【今日の1枚】Il Rovescio Della Medaglia/Contaminazione | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Il Rovescio Della Medaglia/Contaminazione
イル・ロヴェッショ・デッラ・メダーリャ/汚染された世界
1973年リリース

バロック期の作曲家の旋律を多用した
壮大なコンセプトアルバム

 「メダルの裏側」という意味を持つイル・ロヴェッショ・デッラ・メダーリャのサードアルバム。デビューからハードロック路線のサウンドだった彼らが、「汚染」をテーマにバッハの『平均律クラヴィーア曲集』の前奏曲やフーガをはじめとするバロック期の作曲家の旋律を多用し、クラシカルでありながら混沌と拡散に満ちた個性的なコンセプトアルバムとなっている。ニュー・トロルスの『コンチェルト・グロッソ』やオザンナの『ミラノ・カリブロ9』で共演したルイス・エンリケス・バカロフがプロデュース&作曲を行っており、そのハードロックとクラシックの見事な融合からイタリアンロック史上最高峰の1枚となった歴史的な名盤である。

 イル・ロヴェッショ・デッラ・メダーリャ(以下RDM)は、イタリアのアブルッツォ州で1970年に結成されたグループである。メンバーはエンツォ・ヴィータ(ギター)、ステファノ・ウルソ(ベース)、ピノ・バッラリーニ(ヴォーカル)、ジーノ・カンポリ(ドラムス)の4人編成である。彼らは地元でライヴを中心に活動をしてそれなりに知名度を上げていたが、1971年に元クリームのジャック・ブルースのツアーに同行したことで、一気にイタリア国内で人気が高まることになる。すぐにイタリアRCAからデビューアルバムの話が持ちかけられ、同年に『La Bibbia』がリリースされる。このアルバムはスタジオ・ライヴの一発録りだったということから、数多くのライヴを重ねてきたRDMらしいレコーディングであったといえる。翌年の1972年にはより精力的にライヴ活動やツアーを行い、同年にセカンドアルバムとなる『Io Come Io(我思う故に)』をリリースする。このアルバムはドイツの哲学者、ヘーゲルの実存主義をコンセプトにしたトータルアルバムとなっており、持ち前のハードロックサウンドにアヴァンギャルド要素を加味させた内容になっている。また、初回プレス盤のジャケットの中央には金属製のメダルが封入されており、その類を見ない変形ジャケットは大いに注目されたと言われている。しかし、イタリアのブラック・サバスとも呼ばれたハードロックサウンドが持ち味だったRDMが、セカンドアルバム発表後に大きく路線変更することになる。理由はイギリスを中心としたプログレッシヴロックのムーブメントである。イタリアの音楽シーンでもそうした動きに触発されたロックグループが次々と誕生し、キーボードを主体としたシンフォニックなサウンドを追求する流れがあったという。彼らはサードアルバムに取り掛かる手始めとして、メンバーにキーボーディストのフランコ・ディ・サバティーノを加入させ、シンフォニックなサウンドへの移行を図ったという。そんな折、本アルバムの制作において重要な役割を果たすルイス・エンリケス・バカロフを迎え入れている。彼はイタリアの映画音楽を数多く手がけていた作曲家兼プロデューサーであり、ニュー・トロルスの『コンチェルト・グロッソ』やオザンナの『ミラノ・カリブロ9』で共演するなど、ロックアルバムの作品にも関わっている。そんなバカロフが次の作品として選んだのがRDMのサードアルバムということである。オーケストラアレンジに優れた能力を持つバカロフだが、今までと大きく違うのは本アルバムの制作段階から加わっていることだろう。収録曲のクレジットを見ると、すべての曲にバカロフの名前が記載されている。すでに6人目のメンバーとして作曲からアレンジ、レコーディングまでメンバーと共に関わっていたということになる。そうした中で完成した作品が、1973年にリリースされる『Contaminazione(汚染された世界)』である。デビューから一貫してプレイしてきたRDMのハードロックの理念と、それに見合うバカロフのクラシカルでダイナミックなアレンジが見事に融合した壮大なコンセプトアルバムとなっている。
 
★曲目★
01.Absent For This Consumed World(消滅した世界)
02.Ora Non Ricordo Piu’(忘却の彼方へ)
03.Il Suono Del Silenzio(静寂なる響き)
04.Mi Sono Svegliato e…Ho Chiuso Oli Occhi(目覚め…そして再び夢の中)
05.Lei Sei Tu:Lei(貴方への熱き想い)
06.La Mia Musica(君に捧げる歌)
07.Johann(ヨハン・セバスチャン・バッハ)
08.Scotland Machine(スコットランド・マシン)
09.Cella 503(独房503号室)
10.Contaminazione 1760(汚れた1760年)
11.Alzo Un Muro Elettrico(電波障害)
12.Sweet Suite(絢爛豪華な部屋)
13.La Grande Fuga(終焉のフーガ)

 本アルバムの楽曲はジャケットのイラストを見て分かるとおり、バッハをモチーフとした作品となっている。1曲目の『消滅した世界』は、深遠なシンセサイザーをバックに嘆きに近いスキャットから始まり、2曲目の『忘却の彼方へ』へと続く。バッハの『平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番ハ長調』から引用したと思われるエレクトリックピアノが流れ、クラシカルな響きと持ち前のハードロックが混在した楽曲となっている。バックの重いリズムとギター上で奏でる煌びやかなキーボードとどこか物悲しいコーラスワークが印象的である。3曲目の『静寂なる響き』は、こちらも混沌としたキーボードによるクラシックとハードロックが混在した曲になっており、ストリング、ヴァイオリンを組み入れたユニークな展開が聴きどころである。4曲目の『目覚め…そして再び夢の中へ』は、バカロフのクラシックアレンジが冴え渡った荘厳なオーケストラになっており、2分過ぎのギターによるフリーフォームなソロパートに『平均律クラヴィーア曲集第1巻第8番ホ短調』のメロデイが使用されている。5曲目の『貴方に捧げる想い』は、ストリング風のキーボードをバックにしたタイトなアンサンブルになっており、途中でバロック風のチェンバロを中心としたヴォーカル曲に変化する。途中でアルビノーニの『アダージョ』にあたる旋律が使われている。6曲目の『君に捧げる歌』は、ピアノソロから静かなるストリングスをバックに優しく歌うヴォーカル曲であり、曲中にバッハの天上のオルガンが響き渡るアルバム屈指のクラシカルな曲になっている。7曲目の『ヨハン・セバスチャン・バッハ』は、エコーを利かしたギターとヴォーカルから、8曲目の『スコットランドマシン』に続く。混沌としたキーボードからバッハのオルガン、チェンバロを駆使したロックに変化していき、へヴィなギターを経て独特なキーボードアンサンブルとなっている。次々とキーボードによる曲調が変化する一連の流れは壮麗である。9曲目の『独房503号室』は、クラシカルなアコースティックギターのソロパートを経て、トランペットとストリングスの掛け合いは『平均律クラヴィーア第2巻第5番ニ長調』の最初の部分が引用されている。後半での荘厳なオルガンソロは圧巻のひと言である。10曲目の『汚れた1760年』は、木管楽器を使用して閑散とした世界を描いており、11曲目の『電波障害』はへヴィなギターを中心としたハードロックとなっている。途中からピアノ、ストリングスを使用したオーケストラが挟んでくるなど、単なるハードロックにとどまらないところが魅力的である。12曲目の『絢爛豪華な部屋』は、静寂なオルガンとギターを中心としたクラシカルな曲であり、最後に『電波障害』にあったコーラスがリフレインされている。13曲目の『終焉のフーガ』は、序盤に『無伴奏チェロソナタ第1番~プレリュード』がそのまま使用されており、印象的なリフレインの部分は『平均律クラヴィーア第2巻第6番ニ長調』を引用したロックアレンジになっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、RDMがこれまで培ってきたハードロック的な要素を抑えて、バッハのバロック曲を大胆に取り込んでいる楽曲が目立っている。ロックの世界でクラシックの引用は一歩間違えば興醒めしてしまうところもあるが、本アルバムではバロックの曲の一部分をつなげる形でメロディを創作する手法をとっている。絢爛豪華なクラシックを大胆に取り入れつつ、うまくロックに落とし込んでるところを見ると、バカロフのアレンジ力の高さが随所に表れた作品といっても良いだろう。

 本アルバムはイタリア国内で大きな反響を呼び、セールス的に大成功を収めている。これを受けてレコード会社は、1974年に国外に向けた英語ヴァージョンの制作を企画して1975年にリリースしている。この英語ヴァージョンは元々英語で歌うことを想定したメロディではなかったため、やや違和感を覚えてしまうが、オリジナルにはない硬質な雰囲気のあるサウンドになっているという。しかし、グループが好調だった1974にヴォーカリストのピノ・バッラリーニが脱退する。理由は定かではないが、バカロフ主導で進められる作品に不満を抱いていたといわれている。ヴォーカリスト不在のインストゥメンタルを中心としたグループとなって活動を続けたが、レーベルを移籍して1枚のシングルをリリースした後もRDMの名が浮上することは無く、1977年に解散している。1980年にはRDMのベーシストだったステファノ・ウルゾが結成したヨーロッパというプログレ系ハードロックグループ(『ファイナル・カウントダウン』のヨーロッパとは別)を結成しているが、かつてのRDMのサウンドとは程遠いものになっている。RDMの名が再び浮上することになるのは、1988年に突然キーボードのフランコを迎えた5人編成に移行した頃のライヴ盤『…Giudizio Avrai』がリリースされたことだろう。熱狂的なRDMのファン達有志の手によってイタリア国内で限定枚数でリリースされたという。無論、日本でも入荷されている。そしてまるでファンに後押しされたかのように、1990年に満を持してギタリストのエンツォ・ヴィータを中心にRDM名義のプロジェクトをスタートさせる。1993年に『Vitae』、1995年に『Il Ritorno』、最新では2011年には『Microstorie』といったアルバムをリリースしている。2013年には初の来日公演が実現し、日本のプログレファンを大いに喜ばせている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアン・プログレッシヴロックの不朽の名作、イル・ロヴェッショ・デッラ・メダーリャの『汚染された世界』を紹介しました。このアルバムを聴いたとき、かなり衝撃を受けまして、これだけ聞き覚えのあるバッハの音源をふんだんに引用したアルバムは珍しく、何度も繰り返して聴いた記憶があります。クラシック作品によるロック調は数多く存在していますが、曲のつながりが自然であり、聴いていてものすごく優雅な雰囲気にさせてくれるアルバムだと思います。RDMはハードロック路線だったデビューから数年で極端ともいえる絢爛豪華なクラシカルなサウンド路線に変更したため、どこか混沌とした作風となっていますが、彼らのハードロックの素養を活かしたバカロフのクラシックアレンジ力のレベルの高さがうかがえます。バッハの『平均律クラヴィーア曲集』を多く引用しているそうですが、他にもバロック曲を引用している楽曲もあるらしく、もしかしたらクラシックに詳しい方は分かるかも知れません。

 さて、あれだけイタリアで人気を博したRDMが、なぜ本アルバム以降急激に解散に追い込まれていってしまったのかというと、3つほど不幸な出来事が重なったとされています。1つ目はバカロフ主導によるグループ内での不平不満の表れがあったということです。バカロフはグループのすべてにおいて決定権を持っており、これに嫌気を指して脱退したのがヴォーカリストのピノ・バッラリーニです。そして2つ目は長年住み慣れたRCAレーベルから心機一転FROGレーベルに移籍してシングルをリリースし、同時進行で4枚目のアルバムのマスターも完成させていましたが、レーベルと何かあったのか何故かリリースに至っていません。そして3つ目がそんな不穏に満ちた中で、何と楽器や機器を積んだトレーラーが盗難に遭ってしまう悲しい事件が起こります。グループにとって最大のモチベーションだったライヴが行えなくなり、また予算をかけたアルバム制作にも影響を与えたといわれています。これが決定打となって一気に破綻の方向に向かっていったそうです。RDMはイタリア国内では高い人気を誇っていましたが、実はレコード会社やグループ内の確執が広がっていたというのは残念です。それでも最終的にファンに後押しされるように再結成できたのは、ファンと彼らをつなぐ数多くのライヴによる賜物ともいえます。

 

 大胆にバッハのバロック曲を取り入れて、オリジナリティーあふれる楽曲を完成させたRDMのサウンドは素晴らしいのひと言です。様々な音楽性を躊躇なく取り入れるイタリアの懐の深さを感じられる作風をぜひ、堪能してほしいです。

それではまたっ!

 

※最後の『La Grande Fuga(終焉のフーガ)』の曲だけ見つけました。