゴードンを含む5人のミュージシャンによるサミ&スティーヴ -モーニング・グローリーを結成し、現在でもSteam上で活動をしているという。やがて2016年には45年ぶりにデヴィッド・スキリンとデヴィッド・ミリナーが再会し、最新アルバム『Aardvark2 - Guitar'd 'n' Feathered』というタイトルで自主レーベルであるSkillMill Recordsからリリースしている。本アルバムは当時と同じく、デヴィッド・ミリナーがピアノやオルガン、チェレステ、ヴィヴラフォン、マリンバ、リコーダーを使っており、リリカルなメロディが全編にあふれたサウンドになっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は英国アンダーグラウンドシーンの中でも特に人気の高いアードヴァークのデビューアルバムを紹介しました。Aardvarkは頭がAAとなているので、我が家ではCD棚のアルファベット順で常に1番に来るアーティストになっています。本アルバムは紙ジャケで初めて手に入れて聴いたのですが、T.2やベイカー・ルー、アンドロメダといったアンダーグラウンド特有の屈折感がたまらないです。特にキーボーディストのデヴィッド・ミリナーの無法ともいえるアグレッシヴさで弾きまくるオルガンは、ザ・ナイスのキース・エマーソンやエッグの頃のディヴ・スチュワートを彷彿とさせます。ハードロック調とはいえ、その独特過ぎるメロディラインこそアードヴァークの特徴ともいえます。今聴いても十分インパクトのあるサウンドですが、当時は前衛すぎるがゆえに、なかなか一般受けしなかったそうです。これはアンダーグラウンドシーンで誕生しては消えていった他のグループにも共通しています。

 さて、アードヴァークが所属していたデッカ/デラムレコード傘下のノヴァというレーベルですが、1969年から1970年の2年間で20枚ほどのアルバムを出しては消えた幻のレーベルと言われています。当時、プログレッシヴな音楽が市場に現れてきたことを鑑みて、EMI傘下のハーヴェストやフィリップス傘下のヴァーティゴ、パイのドーンといったレコード会社がプログレッシヴレーベルを次々と設立していた背景があり、デッカ/デラムも実験的なサウンドを試みるアーティストを取り入れるためにノヴァを設立したらしいです。このレーベルにはディヴ・スチュワート率いるエッグのファーストアルバムや上記にも書いたブルースハードロックのブラック・キャット・ボーンズ、フォークトリオのサンフォレストなどが所属していて、面白いのはしっかりと1アーティストが1作品ずつしかリリースしていないところです。ワンショットで契約して、規定枚数を売り上げればデッカ/デラムの各レーベルの契約にアップする流れらしいのですが、エッグとクラーク=ハッチンソンの2つのグループしか無かったそうです。まあ、後に両方ともレーベルと揉めることになりますが。(笑)

 本アルバムは初っ端からオルガンによるアグレッシヴなハードロックを聴かせてくれるユニークな作品です。英国のオルガンロックやハードロック好きにはぜひ聴いてほしいです。

それではまたっ!