【今日の1枚】Yezda Urfa/Sacred Baboon(イエッダ・ウルファ/聖なる野獣) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Yezda Urfa/Sacred Baboon
イエッダ・ウルファ/聖なる野獣
1989年リリース(1976年録音)

圧倒的なパフォーマンスで複雑怪奇な楽曲を披露する
テクニカルシンフォニックロックの名盤

 アメリカンプログレッシヴロックの極めつけとまで言われたイエッダ・ウルファが、自主制作盤『ボリス』の次に1976年に録音したとされる幻の未発音源アルバム。その音楽性は高い緻密性と変則拍子、めぐるましい展開の切り返しなど、驚嘆に値するほどの超絶技巧を駆使した楽曲が魅力となっている。複雑怪奇な楽曲構造を持ちながらも、生楽器やコーラスの質感を大事にしており、決してテクニックだけで押し切った演奏ではなく、シンフォニックロックたる様式美を兼ね揃えているのがポイントである。イエスがジェントル・ジャイアントのレパートリーを演奏したかのような唯一無二の名盤である。

 イエッダ・ウルファは1973年、アメリカのインディアナ州にあるポートエイジで結成されている。元々はハイスクールバンドだったらしく、地元を中心にライヴ活動をしていた以外はプロ活動や商業的なレコーディングは行っていない。活動中にヴォーカリストをはじめ、メンバーチェンジを繰り返し、1975年2月に最終的に落ち着いている。メンバーはマーク・ティッピンズ(ギター)、ブラッド・クリストフ(ドラムス)、フィル・キンブロウ(キーボード、フルート、リコーダー)、マーク・ミラー(ベース、マリンバ、チェロ、ビブラフォン)、リック・ロウデンボウ(ヴォーカル)の5人編成である。彼らは同年の5月に初のレコーディングを行い、シカゴにあるユニヴァーサル・レコーディング・スタジオを2、3日間利用して録音され、その録音された楽曲は完全自主制作でアナログプレスされている。タイトルは『Boris(ボリス)』であり、その数はたったの300枚だったという。彼らはそのデモLPを大手レコード会社や地元の放送局に送りつけ、さらにメンバー自身がニューヨークへプロモーションのセールスを行うなど、積極的に行動をしつつメジャーデビューの機をうかがっていたが、結果は散々だったという。ついには国内の名のあるレコード会社や放送局にアプローチしたものの、シカゴのアングラ系ラジオ局1社がオンエアしてくれた以外、全く見向きもされなかったと言われている。それでも彼らは作曲を続け細々とレコーディングを行っていた時、1976年にチャンスが舞い降りる。マイナー・レーベルのダルマ・レコードとアルバム契約を結ぶことに成功し、同年夏に正式にレコーディングを開始する。それが本アルバムの『Sacred Baboon(聖なる野獣)』である。しかし、ダルマ・レコードは当時、台所事情がかなり厳しかったようであり、レコーディング等の諸費用をグループ側に請求したことが理由で契約破綻している。以後、本アルバムのマスターテープは13年間眠り続けることになる。

 本アルバムが陽の目を見ることなったのは、ピーター・M・ストーラーという人物が、10年以上も『Boris(ボリス)を愛聴しており、ある時、当時の新興レーベルだったSyn-Phonicのグレッグ・ウォーカー主催に同作を持ちかけたのがきっかけである。結果的に『Sacred Baboon(聖なる野獣)』のマスターテープが見つかり、1989年にSyn-Phonicレーベルの3番目のタイトルとしてリリースされることになる。すでにグループは解散していたが、彼らが当時の求めれられた音楽シーンの潮流を無視して、いかに独自性を貫いた楽曲だったかが良く分かる圧巻のパフォーマンスを魅せたアルバムである。

★曲目★
01.Give ’Tm Some Rawhide Chewies(ギヴ・ゼム・サム・ローハイド・チューイーズ)
02.Cancer Of The Rand(キャンサー・オブ・ザ・ランド)
03.To-Ta In The Moya(トータ・イン・ザ・モヤ)
04.Boris And His Three Verses(ボリスとその3つの詩)
05.Flow Guides Arent My Bag(フロー・ガイズ・アーント・マイ・バッグ)
06.(My Doc Told Me I Had)Doggie Head(ドギー・ヘッド)
07.3.Almost.4.6 Yea (3、オールモスト 4.6 イェー)

 本アルバムの内容はオリジナル曲と『Boris(ボリス)』で使われた曲のアレンジをミックスしたものになっている。1曲目の『ギヴ・ゼム・サム・ローハイド・チューイーズ』は、彼らの超絶技巧の演奏が凝縮されたパフォーマンス度の高い曲になっており、とにかくテンポが速い。イエスのジョン・アンダーソンを思わせるヴォーカルに、手数が多すぎるドラミング、複雑に入り組むキーボードやギターなど、どれをとっても圧巻のアンサンブルである。2曲目の『キャンサー・オブ・ザ・ランド』は、フルートやピアノ風のキーボード、コーラスが印象的なシンフォニックロックになっており、中盤のアコースティックギターソロが美しい曲になっている。3:30あたりで曲調が変化し、ジェントル・ジャイアントばりの複雑な輪唱が聴ける。3曲目の『トータ・イン・ザ・モヤ』は『Boris(ボリス)』にも収録されたアレンジ版であり、こちらのほうが洗練された楽曲になっている。この曲はアルバムの中でも最も展開の切り返しの多い曲であり、生楽器のクラシカルな演奏とエキセントリックな演奏が交互に行われた構築性の高い楽曲になっている。多くの音色をうまく取り入れており、彼らの編曲のレベルの高さが表れている。4曲目の『ボリスとその3つの詩』も、10分近くあった『Boris(ボリス)』で使われた曲を3分程度でアレンジ版された曲である。ギターとキーボードを中心としたヴォーカル曲だが、手数の多いドラムスが素晴らしく、短い曲であるにも関わらず濃密ともいえる内容になっている。5曲目の『フロー・ガイズ・アーント・マイ・バッグ』は、同じフレーズの無い変則拍子に満ち溢れた曲になっており、ドラムス以外は楽器が入れ替わりつつ落差の激しい内容になっている。こちらも複雑怪奇な輪唱があり、構成美に尽きた楽曲である。6曲目の『ドギー・ヘッド』は、緩急のあるフレーズとシンフォニックなキーボード、変則的な輪唱が織り交ざった摩訶不思議な楽曲となっている。こちらもとにかくテンポが速いアンサンブルになっており、後半のクラシカルな展開から段々盛り上がっていくところは感動的である。7曲目の『3、オールモスト 4,6 イェー』は、シンフォニックな楽曲だが変則拍子が多く、途中でビブラフォンやフルート、クラシカルなキーボードをはじめ、アコースティックギターのソロなどがあり、1曲の中に彼らの独自性のあるドラマティックな展開が垣間見れる内容になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、高い緻密性と変則拍子、めぐるましい展開の切り返しが多いが、決してデタラメなアンサンブルではなく、的確で技巧的なブラッド・クリストフのドラムスを中心に高度な緻密性とセンスでアレンジしていることが分かる。1970年代後半はアメリカナイズされたプログレッシヴロックが多い中、ヨーロッパ的な哀愁があり、これだけ高いパフォーマンスを駆使するグループが、アンダーグラウンドシーンでくすぶっていたのは驚きである。

 イエッダ・ウルファはダルマ・レコードとの契約が破棄された後でも活動を続け、さまざまなマテリアルを残している。中にはムソルグスキーの『はげ山の一夜』やストラヴィンスキーの『春の祭典』などのロックアレンジした曲もあったらしいが、残念ながら現在も出てきていない。グループは様々なレコード会社に何度もアプローチをかけたが功を成さず、1981年に正式に解散している。後にベーシストとドラマーが抜けた3人でクラフティー・ハンズというグループ名で活動を続け、1982年に自主レーベルよりアルバム『クラフティー・ハンズ』をリリースしているが、すぐに解散している。残ったメンバーからしたらそのアルバムこそ「イエッダ・ウルファの3作目にして最後のアルバムである」と言っている。ただし、内容的にはAOR風のコマーシャルのようなもので、かつてのアルバムの内容とは程遠い楽曲となっているという。後のメンバーのソロ活動の中で唯一、グラミー賞ノミネート&ゴスペル殿堂入りしたギタリストのフィル・ケギーのアルバム『ザ・マスター・アンド・ザ・ミュージシャン』に、キーボード&リコーダーでフィル・キンブロウが参加しているのが有名である。そして解散して20年以上経った2004年7月にリシャール・ピナス、ユニヴェル・ゼロ、パラスなどが参加した「NEARfest 2004」にて、なんとイエッダ・ウルファがレコーディング時のメンバーの3人を含む6人編成で1日目のトリを務めてファンを驚かせている。当時の楽曲が見直され、イエッダ・ウルファがアメリカのテクニカルロックグループとして再認識されている今、こうしてフェスティバル等で見られるのはうれしい限りである。しかし、ジョン・アンダーソンばりのヴォーカルを聴かせてくれたリック・ロウデンボウは、2008年に残念ながら亡くなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアメリカの超絶技巧ともいえる圧倒的なパフォーマンスを披露したイエッダ・ウルファのセカンドアルバムにあたる『聖なる野獣』を紹介しました。本アルバムは1992年あたりに中古CDショップで見かけて購入したものですが、それまでハードロックやへヴィメタルを好んで聴いていた私自身が、プログレッシヴロックを改めて傾倒するきっかけとなった思い出深いアルバムです。キング・クリムゾンやイエス、エマーソン・レイク&パーマー、ピンク・フロイド、ジェネシスといったイギリスのメジャー級しか聴いてこなかった私が、イギリス以外のアメリカやヨーロッパの各国のプログレッシヴロックに目を向けることになりました。後にオランダのフォーカスやトレース、フランスのアトール、イタリアのラッテ・エ・ミエーレやアルティ・エ・メスティエリといった名盤と出会い、さらにプログレ好きが加速していくことになります。イエッダ・ウルファの楽曲は高い緻密性と変拍子、めぐるましい展開の切り返しに見られる技巧的な演奏に終始しています。しかし、技巧的な演奏は他のグループでも見られますが、彼らの楽曲の素晴らしいところは音色の幅広さにあります。フルートやリコーダー、アコースティックギター、マンドリン、バンジョーといった生楽器をはじめ、ビブラフォンやキーボードが効果的に使用されていて、複雑なコーラスすら楽器の一部にしています。ベースはクラシックでありながら明るく歯切れの良いサウンドになっているのは、アメリカならではの土壌に由来しているのかも知れません。これだけ同じフレーズの無い変則的な楽曲を可能としている理由は、やはりブラッド・クリストフの一切手抜きのない超絶なドラミングを柱とする各メンバーの妥協のないリハーサルとレコーディングの繰り返しにあると思います。ダビングを重ねすぎてピッチが上がってしまった楽曲もあるみたいです。

 このアルバムを個人的に至宝としてるのは、ライナーにも書かれていましたが、「映画や音楽、文学の主なる感動は落差から生まれる」とある通り、イエッダ・ウルファの楽曲も緩急をはじめ、突然にハードなロックからクラシカルに、アンサンブルパートからソロパートに1曲の中での展開の切り返しや落差が凄まじいです。普通ならば聴く方は疲れるだけですが、それが全く感じられません。これを構築美というべきか様式美というべきか、彼らのクラシックをベースにした欧米のプログレッシヴロックの利点を最大限に活かしたアレンジ力とセンスには、ただただ驚くばかりです。

 イエッダ・ウルファはイエスやジェントル・ジャイアントとはまた違う技巧派プログレッシヴロックのひとつとして、ぜひオススメしたいグループです。このアルバムとファーストアルバム『Boris(ボリス)』に収録されている『テキサス・アルマジロ』は必聴です。曲のピッチの速さと変態的なドラミングが最高です。

それではまたっ!