【今日の1枚】The Buggles/The Age Of Plastic | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

The Buggles/The Age Of Plastic
バグルス/プラスティックの中の未来
1980年リリース(1978~1979年録音)

カラフルで個性的なシンセサイザーによる
プログレッシヴ・テクノ・ポップの金字塔

 後にイエスに加入し、音楽プロデューサーとして名を馳せるトレヴァー・ホーンと、後にスーパーグループのエイジアのメンバーとなるジェフ・ダウンズらによる音楽ユニット、バグルスのデビューアルバム。そのサウンドは華麗で個性的なシンセサイザーによるカラフルなテクノポップとなっており、混沌としていた1970年代の音楽から一気に近未来を感じさせる楽曲となっている。アルバム内に収録されている全英1位を記録したシングル『ラジオ・スターの悲劇』のミュージックビデオは、アメリカMTVの開局第1号のオンエア曲となり、1980年代のミュージック・ビデオ全盛時代の幕開けとなった記念碑的な曲である。

 バグルスは1977年にロンドンのウィンブルドンで、自宅に機材を持ち込んだ宅録チームから始まっている。当時のメンバーはトレヴァー・ホーン(ベース)、ジェフ・ダウンズ(キーボード)、ブルース・ウーリィ(ギター)の3人であり、それぞれセッションミュージシャン、ソングライテイング、アレンジャーのキャリアを経て集まったメンバーである。トレヴァーとジェフは、すでにイギリスの女性シンガーであるティナ・チャールズのレコーディングを手がけるなど、プロフェッショナルなスタジオミュージシャンとして活躍していたという。そこにブルースが加わる形で宅録チームが結成され、おそらく他のミュージシャンに提供する曲作りのため、機材を持ち込んで集まったと思われる。その時に共作された曲が『ラジオ・スターの悲劇』と『クリン・クリン』である。他にも3人で多くのCM関係の音楽を制作しており、3人は一種の音楽プロデュース業や音楽制作集団として業界で少しずつ認知されるようになる。彼らは自分たちが作成した曲を元に様々なレコード会社にあたり、契約のチャンスをうかがっていたが、メンバーだったブルース・ウーリィが自身のグループ、ザ・カメラ・クラブで活動するために離れてしまう。残ったトレヴァーとジェフはバグルスと名乗り、活動を続けることになる。

 バグルスは1979年の春にアイランド・レコードの社長であるクリス・ブラックウェルに目に留まり、正式に『ラジオ・スターの悲劇』のレコーディングを行い、8月に同曲のシングルでデビューを果たす。初出はブルース・ウーリィのザ・カメラ・クラブのアルバム『イングリッシュ・ガーデン』であり、そのために録音したものをバグルスが新たにアレンジを施している。最初のリリース時は英チャート30位だったが、瞬く間に1位を記録。これはアイランド・レコード初の1位である。日本やアメリカでも注目され、オーストラリアでもチャート1位を獲得している。やがてラッセル・マルケイによってビデオクリップが制作され、1981年8月1日12時10分に開始したMTVのミュージック・チャンネルの最初に同曲が流れることになる。『ラジオ・スターの悲劇』の歌詞はテレビの出現により仕事を奪われた歌手の話から、かつてのラジオの黄金期を賛美した、まさに1960年代のラジオ・スターの悲哀を物語ったノスタルジックな曲である。そういった内容であるにも関わらず、後にMTVというミュージック・ビデオでこの曲を知る人が世界中で続出したという時代の皮肉も込められている。トレヴァーとジェフはアルバムを制作するにあたり、『キッド・ダイナモ』と『クリン・クリン』の2曲だけだったため、プロモーション活動の合い間に残りの曲をレコーディングしている。1979年のクリスマス前にミックスダウンを終了し、『ラジオ・スターの悲劇』を含むニューウェイヴを象徴するような曲を収録した本アルバム『プラスティックの中の未来』を1980年1月にリリースすることになる。
 
★曲目★
01.Living In The Plastic Age(プラスティック・エイジ)
02.Video Killed The Radio-Star(ラジオ・スターの悲劇)
03.Kid  Dynamo(キッド・ダイナモ)
04.I Love You~Miss Robot~ (アイ・ラヴ・ユー~ミス・ロボット~)
05.Clean,Clean(クリン、クリン)
06.Elstree(思い出のエルストリー)
07.Astroboy~And The Proles On Parade~(アストロボーイ)
08.Johnny On The Monorail(モノレールのジョニー)
09.Island(アイランド)
10.Technopop(テクノポップ)
11.Johnny On The Monorail~A Very Different Version~(モノレールのジョニー~ヴェリー・ディファレント・ヴァージョン~)

 本アルバムの『ラジオ・スターの悲劇』と『クリン、クリン』は3人名義の共作となっているが、それ以外の曲のすべてはトレヴァーとジェフの2人によって曲が作られている。1曲目の『プラスティック・エイジ』は、効果音とシンセサイザーの多彩な音色でカラフルに迫ったテクノポップとなっている。まさにニューウェイヴの象徴ともいえる曲だが、シンセサイザーの音や随所にかかるエフェクト、細かな効果音を含むアンサンブルまで、革新的なサウンドがこの1曲に込められている。2曲目の『ラジオ・スターの悲劇』は、言わずも知れたシングルで全英チャート№1となった曲である。シングル盤と違うのはトレヴァー・ホーンの手でピアノのコーダを追加した複雑なアレンジになっており、バックのシンガー達による高音のコーラスを含んだ仕上がりにしていることである。曲風はノスタルジックでありながらメロディアスなポップであり、AMラジオ風のエフェクトをかけたヴォーカルが印象的である。3曲目の『キッド・ダイナモ』は、モダンなシンセサイザーとギターをフューチャーしたダイナミックな曲になっており、近未来的なエフェクトを多彩に盛り込んだ内容になっている。4曲目の『アイ・ラヴ・ユー~ミス・ロボット~』は、チョッパー気味のベースとドラムマシンを使った音上で多彩なシンセサイザーを駆使したバラード風の曲であり、ヴォコーダーのコーラスが象徴的である。5曲目の『クリン、クリン』は、『ラジオ・スターの悲劇』と同時期に作られたテクノ風のロックである。途中で曲調がコロコロ変わったりするユニークなサウンドが魅力的である。6曲目の『思い出のエルストリー』は、こちらもノスタルジックな雰囲気が漂う曲であり、胸に刺さるような美しい音色とヴォーカルに綴られたバラード曲になっている。7曲目の『アストロボーイ』は、タイトルを見て分かる通り、手塚治虫の漫画やアニメで知られる「鉄腕アトム」をモチーフとした曲である。東洋的な曲調とテクノが合体したような曲であり、どこか物悲しい感じがするのは、まるで心優しいアトムが複雑な人間模様をじっと見つめているようで、何となく心が揺さぶられてしまう。8曲目の『モノレールのジョニー』は、エキゾチックともいえる曲調で、端正なリズム上でシンセサイザーとエレクトロニックピアノが流暢に奏でられた内容になっている。後半はニューウェイヴ特有のリフレインで締めくくっている。9曲目の『アイランド』は、複雑なシンセサイザーによるレゲエ風のテクノポップになっており、ずっとアイランド♪と繰り返して歌っているのが面白い。10曲目の『テクノポップ』は、明るくキュートなメロディに乗せたシンセサイザーとヴォーカルを中心としたテクノ曲になっている。テクノポップと称しているものの、サックスのオブリガードとオルガンが組み込まれた英国故のユニークさがにじみ出ている。11曲目の『モノレールのジョニー~ヴェリー・ディファレント・ヴァージョン~』は、8曲目の『モノレールのジョニー』のアレンジバージョン。女性コーラスやシンセサイザーの数を無くし、ギターを大きくフューチャーした内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、録音したのが1970年代後半と言えど、1970年代とは違った新しさを前面に押し出した斬新なテクノポップになっていると思われる。実は所々に聴かれるアレンジやシンセサイザーのオーケストレーションがプログレッシヴ風味になっているところを見ると、革新的過ぎた過去のプログレッシヴロックのサウンドをうまくポップスに消化しているようにさえ思えてしまう。

 アルバムはシングルで大ヒットした『ラジオ・スターの悲劇』のリリースからブランクが空いてしまったため、イギリスでは最高位27位で落ち着いてしまっている。しかし、逆に日本やアメリカで評判になり、本国イギリスよりもアルバムの売り上げが伸びたと言われている。アルバムリリース後にトレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズの2人は、ジョン・アンダーソンとリック・ウェイクマンが脱退したイエスに加入する。これはイエスと同じく所属していたブライアン・レーンのマネジメントからの依頼である。イエスではヴォーカルにトレヴァー・ホーン、キーボードにジェフ・ダウンズが務め、1980年にアルバム『ドラマ』を発表している。しかし、アメリカとヨーロッパでツアーを行なったものの、評価や観客動員数に良い結果を残せず、ツアーを終えたイエスは活動を停止することになる。バグルスとして戻った2人はアイランドを離れ、フランス資本のレーベル、Carrereに移籍してセカンドアルバムの『モダン・レコーディングの冒険』を1981年にリリースする。しかし、『ラジオ・スターの悲劇』や『クリン、クリン』のようなキャッチーな曲が無く、ひっそりとしたものになってしまったという。後にジェフ・ダウンズは、イエスの同僚だったスティーヴ・ハウと共に、ジョン・ウェットン、カール・パーマーと共にエイジアを結成。一方のトレヴァー・ホーンは、1982年に音楽出版社のパーフェクトソングス、1983年にZTTレコーズを立ち上げ、プロデューサーとしての活動を始める。アート・オブ・ノイズや人気黒人モデルのグレイス・ジョーンズ、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのプロデューサーとなり、仕掛け人との異名を持つほど活躍することになる。トレヴァー・ホーンの名を一躍有名にしたのは、イエスの復活と騒がれた1983年にリリースされたアルバム『90125』のプロデュースだろう。シングルカットされた『ロンリー・ハート』を全米チャート1位に送り込み、アルバムは全米のアルバムチャート5位にランクインさせている。トレヴァーは『ロンリー・ハート』の曲で、当時最先端だったフェアライトCMIというオーストラリア製のデジタル機器を駆使して、オーケストラル・ヒットという刺激的なサウンドを作り出したと言われている。トレヴァーは後に「イエスのツアーで観客から冷たい目で見られたことで耐えられなくなり、ヴォーカリストを辞めてプロデュース業に専念したが、これで払拭することができた」と回顧している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はニューウェイヴを象徴とする革新的なテクノポップを作り上げたバグルスのデビューアルバム『プラスティックの中の未来』を紹介しました。アルバムに収録されている『ラジオ・スターの悲劇』は、1980年代のMTVで何度も繰り返して放映されていて、私もMTVで知った次第です。アルバムは確か1990年代以降に購入していて、かつて良く聴いていたエイジアのジェフ・ダウンズが在籍していたグループだったことは知っていましたが、私がテクノやニューウェイヴから離れつつあったため、随分と後になって聴いたものです。それでもCD棚の奥のほうに仕舞っていて、再度改めて聴くようになったのは2003年頃に放映されたフジテレビのドラマ「東京ラブ・シネマ」がきっかけです。当初は大好きだった日本のアーティストの1人である大滝詠一の曲『恋するふたり』がオープニングに流れていることだけで見ていましたが、挿入歌として『ラジオ・スターの悲劇』が使われていました。要は1980年代に流れていたテクノやニューウェイヴが懐かしくなってしまったということです。そういえばこの頃からプログレの紙ジャケを集めるようになったような…(笑) サウンドは改めて聴くと、ポップを極めたような曲が全編に渡って演奏されていて、どれもポップセンスが異常に高くてびっくりします。シンセサイザーの音をはじめ、随所にかかるエフェクトや効果音、それに伴うアンサンブルまで、革新的なサウンドが存分に盛り込まれていて、聴いていて幸せな気分になります。当時の煌びやかな1980年代の音楽シーンにおいてバグルスの影響は計り知れなく、特にトレヴァー・ホーンのテクノポップのアレンジ力は大したものです。また、巧みにシンセサイザーを使いこなすジェフ・ダウンズはエイジアのメロディメイカーとして一斉風靡しますよね。

 私はこのレビューを書いていて1人の人物に着目するようになりました。それは上記にもありましたイエスのマネジメントをしていたというブライアン・レーンです。彼は他にもエイジア、GTR、エマーソン・レイク&パウエル、イット・バイツといったグループのマネジメントもしており、グループの結成に大いに貢献したと言われています。イエスでは脱退したジョン・アンダーソンとリック・ウェイクマンの後釜にバグルスの2人を加入させて存続(失敗しましたが)させようとしたり、かのエイジアの結成やスティーヴ・ハウとスティーヴ・ハケットを引き合わせてGTRというグループも結成しています。1983年にエイジアからジョン・ウェットンを解雇した際に、後任としてグレッグ・レイクを招集したのもブライアンらしく、さらにアンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウの結成にも動いています。すごいやり手ですね。というより、彼は1980年代当時、仕掛け屋や企画屋とも言われていたらしく、往年のプログレッシヴロックのグループやメンバーに対して形を変えてはヒット曲を生み出しています。彼のおかげかどうかは分かりませんが、イエスやエイジアは1990年代以降も活動し続けることになります。思わず「えっ!」と思うようなグループの結成には、やはり仕掛け人が潜んでいたわけですね。そういう意味では1980年代の音楽シーンは面白かったなと思います。

それではまたっ!