【今日の1枚】Tantra/Mistérios E Maravilhas (神秘組曲) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Tantra/Mistérios E Maravilhas
タントラ/神秘組曲
1977年リリース

異国情緒が感じられる独特の作風が魅力の
シンフォニックロックグループ

 ヨーロッパ最西端の国、ポルトガルから誕生したシンフォニックロックグループ、タントラのデビューアルバム。主にジェネシスから影響されたと思われるシアトリカルな作風が特徴となっており、南欧特有のミステリアスな雰囲気が漂う会心の作品となっている。そのユニークなサウンドとステージパフォーマンスはポルトガル国内で評判を呼んだものの、国外に配給されたアルバムの枚数は少なく、プログレッシヴロックのマニア垂涎のアイテムとして未だに人気の高いアルバムである。

 タントラの結成は1975年。元々、アマチュアグループでギターを弾いていたモザンピーク出身のマニュエル・カルドソが、アンゴラ出身のキーボードプレイヤーであるアルマンド・ガマと出会ったところから始まっている。ポルトガル領だったアフリカ圏の2人がポルトガルの首都リスボンで出会い、英国のプログレッシヴロックグループであるイエスやジェネシス、キング・クリムゾンの話題で意気投合し、新たなグループを組むことを望んだことがきっかけである。当時のポルトガルの音楽はポップスやフォーク、ラテン系のミュージックが多く、アマチュアを中心にようやく多くのロックグループが誕生し始めた時代である。ジャズロックやラテン音楽をベースにしていた2人が、イエスやジェネシスに影響されたとはいえ、ポルトガルであまり根付いていないシンフォニックなプログレッシヴロックでデビューを図るというのはかなりの挑戦である。後にベーシストのアメリコ・ルイス、ドラマーにラウル・ロサを加えた4人編成で活動を開始し、当時、マニュエルが傾倒していたヨガの聖典にちなんだ"タントラ"というグループ名にしている。結成当初の曲作りはマニュエルとアルマンドの2人が共同作業で行い、デビュー用の楽曲を書き溜めてはリハーサルを行っていたという。そんな折、EMIレコード会社からシングルの話が持ちかけられる。1976年に発表したシングル『Nevos Tempos/Alquimia De Iuz』の売り上げが思いのほか良かったこととライヴ活動の高評価もあって、レコード会社より正式にデビューアルバムのリリースの依頼が持ちかけられる。この時、オーディションで新たにジャズロックの心得のあるドラマーのト・ゼ・アルメイダを加入させ、ドラマーをチェンジさせている。レコーディングメンバーは、マニュエル・カルドソ(ギター、ヴォーカル)、アルマンド・ガマ(ピアノ、クラヴィコード、シンセサイザー、ヴォーカル)、アメリコ・ルイス(ベース)、ト・ゼ・アルメイダ(ドラムス、パーカッション)である。ライヴ活動とアルバムのレコーディングを並行して行い、1977年にデビューアルバムとなる『神秘組曲』がリリースされる。本アルバムはジェネシスを彷彿とさせる楽曲が並び、前のめりに突き進むリズムセクションと全編ポルトガル語の歌詞が相まった南欧特有のミステリアスな雰囲気が漂うユニークなシンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.À Beira Do Fim (忘却の際端)
02.Aventuras De Um Dragão Num Aquário(宝瓶宮の龍の冒険)
03.Mistérios E Maravilhas(神秘と驚嘆)
04.Máquina Da Felicidade (幸福マシーン)
05.Variações Sobre Uma Galáxia (銀河変奏曲)
06.Partlr Sempre(さらなる出発)

 アルバムの1曲目の『忘却の際端』は、壮大なイントロから始まる11分に及ぶマニュエルが作成したシンフォニックな曲。ジェネシスのピーター・ガブリエルを感じさせる情熱的なヴォーカルと、ラテン系を思わせるギターワークが特徴となっている。4分過ぎからジャズ風のテクニカルなドラミングとその異国情緒的なメロディラインが独特であり、緩急にあふれるドラマティックな楽曲が非常に好印象である。2曲目の『宝瓶宮の龍の冒険』は、マニュエルのクラシカルなアコースティックギターのソロを中心としたインストゥメンタル曲。次の曲へのブリッジとなっているが、その幽玄なギターはどこか異国的であり、聴く者をミステリアスな雰囲気にさせてくれる。3曲目の『神秘と驚嘆』は、ピアノが織り成す美しいイントロから始まり、ジェネシスのスティーヴ・ハケットを思わせる多彩で情感あふれるギターと、押しの強いドラミング、そしてアメリコの独特のベースラインが強調された摩訶不思議な曲である。まさにアルバムのハイライトと言っても良いほど、グループが目指す曲調が表れた内容になっている。4曲目の『幸福マシーン』は、ドラマーのト・ゼ・アルメイダが作曲した作品。オルゴールに乗せた様々な効果音から、テクニカルに突っ走るアルメイダの華麗なドラミングが堪能できる。ジャズロックにクロスオーヴァー的なフュージョンを加味させた楽曲になっており、13分という長さであるにも関わらず、めぐるましく曲調が変化するので全く気が抜けない。5曲目の『銀河変奏曲』は、アルマンドが作曲したアンビエントなピアノを中心とした曲を挟んで、最後の曲である『さらなる出発』に移行する。この曲はマニュエルとアルマンドの共作であり、ジェネシスというよりもイエス寄りの開放感あふれる楽曲になっている。スペイシーなシンセサイザーをバックに硬質なギターとベースによるソロパートは、疾駆するリズムと相まって爽快感がたまらない素晴らしいサウンドになっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ジェネシスやイエスのサウンドにラテン系の音楽やジャズロックの要素をミックスさせたような楽曲が多く、ヨーロッパ特有の"陰"とはまた違った叙情性が秘められた内容になっている。曲ごとに作曲者の個性が色濃く出ており、アルバム全体として雑多なイメージが付きまとうが、シンフォニックロックとしては非常にドラマティックにまとめられた好作品である。

 本アルバムはそのユニークなサウンドが評判となり、ポルトガル国内だけではなくスペインやフランスでも認知される。また、ライヴステージではマニュエルが東洋の仙人を思わせる頭の尖ったヒューマノイドに扮し、花火やスモーク、照明効果をふんだんにあしらったステージパフォーマンスが話題となったという。しかし、このシアトリカルな方向性に対して、創始メンバーのアルマンドとの間に溝が生じ、彼が脱退することになってしまう。グループはマニュエルの演劇性をさらに高め、アルマンドの後任にはジャズロック畑のペドロ・ルイスを加入させて、演奏面の充実を図ることになる。1978年にリリースされるセカンドアルバム『Holocausto(ホロコースト)』は、まさにマニュエルの望むシアトリカル性が強化され、より洗練されたインストゥメンタルパートを持った傑作となっている。このセカンドアルバムはポルトガルでベストアルバムとしてノミネートされ、遠くアメリカでも配給された作品となっている。さらに彼らにとって憧れの存在であったピーター・ガブリエルとライヴツアーを通じて交流が実現するなど、グループにとって上昇の機運に満ちていたという。しかし、この好景気も長くは続かず、ポルトガルの音楽シーンにもニューウェイヴのムーブメントの影が忍び寄ることになる。グループは世界進出するためによりポップな音楽を目指すようになり、ベーシストにデドス・トゥバロンとチェンジして、1981年にサードアルバム『Humanoid Flesh』をリリースする。ポップなアプローチで望んだアルバムだったが、あまり評価が得られずセールス的に失敗したため、その年にグループは解散している。1970年代末に往年のプログレッシヴロックグループがポップなサウンドになって一時的に低迷するキング・クリムゾンやイエスに似ているが、彼らはメディアの酷評に耐えられなかったのが解散の大きな原因だったようである。4年という短い活動だったためにタントラのアルバムはしばらくマニアの間でコレクターアイテムと化し、高い水準で取引されるレア作品となったが、1998年に突如活動を再開。アルバム『Terra』がリリースされたことでマニアを驚かせている。グループはマニュエル以外は一新されていたが、当時のミステリアスな雰囲気を継承した素晴らしい作品となっている。また、2005年にはグループの最新アルバム『Delirium』を発表している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は数少ないポルトガルのプログレッシヴロックグループ、タントラのデビューアルバムを紹介しました。このアルバムを初めて聴いたのは、紙ジャケとして再発CDになった時です。ポルトガルのロックグループとしてもこのアルバムが初めてですが、他にも調べてみたらキーボード奏者であるジョセ・シドの『10000 Anos Depois Entre Venus E Marte』が有名らしいです。メロトロンを駆使したSF的なテーマの一大コンセプトアルバムになっているそうなので、ちょっとCDショップでチェックしに行きますわ~。さて、本アルバムはジェネシスのシアトリカルな作風にラテンやジャズのエッセンスを加味したシンフォニックなロックになっていますが、前のめりなドラムスとエキゾチックなギターによる独特のメロディが印象的です。レコードでいうA面に3曲、B面に3曲という構成になっており、アルバムの前半はマニュエル、後半はアルマンドが作曲面のイニシアチブを握っていて、それぞれメンバーの色合いというかカラーの違いが出ているのが面白いです。2曲目と5曲目にインターリュード的な小曲を挟んで大曲を盛り上げている形もなかなか良く、荒削りですが最後まできっちり聴けるアルバムになっています。

 タントラがデビューした1977年といえば、イギリスではすでにパンク/ニューウェーヴの影響が甚だしく、ほとんどのグループは音楽性を変えたり、消えていったりしていた時期です。タントラもプログレがあまり根付いていないポルトガルであるとはいえ、ユーロ・ロックの中でも比較的遅咲きのグループになります。結局は3枚のアルバムを残して解散してしまいますが、フランスのアトールやスペインのトリアーナといったグループと並ぶ西欧のプログレッシヴロックとして認知されたことは大きいと思います。1970年末は自主制作にありがちな少ないプレス枚数と流通ルートの希薄さからくる入手困難から、いわゆる廃盤ブームが起こってしまいましたが、コレクター達の北欧や南欧、東欧といったヨーロッパ各国に食指が及び、今日こうしてCDとして聴くことができています。本アルバムのタントラもそういったコレクター達の発掘の中でCD化されたものと聞いて感謝でいっぱいです。最近ではイスラエルや旧ユーゴスラビア、ポーランドといった東欧のプログレグループが続々とCD化されているようです。いくつか入手しているので、機会があればぜひ紹介したいと思います。

それではまたっ!