Snakes Alive/Snakes Alive
スネイクス・アライヴ/ファースト
1975年リリース
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スリリングなジャズロックを披露する
オーストラリアのウルトラレアアルバム
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オーストラリアで1975年に録音されたと思われるスネイクス・アライヴのデビューアルバム。デビューアルバムとはいえレコーディング後にお蔵入りとなり、たった50枚のテストプレスのみが存在するという、プログレッシヴロック史上もっともレアなアイテムとなった作品である。その音楽性はフルート、サックス、トランペット等の管楽器を導入したスリリングなジャズロックであり、奇天烈な拍子のリズムの中で演奏された個性的なサウンドとなっている。セバスチャン・ハーディーで有名なオーストラリアの数あるプログレッシヴロックグループの中でも異彩を放った作品として、現在注目されているアルバムである。
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スネイクス・アライヴは1974年後半にシドニーで結成されたオーストラリアのグループである。母体となったのはオーストラリアで活動していたアラゴルン(ARAGORN)、そしてベッドタイム・ストーリー(BEDTIME STORY)という2つのグループのメンバーが合流する形で結成されたものである。メンバーはボリス・ペリック(ギター)、オレグ・ディトリッチ(キーボード、ヴォーカル)、ジョナス・セイウェル(ウッドウインズ、ヴォーカル)、コリン・キャンベル(トランペット)、マイケル・ヴィダーレ(ベース)、ピーター・ニキルイ(ドラムス)の6人編成となっている。スネイクス・アライヴはライヴ演奏などは行ったことはなく、純粋にスタジオレコーディングを中心としたグループだったという。アルバムのレコーディングは、1974年11月から1975年2月までにシドニーのEMIレコーディングスタジオで行われ、ゲストでラルフ・クーパーがタンバリンで参加している。歌詞はオレグとジョナスが作り、曲はオレグとボリスがマイケルの協力の下で仕上げている。元々アンダーグラウンドで精力的に活動してきたミュージシャンだったため、それぞれのメンバーの演奏力は非常に高いものになっている。しかし、録音されたアルバムはわずか50枚のテストプレスのLPが自主制作されたのみで、カヴァーすらない状態でお蔵入りとなっている。理由は定かではないが、リリースされるはずだったレーベル会社から却下されてしまったというのが実情だろう。そのため、テストプレスとして残ったアルバムは、プログレッシヴロック史上もっともレアなアイテムとなり、正規リリースされるまでコレクター垂涎のアイテムとなったことは言うまでも無い。そんな本アルバムは、ピーターの素晴らしいドラミングを中心に、フルート、サックス、トランペット等の管楽器を導入したスリリングなジャズロックになっており、ブルージーなギターと畳み掛けるような展開が強烈な個性となったアルバムである。
★曲目★
01.Dear Suzy(ディア・スージー)
02.Aberrations(逸脱)
03.Theme For Myra(マイラの主題)
04.Snakes Alive(スネイクス・アライヴ)
05.Fruit Pie(フルーツ・パイ)
06.Snakes Alive Reprise(スネイクス・アライヴ・リプライズ)
アルバムの1曲目の『ディア・スージー』は、11分を越える大曲になっており、イントロはコリンの勇壮なトランペットとボリスのリリカルなギターを中心とした英国のビッグバンド風の内容になっている。2:50過ぎあたりから転調してテクニカルなギターソロが披露される。6:30過ぎにはフルートを中心としたアンサンブルが展開されるが、パターン主体でありつつも安定したグルーヴ感を出しており、聴いていて高揚してしまうほど素晴らしい曲である。2曲目の『逸脱』は、前のめりなドラミングとオルガン、ギターによるアンサンブルから、独特のリズムから繰り出されるサックスが印象的な曲。オルガンが全編に漂うように大きな役割を持ち、英国のオルガンジャズロックを思わせるスリリングな展開になっている。6:00過ぎからボリスのギターソロとリリカルなオルガン、そして被さるようなサックスの音色が非常にムーディーであり、後半のスピーディーなアンサンブルには度肝を抜かれてしまう。3曲目の『マイラの主題』は、ワウワウを効かせたギターと美しいピアノによるリフがユーモラスな曲。1:30過ぎには軽快なバックの中でジェスロ・タルを思わせるような突っ走りぎみのフルート、続くイフェクターを被せたギターがワイルドである。4:00過ぎのキーボードとギター、管絃楽器によるミディアムテンポのアンサンブルを経て、トランペットソロで締めくくっている。4曲目の『スネイクス・アライヴ』は、14分を越えるアルバム最大の大曲。1曲目の『ディア・スージー』よりもジャズ風味が強く、ギターとブラスアンサンブルが牽引した内容になっている。途中から叙情的なフルートソロ、ヴォーカルをはさんで今度はオルガンソロが待っている。全体的に疾走感あふれる展開になっており、どのパートも存在感を示した素晴らしい楽曲になっている。5曲目の『フルーツ・パイ』は、ファンキーなギターカッティングとオルガンをフィーチャーした楽曲。ヴォーカルはポップでありながら、バックの演奏は非常にテクニカルであり、疾走感のあるスリリングなアンサンブルになっている。ドラムソロをはさみ、そのスピーディーな展開は浮遊感をもたらすほど激しいものになっている。6曲目の『スネイクス・アライヴ・リプライズ』は、4曲目の『スネイクス・アライヴ』の別アレンジ版。カンタベリーミュージックぽいギターとエレクトリックピアノやオルガンが中心に展開され、6:00程に短くまとめられた内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、英国のビッグバンド風の様相でありながら軽快で抜けの良いアンサンブルが心地よく、トランペットやサックス、フルートのソロが個性的であり、他に類を見ないジャズロックであると思える。奇天烈ともいえるドラミングに引っ張られた演奏もあるが、リリカルなオルガンやカンタベリー風のギターもあり、1曲1曲が非常に濃密で聴き応えのある内容になっている。これが世に出ないで幻のアルバムとなっていたというのは驚きである。
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グループは録音したアルバムを自主で50枚プレスをした後に解散している。本アルバムは2回ほど再発されているが、どれもグループの許可を得ていない海賊盤である。正式に許可が下りてリリースされるのは、解散から40年後ということになる。今回のアルバムのプロデュース、録音、ミキシングはマイケル・ヴィダーレが行い、ゲストのラルフ・クーパーが支援している。メンバーによれば、当時マイケルがいなければ初のセッションやレコーディングは不可能だったという。後に音源のマスターはマイケルが所有することになる。グループは解散したが、メンバーのオレグ・ディトリッチ(キーボード)、マイケル・ヴィダーレ(ベース)が、ゲストだったラルフ・クーパー(ドラムス)とイアン・ヒルデブランド(ギター)、バーニー・モーガン(ヴォーカル)を加えて、1976年にジャズロックグループのステップスを結成し、1970年代後半まで活動をして1枚だけ自主制作盤をリリースしている。その後にはミスター・プレジデントというグループも結成している。ドラマーのピーター・ニキルイは、英国のロンドンに渡り、ハリー・ミラーやマイク・オズボーンといった英国のジャズミュージシャンと共演してきたが、残念ながら2004年に亡くなっている。マイケル・ヴィダーレは、後にベーシスト兼プロデューサー業を中心にスリム・ダスティやジミー&ザ・ボーイズ、レグ・リンゼイ、ピーター・ウェルズ、ドン・ウォーカーといったオーストラリアのアーティストと共演し、アルバムプロデュースを行っている。ゲストで参加したラルフ・クーパーは、後に1980年代にオーストラリアを代表するポップグループ、エア・サプライのドラマーとして活躍することになる。
皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はたった50枚のテストプレスのみしか存在していないという、プログレ史上もっともレアなスネイクス・アライヴのデビューアルバムを紹介しました。正式にリリースされた2017年の紙ジャケ盤が、今手元にあるのですが、これがついこの間まで海賊盤ですら見かけないウルトラレアのアルバムだったとは…と感慨深いです。とはいっても、大体レアとされているアルバムは、聴く人にとってガッカリすることが多いのですが、これは個人的に傑作扱いです。勇壮なトランペットやサックスを駆使した英国のビッグバンド風でありながら、軽快で開放的なアンサンブルが特徴で、フィル・ミラーが弾いているようなジャジーなギター、リリカルなオルガンとピアノが流麗にバックで流れるという個性的な楽曲が並んでいます。4曲目の『スネイクス・アライヴ』は、カンタベリーミュージックによくある変拍子のあるサウンドになっていて、オルガンとギターの絡みはまさにプログレです。最初は目立つトランペットやサックスの音色に耳を奪われがちですが、何度か聴いていると非常にテクニカルな演奏を披露していることが分かります。良く言えばハマります。今ではこんな素晴らしいアルバムが幻にならなくてホントに良かったなと思っています。
さて、スネイクス・アライヴの前身グループである、アラゴルンとベッドタイム・ストーリーですが、公式にアルバム等をリリースしていません。しかし、両グループの音源はメンバーであるマイケル・ヴィダーレが持っており、今回、公式初音源化となるベッドタイム・ストーリー期の未発表曲『Charred Ducks』を収録したアナログ盤が、韓国のMerry Go Roundより2枚組180g重量盤限定として2020年にリリースされています。なぜ、アナログ盤なんだろうかと思いましたが、ジャケットが美しく個人的には気になっています。たぶん、アラゴルンも近々アナログ盤としてリリースされる可能性が高いです。
そんなスネイク・アライヴのアルバムですが、奇天烈な拍子のリズムの中で演奏された軽快で抜けの良いアンサンブルは絶妙のひと言です。そんなオーストラリア産ジャズロックともいえるサウンドをぜひ堪能してほしいです。
それではまたっ!