【今日の1枚】Mainhorse/Mainhorse(神々の饗宴) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Mainhorse/Mainhorse
メインホース/神々の饗宴
1971年リリース

パトリック・モラーツの技巧的なキーボードが
冴えたプログレッシヴハード

 後にレフュジーを結成し、イエスの『リレイヤー』のアルバムにも参加する、スイス人キーボーディストのパトリック・モラーツが渡英して結成したメインホースの唯一作。ジャズテイストのあるオルガンやシンセサイザーをメインとしたハードロック調のサウンドになっており、すでに彼の持ち味である超絶技巧のテクニックが随所に表れた作品となっている。後にスプーキー・トゥースに加入する弱冠17歳のドラマーのブライソン・グレアムや18歳のギタリストのピーター・ロケットなどをメンバーにし、若き才能がほとばしるスリリングな演奏が堪能できる名盤である。

 グループの中心メンバーであるパトリック・モラーツは、1948年6月24日にスイスのモルジュで生まれている。幼少の頃からピアノやヴァイオリンの教育を受けており、ルーマニア人のピアニストであるクララ・ハスキルの影響からピアノを中心に弾くようになったという。後にスイスの名門音楽学校であるローザンヌ音楽学校に入学し、和声と対位法を学び、在学中の16歳の時に出場したチューリッヒ・ジャズ・フェスティバルでベスト・ソリスト賞を最年少で受賞する快挙を成し遂げている。後にスイスにコンサートで訪れていたジョン・コルトレーンの前座を務めたのを機に、プロのミュージシャンになることを決意。1969年に親友のベーシスト兼チェロ奏者であるジャン・リストーリと共にイギリスのロンドンに渡り、自身のグループのためのオーディションを行っている。パトリックがロンドンで見つけてきた弱冠17歳のブライソン・グレアム(ドラムス)をはじめ、アーノルド・オット(ドラムス)、ジャン=オーギュスト・ド・アントーニ(ヴォーカル、ギター)、そして元ワールド・オブ・オズやザ・ピーシーズ・オブ・マインドに在籍していたディヴ・クビネック(ヴォーカル)をメンバーにしている。最初はインテグラル・エイムというグループ名だったが、6人編成になった時にパトリック・モラーツ・クァルテットという名に変えている。早速グループはメンバーを引き連れてスイスに戻り、バーゼルの有名なアトランティック・クラブで二度ほどギグを行うが、後にアーノルド・オットが結婚を機に脱退。残ったメンバーはジュネーブのスタジオでリハーサルを重ね、スポンサーとなった富豪の航空会社の名前を取り、メインホース・エアラインに改名して活動する。しかし、1970年にヴォーカルを務めていたディヴ・クビネックが、心臓発作でドクターストップがかかってしまいグループから離脱。さらにギタリストのジャン=オーギュスト・ド・アントーニも続いて脱退してしまい、モラーツ、リストーリ、グレアムの3人のみとなる。グループの置かれた状況に危惧したグレアムは、18歳の英国人ギタリストのピーター・ロケットをメンバーに紹介している。ピーター・ロケットはグレアムの友人であり、彼の連絡を受けて単身、英国からスイスに渡って来たという。こうしてピーターが加入して4人のメンバーになったことで、最終的にメインホースというグループ名にしている。

 メインホースの4人のメンバーは、スイスのジュネーブを本拠地にして活動を再開。モラーツは新たな楽曲作りに励み、メンバーと共にスタジオでリハーサルを繰り返したという。そんな折に南アフリカ人のマネージャーであるサム・ミーシガエスを迎える。彼は後にスーパートランプのマネージャーとして有名となる人物である。サムのマネジメントでヨーロッパを中心に、ミュンヘンのPNクラブやジュネーブのブラックバード、ローザンヌのエレクトリック・サーカスといった有名クラブで演奏した後、再度英国に渡って1年ほど活動を続けることになる。ヨーロッパで知名度を上げていた彼らは1971年に英ポリドールと契約することに成功し、デビューアルバム『メインホース(邦題:神々の饗宴)』がリリースされる。そのアルバムはパトリック・モラーツの気鋭あふれるオルガンを主体としたハードロック的なアプローチの強いサウンドになっており、ブルージーなギターや手数の多いドラミングと相まってエネルギッシュでスリリングな演奏になった傑作となっている。

★曲目★
01.Inrtoduction(イントロダクション)
02.Passing Years(過ぎ去った年月)
03.Such A Beautiful Day(美しい日)
04.Pale Sky(淡い雲)
05.Basia(ベイシア)
06.More Tea Vicar(モア・ティー・ヴィカー)
07.God(神々の饗宴)
 
 アルバムの1曲目の『イントロダクション』は、強烈なオルガンと凄まじいギターによるハードロック。イントロダクションと銘打っているが、英国のどのオルガンロックにも引けをとらないエキサイティングな楽曲である。間奏部のバッハ風のオルガンワークが良いアクセントになっている。2曲目の『過ぎ去った年月』は、ジャズギターとストリングス、オルガンによる叙情的なバラード曲。リストーリの憂いのあるヴォーカルを引き立たせた内容であり、グロッケンシュピール(鉄琴)の音色がまた美しい。3曲目の『美しい日』は、激しいドラミングとファズを利かせたベースが印象的な曲。アップテンポながらコーラスをうまく活用しており、即興風のオルガンとソリッドなギターを中心に各パートのソロのノリの良さが表れた逸品である。4曲目の『淡い雲』は、アルバムのハイライト的な曲であり、ブルース調のバラードロックになっている。中間部のインストパートはややスペイシーなシンセサイザーをバックにラテン系のギターやフリーキーなチェロ、エレクトリックピアノといった独特のアンサンブルになっており、サイケデリック風味を強めたプログレッシヴロックになっている。5曲目の『ベイシア』は、軽快なキーボードとハードなギターを中心としたロックナンバーになっており、跳ねるようなリズムセクションが印象的である。中間部にはまるでカンタベリーミュージックのようなエレクトリックピアノを中心としたアンサンブルが聴くことができる。6曲目の『モア・ティー・ヴィカー』は、クラシカルなオルガンとグロッケンシュピール(鉄琴)がメロディを奏でるジャズ寄りのインストゥメンタル曲。中間部のオルガンとギターによる掛け合いは聴き応えあり。7曲目の『神々の饗宴』は、サイケデリック風味のクラシカルなイントロから、一気にオルガン・ハードロックに切り替わる。ブルージーで味のあるロケットのギターソロを経て、流麗なモラーツのオルガンソロ、浮遊感のあるシンセサイザーなど巧みに繰り出しながら、最後まで息をつかせない素晴らしい曲になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、パトリック・モラーツのグループであるがために、もっとオルガンやシンセサイザーを前面に押し出した楽曲がメインになるかと思いきや、ピーター・ロケットのギターをはじめとする各メンバーのソロや特性を活かしており、決して独善的な演奏をしているわけではないことが分かる。クラシックはもちろん、ジャズやハードロックといったどの楽曲にも対応したモラーツの鍵盤さばきは、テクニカルを越えて独創的ですらある。次に結成するレフュジーの萌芽を感じさせる楽曲もあるが、さらにその先の彼のソロアルバムのテーマとなるラテン系の音楽も見え隠れしている。

 メインホースは本アルバムのリリース後に、西ヨーロッパを中心としたツアーを慣行するなど、プロモーションに力を入れて活動をしていたが、その年にグループは解散している。理由はアルバムのセールスが芳しくなく、グループの維持が難しくなったからである。ドラマーのブライソン・グレアムは、解散後にゲイリー・ライトのバックを務め、後期スプーキー・トゥースのメンバーとなって活躍することになる。一方のパトリック・モラーツとジャン・リストーリは、ブラジルに渡り南米のパーカッショニストを加えた新生パトリック・モラーツ・クァルテットを結成してTVに出演。その後、モラーツとリストーリはブラジルのバレエ団と共に来日を果たしている。帰国したモラーツは映画のサントラ音楽を作曲していたが、1973年にロンドンに引っ越している。その時、元ザ・ナイスのメンバーであるリー・ジャクソンとブライアン・デヴィソンと出会い、トリオグループであるレフュジーを結成する。レフュジーは1973年から1974年まで英国や欧州をツアーしたことで高い名声を得ていたグループだったが、アルバム1枚をリリースした後に解散している。後にパトリック・モラーツはリック・ウェイクマンの後任としてイエスに加入することになり、アルバム『リレイヤー』を発表したのは有名な話である。その後、イエスの休止期間中にモラーツはソロアルバムを制作しており、1976年にラテン・プログレッシヴロックの金字塔となる『ザ・ストーリー・オブ・アイ』をリリースしている。しかし、リック・ウェイクマンがイエスに復帰したことでモラーツはグループから離れ、セカンドソロアルバムリリース後にブラジルに移住。南米のパーカッショニストと共に音楽活動をしていたが、1978年にザ・ムーディー・ブルースの『オクターヴ』のワールドツアーに同行したきっかけで、正式にザ・ムーディー・ブルースのメンバーとなっている。その活動の一方で元イエスのビル・ブルーフォードとの即興ライヴや日本の渡邊香津美のソロ作に参加するなど、様々なアーティストとのコラボを果たしている。2015年にはドラマーのグレッグ・アルバンと共にザ・モラーツ・アルバン・プロジェクトを結成し、アルバム『The M.A.P Project』をリリース。最近では2018年に友人たちと制作したアルバム『ランダム・キングダム』で、その健在ぶりをアピールしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は天才マルチキーボーディストのパトリック・モラーツが英国デビューした記念碑的なグループ、メインホースの唯一のアルバムを紹介しました。パトリック・モラーツはイエスの『リレイヤー』で初めて知ったアーティストですが、『リレイヤー』はイエスのアルバムの中でも即興性のあるジャズテイストが前面に押し出され、モラーツが傾倒していたラテン音楽が随所に散りばめられたアグレッシヴな作品になったことは知っている方も多いと思います。モラーツのソロアルバムの『ザ・ストーリー・オブ・アイ』は、まさにラテン音楽とプログレッシヴロックが融合した極みとなった作品です。本アルバムはそんなパトリック・モラーツがキーボーディストとしてデビューした作品ですが、1曲目から凄まじいオルガンとギターによるスリリングな演奏は圧巻のひと言です。複雑な曲展開と楽器の主張の強いハードロック調のサウンドでありながら、きっちり聴かせることろは聴かせるモラーツの流麗なオルガンやシンセサイザーはさすがであり、対抗するように演奏するピーター・ロケットのブルージーなギターも負けてません。要所にチェロやヴァイオリン、グロッケンシュピールが使われるなどクラシカルなアプローチもあり、デビューアルバムとしての完成度は非常に高いものになっています。

 さて、パトリック・モラーツといえば、シンセサイザーを多段に積み上げ、自分の周りに配置する演奏スタイルのマルチキーボーディストとして有名です。その全てをマッキントッシュで構成されたアルバムをリリースするなど、新しい技術を導入しては新しい音を作り出すことに邁進しているそうです。そういえば、モラーツの楽曲で流麗な鍵盤さばきのほかに「えっ?」と思わせるような聴き慣れないノイジー音や楽器音が飛び交うことがあります。それをスペイシーとかサイケデリックとかの言葉で片付けることもできますが、彼なりにシンセサイザーや様々な楽器と向き合って新しい音を見つけては曲に落とし込んでいたということです。本アルバムでもグロッケンシュピールを楽器として使い、他のアルバムではあまり聴くことがないシンセ音が盛り込まれています。気になった人は、ぜひ聴いてみてほしいです。

それではまたっ!