【今日の1枚】T.2/It'll All Work Out In Boomland | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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T.2/It'll All Work Out In Boomland
T.2/イットル・オール・ワーク・アウト・イン・ブームランド
1970年リリース

アンダーグラウンドの独特な芳香が残る
緩急起伏に富んだトリッキーなハードプログレ

 1960年代後半から1970年代にかけて活性化したトラディショナルブルース、サイケデリックロック、トラッドジャズといった英国のアンダーグラウンドシーンから生まれたT.2のデビューアルバム。その音楽性は甘いヴォーカルとブルージーでハードなギターを中心としたジャズ的なアプローチが強いハードロックであり、独特ともいえる空気感が漂う作品になっている。本アルバムがリリースされた当時は全く見向きもされず、たった1枚のアルバムを残して消えてしまったT.2だが、現在では当時のブームの陰に隠れていた英国のアンダーグラウンドシーンを知る上で重要なグループの1つとなっている。

 T.2はサイケデリックからプログレッシヴロックに移行しつつある1970年に、ドラムスとヴォーカルを担当するリーダーのピーター・ダントン、ギタリスト&キーボードのキース・クロス、ベースのバーナード(バーニー)・ジンクスのトリオグループとして結成されている。元々は1967年頃にピーター・ダントンとバーナード・ジンクスによって結成されたネオン・パールというグループが母体となっている。ネオン・パールはオルガン奏者のユージン・アーミッシュとギタリストのエイドリアン・ガーウィッツを加えた4人編成のグループで、ドイツのスタークラブにライヴ遠征するなど幅広く活動をし、帰国後にグループ名をプリーズに変えている。しかし、ギタリストのエイドリアン・ガーウィッツが弟のポール・ガーウィッツ、ルイス・ファーレルと共にハードロックトリオであるガンを結成してしまったため、新たなギタリストとしてニック・スペンサーが加入している。しばらくこのメンバーで1968年半ばまで活動していたが、5月にピーター・ダントンとバーナード・ジンクスがザ・フライズというグループに参加したため、プリーズは一度解散することになる。ちなみにザ・フライズは同年にシングル『ザ・マジック・トレイン/ジェントリー・アズ・ユー・フィール』のリリースを果たしている。その後、ピーターとバーナードは再びプリーズに戻って活動し、ザ・フライズのメンバーだったロビン・ハントと、かつてネオン・パールに一時所属していたロッド・ハリスンを誘ってプリーズを再編をしている。しかし、1969年4月にピーター・ダントンがガンに参加するために脱退してしまい、残ったプリーズのメンバーは新たなドラマーとしてガンに所属していたルイス・ファーレルを迎えて、ブルドッグ・ブリードと改名。同年にブルドッグ・ブリードは、デラムからシングル『ポートカリス・ゲイト/ヘイロウ・イン・マイ・ヘア』と、アルバム『メイド・イン・イングランド』をリリースしている。このようにメンバーの入れ替えや引き抜きが激しく行われたことは、1960年代のアンダーグラウンドシーンでよく見られた光景である。最終的に1970年初頭にガンに移籍していたピーター・ダントンが、ブルドッグ・ブリードのメンバーだったバーナード・ジンクスと同じく参加していたキース・クロスを誘って結成されたのがT.2である。T.2は1970年8月に開催された第3回ワイト島フェスティバルに参加している。そのフェスティバルの出場によって成功を収め、さらにマーキー・クラブの専属グループとして役目を果たすなど、少しずつ人気を高めていったという。そして同年末にデッカ・レコードと契約を結び、デビューアルバムとなる『イットル・オール・ワーク・アウト・イン・ブームランド』が1970年にリリースされることになる。本アルバムはブリティッシュアンダーグラウンドシーンから浮上した勢いのある独特なサウンドであり、ジャズ的なアプローチのある硬質でブルージーなギターが冴えた楽曲となっている。

★曲目★
01.In Circles(イン・サークルズ)
02.J.L.T(J.L.T)
03.No More White Horses(ノー・モア・ホワイト・ホーシーズ)
04.Morning(モーニング)

 本アルバムの曲や歌詞は全てピーター・ダントンの手によって作成されている。1曲目の『イン・サークルズ』は、超絶的なリズムを取るドラムとハードなギターから始まり、どこか翳りのあるピーター・ダントンのヴォーカルが印象的な曲である。とにかくキース・クロスのジミ・ヘンドリックスばりの緩急起伏に富んだフリーキーなギターが魅力的であり、荒削りながら非常にテンションの高い演奏を繰り広げている。トリオ編成であることを最大限に活かしたメンバーそれぞれが存在感のある演奏をしているのが好印象である。2曲目の『J.L.T』は、エリック・クラプトンばりのキース・クロスが奏でるアコースティックギターとリリカルなキーボードが冴えたメロディアスな曲である。優しく奏でられるクラシカルなキーボードや憂いのあるヴォーカルと、手数の多いピーター・ダントンのドラムスの対比が大きな聴き所だといえる。3曲目の『ノー・モア・ホワイト・ホーシーズ』は、ハードでありながら叙情的なギターのアンサンブルを基調とした楽曲となったハードロックであり、曲中にホーンセクションが加わっている。この曲はザ・フライズ時代の1968年のときに作られた曲であり、当時のサイケデリックミュージックの面影が色濃く表れた内容になっている。4曲目の『モーニング』は、21分にも及ぶ長大な曲になっており、プログレッシヴロックを意識したと思われる曲になっている。導入ではアコースティックギターをベースにしたフォーク調のヴォーカル曲になっており、徐々にブリティッシュ然としたロックに変わっていく。変拍子のある曲調の中でスピーディーでドライヴ感のあるギターや手数の多いドラミング、重厚なベースなど3人が一体となった素晴らしい楽曲となっている。一瞬戸惑うような曲展開もあるが、アンダーグラウンドで培われた彼らの独特な感性が働いているように感じる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、サイケデリックからプログレッシヴに移行する過程にあるサウンドだが、キース・クロスのエッジの効いたフリーキーなギターに大きく寄せた作りになっているといえる。キースのアグレッシヴなギターと手数が多くリズミカルなドラムが強調される一方、叙情的なアコースティックギターとキーボードがあるなど、独特ともいえる浮遊感と空気感を漂わせているのがこのグループの魅力といっても良いだろう。

 このアルバムは当時の『レコード・ミラー』紙がレビューで評価している。内容は「表現力が乏しく、構成力が欠けるため、フルアルバムを制作するのに無理がある。とくにあまり意味の無い21分に及ぶ『モーニング』などは反省すべきだ。彼らがどのようにサウンドを構築すべきかを学習しなければ、未来は拓かれないだろう」と書かれており、正直言ってしまえば酷評である。1970年代初頭のポップシーンにおいて、アンダーグラウンドの音楽に対するメディアの理解がどれだけ乏しかったかが良く分かる記事だといえよう。その後、T.2はセカンドアルバムに向けて制作に取り掛かったが、デモテープとアセテート盤(セルロース盤)を残して解散することになる。解散後のピーター・ダントンは、1973年にディヴ・エドモンズのプロデュースでシングル『トーキング・タイム/スティル・コンフュースド』をリリースしている。一方のギタリストのキース・クロスはピーター・ロスとデュオを組んで、1972年にアルバム『ボアード・シヴィリアンズ』をリリースしているという。なお、セカンドアルバムにあたる音源は、解散から20年経った1992年に『セカンド・バイト』というタイトルでワールド・ワイド・レコーズからリリースされている。泥臭い、やぼったいと表現されることが多いアンダーグラウンド・ミュージックだが、独特の感性と斬新なアプローチで時代を切り開こうとする当時の彼らの息吹が感じられる貴重なアルバムである。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアンダーグラウンドの独特な芳香を醸したハードロックトリオ、T.2のデビューアルバムを紹介しました。T.2は紙ジャケになって初めて聴いたアルバムですが、最初はプログレッシヴロックには程遠いサウンドに少々ガッカリした記憶があります。あれから10年近く経ち、サイケデリックロックやカンタベリーミュージック、ジャズロックなど、幅広く聴くようになって改めてこのアルバムの良さを感じた次第です。T.2はなかなかトリッキーなギターが冴えたハードなブリティッシュロックというイメージが強いですが、2曲目の『J.L.T』にあるクラシカルなキーボードと叙情的なギターによる楽曲があり、勢いだけではないメロディアスな作品があって侮れません。確かに4曲目の『モーニング』は、リズム隊とギターだけではちょっと持たないだろうと思われる長い曲になっていますが、今では彼らの瑞々しい感性が垣間見れる楽曲であるような気がします。正直言えば聴き手の感性が問われる作品であり、言葉では言い表せないこの独特な空気感こそアンダーグラウンド・ミュージックの醍醐味なのかも知れません。

 さて、T.2は激動の1970年にデビューし、短命に終わってしまったグループですが、他にもアンダーグラウンドからのし上がったもののメディアから評価されることなく短命で消えていったグループが多数あります。アードヴァークやベイカールー、クリア・ブルー・スカイ、キャタピラ、キリング・フロア、クレシダなどがそうです。アンダーグラウンドグループと言われる彼らに共通しているのは、決して演奏自体が下手なわけではなく逆にテクニカルですらあるということです。1970年はエマーソン・レイク&パーマーのデビューやキング・クリムゾンの『ポセイドンのめざめ』、ピンク・フロイドの『原子心母』、デヴィッド・ボウイの『世界を売った男』、デレク&ザ・ドミノスの『いとしのレイラ』、サイモン&ガーファンクルの『明日を架ける橋』、マイルス・デイビス『ビッチェズ・ブリュー』といった歴史的なアルバムがリリースされた年でもあります。そんなメジャークラスのアルバムの陰でリリースされては消えていったグループがいても仕方が無いです。というよりも、プログレッシヴロックというジャンルやアンダーグラウンド・ミュージックといったサブカルチャー的なサウンドが定着するのはもう少し後であり、メディアも含めて新たな音楽に対する理解が進んでいなかったのも頷けます。T.2もハードロック調でありながらどこか冷めた感じがするのは、そういったブリティッシュの音楽シーンのやるせなさがあるのかも知れません。

 T.2はそんな激動の時代に浮上したアンダーグランドの芳香が漂う、独特の空気感のあるサウンドです。興味がありましたら、ぜひ聴いてみてくださいませ。


それではまたっ!