【今日の1枚】Solaris/Marsbéli Krónikák (火星年代記) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Solaris/Marsbéli Krónikák
ソラリス/火星年代記
1984年リリース

ブラッドベリの『火星年代記』をモチーフにした
透明感のある壮大なシンフォニックロック

 1950年に出版されたアメリカのレイ・ブラッドベリのSF小説『火星年代記』をモチーフにした、ハンガリーのプログレッシヴロックグループ、ソラリスのデビューアルバム。デビュー当時、大学生であったメンバーがプログレやSF好きから誕生した本アルバムは、まさにSF映画の音楽さながらのシンセサイザーを駆使した壮大なシンフォニックロックになっている。また、フルートやピアノ、アコースティックギターを絡めたクラシカルな展開があるなど、デビューアルバムとは思えない重厚なサウンドとなっている。東欧のグループであるイーストとともに早くから日本に紹介された人気のアルバムであり、1980年代を彩るプログレッシヴロックの1枚となっている。

 当時のハンガリーはソヴィエト連邦の統治下にある社会主義体制の国家であり、1970年代にはILLES、METRO、OMEGAという3大ロックグループがハンガリーに存在していたが、ソヴィエト連邦の弾圧によって、ILLESが活動を禁じられ、OMEGAは活動の拠点をドイツに移している。そんな中、1974年に誕生したイーストと共にハンガリーの人気プログレッシヴロックグループだったのがソラリスである。ソラリスは1980年2月にハンガリーの首都ブダペストで結成されている。メンバーはロベルト・エルデス(キーボード)、イストヴァン・シグラン(ギター)、アッティラ・コッラール(フルート)、アッティラ・セレシュ(ベース)、ヴィルモス・トート(ドラムス)の5人であり、全員ブダペストの大学生である。彼らはイギリスのプログレやSFが好きだったことから、グループ名をスタニスラフ・レムの有名な小説であり、映画化にもなった「ソラリスの陽の下に」から採っている。ソラリスとして活動し始めてからすぐに、1980年初頭のアマチュア・ポップロック・コンテストに応募して、137のアーティストの中から見事3位を獲得している。この成功をきっかけに最終選考後にファーストシングル『ソラリス』をリリースすることになる。プロデビューとなったソラリスだが、1981年にベーシストがアッティラ・セレシュからガオール・キッサボに代わり、そしてギタリストにサバ・ボグダンを加えている。この新体制の背景には、彼らは未だ大学生であり、学業を優先したいメンバーと楽曲の精度を高めたいメンバーがいたためだったが、最終的にアッティラ・セルシュのみが脱退している。セカンドシングル『エデン/カウンターポイント』をリリースした後は積極的にギグやライヴ活動を行い、この時にはすでに国内でも知名度が高まり、人気のグループになっていたという。彼らはアルバムのために数年をかけてシェッメルヴェイス大学のクラブで楽曲を作りつつリハーサルやギグを重ねている。やがて自分たちの音楽スタイルを確立していった頃の1984年にアルバムのレコーディングを行い、デビューアルバムとなる『火星年代記』をリリースすることになる。メンバーがファンだったという、レイ・ブラッドベリのSF小説をモチーフにしたそのアルバムは、多数のゲストが参加した壮大なシンフォニックロックになっている。

★曲目★
01.Marsbéli Krónikák i.(火星年代記Ⅰ)
02.Marsbéli Krónikák ii-iii.(火星年代記Ⅱ-Ⅲ)
03.Marsbéli Krónikák iv-vi.(火星年代記Ⅳ-Ⅵ)
04.Mars Poetica(火の国の詩)
05.Ha Felszáll A Köd(霧のベール)
06.Apokalipszis(黙示録)
07.E-Moll Elõjáték(前奏曲ホ短調)
08.Legyözhetetlen(聖域)
09.Solaris(惑星ソラリス)
★ボーナストラック★
10.Orchideák Bolygója (蘭の花の惑星)
11.A Sárga Kör(黄色の環)
 
 アルバムの1曲目の『火星年代記Ⅰ』は、テクノっぽいシンセサイザーを前面に押し出したクラシカルな楽曲。いささか大仰に思えるサウンドだが、SFらしい効果音を駆使しながらも耳に残りやすいメロディに富んだ内容になっている。2曲目の『火星年代記Ⅱ-Ⅲ』は、端正なピアノとブルージーなギターが登場し、スペイシーながらも叙情的で静謐なアンサンブルが美しいシンフォニックロックになっている。途中からアッティラ・コラールのフルートが加わり、より一層、クラシカルなサウンドに変化していく。後半にはハードなギターや神聖なコーラスが響き、徐々に重厚なアンサンブルになっている。3曲目の『火星年代記Ⅳ-Ⅵ』は、13分に及ぶ大曲になっており、エコーの効いた多彩なシンセサイザー音とフルートによるメロディアスな楽曲になっており、アルバムで最も聴き応えのあるナンバー。スペイシーなシンセサイザーとメタリックなギターパートに叙情的なフルートがうまく中和されており、聴く者を心地よくさせてくれる。後半にはトラッド色の強いアコースティックギターがフィーチャーされており、東欧特有のアイデンティティを持ったサウンドになっている。4曲目の『火の国の詩』は、エッジの効いたギターと疾走するシンセサイザーを中心としたハードな楽曲となっており、ハードな展開の中で印象的なフルートとメロディ豊かなシンセサイザーのフレーズが効果的に組み込まれたサウンドになっている。5曲目の『霧のベール』は、一転してフルートとピアノによるクラシカルなイントロを持った曲で、ロングトーンの泣きのギターとバックで美しく奏でるシンセサイザーが組み合わさった時のメロディは逸品である。6曲目の『黙示録』は、ギターリフとキーボードのユニゾンが中心となったハードロック調の楽曲。へヴィなギターとエレクトリックなシンセサイザーの合間に響くフルートがよい意味でアクセントになっている。7曲目の『前奏曲ホ短調』は、アッティラ・コラールのフルートのソロだが、すぐに、アップテンポの8曲目の『聖域』につながっていく。フルートとキーボード、ギターによるソリッドな展開のある楽曲。こちらもへヴィなギターによるハードロック調のサウンドになっている。9曲目の『惑星ソラリス』は、一転して叙情的なフルートとシンセサイザー、ギターから始まり、途中からダイナミックでへヴィな展開があるが、リズミカルなアンサンブルを経て大団円に向かっていく。こうしてアルバムを通して聴いてみると、テクノっぽいシンセサイザーとメタリックなギターが中心となったスペイシーなサウンドだが、このソラリスのサウンドの核となっているのが、やはりアッティラ・コラールのフルートだろう。一歩間違えればチープなシンセサイザーを駆使したハードロックに成りえるが、アッティラのクラシカルなフルートが効果的に響いているため、透明感のあるクラシカルなシンフォニックロックに昇華している。ちなみにボーナストラックの10曲目の『蘭の花の惑星』は、1曲目の『火星年代記Ⅰ』に似たテクノっぽいサウンドだが、さらにポップな内容になった曲で、11曲目の『黄色の環』はエキゾチックなフルートとギター、シンセサイザーが組み合わさったメロディアスな曲になっている。

 本アルバムはハンガリー国内で4万枚のセールスを記録し、ソラリスはハンガリー国内で一躍トップグループになる。この後にメンバーはロベルト・エルデス(キーボード)、イストヴァン・シグラン(ギター)、アッティラ・コッラール(フルート)、ラスロ・ゲメール(ドラムス)、タマス・ペス(ベース)という編成になり、1985年にカセットをリリースするが一旦解散している。翌年の1986年に女性ヴォーカリストのリッラ・ヴィンセをメンバーに加えて、Napoleon Boulevardというグループを結成して、1987年から1989年にかけて4枚のアルバムをリリースしている。その後、1990年にソラリス名義で『ソラリス1990』をLPとCDの両フォーマットでリリースするが活動としては単発で終わっている。ソラリスとして完全復活することになるのは、1995年にアメリカで行われたプログレフェスタに招待されたことである。この時の模様は翌年の1996年に『Live In Los Angeles』としてリリースされている。このプログレフェスタをきっかけに様々なライヴイベントに招待されるようになるが、1999年にギタリストのイストヴァン・シグランが病没してしまう。グループは新たにギタリストを含むゲストを迎えて、同年にアルバム『ノストラダムス』をリリースする。このアルバムは1990年代を代表するプログレッシヴなコンセプトアルバムとして注目された傑作となっている。2000年以降にも精力的にライヴを中心に活動をしていたが、25周年コンサートを行った2006年を最後に活動が途絶えることになる。ドラマーのラスロ・ゲメールが再結成の可能性は低いと語っていたため、多くのプログレファンが非常に残念がったという。しかし、活動の音沙汰も無いまま8年が過ぎた2014年に新しいスタジオアルバム『火星年代記 II』が発表され、その突然の復活にファンを驚かせたと同時に大いに喜ばせたという。2019年には1999年にリリースしたアルバム『ノストラダムス』の続編にあたる『ノストラダムス2.0 Returnity (Unborn Visions)』がリリースされており、現在でも精力的に活動を続けている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はスペイシーなサウンドにフルートを前面に押し出したハンガリーのプログレッシヴロックグループ、ソラリスの『火星年代記』を紹介しました。確かこのアルバムは、1989年にキングレコードが初めてCD化したものを中古で購入して聴いていた記憶があります。記憶があるというのはCDを整理した際に売ってしまったからです。今思えばバカだったな~と思い、今回やっとリマスター化した紙ジャケで入手できたわけです。実を言うとその時に売ってしまったプログレのCDは結構ありまして、紙ジャケになったのを機に何とか買い直しているというのがホントのところです。だいぶ取り戻しましたが、その際に新たなプログレのアルバムと出会えたので、今では十分に満足しています。さて、そんなこんなでソラリスの『火星年代記』を再入手したわけですが、サウンドは鮮明に覚えています。特に3曲目の『火星年代記Ⅳ-Ⅵ』や5曲目の『霧のベール』あたりのシンセサイザーのメロディというかフレーズが、何となくスーファミ時代のロールプレイングゲームのBGMのような雰囲気があります。特にスクウェア系とか(笑)。それでもテクノ風でスペイシーなシンセサイザー音とメタリックなギターが強いサウンドの中で、ぐっとシンフォニックに寄せてくれるフルートの音は、ソラリスというグループの個性になっている気がします。エコーが効いたミックスもサウンドに奥行きを与えてくれて好感が持てます。

 タイトルの『火星年代記』は、ご存知のとおり、アメリカのレイ・ブラッドベリのSF小説です。実は1979年にNBCとBBCによってテレビシリーズ化されていて、1980年頃に「火星年代記・そして地球は死んだ」というタイトルで、日本のTBS系列でスペシャルドラマとして放送されていたようです。その頃の日本ではかつて空想科学読本と呼ばれていた小説がSF小説というカテゴリーとなって人気になり、アニメや漫画、映画などにも普及していた時期です。ソラリスの『火星年代記』のアルバムも、とりわけ日本のSF好きと相まってセールス的に非常に良かったと聞いています。先に私が入手した1989年にキングレコードからリリースしたというCDは、海外にも流通することになり、世界的にソラリスの名が知れ渡るきっかけになったと言われています。それまで同じハンガリーのグループであるイーストと共に、日本をはじめとする一部のヨーロッパでしか流通されていない、かなりマニアックなアルバムだったということです。

 『火星年代記』は有名なSF小説であるにも関わらず、残念ながら未読です。最近読んだSF小説はロバート・A・ハインラインの『夏の扉』ぐらいでしょうか。機会があったらぜひ読んでみたいと思います。

それではまたっ!