【今日の1枚】Morse Code/La Marche Des Hommes(男達の歩み) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Morse Code/La Marche Des Hommes
モールス・コード/男達の歩み
1975年リリース

爽快感あふれるメロディが紡ぎだす
壮大なシンフォニックロック

 ブルース系ハードロックからプログレッシヴロックにシフトした、カナダのケベック州出身のモールス・コードのデビューアルバム。そのサウンドはフルートやピアノをはじめ、メロトロン、ハモンドオルガンを駆使した壮大なシンフォニックロックになっており、抜けの良いメロディと絶妙なコーラスが聴き手に爽快感を与えてくれるスタイリッシュな楽曲になっている。プログレッシヴ路線を強めていたEMI傘下のキャピトルと契約し、同レーベルに所属するプログレッシヴロックのマネイジュやプログレッシヴフォークのビュー・ドマージュと共に現在、再評価されているグループのひとつである。

 モールス・コードは元々、ミシェル・ヴァリー(ベース)とレイモンド・ロイ(ドラムス)が所属していたLe Maitres(レ・マイトル)が母体となっている。レ・マイトルは1960年代末から、カナダのケベック州で主にビートルズやビージーズのカヴァーを演奏していたグループで、クリスチャン・シマールというキーボーディストを迎えてから3人でオリジナル曲を作るようになったという。地元のクラブやホテルで積極的にライヴ活動をしていたことから、レ・マイトルは一気に注目されるようになり、大手RCAレコードと契約する機会に恵まれる。3枚のシングルをリリースするが、アメリカ進出を狙うレコード会社の意向から、グループ名をレ・マイトルから英語のMorse Code Transmission(モールス・コード・トランスミッション)に変えている。1971年にゴードン・ライトフットを手がけたビル・マイスナーをプロデューサーに迎えて同名のデビューアルバムをリリース。サイケデリック風味のあるカラフルなメロディが際立ったアルバムとなったが、2年後の1973年のセカンドアルバムの『Ⅱ』では、さらにハードロック色の強いサウンドに変わっている。メンバーは英国をはじめとするヨーロッパの音楽シーンに影響を受けては、巧みにグループのサウンドに反映させていたという。そして彼らは黎明期のブルース系ハードロックを志向していたが、次はイエスやキング・クリムゾンといったプログレッシヴロックの大御所のサウンドに触発され、フルート兼ギタリストのダニエル・ルメイを加入させている。プログレッシヴな方向性に舵を切った彼らは、音楽の方向性の食い違いを見せていたRCAレコードから離れ、EMI傘下のキャピトルと契約。この時、グループ名をMorse Code(モールス・コード)と改名している。キャピトルはすでにデビューアルバムが高評価だったマネイジュやプログレッシヴフォークグループとして知られるビュー・ドマージュが所属していたレーベルである。しかし、レーベルからはモールス・コードの最初の仕事として、ディスコで踊れるダンスシングル用の曲を依頼される。彼らの意に反する仕事だったが、リリースされたシングル曲『カクテル』は、カナダでスマッシュヒット。これが追い風となって順調にアルバム制作が行われ、1975年にデビューアルバムとなる『La Marche Des Hommes(男達の歩み)』がリリースされる。アルバムはイエスの影響が強く感じられるスタイリッシュなプログレッシヴロックとなっており、ハモンドオルガンやメロトロンを取り入れた定番ともいえるシンフォニック性の高いサウンドになっている。

★曲目★
01.La Marche Des Hommes(男達の歩み)
02.Le Pays D'or(黄金の国)
03.La Ceremonie De Minuit(真夜中の儀式)
04.Cocktail(カクテル)
05.Une Goutte De Pluie(雨の雫)
06.Qu'est-Ce Que T'as Compris?(君は何が判ったのか?)
07.Probleme(問題)
★ボーナストラック★
08.Cocktail~Disco Mix~(カクテル~ディスコ・ミックス~)
09.Qu'est-Ce Que T'as Compris?~Singe Version~(君は何が判ったのか?~シングル・ヴァージョン~)

 本アルバムのメンバーは、クリスチャン・シマール(ピアノ、オルガン、クラヴィネット、メロトロン、シンセサイザー)、ミシェル・ヴァリー(ベース、ヴォーカル)、レイモンド・ロイ(ドラムス、パーカッション)、ダニエル・ルメイ(ギター、フルート、ヴォーカル)の4人である。アルバムの1曲目の『男達の歩み』は、10分を越える大曲となっており、モールス・コードのサウンドが集約された楽曲になっている。オルガンを中心としたハードロック調になっているが、めぐるましく変化するリズムと効果的なメロトロン、ソリッドなギターが王道的なシンフォニックを醸成している。後半はイエスを意識したようなテクニカルな演奏とコーラス・ハーモニーを聴くことができる。2曲目の『黄金の国』は、リリカルなピアノをバックにフランス語の響きを活かしたヴォーカル曲。途中から泣きまくるギターと荘厳なシンフォニックによって次第に盛り上がっていくのが印象的である。3曲目の『真夜中の儀式』は、クラシカルなアコースティックギターをバックに力強いヴォーカルが印象的なオープニングから、美しいメロトロンやエレクトリックギターによるソロが展開する曲。ソリッドなギターと絶妙なコーラスが複雑なアンサンブルの中に織り込んでおり、聴く者を飽きさせない作りにしている。4曲目の『カクテル』は、スマッシュヒットとなったシングル曲のアルバムヴァージョン。フルートとクラヴィネットを駆使したキャッチーなインストゥメンタル曲になっている。5曲目の『雨の雫』は、ハモンドオルガンと重いベースをバックにした曲。時折ピアノやフルートを加味しており、しっとりしたヴォーカルを聴かせてくれる。6曲目の『君は何が判ったのか?』は、ギターとオルガンを中心としたハードポップ。王道的なメロディラインを持っており、彼らの特徴であるヴォーカルハーモニーを最大限に活かした内容になっている。7曲目の『問題』は、行進曲のようなドラミングからメロトロンと泣きのギターによるメロディアスな展開に切り替わる楽曲。短い曲だがオルガンやメロトロンの効果が十二分に表れた内容になっている。ボーナストラックの『カクテル~ディスコ・ミックス~』は、彼らを一躍人気にしたシングルヴァージョン。『君は何が判ったのか?~シングル・ヴァージョン~』は、『カクテル』のB面に収録された曲である。こうしてアルバムを通して聴いてみると多少荒削りながらも、聴きやすいメロディやハーモニーが随所にあり、アルバムとしての価値は極めて高い。とにかくハモンドオルガンやメロトロンといった定番楽器を多く使用しており、彼らがベースとして演奏してきたハードロックのサウンドと良い意味でマッチしている。英国の大御所のプログレッシヴロックグループの影響を受けつつも、開放感と異国情緒が同居するケベックならではの属性が発揮された1枚ともいえる。

 本アルバムはカナダのモントリールのディスコ・クラブでヘヴィ・ローテーションされるほど成功を収め、実に40,000枚を売り上げる結果となっている。この結果を受けて、翌年の1976年にセカンドアルバム『プロクリエイション』をリリース。技巧的に成熟したサウンドとなり、エネルギッシュな演奏が魅力的なアルバムとなっている。1977年にはサードアルバムとなる『我は時なり』を発表し、コンパクトな小品集ながらもポップ性の高いヴァラエティーに富んだアルバムとなっている。こうしてカナダの数あるロックグループの中でも人気のグループにのし上がったモールス・コードだが、3枚のアルバムを残して1978年にキーボーディストのクリスチャン・シマールが脱退したことで解散している。理由は定かではないが、1970年代末からの空前のディスコブームのあおりで、ケベック州内のロックコンサートを開く機会が少なくなってしまい活動の幅が狭くなったのが原因らしい。ケベック州で結成された他のグループと同じように、これだけ人気だったモールス・コードも州外で活動をすることがなく、世界的にあまり知られていなかったことも大きい。解散後のメンバーは改めてマーク・マホーというキーボーディストを入れて再結成し、イギリスやアジアを中心としたツアーを行い、1983年に『コード・ブレイカー』というアルバムをリリースしている。後にクリスチャン・シマールが復帰したことで地元のケベック州を中心に活動し、1995年のアルバム『 D'UN AUTRE MONDE』を最後に正式に解散することになる。解散後のメンバーは地元でセッションミュージシャンになったり、スタジオで働いたりして表舞台から遠ざかっていたが、2016年10月10日にキーボーディストのクリスチャン・シマールがすい臓がんのために死去したことがきっかけで再集結。2018年にオリジナルメンバーであるベーシストのミシェル・ヴァリーとギタリストのダニエル・ルメイ、クリスチャン・シマールの弟のギレス・シマールがメンバーとなり、モールス・コードのグループ名を継承してライヴを中心に現在でも活動を続けている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はカナダのケベック州を代表するプログレッシヴロックグループ、モールス・コードのデビューアルバムを紹介しました。モールス・コードは紙ジャケリマスター盤で初めて入手したものですが、これだけ商業的に成功を収めたグループであるにも関わらず、まともな形でCD化されてこなかったらしいです。よく比較されるケベック州出身のポーレンやオパス5などのグループとは違って、アンダーグラウンド性をあまり感じさせないためか、廃盤からのCD化が後回しにされたというのが実情のようです。そんな本アルバムは重厚なハモンドオルガンやメロトロンをバックに、美しいハーモニーを利かせたヴォーカルが特徴のポップ感覚の優れた内容になっていて、英米のプログレッシヴロックグループに劣らないクオリティを維持した傑作だと思います。中でもディスコ用に作られた『カクテル』の曲は、現在でも通用するスタイリッシュなサウンドになっていて、人気曲になったというのも頷けます。モールス・コードは3枚のアルバムを入手していますが、このデビューアルバムがシンフォニック度が高く、個人的にオススメです。

 さて、モールス・コードが一躍人気グループになった『カクテル』という曲ですが、当時ではあまり楽器として使われなかったクラヴィネットをギコギコとさせた音を効果的に組み込んでいます。個人的にはバックのメロトロンによる重厚さがたまらないメロディアスな楽曲とも言えますが、この曲がちょっとしたディスコブームの火付け役になっています。実はアルバムリリースの翌年の1976年にフランスのスタジオミュージシャン達が集まって結成されたホット・ブラッドの『ソウル・ドラキュラ』というディスコ曲があります。この曲は日本でもオリコンチャートで7位を記録するなど世界的に大ヒットして、シングルが40万枚のセールスになったといいます。この『ソウル・ドラキュラ』のサウンドにはクラヴィネットがバリバリに使われており、後のディスコチューンの定型になったそうです。つまり、モールス・コードがクラヴィネットを先んじてディスコ曲に使用して、それを聴いたフランスのミュージシャンがクラヴィネットを大きく活用したのではないかといわれています。

 本アルバムはダイナミックさには欠けますが、イエスを意識したような技巧的なアンサンブルがあるなど、聴き応えのある楽曲が随所にあります。ぜひメロトロンをふんだんに使用したメロディアスなサウンドを堪能して欲しいです。

それではまたっ!