【今日の1枚】Trillion/Trillion(トリリオン/氷河) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Trillion/Trillion
トリリオン/氷河
1978年リリース

抜群のセンスを誇るキーボードを披露した
アメリカン・プログレッシヴハード

 後にTOTOの5作目のアルバム『アイソレーション』のヴォーカリストを担当するファーギー・フレデリクセンと、マドンナのプロデューサーとして著名となるマルチキーボーディストのパトリック・レオナルドが在籍していたトリリオンのデビュー作。そのサウンドはクオリティの高いメロディアスな楽曲にあふれており、華麗でダイナミックなキーボード、伸びやかなヴォーカル、爽快なギターなど、デビュー作とは思えない高い演奏力と構成力を誇ったハードロックとなっている。空前の大ヒットとなったボストンのデビューアルバムに続くプログレッシヴな感性を持つグループとして、その音楽性を高く評価するファンは多い。

 トリリオンはアメリカのシカゴを中心に活動していたミュージシャン達が集まって結成したグループである。メンバーはパトリック・レオナルド(キーボード)、ビル・ウィルキンス(ドラムス)、フランク・バーバレイス(ギター)、デニス“ファーギー”フレデリクセン(ヴォーカル)、ロン・アナマン(ベース)の5人である。当初はWhisper(ウィスパー)というグループ名でポップバンドとして活動していたという。中でもメンバーのファーギー・フレデリクセンは、シカゴのアンダーグラウンドシーンで有名なヴォーカリストで、MSファンクというグループでヴォーカルを担当していたトミー・ショウがスティクスに加入するため、後任に友人であるファーギー・フレデリクセンを推薦したことは有名である。また、パトリック・レオナルドとフランク・バーバレイスは、クリスチャンのシンガーソングライターとして有名なスティーヴ・キャンプの1978年のアルバム『Sayin'It With Love』のレコーディングに参加している。そんな彼らが集まって活動し始めた際、ファーギー・フレデリクセンとパトリック・レオナルド、フランク・バーバレイスの3人が中心となって曲作りに励み、デモテープを大手レコード会社に売り込んでいる。程なくエピックレコードが彼らの音楽に関心を寄せて契約を結ぶことになる。当時のエピックレコードは、所属するボストンが1976年に発表したデビューアルバム『幻想飛行』が空前のヒットとなり、次なるプログレッシヴな感性を持つグループを探していたところだったという。正式にエピックレコードと契約した彼らだったが、Whisper(ウィスパー)というグループ名は権利上問題があったため、トリリオンというグループ名に変更している。トリリオンという名は、本アルバムのジャケットの裏にも書かれているが、震えるような声や鳥の囀りなどを意味する単語“Trill”が由来となっている。プロデューサーにはUFOやフォリナーのアルバムを手がけたゲイリー・ライオンズが担当し、1978年にデビューアルバムである『Trillion(邦題:氷河)』がリリースされる。そのアルバムはアメリカンロックの爽快さとハードロックのダイナミックさをうまくブレンドした勢いのある素晴らしいアルバムとなっている。
 
★曲目★
01.Hold Out(ホールド・アウト)
02.Big Boy(ビッグ・ボーイ)
03.Give Me Your Money, Honey(ギグ・ミー・ヨア・マネー、ハニー)
04.Never Had It So Good(ネヴァー・ハド・イット・ソー・グッド)
05.May As Well Go(メイ・アズ・ウェル・ゴー)
06.Fancy Action(ファンシー・アクション)
07.Hand It To The Wind(ハンド・イット・トゥ・ザ・ウインド)
08.Bright Night Lights(ブライト・ナイト・ライツ)
09.Child Upon The Earth(チャイルド・アポン・ザ・アース)

 アルバムの1曲目の『ホールド・アウト』は、軽快なドラミングから始まり、跳ねるようなキーボードとハスキーながら伸びやかなファーギーのヴォーカル、アメリカンロックらしいコーラスにあふれたサウンドになっている。2曲目の『ビッグ・ボーイ』は、クイーンを思わせるコーラスが印象的なハードポップ。曲間のパトリックのキーボードソロとフランクのギターの絡みが爽快であり、彼らの高い演奏力を誇示した内容になっている。3曲目の『ギグ・ミー・ヨア・マネー、ハニー』は、ファーギーのヴォーカルとコーラスが冴えたアメリカンな雰囲気にさせてくれるメロディアスなポップになっている。4曲目の『ネヴァー・ハド・イット・ソー・グッド』は、ロングトーンのフランクのギターが前面に出たAOR調のナンバー。リフレインされるメロディながらギターのフレーズの入り方が独特であり、複雑な構成の曲になっている。最後は泣きのギターソロでフェードアウトしていく。5曲目の『メイ・アズ・ウェル・ゴー』は、伸びやかなファーギーのヴォーカルを中心としたキャッチーなメロディの曲であり、スペイシーなキーボードが加味された独特のサウンドになっている。6曲目の『ファンシー・アクション』は、エレクトリックピアノ風のキーボードと軽快なリズムをバックにしたナンバーであり、美しいコーラスが何とも素晴らしい。7曲目の『ハンド・イット・トゥ・ザ・ウインド』は、アコースティック風のギターとコーラスを中心としたナンバーであり、ボストンの『幻想飛行』のナンバーである『Let Me Take You Home Tonight』と似た美しいメロディを持っている。後半の神聖なコーラスとギターの調べは胸に来るものがある。8曲目の『ブライト・ナイト・ライツ』は、厚みのあるサウンドながら清涼感あふれるナンバー。耳なじみのよいコーラスと切れ味の良いフレーズ、そして勢いのある演奏に好感が持てる。9曲目の『チャイルド・アポン・ザ・アース』は、この曲だけギタリストのフランク・バーバレイスがリードヴォーカルを担当している。フランクの優しいアコースティックギターを中心としたゆったりとしたナンバーだが、キーボードがスペイシーで壮大であり、非常にダイナミックな曲調になっているのが印象的である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、1曲1曲が軽快で爽やかな内容であり、アメリカらしいコーラスを踏まえたハードロックになっていると思える。ハスキーながら伸びやかなファーギーのヴォーカルが冴えており、何よりも明るく前向きな歌詞が大きく貢献している。デビューアルバムとはいえ、すでに玄人感が出ているのは、メンバーそれぞれがミュージシャンとして培ってきたテクニックが、本アルバムで発揮できている証左である。

 アルバムのリリース後にシングル『ホールド・アウト/ビッグ・ボーイ』をリリースしている。ローリングストーン誌に1ページの広告を打つなどプロモーションにも力を入れていたが、アルバムとシングル両方ともセールス的に伸び悩んだという。1979年には第2弾のシングル『ギグ・ミー・ヨア・マネー、ハニー/ビッグ・ボーイ』を発表し、合わせてライヴを精力的に行うものの、ヴォーカルのファーギー・フレデリクセンが脱退してしまう。後任としてトム・グリフィンが加入するが、ロック然としたファーギーのヴォーカルとは違い、トムはソフトなヴォーカルだったため、グループはその影響からAOR色を強めていくことになる。1980年にセカンドアルバム『クリアー・アプローチ』をリリースするが、デビューアルバムほど注目されずに終わり、その年に解散することになる。脱退したファーギー・フレデリクセンは、自身の作曲能力を活かしてビレッジ・ピープルに『ルネッサンス』、シェールに『Rudy』の曲を提供。さらにデヴィッド・ロンドン名義でソロアルバムを出している。その後、エンジェルに一時的に加入しては離れ、続いてLeRouxに加入してアルバム『ソー・ファイアード・アップ』をリリースしている。彼を最も有名にしたのはボビー・キンボールの後任としてTOTOに加入したことだろう。5枚目のアルバム『アイソレーション』は、ファーギーの声を活かしたハードロック調のサウンドとAORが融合した傑作になっている。パトリック・レオナルドは作曲家兼プロデューサーとなり、マドンナの初期のアルバムを手がけたほか、エルトン・ジョンやロッド・スチュワート、ジェフ・ベックといったアーティストの作品に関わったという。ビル・ウィルキンスとフランク・バーバレイスはセッションマンとしてしばらく活動していたが、2007年に2人はトム・グリフィンを加えて、トリリオンⅢとして再始動している。しかし、アルバムの発表には至らず休止している。

 なお、様々なグループやアーティストと組みつつ、精力的に活動してきたヴォーカリスト、ファーギー・フレデリクセンは、2014年1月18日に肝臓癌で62歳で死去している。2010年6月に自身が癌患者であることを公表し、前年の2013年までソロアルバムを制作していたという。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアメリカン・プログレッシヴロックの名グループといっても過言ではないトリリオンのデビューアルバム『氷河』を紹介しました。ボストンやジャーニー、スティクス、カンサスを好きで聴いていたので、サウンドが非常に馴染みやすいです。もちろん、TOTOも聴いていたので、なるほど『アイソレーション』のファーギーの声だなあ~と思ったものです。トリリオンはCDで1990年代に購入して持っていましたが、当時はアメリカンロックの枠でした。自分としても果たしてトリリオンがプログレッシヴロックなのかと言われると、少し悩むところがあります。雑誌などでトリリオンがプログレッシヴハードロックとして紹介されていることから、プログレ枠に少しシフトしていますが、それだとボストンや初期のジャーニーのアルバムもプログレ枠になり得てしまうところがあります。とはいえ、ポピュラー性のあるサウンドと実験精神のあるサウンドのバランスを求められたアメリカの音楽シーンでは、これも立派な進歩的なロックであると言えるのかも知れません。さすがにカンサスだけはアメリカンプログレの筆頭として認識していますが。

 さて、トリリオンでヴォーカルを担当したファーギー・フレデリクセンですが、彼は別名「流転のヴォーカリスト」と呼ばれています。とにかく様々なグループを渡り歩いては付いては離れ、様々なアーティストと共演してきたアーティストです。TOTOの『アイソレーション』のアルバムでヴォーカリストを務めたことは有名ですが、ほかにもエンジェルというグループのリードヴォーカルに就いています。これには自身のソロアルバムの楽曲をエンジェルのキーボーディストのグレッグ・ジェフリアに渡ったことで就任したそうですが、結局公式アルバムが出ないままグループから離れます。1982年にはカンサスのヴォーカリストであるスティーヴ・ウォルシュの脱退に伴うオーディションに、あのサミー・ヘイガーを含む200人の応募の中にファーギーが参加しています。結局選任されたのはジョン・エレファンテになっています。また、ジム・ピートリック率いるサバイバーの新リード・ボーカルに収まりそうになりましたが、アルバム『アイ・オブ・ザ・タイガー』のバック・ボーカルを担当しただけで終わってしまいます。1987年頃に元ボストンのギタリストのバリー・グドローによる新プロジェクト「RTZ (Return to Zero)」でデモ作成に入り、同グループのヴォーカルに納まりそうになりましたが頓挫しています。なかなかの不遇っぷりです。というより多くのアメリカを代表するグループに接近していたというのが、また凄いです。しかし、1988年にドイツに渡り、へヴィメタルグループのKaroのアルバム『Heavy Birthday』の5曲目に収録されている『Ball Of Fire』で、ゲストとして参加したバック・ヴォーカルがあまりにも凄まじかったと言われています。この後、燃え尽き症候群となって音楽活動から離れてしまいますが、1994年に再度活動。かつて渡り歩いてきた様々なグループで仲良くなったアーティストと共にマイペースで音楽活動をし、1997年にはWorld Classic Rockersの一員として参加。2010年まで活動していたそうです。流転に次ぐ流転で不遇の1980年代を送り、燃え尽き症候群に陥ってしまったファーギーですが、最後は気の合う仲間と音楽活動ができて本当に良かったな~と思います。

 

 そんなファーギー・フレデリクセンの魅力的なヴォーカルが味わえるアルバムです。ボストンやジャーニー、TOTO好きは、ぜひ一度聴いてみてくださいな。

それではまたっ!