【今日の1枚】Morgan/Nova Solis(モーガン/ノヴァ・ソリス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Morgan/Nova Solis
モーガン/ノヴァ・ソリス
1972年リリース

華麗なるモーガン・フィッシャーのキーボードによる
スペイシーなシンフォニックロックの傑作

 元ラヴ・アフェアーのキーボーディストであり、後にモット・ザ・フープルやブリティッシュ・ライオンに在籍するモーガン・フィッシャー率いるグループのデビューアルバム。宇宙飛行士を主人公とするSF的なストーリーを持ったコンセプトアルバムになっており、華麗なるモーガンのキーボードを中心としたスペイシーなシンフォニックロックとなっている。イギリス人でありながら、クエラ・ヴェッキア・ロカンダやサンジュリアーノ、イル・ロヴェッシオ・デッラ・メダーリャといったプログレグループを輩出したRCAイタリアーナからアルバムをリリースしたという異彩のグループでもある。

 グループの中心人物であるモーガン・フィッシャーは、1950年にイギリスのロンドンで生まれている。10代半ばでザ・ビートルズをはじめとするロックに興味を持ち、1966年頃にセミプロのグループであるザ・ソウル・サヴァイヴァーズに参加。このグループが後にラヴ・アフェアーとして発展することになる。1968年にラヴ・アフェアー名義でシングル『エバーラスティング・ラブ』をリリースしており、英国のチャートで1位となる大ヒットを放っている。イギリスのポップシーンでアイドル的なグループに上り詰めたラヴ・アフェアーだったが、モーガン・フィッシャーは進学のために一時脱退することになる。彼の代わりは後にキャメルを結成するピーター・バーデンスが務めている。翌年にモーガンはグループに復帰したものの、イギリスではすでにプログレッシヴムーブメントが起こっており、彼はラヴ・アフェアーのような歌謡曲に近いポップ路線ではいずれ行き詰ると感じていたという。モーガンはラヴ・アフェアーのデビューアルバム『エヴァーラスティング・ラヴ・アフェアー』のレコーディングやライヴ活動をする傍ら、クイーンの前身グループであるスマイルのヴォーカリストであるティム・スタッフェルと一時的に組んで、モーガン&スタッフェルで活動。さらに1971年頃には元キング・クリムゾンのイアン・マクドナルドを迎えて、モーガンの母体となるグループを結成している。最終的にはラヴ・アフェアーのメンバーだったモーリス・ベーコン(ドラムス)、ロバート・サプセッド(ベース)を引き連れ、ヴォーカル&ギタリストにティム・スタッフェルを据えて、1972年に新グループであるモーガンを結成する。この時にモーリスとロバートはラヴ・アフェアーを脱退している。

 このモーガンを結成するにあたり、ドラムスのモーリス・ベーコンの父親であるシド・ベーコンの活躍がある。シドはラヴ・アフェアーのマネージャーを務めており、彼らのデモ盤(アセテート盤)を手にしながらモーガンのグループを売るために世界中に飛び回って業界関係者に配りまわったという。このデモ盤が、イタリアのイル・ロヴェッシオ・デッラ・メダーリャ(RDM)のエンジニア兼プロデューサーに渡り、RDMと同じフィレンツェ出身でRCAのスタジオマネージャーだったジャンニ・グランディスに届けられる。ジャンニはデモ盤を聴いて契約することを決断し、RCAのA&R部門のトップがロンドンに渡ってプランを練るほど話が進められる。しかしジャンニは英語が話せないことを理由にチームから外されてしまい、結局マネージャーのシド・モーガンがイタリアのスタジオにメンバー4人を連れてレコーディングをすることで合意している。1972年の6月に4人のメンバーがRCAイタリアーナのスタジオのあるローマに降り立ち録音を開始するが、この時彼らが見たスタジオは世界最高レベルの機材が揃っており、超限定のヴィンテージの楽器から高額のシンセサイザーまであったという。24時間スタジオで過ごした彼らは、2枚のフルアルバム用の楽曲とモーガン自身のソロ用の楽曲をレコーディングを行い、1972年10月にRCAイタリアーナより、デビューアルバム『ノヴァ・ソリス』がリリースされることになる。
 
★曲目★
01.Samarkhand The Golden(サマルカンド・ザ・ゴールデン)
02.Alone(アローン)
03.War Games(ウォー・ゲームス)
04.Nova Solis:A Suite (ノヴァ・ソリス組曲)
 a.Theme(テーマ)
   b.Froating(フローティング)
   c.Take Off(テイク・オフ)
   d.Asteroids(アステロイズ)
   e.Earth(アース)
   f.Hyperspace The Retune Home(ハイパースペース・ザ・リターン・ホーム)
   g.Nova(ノヴァ)
   h.May I Remember(メイ・アイ・リメンバー)
   i.Theme(テーマ)
★ボーナストラック★
05.Morganic(モーガニック)

 本アルバムはレコードでいうA面に3曲、B面に9章からなる『ノヴァ・ソリス組曲』で構成されたアルバムになっている。1曲目の『サマルカンド・ザ・ゴールデン』は、多彩ともいえるスペース風味のキーボードと刻みまくるリズムセクションが特徴の楽曲。非常にテクニカルで切れ味のあるモーガンのキーボードが聴き取れ、彼のイマジネーションとセンスが随所に表れた曲になっている。2曲目の『アローン』は、吹きすさぶ風の音からリリカルなアコースティックギターの調べと叙情的なティム・スタッフェルのヴォーカルが味わい深い曲。バックではなだらかなモーガンのキーボードが優しく、壮大な宇宙を感じさせてくれる。3曲目の『ウォー・ゲームス』は、ジャズ風味の流麗なピアノが浮遊感をもたらせてくれる楽曲となっており、モーガンのバラエティ豊かなキーボードが堪能できる曲。こちらも切々と歌うティム・スタッフェルのヴォーカルが素晴らしい。4曲目の『ノヴァ・ソリス組曲』は、9章からなる楽曲になっており、冒頭からいきなりシンセサイザーで奏でられる曲は、ホルストの「ジュピター」である。ジャズピアノ風の演奏から、情感的なハイトーンのティム・スタッフェルのヴォーカルを経て、スペイシーなシンセサイザーに移行していく。パルス音といった効果音を多用したシンセサイザーを使っているが、途中でラヴ・アフェアー時代で培われた哀愁あふれるオルガンがプレイされたり、優しいアコースティックギターの弾き語りがあったりとブリティッシュのミュージシャンらしい楽曲があるのが特徴である。12分過ぎの高いテンションの演奏は、かのエマーソン・レイク&パーマーにも匹敵するほどの名演である。そして最後はやはりホルストの「ジュピター」によって、本アルバムを締めくくっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、スペイシーでSF的なモーガンの流麗ともいえるキーボードが中心となったシンフォニックロックになっているが、先にも言ったとおり、アコースティックギターの弾き語りやジャズ風のアンサンブルがあり、ブリティッシュ然としたサウンドが随所に表れた作品となっている。そういう意味では曲構成がドラマティックで素晴らしく、宇宙飛行士を主人公としたストーリーを情感たっぷりと歌うティム・スタッフェルのヴォーカルと非常にマッチした素晴らしい作品である。

 グループは1972年10月にアルバムデビューを披露するプレゼンテーションイベントがフィレンツェで開催される。ライヴ演奏は当時最先端だったプロジェクターを利用した映像投影などを組み合わせたマルチメディアイベントとなっており、RCAイタリアーナが未知の外国人グループにどれだけ期待を込めていたのかが良く分かる。しかし、RCAのスタジオのレコーディングでセカンドアルバムにあたる『ブラウン・アウト』やソロ用の曲がモーガン名義で録音されているが、そのどちらもリアルタイムでリリースされることは無かったという。つまり、デビューアルバムがセールス的に芳しくなかったということだろう。モーガン・フィッシャーは後にモット・ザ・フープルのサポート・メンバーとして活動しはじめ、1974年に正式にモット・ザ・フープルのメンバーとなっている。1978年にはロンドンにてスタジオ&レコード・レーベルの「パイプ・ミュージック」を設立し、様々なミュージシャンと交流を深めていくことになる。その中でクイーンのヨーロッパツアーに、サポートのキーボーディストとして共に行動するなど、積極的に音楽活動をする傍ら、プロデュース業も盛んに行っている。後に日本に在住し、英語の教師やYAMAHAシンセサイザーの広告カタログのキャッチコピーのコピーライターなどをしながら、映画やテレビ番組の音楽を手がけたという。1990年代以降でも日本を拠点としながらオノ・ヨーコが参加したジョン・レノン楽曲のカヴァーアルバムを発表したり、THE BOOMのアルバム『極東サンバ』に参加したりするなど日本のアーティストとの共演が多く、数多くの日本在住の外国人アーティストの中でも異彩を放っている。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は英国人アーティストでありながら、RCAイタリアーナにアルバムを残したモーガン・フィッシャー率いるグループのデビューアルバム『ノヴァ・ソリス』を紹介しました。モーガン・フィッシャーといえば現在でも日本に在住する英国人アーティストとして有名です。彼はキーボーディストというミュージシャンであると同時にグラフィックアート、写真美術、ナショナルクライアントのCM音楽、コンピレーションプロデュースなど多彩な活動家として知られており、最近では2015年のイアン・ハンターの来日公演にゲストとして参加し、2019年にはモット・ザ・フープルとしてUSツアーやUKツアーを行っているなど、非常に精力的に活動をしているようです。そんなモーガン・フィッシャーが何とRCAイタリアーナにアルバムを残していたということで、かくいう私も2011年にベル・アンティークからリイシューされたSHM-CDを手に入れた次第です。

 さて、アルバムはモーガンのスペイシーでSF的なキーボードによる多種多様なサウンドになっていますが、単に電子音のキーボードを駆使しているだけではなく温かみのあるギターやオルガンが随所に奏でられていて、聴いていて非常に心地いいです。ホルストの「ジュピター」をテーマにした『ノヴァ・ソリス組曲』は圧巻のひと言で、シンフォニックロックとしても一級品とも言える内容になっています。疾走感のあるアンサンブルのところなんか、エマーソン・レイク&パーマーの演奏をもっとスペイシーにした感じと言ったほうが分かりやすいと思います。良く聴くとピンク・フロイドの『原子心母』のベースフレーズが引用されていたり、クイーンの前身グループであるスマイルの1969年のシングル『Earth』が再演されているなど仕掛けも多いです。1970年代前半のモーガン・フィッシャーが残した極めてメモリアルな作品とはいえ、最新の機材を元に彼の楽曲のセンスが散りばめられた傑作だと思います。ぜひ、彼のキーボードプレイから生まれるスペイシーなシンフォニックサウンドを堪能して欲しいです。

 ちなみにモーガンが日本に在住することに決めたのは、親交のあったクイーンの影響ではないのかな~と思った今日この頃です。

それではまたっ!