【今日の1枚】Novalis/Novalis(ノヴァリス/銀河飛行) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Novalis/Novalis
ノヴァリス/銀河飛行
1975年リリース

幻想的なツインギターとオルガンが織り成す
ジャーマン・シンフォニックロックの名盤

 18世紀のドイツのロマン主義の詩人であり、小説家・思想家・鉱山技師であるノヴァーリスからその名を採ったノヴァリスのセカンドアルバム。デビューアルバムはロマン派ロックをコンセプトに、ピンク・フロイドを模倣したようなサウンドと英語歌詞で綴られたものだったが、本アルバムは全編ドイツ語で歌われ、ツインギターとオルガンによるシンフォニックなサウンドに生まれ変わっている。そんな本アルバムはドイツで最も叙情的なサウンドを聴かせる人気のロックグループとなった記念碑的な作品である。1976年にリリースされたサードアルバム『Sommerabend(過ぎ去りし夏の幻影)』と共に、ジャーマン・プログレッシヴロックの名盤として現在でも語り継がれている。

 ノヴァリスは1971年の秋にドイツのハンブルクで結成されている。かつてマーキスというグループのベーシストだったへイノ・シュンツェルとヴォーカリスト兼ギタリストのユルゲン・ヴェンツェルの2人は、ハンブルクのデイリー新聞にメンバー募集の広告を出したところ、1970年頃からグリーンライトというグループに所属していたドラマーのハートヴィッヒ・ビエナイヒェルと、ジャズロックグループのカプリコーンに所属していたキーボーディストのルッツ・ラーンが応募してくる。早速4人はリハーサルを行い、このメンバーで新たにノヴァリスというグループ名で活動を開始する。グループのコンセプトが「ロマン派ロック」だったため、18世紀のドイツのロマン主義の詩人であるノヴァーリスからその名をとったとされている。1972年の春に地元のブリック・ホールで前座としてギグを経験し、この時偶然に観客として聴いていた元イカルスのヨーヘン・ペーターセンが彼らのサウンドを気に入り、当時新鋭のレーベルだったブレインに紹介して自らプロデューサーを申し入れたという。こうした縁から1973年春にデビューアルバムである『Banished Bridge(夢のかけ橋)』がリリースされる。そのアルバムはまるでピンク・フロイドを模倣したようなサウンドであり、すべて英語で歌われたため、ドイツ国内ではあまり認知されることはなかったという。この時、ユルゲン・ヴェンツェルがギター兼ヴォーカルという異質の編成だったため、歌唱法に問題があり、アコースティックギターがたしなむ程度しか使われなかったという課題があったとされている。アルバム発表後のノヴァリスは国内でエマージェンシーやジェーンといったグループとツアーを行い、改めてギタリストの必要性を感じてデートレフ・ヨブという新たなギタリストを迎えている。次のアルバム制作に取り掛かる時、プロデューサーだったヨーヘン・ペーターセンは、ランディ・パイのメンバーとなったために忙しくなり、代わりにエイヒム・ライヒェルが担当となっている。また、アルバムレコーディング前にトゥモロウズ・ギフトのオリジナルギタリストだったカルロ・カルジェスがノヴァリスの正式なギタリスト兼歌詞担当として加わり、初期メンバーだったユルゲン・ヴェンツェルが解雇されてしまう事態に発展する。ユルゲンは最後まで英語歌詞にこだわったためだと言われているが、ヴォーカリストとしての実力が乏しかったとされている。こうしてリード・ヴォーカルはベーシストのへイノ・シュンツェルが担当し、ツインギターを含む5人でレコーディングを開始する。デビューアルバム時から抱えていた問題点を解消し、苦労の末ようやく2年越しとなったセカンドアルバムが1975年にリリースされる。アルバム名は出直しするかのようにグループ名と同じ『ノヴァリス』となり、叙情性の高いシンフォニックロックとして生まれ変わっている。

★曲目★
01.Sonnengefecht(太陽のかなたに)原題大意:太陽腹腔神経叢
02.Wer Schmetterlinge Lachen Hort(夢幻飛行):原題大意:蝶の笑いが聞こえる人は
03.Dronsz(惑星誕生)原題大意:ドロンズ
04.Impressionen(銀河賛歌)原題大意:印象
05.Es Farbte Sich Die Wiese Grun(宇宙絵画)原題大意:草原が緑に染まった
★ボーナストラック★
06.Impressionen(Live In Hagen 1975)(銀河賛歌 ライヴ)
 
 アルバムは新ギタリストのカルロ・カルジェスによる全編母国語であるドイツ語で綴られている。1曲目の『太陽のかなたに』は、いきなり陽気なワウワウギターとキーボードによるファンクビートに乗せた曲に面食らってしまうが、途中から繊細なキーボードとギターによる独特なコード進行のファンタジックなサウンドに切り替わっている。2曲目の『夢幻飛行』は、9分という長い曲となった曲。物語世界を淡々と語り部のように歌うヴォーカルがあまりにもロマンティックで、オルガンとツインギターに乗せた美しいメロディとなっている。女性の天上のスキャット共に神秘的で幻想的な内容にノヴァリスの真骨頂ともいえる逸品となっている。3曲目の『ドロンズ』は、宇宙的な雰囲気を醸し出したトレモロをかけたハモンドの反復が特徴的なインストゥメンタル曲である。宇宙からまるで何かが飛来してくるかのような予兆を感じさせるキーボードワークが全編にあふれている。4曲目の『銀河賛歌』は、本アルバムのハイライトとなっている曲で、ブルックナーの『交響曲第5番第二楽章』が引用されたダイナミックな曲になっている。ギターとキーボードの旋律がどこかヨーロッパ的で儚く、ファンタジックでありながら悲哀が込められた内容に胸が締め付けられてしまう。5曲目の『宇宙絵画』は、詩人ノヴァーリスが1798年に作られた作品である「青い花」から詩を引用した曲で、カルロが手を加えたものになっている。深遠なキーボードとギターをバックに優しく歌うヴォーカルから始まり、叙情的なギターソロが印象的な曲となっている。曲調がめぐるましく変化し、プログレッシヴロックたる複雑な展開が随所に見られる。6曲目の『銀河賛歌(ライヴ)』は、1975年当時のライヴ・ヴァージョンであり、アルバムのスタジオ収録とはまた違った彼らの高い演奏力が垣間見えるボーナストラックとなっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、メンバーチェンジを行ったことが功を成し、明らかに前作とは異なるサウンドになっていることが分かる。中でもプロデューサーであるエイヒム・ライヒェルの存在は大きく、彼はミニマル/アヴァン系のアーティストとして活躍していたが、1975年前後にブレインに移籍しており、この移籍の奇跡こそノヴァリスがドイツで最も叙情的なサウンドを聴かせるグループに変身させたと言われている。

 本アルバムはドイツ国内で注目され、ドイツが誇るシンフォニックロック屈指の作品として紹介される。翌年にリリースされるサードアルバム『Sommerabend(過ぎ去りし夏の幻影)』では、ドイツ国内のみならず、日本やヨーロッパでその人気を決定的なものにしている。特に女性ファンからの熱い支持を集め、有名な話ではノヴァリスが来日公演を果たしていないのにも関わらず、ギタリストのデートレフ・ヨブがファンだったという日本人女性と結婚している。後にノヴァリスは1977年には初のライヴアルバム『Konzerte(Live!)』をリリースし、4枚目のアルバム『Brandung(創世記)』、1978年には5枚目のアルバム『Vielleicht Bist Du Ein Clown?』と立て続けにリリースする。その後は所属レーベルをブレインからテレフンケン傘下のアホーン・レーベルに移し、1979年に『Flossenengel(凍てついた天使)』や1980年に『Augenblicke(時の交差)』を発表。レーベル移籍後は多少ポップなサウンドになってしまったが、他のグループとは違ってその繊細で暖かなサウンドはやはりノヴァリスならではのサウンドといっても過言では無いだろう。その後もアルバムをリリースし続け、1985年までに11枚のアルバムを出していたノヴァリスだが、やがて自然消滅的に解散していくことになる。キーボーディストだったルッツ・ラーンはその後、ハンブルクでサウンド・ファクトリー・スタジオの経営に携わり、ドラマーだったハートヴィッヒ・ビエナイヒェルはメトロノーム・レコードの制作マンを経て、ドイツのNDRテレビで働いているという。本作でギタリスト兼歌詞担当だったカルロ・カルジェスは、1980年代に全世界を席巻したネーナのメンバーとして活躍していたが、残念ながら2001年にこの世を去っている。彼の葬儀では本作の2曲目の『夢幻飛行』の歌詞が大きく読み上げられたという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はドイツの叙情派シンフォニックロックの筆頭とも言われているノヴァリスのセカンドアルバム『銀河飛行』を紹介しました。本アルバムはCDで手に入れてましたが、ノヴァリスはジャーマン・プログレッシヴロックの中でもとりわけ人気が高く、未だに名盤であるサードアルバムの『Sommerbend』が入手できていない状況が続いていました。この間、ようやくブレインレーベル時代のアルバムがリリースされて、まとめて購入したところです。懐はかなり…痛かったですが満足しています。(´;ω;`)ウッ 

 アルバムはノヴァリス自身がロマン派ロックを標榜している通り、一部スペイシーな曲もありますが、全編ロマンティズムにあふれるサウンドになっているのが大きな特徴です。特に2曲目の『夢幻飛行』は、語り部のようなヴォーカルとオルガン、アコースティックギターによる神秘的なサウンドは、個人的にノヴァリスの世界観に吸い込まれていくような感覚になるような素晴らしい曲になっていると思います。また、4曲目の『銀河賛歌』は、ブルックナーの『交響曲第5番第二楽章』が引用されたプログレッシヴ然とした内容です。そんなギターとキーボードの悲哀に満ちたノヴァリス特有のファンタジックなサウンドは、次のアルバム『Sommerbend(過ぎ去りし夏の幻影)』でひとつの頂点に迎えることになります。彼らを人気グループに押し上げたのは、やはり独創的な美しいメロディにあり、どこか儚く悲哀性を含んでいるところが女性にも惹きつけられた要因になっている気がします。やや難解で堅苦しいプログレッシヴロックにはあまり見られない、ちょっと夢見がちなサウンドこそノヴァリスの個性につながっているのではないかと思っています。

 さて、今回のアルバムで前作と決定的に違うのがもう1つありまして、それはジャケットアートです。ファンタジー調にあしらったデザインは、かのイエスのロジャー・ディーンのような役割を果たしていて、本アルバムの曲調にも非常にマッチしています。横たわった女性の上に鳥たちが空に飛んでいくといった御伽噺の一節のような絵は、詩人ノヴァーリスの代表作である「夜の賛歌」をモチーフにしていると言われています。わずか15歳でこの世を去ったという恋人ゾフィーが横たわり、儚い人生の物語を綴ったものであり、地面や彼女の周りには、ノヴァーリスの最後の作品である「青い花」を象徴とした花が咲いています。ちなみにこの「青い花」という言葉は、彼の死後にドイツロマン主義の象徴となったとされています。そうすると曲のタイトルがスペースファンタジーのような邦題が付けられていますが、原題大意で表した曲名で考えるとジャケットアートととてもマッチしていることが良く分かります。

今年はこれで最後となります。来年もどうかよろしくお願いいたします。


それではまたっ!