【今日の1枚】Alphataurus/Aphataurus(アルファタウラス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Alphataurus/Aphataurus
アルファタウラス/アルファタウラス
1973年リリース

キーボードを主体とした叙情性と攻撃性を
併せ持ったシンフォニックロック

 Magmaレーベル第1弾としてリリースされた、イタリアを代表するプログレッシヴロックグループ、アルファタウラスのデビューアルバム。そのサウンドはキーボードを中心にクラシカルな叙情性とアヴァンギャルドな攻撃性が交互に展開するシンフォニックロックとなっており、伸びのあるヴォーカル、要所にアコースティックギターの爪弾きがあるなど色彩豊かな楽曲が特徴となっている。白い鷲の胸からミサイルが落下して爆撃する強烈なイラストと、豪華3面開きの変形ジャケットという特殊なデザインから、Magmaレーベル屈指のコレクターアイテムとなった作品である。

 アルファタウラスは1970年にイタリアのミラノで結成されたグループである。本アルバムのメンバーはリーダーであるピエトロ・ペッレグリーニ(キーボード)を中心に、グイド・ワッサーマン(ギター、ヴォーカル)、ジョルジョ・サンタンドレア(ドラムス)、アルフォンソ・オリビア(ベース)、ミケーレ・バヴァーロ(ヴォーカル)の5人編成である。彼らの経緯は不明だが、1970年前後はイギリスのプログレッシヴな音楽がイタリアに流入したことで触発された若者が多く、彼らもその中のグループの1つであったといえる。特にキーボーディストであるピエトロ・ペッレグリーニが自身の理想とする音楽世界を構築したいがために結成したと言われており、グループ名は牡牛座1等星のアルデバランの別名であるアルファタウラスをヒントにピエトロ自身が命名したと言われている。結成当初は地元のミラノでギグを繰り返していたが、音楽の方向性や資金難から何度もメンバーチェンジを行い、最終的に上記のメンバー5人に落ち着いている。2年近く活動した結果、ミラノで確固たる知名度のグループとなったアルファタウラスは、1972年に開催されたパレルモ・ポップフェスに出演したことで大きな転機を迎える。そのフェスを観に来ていたヴィットリオ・ディ・スカルツィが彼らの音楽性に惚れ込み、自身が設立したばかりのMagmaレーベルと契約してほしいと話を持ちかけてきたという。このヴィットリオ・ディ・スカルツィという人物は、イタリアのベテラングループであるニュー・トロルスに所属していたメンバーである。彼は1973年のアルバム『UT』でメンバー間の対立によって4人のメンバーが抜けたために孤立し、彼主導でニュー・トロルス・アトミック・システムというグループ名で活動継続。そして裁判を経て、これまでニュー・トロルスのアルバムをリリースしてきたフォニット・チェトラから離れて、新たに彼自身によるMagmaレーベルを設立したばかりの矢先だったという。こうしてアルファタウラスはMagmaレーベルで最初に契約したグループとなり、彼らにとって思いがけない幸先の良いスタートを切ることになる。スタジオ入りした彼らは早速レコーディングを行い、同年にデビューアルバムとなる『アルファタウラス』をリリースする。本アルバムはピエトロ・ペッレグリーニの自在に操るキーボードを主体とした叙情性と攻撃性を兼ねそろえたシンフォニックスタイルとなっており、ピークともいえるイタリアンロックの全盛期の息吹が感じられた力強いサウンドになっている。

★曲目★
01.Peccato D'orgoglio(傲慢の罪)
02.Dopo L'Uragano(ハリケーンの後)
03.Croma(色彩)
04.La Mente Vola(駆け抜ける精神)
05.Ombra Muta(無言の影)

 アルバムの曲は全てキーボーディストのピエトロ・ペッレグリーニが作成している。1曲目の『傲慢の罪』は、12分を越える曲であり、緊迫感あふれるオープニングから一転してアコースティックギターの爪弾きをバックに力強く歌うヴォーカルが特徴である。後半では怒涛のようなアンサンブルの展開が待っており、独自性の高い重厚なプログレッシヴハードを聴かせてくれる。テクニカルな演奏の中で時折響く美しいハモンドオルガンが幻想的であり、1曲目で彼らの音楽性が良く表れた楽曲となっている。2曲目の『ハリケーンの後』は、静謐なアコースティックギターをバックに高らかに歌うヴォーカルが特徴の曲であり、ピアノに導かれるようにハードなアンサンブルに変わっていく。叩きつけるようなピアノを中心としたブルージーな展開になり、荒廃とした台風の後を描いている。3曲目の『色彩』は、不協和音のリズム上で弾くハープシコードとベース音から、壮大なシンセサイザーによるオーケストレイションに切り替わる美しいサウンドとなっており、ピエトロのクラシカルな演出が際立った曲。シャープなハープシコードの音から怒涛のようなシンセサイザーの音圧が圧倒的であり、アルファタウラスが持つシンフォニック性が垣間見れる楽曲である。4曲目の『駆け抜ける精神』は、チェンバロの音色を中心とした多彩なキーボードのイントロが美しい楽曲。テクニカルなリズムセクションをバックにフュージョン風の演奏を経て、流麗なピアノが奏でられたヴォーカル曲に変化する。後半にはサイケデリックでスペイシーなシンセサイザーで幕を閉じている。5曲目の大曲『無言の影』は、キーボードとギターによる美麗なハードロックになっており、美しい旋律の中で時折激しいアンサンブルが奏でられ、静と動が交互にせめぎ合うように展開される。中盤からはブリティッシュナイズされたキーボードロックとなり、迫力のあるサウンドを聴かせてくれる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、各楽曲にはブリティッシュロックからリスペクトしたようなハードロックの側面と、イタリアンロック特有のシンフォニックロックの側面があり、この2つのサウンドが重なった時の凄まじいエネルギーと、その噛み合った中で生まれるメロディの美しさはこの上ないものになっていると思える。熱いヴォーカルや多彩なキーボードから繰り出される重厚で攻撃的な音色から、リリシズムなアコースティックギターの爪弾きや荘厳なチェンバロの響きが交互に展開されるさまは、まるで破壊と再生を描いた美学にも通じる独創性が感じられ、イタリアンロックの傑作と言っても過言ではないだろう。

 本アルバムはMagmaレーベル最初の作品として紹介され、好調なセールスを記録したという。グループはリリース後も国内外のロックコンサートに出演し、多忙の中でセカンドアルバムの制作に入ることになる。1973年8月にスタジオ入りし、12月までの4ヶ月の間にセカンドアルバムのレコーディングを終了させたものの、なぜか彼らの活動期間中に発表されることは無かったという。理由は定かではないが、先のセカンドアルバムのレコーディング中にメンバーの諸事情が重なり、グループとして活動できなくなってしまったらしい。そこには大きなトラブルは無かったということから、もしかしたら当時のイタリアの社会情勢の悪化が原因だったのではないかと考えられる。つまり、バンドでは家族を養えなくなったため、違う職を探さざるを得なくなったのである。その結果、小さなレーベルだったMagmaレーベルも立ち行かなくなり、グループは自然消滅に近い形で解散することになる。このレコーディングされたセカンドアルバムは、1992年に『Dietro L'uragano』というタイトルで陽の目を見ることになる。時は過ぎ、2009年にオリジナル・ラインナップメンバーであるピエトロ・ペッレグリーニとグイド・ワッサーマンの2人が、不完全だったセカンドアルバムの修正録音と新曲作りのために再始動する。そこにドラマーのジョルジョ・サンタンドレアも加わったことで、2010年11月に35年ぶりとなる再会を果たし、イタリアミラノで開催されたProgvention 2010に出演している。この模様を収録したライヴアルバム『鷲は舞い降りた - プロッグヴェンション 2010:ライヴ・イン・ブルーム』としてリリースされている。また、ドラマーのジョルジョが退き、新たにアレッサンドロ・ロッシがメンバーに加わり、2012年にスタジオアルバム『アルファタウラス2 - 進化する魂』がリリースされている。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアンプログレの屈指のコレクターアイテムであるアルファタウラスのデビューアルバムを紹介しました。このアルバムはイタリアンプログレを聴くようになってから購入したもので、その強烈ともいえるジャケットイラストは今でも惚れ惚れしています。サウンドがまたジャケットイラストを彷彿するようなへヴィネスさとミステリアスが融合したようなテクニカルな演奏になっていて、ハード路線かと思ったら3曲目の『Croma(色彩)』の美しいシンフォニックサウンドにノックダウンしてしまいました。これまでの伝統的なロックやクラシックの音楽性を破壊して神秘と狂気の世界を描いた、同じダーク系のイル・バレット・ディ・ブロンゾやロックの常識を覆してきたキース・エマーソンが率いるエマーソン・レイク&パーマーと比べられることが多いのですが、アルファタウラスは攻撃して破壊した後の安穏をしっかり描いている感じがします。引きとなるアコースティックギターの爪弾きに優しさがあり、ハープシコードには安らぎがあり、聴いていて思わずホッとします。そういう意味では、クラシカルなイタリア音楽の土壌に叙情性のあるブリティッシュロックの概念をうまく組み入れた独創性の高い楽曲だと思います。P.F.M.が世に出たイタリアンロックのピークである1973年の作品とはいえ、個人的にイタリアの懐の深さを思い知ったアルバムです。

 さて、ジャケットを見ると、鷲の胸からミサイルが落下する斬新なイラストが、まるでエマーソン・レイク&パーマーの『タルカス』のジャケットイラストを彷彿しています。『タルカス』はアルマジロと戦車が合体した空想の怪獣で、こっちは鷲の重爆撃機といったところでしょうか。イラストの色調までそっくりです。このジャケットのイラストを描いたのはアドリアーノ・マランゴーニという画家で、キーボーディストのピエトロ・ペッレグリーニとは旧知の仲だったそうです。アルバムのジャケットを引き受けたアドリアーノは、聴いた彼らの音楽からイメージして描いたと言われています。今後もアルファタウラスのアルバムジャケットの専属デザイナーになるはずでしたが、たった1枚でその役目を終えてしまったそうです。

 本アルバムはピエトロ・ペッレグリーニの自在に操る彩り豊かなキーボードが魅力的な1枚です。エマーソン・レイク&パーマーやイル・バレット・ディ・ブロンゾ、またはムゼオ・ローゼンバッハ好きな人は、ぜひ聴いてみてほしいです。

それではまたっ!