【今日の1枚】Cirkus/One(サーカス/ワン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Cirkus/One
サーカス/ワン
1973年リリース

メロトロンやストリングスをフィーチャーし
由緒正しき英国のロマンティズムを描いた傑作

 “K”のサーカスと呼ばれる“Cirkus”のスペルを持つ、プログレッシヴロックグループのデビューアルバム。そのサウンドはハード調のギターやハイトーン系のヴォーカル、ドライヴ感あふれるリズムセクション、メロトロンやストリングスを駆使したメロディセンス抜群のシンフォニックロックとなっている。英国のRCBから自主制作盤としてリリースされたため、プレス枚数1,000枚という少なさから入手困難な激レアとなった作品だが、これが自主制作とは信じられないほどのクオリティを誇った傑作である。

 サーカスはブリティッシュロックやプログレッシヴロックのファンから長らく幻のグループとされていて、その希少価値の高さから謎が多く、いつ頃結成していつ頃解散したのか未だはっきりしていない。アルバムのクレジットを見る限りサーカスを構成するメンバーは、ポール・ロブソン(ヴォーカル)、ドッグ(ギター)、ジョン・テイラー(ベース)、ステュ・マグディッド(ドラムス)、デレック・G・ミラー(キーボード、メロトロン、オルガン)の5人であり、オーケストラアレンジはトニー・ハイマス、プロデューサーにはロン・リチャーズが担当している。アルバムのジャケットの内側にはメンバーと思われる白黒の写真が掲載されており、それ以外は特に情報はない。アルバムのリリースは1973年とされているが、実は制作年月日が記載されていないため、1971年リリースという説もある。現在、判明している情報では、イギリスのイングランド、タインアンドウィア州にある港湾都市のサンダーランドを拠点に活動していたグループだったことが分かっている。グループの中心人物はキーボーディストのデレック・G・ミラーであり、彼はグループ結成前に1968年頃から活動していたLucas Tysonというグループでオルガンを演奏しており、彼がキング・クリムゾンやイエスのような影響力のある新たなグループを結成したのが始まりである。デレックはドッグというニックネームで親しまれているギタリストを引きつれ、地元でMoonheadというグループにいたベーシストのジョン・テイラー、全曲のメインライターを兼ねるドラムスのステュ・マグディッド、ヴォーカリストのポール・ロブソンが合流する形で、1970年初頭にサーカスを結成している。1972年頃から数多くのギグを行い、ロックフェスティバルにも出演するなどグループとしての経験値を高める一方、アルバム制作のための楽曲を作りながらリハーサルを進めていたという。1973年に地元サンダーランドにあるSound Associates/Emison&Air Studiosで、オーケストラアレンジにトニー・ハイマス、プロデューサーにロン・リチャーズを迎えてレコーディングを行い、RCBレーベルから念願のデビューアルバム『One』がリリースされることになる。わずか1,000枚という自主制作盤にも関わらず、演奏テクニックから音楽性、楽曲の構成力に至るまで、当時のブリティッシュロックやプログレッシヴロックに引けをとらない素晴らしいクオリティを誇った傑作となっている。

★曲目★
01.You Are(貴方への追想)
02.Seasons(四季)
03.April '73(エイプリル ’73)
04.Song for Tavish(タビッシュに捧げる歌)
05.A Prayer(祈り)
06.Brotherly Love(永遠の絆)
07.Those were the days(過ぎ去った日々)
08.Jenny(ジェニー)
09.Title Track(タイトル・トラック)
 a.Breach(ブリーチ)
   b.Ad Infinitum(アド・インフィニタム)

 アルバムの1曲目の『貴方への追想』は、変幻自在に宙を舞うギターとスリリングなストリングスがうまくマッチした王道ともいえるブリティッシュハードロック。ハードロックのダイナミズムさとプログレッシヴロックのリリシズムが同居した素晴らしい曲になっている。2曲目の『四季』は、メロトロンやストリングスをバックにしたしっとりしたメロディアスなバラードになっており、憂いのあるヴォーカルと哀愁のギターが美しいナンバーである。3曲目の『エイプリル 73’』は、ミディアムテンポのハードロックであり、へヴィでありながらクリアーなギターが印象的な曲。ここぞとばかりに上昇してくるストリングスセクションがドラマティックに演出してくれる。4曲目の『タビッシュに捧げる歌』は、軽快なアコースティックギターから始まるフォーク調のヴォーカル曲。後半の美しいストリングスをバックに盛り上がっていく曲の流れがリリシズムな英国ならではの曲展開になっている。5曲目の『祈り』は、クラシカルなギターとオルガンをバックにポール・ロブソンが優しく歌い上げるヴォーカル曲。徐々にストリングセクションをバックに流暢なキーボードやエレクトリックギターが盛り上げていく彼らのアレンジ力が利いた逸品である。6曲目の『永遠の絆』は、フェイザーをかけたメロトロンから始まるハードロック調のナンバー。ハードなギターリフとストリングスが相対しており、後半のオーケストラのようなストリングセクションがさらに一体となっていく聴き応えのある楽曲である。7曲目の『過ぎ去った日々』は、手数の多いドラミングとブルージーなギターを強調したナンバーであり、静と動の対比をうまく利用している。力強いポールのヴォーカルが印象的である。8曲目の『ジェニー』は、牧歌的なアコースティックギターと優しいヴォーカルが安らぎを与えてくれる曲。後半ではピアノやストリングスをバックに盛り上げ、叙情性をさらに高めている。9曲目の『タイトル・トラック』は、2つの楽曲による組曲風になった曲。前半は力強いギターとストリングス、そして合間に叙情的なアコースティックギターが印象的な曲。途中から伸びのあるディストーションを利かせたギターソロやクラシカルなストリングセクションが流れ、そして軽快なアコースティックギターとストリングスによる美しい展開に切り替わる。後半では3拍子のリフが繰り返されつつ、複数の楽器によって盛り上がって幕を閉じている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、オーソドックスなブリティッシュサウンドのスタイルを維持しつつも、メロトロンとストリングによるオーケストレイションのアレンジが絶妙に利いたメロディセンスあふれた楽曲になっている。へヴィなロックとオーケストレイションのシンフォニックのせめぎ合いのようなサウンドは聴く者を熱くし、牧歌的なアコースティックギターとヴォーカルによるメロディラインは聴く者に安らぎを与えるようであり、多くのブリティッシュロックとはひと味違う英国のロマンを抱いていると思える。

 本アルバムは先述のとおり、プレス枚数1,000枚という自主制作盤だったが、ギグと合わせて売れ行きは好調だったという。これに手応えを感じたメンバーは次なるアルバム用の楽曲の制作に動き出したが、1975年にヴォーカリストのポール・ロブソンが一身上の都合で脱退してしまう。後任に元ハーフブリードに所属していたサックス兼ヴォーカルのアラン・ロードハウスが加入し、マイナーレーベルのガーディアンから1976年にシングル盤『Mellissa(メリッサ)』を発表している。翌年の1977年にはセカンドアルバムにあたる『Future Shock(フューチャー・ショック)』をリリースしたものの、グループの行き詰まりを感じて1980年頃に解散している。しばらく音沙汰が無いまま1980年代が過ぎた1990年初頭に、デレック・G・ミラーがヴォーカル兼キーボードにイアン・ウェザーバーンとギタリストにポール・バッカーと共に再結成し、1994年にアルバム『Cirkus II:The Global Cut』、1998年には『Cirkus III:Pantomyme』をリリースしている。この後、解散したと思われたが、2017年に新たなメンバーによる『Cirkus IV:The Blue Star』で約20年ぶりとなるアルバムが発表され、2020年には最新作『CirkusⅤ:Trapeze』がリリースされるなど、現在でも精力的に活動を続けている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1980年代に発掘されるまで筋金入りのブリティッシュロックの愛好家でしかその存在が知られていなかった“K”のCirkusこと、サーカスのデビューアルバムを紹介しました。今手元にあるCDはヨーロピアン・ロック・シリーズで1990年初頭にリリースされた国内盤ですが、ライナーノーツを見るとまさにメンバーと曲目以外は何も情報が無く苦心して書かれていることが、このグループの希少性を物語っています。ジャケットアートは地球のような中から裸の男性が産まれるように飛び出しています。これは輪廻転生(リーンカーネーション)をイメージしているそうです。一見、卑猥な画像ですが、かつては自主規制で局部にボカシを入れていたジャケットもあったようです。サウンドは1970年代の初頭によくある古き良きブリティッシュロックから一歩抜きん出た、クラシカルなエッセンスが散りばめられた楽曲になっていて、ハードロックとストリングスセクションによるオーケストラアレンジの融合が見事といっても過言ではないアルバムになっています。このアルバムがロックの好事家をはじめとするコレクターに愛されるのは、自主制作盤とは到底思えないクオリティの高さにあると考えられます。私自身もこれがどうして自主制作盤なんだろうか?と思いましたが、最初にリリースしたレーベルがRCBと聞いて、もしかしたら大手RCAレコードの下位部門で、将来RCAからデビューする予定だったのかも知れません。結局、プリプロダクションを経て契約面で揉めたため、自主制作盤としてリリースしたというのが実情なのではないでしょうか。それでも、今回、このデビューアルバムはCDとして陽の目を見ることができましたが、実は1977年にリリースしたセカンドアルバムの『Future Shock(フューチャー・ショック)』のほうが、さらに入手困難の激レアアイテムとなっているそうです。というより、1994年に再結成して作られたアルバムが『CirkusⅡ』と銘打っているあたり、このセカンドアルバムをあまり認めていないのではないかと思っています。

 さて、このCirkus(サーカス)というグループ名はデレック自身がこだわって付けたものだと言われています。しかし、すでに英国ではメル・コリンズが在籍していたCircus(サーカス)というグループがあり、ヨーロッパに目を向ければスイスにもCircus(サーカス)というグループが存在しています。イタリアにもCircus2000というグループがありますね。そこで彼は敬愛するキング・クリムゾンの3枚目のアルバム『Lizard(リザード)』に収録されているタイトル曲『Cirkus』から拝借したのではないかと言われています。“K”のサーカスと呼ばれている今、こういうところもセンスあるな~と思ってしまいました。

 メロトロンやストリングスが映えるシンフォニック調のナンバーとハードロック的なナンバーが、ドラマティックなプログレッシヴロックに昇華している文句なしの逸品です。ぜひ、機会がありましたら堪能してくださいませ。

それではまたっ!