【今日の1枚】Amos Key/First Key(アモス・キー/ファースト・キー) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Amos Key/First Key
アモス・キー/ファースト・キー
1974年リリース

格調高きクラシカルなサウンドを紡ぎだす
ドイツが誇るキーボードトリオ

 ヘブライの預言書、または旧約聖書の一書であるアモス書とキーボードのキーの言葉を組み合わせたグループ名を持つ、アモス・キーの唯一のアルバム。そのアルバムはセバスチャン・バッハやベートーベンといったクラシカルなオルガンサウンドを基本にしつつ、テクニカルなジャズロックを融合したユーモアあふれるサウンドが特徴である。初期のトレースやトリアンヴィラート、エマーソン・レイク&パーマー、レ・オルメにも通じる痛快なオルガンプレイが堪能できるキーボードロックの名盤である。

 アモス・キーはオルガン奏者のトマス・モリン(またはトマス・モーリン)が中心となって結成されたグループである。トマスは8歳のときに父がくじ引きで当てたアコーディオンで音楽の道に入り、将来プロの音楽家になることを決めている。そこで古典的なクラシックやオルガン、ジャズピアノなどを独学で学び、その後キーボード奏者となった極めて独特な経歴を持っている。トマスは自身のグループを結成すべく、ドラマーにルッツ・ルードウィヒ、当時学生だったベーシストのアンドレアス・グロスが加入。アンドレアスはトマスのオルガンプレイやそのサウンド、そして視覚的なショーいったこだわりに感銘を受けて、自ら加入を申し出たと言われている。こうして、1970年8月にトリオグループであるアモス・キーというグループを結成。ミュンヘン郊外のフュルシュテンフェルトブルックに近いバイエルン州エメリンクを本拠地にし、7ヶ月に及ぶリハーサルの末、ライヴ活動を開始している。アモス・キーは特にカリスマ的なトマス・モリンが在籍していたことから、地元で注目を集めていたという。トマスとアンドレアスは共にJ・S・バッハやベートーヴェンといったドイツの作曲家を敬愛しており、作曲面ではトマスのキーボードを中心としたクラシカルな楽曲にしている。トマスは当初からハモンドA-100という楽器を崇拝しており、この楽器を中心に自由自在に弾ける楽曲にしようと考えていたという。リハーサルの段階でトマスとアンドレアスがヴォーカルを担当することを決めていたが、ヴォーカルを重点的に置いた楽曲を少なくし、インストゥメンタルを中心とした演奏にシフトしている。こうしてオリジナル曲を作成しつつ、地元でのライヴで知名度を上げていたアモス・キーは、1973年にデモ的なSWFレコーディングを行っている。このレコーディングは将来レコードに収録するために用意した断片をマテリアルとしてまとめたものだったが、中にはそのまま破棄されたものやファーストアルバムに採用されたものもあったという。そして同年にトマスがレコード会社であるIntercord/Spiegeleiと契約することができ、3年以上の活動を経てようやくアルバム制作に動くことになる。すでにオリジナル曲は十分にリハーサルされており、レコーディングはグループにとって素晴らしいものになったという。レコーディングはミュンヘンのミュージックランド・スタジオで行われ、伝説のサウンドエンジニアであるラインハルト・マックがプロデュース&サウンドエンジニアを引き受けている。こうして約一週間の録音を経て、1974年にアモス・キーのデビューアルバムとなる『ファースト・キー』がリリースされる。

★曲目★
01.Shoebread(シューブレッド)
02.Ensterknickstimmstamm(エンステルクニックスティムスタム)
03.Knecht Ruprecht(クネヒト・ループレヒト)
04.Sometimes(サムタイムズ)
05.Got The Feelin(ゴット・ザ・フィーリン)
06.Escape(エスケイプ)
07.Important Matter(インポータント・マター)
08.Dragon’s Walk(ドラゴンズ・ウォーク)
09.First Key(ファースト・キー)

 アルバムの1曲目の『シューブレッド』は、導かれるようなオルガンから始まり、テクニカルな演奏とポップ感覚が散りばめられた曲。クラシカルなオルガンと共にアンドレアスとルッツのリズムに乗せたスリリングな展開が素晴らしく、4分ほどの曲であるにも関わらずアイデアが詰め込まれた内容になっている。2曲目の『エンステルクニックスティムスタム』は、ザ・ナイスを思わせるコンパクトなオルガンロックであり、せわしないリズム上で展開するオルガンとピアノをうまく使い分けたインタープレイが聴きどころである。3曲目の『クネヒト・ループレヒト』は、クラシカルなメロディーに合わせた、ベースとオルガンのユニゾンが印象的な楽曲。重厚なリズムとオルガン上で歌うヴォーカルはロックンロールであり、時折、ジャズを思わせる転調があるなど、1曲の中にめぐるましい展開がある。4曲目の『サムタイムズ』は、2分ほどの短い曲ながらオランダのキーボードトリオのトレースに匹敵する非常にテクニカルな演奏になっている。5曲目の『ゴッド・ザ・フィーリン』は、こちらもザ・ナイス風のオルガンロックになっており、ヴォーカルはポップである。中間部ではトマスのオルガンソロが堪能でき、オマージュ的なフレーズが随所に散りばめられている。6曲目の『エスケイプ』は、赤ん坊の泣き声から始まり、跳ねるようなベースと手数の多いドラミングが特徴的なサウンドになっており、トマスの多彩でスリリングなオルガンプレイが堪能できる。7曲目の『インポータント・マター』は、本作のハイライトともいえる楽曲。チャーチ風のオルガンから叙情的ともいえるヴォーカルをアクセントとしたクラシカルで時にジャジーな展開が聴きごたえのある内容になっている。ハープシコードやギターも絡ませており、ユーモアたっぷりの演奏を聴かせてくれる。8曲目の『ドラゴンズ・ウォーク』は、オルゴール風のベートーベンの『エリーゼのために』の曲から始まる、たおやかな曲調のヴォーカル曲。ピアノやオルガン、そしてリズムセクションが一体となったユニゾンパートが魅力である。9曲目の『ファースト・キー』は、クラシカルなオルガンパートと軽快なロックパートが融合した楽曲となっており、哀愁を誘うアンドレアスのヴォーカルが哀愁がたまらない。こうしてアルバムを通して聴いてみると、大曲志向の多いキーボードトリオとしては珍しい全ての楽曲が2分から5分ほどでまとめられており、その短い楽曲の中にアイデアとユーモアが詰め込まれた内容になっている。クラシカルなオルガンはまさしくキース・エマーソン率いるザ・ナイスであり、テクニカルな部分はリック・ヴァン・ダー・リンデン率いるトレースを意識しているようである。クラシックとロックの融合というより、まるでクラシックとポップを融合させたようであり、聴きなじみの良いサウンドをコンパクトにまとめたのが、このアモス・キーの最大の特徴となっていると思える。

 本アルバムはリリース後、プレス自体が多くなかったため、セールス的に成功はしていない。その後もアモス・キーは活動を続けたが、彼らはダンスグループでもなく、サイケデリックな即興グループでもなかったため、バーデン・バーデンのSWFで1973年に行われたコンサートに代表されるように小規模なライヴが多かったという。1975年に再度スタジオに入っているが、アルバムリリースには至っていない。この時、トマスはプロとしてもっと稼げるグループにしたいと考えていたが、一方のアンドレアスは厳しい音楽シーンに幻滅してアートや絵画を目指して勉強するようになったという。やがて1976年にアンドレアスの脱退を機にグループは解散している。トマスはその後、セッションミュージシャンやサウンドエンジニアを経ながらプロの道を模索していたが、残念ながら数年後に亡くなっている。ドラマーのルッツは一時音楽シーンから遠ざかっていたが、1990年代にフォックスというグループでシーンに復帰している。また、リリース前にデモ的なスタジオ音源と1973年にドイツラジオ放送用に録音されていた未発表ライヴ音源『Keynote』が、35年の時を経て2010年にリリースされている。その音源はロック的なドライヴ感に転化したアグレッシヴなサウンドが味わえる逸品になっているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はキーボード奏者トマス・モリンが中心となって結成されたドイツのトリオグループ、アモス・キーのデビューアルバムを紹介しました。このアルバムは紙ジャケリマスター盤で入手したものですが、キーボードロック好きな私にとって重宝したアルバムです。この時代は英国のエマーソン・レイク&パーマーやオランダのトレースをはじめ、ドイツのトリアンヴィラートといったキーボードトリオが人気を集めていて、大曲志向のコンセプチュアルな作品が多く出ていた時期でした。そんな時期に曲を短くし、コンパクトな中にプログレッシヴなアイデアを詰め込んだ本アルバムは、聴いていてすごく新鮮でした。トリオグループというと何かとアグレッシヴなキーボード奏者が多いですが、トマス・モリンが演奏するキーボードはたおやかでどちらかというと大衆向けのポップさがあるところが大きいです。また、バッハやベートーヴェンの曲を引用しつつ、ジャジーな展開やロック的なアプローチを見せており、作曲やアレンジに長けたミュージシャンであることが分かります。彼は即興的な演奏より、楽譜に忠実な演奏を好んでいたそうです。そんなこだわりの強いトマスですが、本アルバムを経てセカンドアルバムでもしかしたら化けていたかも知れないと思うとちょっと残念です。

 さて、本アルバムの録音はミュンヘンのミュージックランド・スタジオで行われており、伝説のサウンドエンジニア、ラインハルト・マックがプロデュース&サウンドエンジニアを引き受けています。このラインハルト・マックという人物は知る人ぞ知るクイーンやエレクトリック・ライト・オーケストラ、ザ・ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンといった名だたるグループの作品を手掛けてきた名エンジニアです。そんな魔術師という異名を持つ彼の元で録音した時期というのが、なんとユーライア・ヒープとローリング・ストーンズの録音の合間の一週間だったそうです。ちなみにトマス・モリンがスタジオに置いていったハモンドオルガンは、次のローリング・ストーンズのビリー・ブレストンが借りて『イッツ・オンリー・ロックンロール』のシングルのB面を録音したといわれています。残念ながら、そのスタジオでアモス・キーとローリング・ストーンズの対面はなかったようです。

 古き良きオルガンロックをプレイするアモス・キーですが、コンパクトながらスリリングでメロディアスな演奏を聴かせてくれます。エマーソン・レイク&パーマーやトレース、それにキーボードロック好きな人にオススメの1枚です。

それではまたっ!