【今日の1枚】King Crimson/Larks’ Tongues In Aspic      | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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King Crimson/Larks' Tongues In Aspic
キング・クリムゾン/太陽と戦慄
1973年リリース

ソリッドでダイナミックレンジにあふれる
アンサンブルへと変貌した究極のアルバム

 1971年発表の前アルバム『Islands(アイランズ)』発表後のツアー終了と共に、一旦解散したキング・クリムゾンがロバート・フリップを中心に再度メンバーを集めてレコーディングされた通算5枚目となるアルバム。メンバーにジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォードを迎え、前作までのフリージャズに近い生の管弦楽器を利用した有機性のあるアプローチから、そこに無機性にあふれたギタープレイとタイトなリズムセクションを融合した究極のプログレッシヴロックとなっている。その即興性の高いメカニカルなアンサンブルから、デビューアルバムの『クリムゾン・キングの宮殿』と双璧する名盤と言われている。

 キング・クリムゾンはデビューアルバムからメンバー間の確執と思惑によって集合離散を繰り返し、アルバム毎にプロジェクト的な意味合いを持つグループとして有名である。デビューアルバム発表後では作曲を担当し、グループの主導権を握っていたイアン・マクドナルドが脱退し、セカンドアルバムの『ポセイドンのめざめ』では、かつてのメンバーを呼び寄せ、ピート・シンフィールド以外すべてが脱退表明した上でのレコーディングを行い、サードアルバムの『リザード』では、ゴードン・ハスケルやアンディ・マカロックといった新メンバーを迎えたもののアルバム発表後に脱退している。1971年初頭に残った正規メンバーであるロバート・フリップ、メル・コリンズ、ピート・シンフィールドは、ライブ活動を行うためにドラマーにイアン・ウォーレス、ヴォーカリスト兼ベーシストにボズ・バレルを迎える。しかし、4枚目のアルバムである『アイランズ』発表後、デビュー以来、グループのブレーンであった作詞家のピート・シンフィールドとロバート・フリップの険悪化が浮き彫りになり、ピート・シンフィールドが解雇される事態に発展している。こうした中、1972年2月にグループは北米ツアーに向けてリハーサルを行っていたが、メンバー間との意見統一ができず、ついにロバート・フリップはグループの解散を決意する。ただ、マネジメント側はすでに向こう2ヶ月のプランを組んでいたため、メンバーの4人は渋々ながら北米ツアーを消化し、1972年4月に解散することになる。

 北米ツアーを終えたロバート・フリップは、本国イギリスに戻る途中で次なるキング・クリムゾンの青写真を描いていたとされている。帰国したロバートは同年夏にイエスのドラマーだったビル・ブルーフォードに声をかけている。正確には2月にキング・クリムゾンがアメリカのボストンでイエスのサポートを務めて以来、いつか一緒にやろうと声をかけていたらしい。しかし、ロバートはビルがイエスというビッググループに在籍していたため遠慮がちだったが、向こうから「一緒にやろう」と言ってきたという。ビルはイエスの名盤である『Close To The Edge(危機)』のレコーディング中、その多くの時間がリハーサルとアレンジに費やしたことに嫌気を指していたところだったという。もう1人、多彩なジャンルの音楽をクロスオーヴァーさせたファミリーというグループで、ヴォーカル兼ベーシストだったジョン・ウェットンを引き入れている。ジョンはロバート・フリップと同郷の友人であり、彼はキング・クリムゾンに加入するためにファミリーを脱退している。また、ギタリストのデレク・ベイリーが主宰し、キング・クリムゾンが影響を受けたとされる即興集団グループ、カンパニーのパーカッショニストであるジェイミー・ミューア、さらに新鋭のキーボード兼ヴァイオリニストであるデヴィッド・クロスを迎えて、新ラインナップでのキング・クリムゾンが再結成される。1973年初頭にロンドンにあるコマンド・スタジオでレコーディングが開始され、同年3月に5枚目となるアルバム『太陽と戦慄』がリリースされる。本アルバムは2人のパーカッショニストからなるタイトなリズムセクションと無機質なギターによる、「静と動」の即興性の高いダイナミックなアンサンブルとなった究極の作品になっている。

★曲目★
01.Lark's Tongues In Aspic PartⅠ(太陽と戦慄 パートⅠ)
02.Books Of Saturday(土曜日の本)
03.Exiles(放浪者)
04.Easy Money(イージー・マネー)
05.The Talking Drum(トーキング・ドラム)
06.Lark's Tongues In Aspic PartⅡ(太陽と戦慄 パートⅡ)

 アルバムの1曲目の『太陽と戦慄 パートⅠ』は、ジェイミー・ミューアの変則的なリズムパーカッションから始まり、3分辺りからデヴィッド・クロスのヴァイオリン、ロバートのソリッドなギターリフを経てドラムとベースが一体となったへヴィなアンサンブルに昇華する。躍動感あるビルのドラミング、存在感のあるジョンのベース、無機質だが繊細なギターリフが素晴らしく、7分過ぎのデヴィッドの幽玄なヴァイオリンソロとジェイミーのパーカッションは神秘的でさえある。10分過ぎに異国情緒的なヴァイオリンとギターで盛り上げていき、静かなパーカッショニングでクロージングしていく。この1曲だけで「静と動」のダイナミズムを表現し、これまでとは全く違う緻密性にあふれた内容になっている。2曲目の『土曜日の本』は、ヴァイオリンやアコースティックギターの旋律の中で、憂いのあるジョン・ウェットンのヴォーカルが冴えた曲。テープの逆回転を利用したサウンドになっており、1人で本を読む憂鬱な土曜日の昼下がりをイメージしている。3曲目の『放浪者』は、殺伐とした雰囲気のある冒頭から、一気に幽玄なヴァイオリンとアコースティックギターによる叙情的なサウンドに変貌し、メロトロンやフルートを加味した天上の音空間になる。ジョン・ウェットンの伸びやかで情感豊かなヴォーカルが心地よく、ファーストアルバムの『風に語りて』と『エピタフ』を合わせたかのような美しいサウンドになっている。4曲目の『イージー・マネー』は、ロバート・フリップのへヴィなギターリフとジョン・ウェットンの力強いスキャットから始まる。途中でメカニカルなギターとヴォーカルが掛け合いを経て、メロトロンをバックに変則的なドラミングとパーカッション、そして独特なギターフレーズが混沌ともいえる曲である。後半は複雑に楽器が絡み合うも段々ヒートアップしていく流れが爽快である。5曲目の『トーキング・ドラム』は、不穏な風の音を中心としたSEとジェイミー・ミューアによるアフリカンなパーカッションを中心とした曲。タイトなリズムとヴァイオリンによる不協和音が終始するインストゥメンタルとなっており、後半ではギターも加わって一層複雑なアンサンブルになっていき、悲鳴に近いハードエッジなギターで終わる。最終曲である6曲目の『太陽と戦慄 パートⅡ』は、変拍子的なベースとドラミング上で奏でるへヴィなギターとヴァイオリンによるアンサンブルであり、その演奏は静と動、緻密性と即興性、秩序と混沌、平穏と不穏、正常と狂気が入り混じった内容になっている。最後のほうは何かが壊れていくようなヴァイオリンによる悲痛な叫びは、まるで過去のグループ内で起こったメンバー間の確執を表しているようであり、吹っ切ったのか最後の最後で晴れ渡るような音に安堵感が漂う。こうしてアルバムを通して聴いてみると、各メンバーのスキルフルな演奏が目立ち、中でもジェイミー・ミューアの狂気に近いパーカッシヴな演奏とロバート・フリップのメカニカルなギター、デヴィッド・クロスの人間の情感を表しているようなヴァイオリンのプレイが特筆すべきだが、その独特な演奏の中でビル・ブルーフォードの変則的ともいえるドラミングとジョン・ウェットンのベースがしっかり支えているのが印象的である。即興性が高く混沌としたサウンドの中でメロトロンとフルートといった素朴的な音を失わず、一種の陶酔感をもたらす素晴らしい楽曲に満ちたアルバムになっている。

 本アルバムはイギリスでアルバムチャート最高位20位にランクインし、セカンドアルバム『ポセイドンのめざめ』以来の高い水準のアルバムとなったという。ロバート・フリップにとっては面目躍如となったアルバムだが、すでに足元はぐらついていた。多彩なパーカッションを披露したジェイミー・ミューアは、2月10日のライヴ終了後にリリースを待たずに脱退。当初、マネジメントからは「ジェイミーは怪我のために辞めた」と言っていたが、後年彼はインドの宗教家パラマハンサ・ヨガナンダの『あるヨギの自叙伝』に深い影響を受け、仏教修行のためにグループから離れたと述べている。後に残ったメンバー4人でスタジオレコーディングとライヴレコーディングを混合させた6枚目のアルバム『暗黒の世界』を1974年にリリースする。この頃からヘヴィ志向のジョン・ウェットンとデヴィッド・クロスとの音楽的衝突が浮き彫りとなり、後にデヴィッド・クロスは脱退することになる。これは『暗黒の世界』リリース後の3月から7月にかけてのヨーロッパやアメリカのニューヨークに渡る大規模なツアーと、ロックならでは大音量のライヴステージに対して、クラシックをルーツに持つデヴィッド・クロスが疲弊してしまったのが主な脱退の原因とされている。正規メンバーがロバート・フリップ、ジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォードの3人となり、アメリカから帰国した3人は次のアルバム『レッド』のレコーディングを開始する。そこにはジョン・ウェットンの呼びかけで、創設メンバーだったイアン・マクドナルドをはじめ、メル・コリンズといったメンバーがゲストとして参加したが、『レッド』のリリース後にロバート・フリップはキング・クリムゾンの解散を宣言する。次にキング・クリムゾンとして再び始動するのは7年後の1981年である。

 

 皆さん明けましておめでとうございます。新年最初はキング・クリムゾンの歴史の中で破壊と再生を行って実現したアルバム『太陽と戦慄』を紹介しました。キング・クリムゾンのアルバムの中でも個人的に一番好きな作品であり、本アルバムはロバート・フリップが過去のキング・クリムゾンから決別して、初めて自分のスタイルで望んだ画期的なアルバムだと思っています。前作まではデビューアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』のイメージが強かったイアン・マクドナルドの呪縛というか足かせがあった時代と切り離し、自分の考えと相容れるメンバーを集めて実現したのが本アルバムです。そのためには一度、解散する必要がありました。ロバート・フリップがどこまで構想を練っていたのか定かではありませんが、たぶんビル・ブルーフォードの獲得から大きく動き出した可能性が高いと思っています。ロバートのインタビュー記事では、当初、イエスという大御所に在籍してたビルに声をかけたものの、そう簡単にOKしてくれるとは思っていなかったようです。そのため、ジェイミー・ミューアというパーカッショニストにも声をかけていたそうですが、ロバートの凄いところは悩んだ挙句、両方を加えたことです。まるでパズルのピースをはめ込むように、自分が構想するアイデアが1つ1つ実現していくような感じです。ロックに秀でたジョン・ウェットンやクラシックをルーツに持つデヴィッド・クロスを迎えて、あのヘヴィで狂気に似た混沌とした楽曲の中で緻密性と即興性が練りこまれた感性豊かなサウンド生まれたのは、まさにロバート・フリップの構想の賜物であると思います。ギターとベース、ヴァイオリンの弦楽奏者とドラムとパーカッションの打楽奏者が作り出す、これ以上無いロックのダイナミズムと普遍的なメロディが随所に見え隠れする素晴らしいアルバムです。

 さて、アルバムタイトルの『太陽と旋律』という邦題ですが、実は誤訳であることを知っている方も多いと思います。『Larks' Tongues In Aspic』を直訳すると「雲雀の舌のゼリー寄せ」という言葉になり、ジェイミー・ミューアがアルバムの楽曲を聴いて中国の古い宮廷料理の名前をイメージしたのがきっかけだそうです。ロバート・フリップ自身は音の並びに興味を抱いただけで特に意味は無いと語っていますが、ビル・ブルーフォードはこのタイトルについて、「“Aspic”は毒、もしくは毒蛇という古いイメージがあり、“Larks”や“ Tongues”は繊細という意味を持ち、言い当て妙だ」と言っています。また、「雲雀の舌のゼリー寄せ」なんて言葉から、ロバート・フリップ自身が当時、白魔術に影響を受けていたとか言われていたので、もしかしたら呪術的な意味合いもあったのかも知れません。それくらい本アルバムの楽曲は、言葉ではなかなか言い表しにくい内容に溢れています。

 本アルバムの『太陽と戦慄』は、これぞプログレッシヴロックと呼ばれるほど、高い評価を得ている作品です。即興系や超絶技巧好きの方にはオススメのアルバムです。


それではまたっ!