【今日の1枚】Gandalf/失われた王国の物語 | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Gandalf/Tale From A Long Forgotten Kingdom
ガンダルフ/失われた王国の物語
1984年リリース

オーストリアを代表するマルチ・ミュージシャン、
ガンダルフが創作したサウンドファンタジー

 オーストリアのマイク・オールドフィールドとも呼ばれている、マルチ・ミュージシャンのガンダルフが1984年にリリースした5作目となるトータルアルバム。『指輪物語』で有名なJ・R・R・トールキンの物語性を題材にしたような幻想的なストーリーを創作し、多彩な楽器を用いて1人で演奏した壮大なサウンドファンタジーとなっている。後にニューエイジ・ミュージシャンとして活躍するガンダルフの作品の中でも、最もプログレッシヴなアプローチとなった傑作である。

 ガンダルフことハインツ・ストロブルは、1952年にオーストリアの首都ウィーンの郊外にあるプレスバウムという街で生まれている。幼少の頃は家族と共にラジオやレコードでロックやポップスをはじめ、様々な音楽を聴いていたというが、その中でもインスト中心のクラシックや映画のサウンドトラックを好んで聴いていたという。1960年代半ばには全盛期だったザ・ビートルズが世界中で人気となり、オーストリアの若者たちもロックに目覚めはじめ、ハインツ自身も影響を受けて将来はミュージシャンになることを決意したのもこの頃である。ハインツは義務教育の音楽の授業以外は公的な音楽の教育を受けていない。つまり独学である。自身のお気に入りのミュージシャンがどのような奏法で楽器を演奏しているのか聴いて覚えて、次に楽譜や書籍などからハーモニーやオーケストラアレンジを勉強したという。そこには自国の最大の音楽家であるモーツァルトではなく、ラヴェルやドビュッシーといったフランス近代の印象派と呼ばれる作曲家を好んだことから、彼の奏でる壮大なサウンド・シンフォニーの原点が垣間見えるように感じられる。ハインツは1970年代に工科大の電気関係の勉強をする一方、友人たちとグループを組んでクリームやジミ・ヘンドリックス、ドアーズといった英国のロックを演奏していたという。やがてオリジナル曲を書くようになってビギニングというグループを結成し、キング・クリムゾンやジェネシス、ピンク・フロイドといったプログレッシヴロックを演奏するようになる。地元で名の知れたミュージシャンとなったハインツは、1980年にワーナーと契約をしてプロのアーティストとなり、デビューアルバムのレコーディングに入る。このレコーディングの際、彼は初めてトールキンの『指輪物語』を読んで、魔法使いのガンダルフに親しみと感銘を受けて、自らをガンダルフと名乗ることになる。1981年にデビューアルバムとなる『Journey To An Imaginary Land』がリリースされ、当初はそのガンダルフという名前のおかげでかなり注目されたが、インストゥメンタルを中心とした曲は、ラジオやTVに取り上げられることはなく、チャートとは無縁なものだったという。しかし、1982年に発表した『指輪物語』を題材にしたトータルアルバム『Visions』や1983年に発表した『理想宮への旅』、『幻想回帰』とアルバムをリリースするたびに確実に売り上げを伸ばし、少しずつファン層を広げていったという。そしてガンダルフが1984年に初めてインドを旅した際に、その文化や宗教に感銘を受けて創作したのが本アルバムである。レコーディングは自身の家にあるエレクトリック・マインド・スタジオで行われ、本作で初めて16トラックのマルチレコーダーを使用している。ミックス作業もガンダルフ自身が行っており、全ての作業をたった1人で行ったのはデビューアルバム以来である。唯一、自分にはできなかった女性の声だけ、ピッパ・アームストロングという女性ヴォーカリストを迎えて美しいスキャットを録音をしている。こうして2ヶ月間のレコーディングをして完成したのが、トータルアルバム『失われた王国の物語』である。
 
★曲目★
01.Forgotten Kingdom Part1(失われた王国 パート1)
02.Forgotten Kingdom Part2(失われた王国 パート2)
03.The Garden Of Illusions Part1 (幻の庭園 パート1)
04.The Garden Of Illusions Part2 (幻の庭園 パート2)
05.The Garden Of Illusions Part3 (幻の庭園 パート3)
06.The Sacred Esoterie Formula(聖なる秘法)
07.The Narrow Path(謎の細道)
08.On The Peacock's Wings(孔雀の翼に乗って)
09.The River Of Realization Part1(悟りの川 パート1)
10.The River Of Realization Part2(悟りの川 パート2)
11.Back Home(家路)

 本アルバムで使用した楽器は、当時最新鋭だったヤマハのDX-7、ローランドJX-3P、コルグ・トライデント、コルグMS-20、ミニムーヴ、メロトロン、ローランド・ヴォコーダー、グランドピアノのキーボード類の他に、6弦&12弦ギター、ベース、ハモンド社製のドラムマシーン、コルグ・シーケンサー、さらにインドのタンブーラ、ゴング、チャイナシンバルといった民族楽器も使用している。こうした楽器を用いながら、かつて存在していたという王国を探しだそうとする人々が、幾多の困難を乗り越えてその地にたどり着くまでの壮大な物語をドラマティックに演奏している。1曲目と2曲目の『失われた王国』は2つのパートに分かれており、鳥の鳴き声をバックに複数のシンセサイザーとギターによって、かつて存在していた楽園と思しき王国の情景を奏でている。まるで映画のイントロダクションのような雰囲気があり、聴く者をこれから始まる物語に誘うような美しいサウンドになっている。3曲目からは3つのパートになった『幻の庭園』であり、とある賢者の言葉を頼りに人々が失われた王国を探しに行くことになるシーンである。湖のほとりを描いたような神秘的な楽曲からはじまり、ここではガンダルフの16弦ギターが美しく奏でられ、ピッパ・アームストロングの瑞々しいスキャットを聴くことができる。まさに荘厳なサウンドファンタジーで彩られた内容になっており、後のガンダルフがニューエイジ・ミュージシャンとして確固たる地位を築く素晴らしい音源になっている。6曲目の『聖なる秘法』は、賢者から授かれた秘法を使って王国を探し続ける人々の様子を楽曲にしている。ガンダルフ自身がインドで録音したというインド古代聖典であるヴェーダ・マントラをバックに、天を仰ぐようなオルガンの響きが印象的である。7曲目の『謎の細道』はアルバムの中で最も長い8分を越える大曲になっており、風切り音がする山の谷間を歩く未踏の細道を描いたサウンドになっている。なだらかなオルガンとシンセサイザーをバックに様々な打楽器が用いられ、困難ながら前向きに進もうとする人々の様子が聴き取れる。8曲目の『孔雀の翼に乗って』は、ドラムマシーンを多用したリリカルなメロディが印象的なサウンドになっており、ロングトーンのギターがまるで人々を乗せて天空に翼を広げながら飛ぶ孔雀をイメージしている。9曲目からは2パートに分かれた『悟りの川』であり、到達したのだろうか?この川を越えた先に探し求めていた王国があるかのような軽やかなアコースティックギターをメインにした楽曲になっている。多彩なキーボードが幾層にも奏でられ、高らかに弾きまくるエレクトリックギターが聴く者を優雅な雰囲気にさせてくれる。11曲目の『家路』は、トラディショナルな雰囲気から一気に明るいシンセサイザーとギターの楽曲になり、映画のラストシーンのように人々に平穏が戻り物語は終焉する。こうしてアルバムを通して聴いてみると、まさに映画の各シーンを象徴する楽曲となっており、まるでヒーリングに近いサウンドトラックのような楽曲になっていると思われる。ガンダルフの楽曲はシンセサイザーがメインとなっているが、彼が12弦ギターやガットギター、エレクトリックギターを所々でプレイしているのを聴いていると、ギタリストとしても秀逸であることが分かる。彼が憧れているというスティーヴ・ハケットを意識したような『悟りの川』でのギターソロは、胸に染みるような美しさに満ち溢れている。

 ガンダルフは本アルバムをリリース後に契約していたワーナーから離れることになる。彼は元々ニューエイジ・ミュージックの素養があったが、1990年代以降は自らを「音楽風景の画家」と称して、ニューエイジだけではなくヒーリングやスピリチュアルな音楽など幅広く制作していくことになる。1992年には彼が憧れていたギタリスト、スティーヴ・ハケットとの共演が実現し、アルバム『Gallary Of Dreams』にゲストとして招いている。毎年のようにコンスタントにアルバムを制作しており、2020年にリリースしたアルバム『Secret Sarai』まで30タイトル以上出している。その中にはクラウス・シュルツェやレデリウス、アンドレアス・フォーレンヴァイダー、そして日本が誇るシンセサイザー奏者の喜多郎といった多くのミュージシャンとの共演を果たしている。今や世界的なニューエイジ・アーティストとして君臨しているガンダルフだが、自分の感情や内面的なビジョンを音で表す心のメッセンジャーとして、現在でも究極のスピリチュアル・ミュージックを作り続けている。


 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は世界的なニューエイジ・ミュージシャンであるガンダルフの5枚目のアルバム『失われた王国の物語』を紹介しました。ニューエイジ系は私自身、過去に喜多郎や姫神を聴いたぐらいで範疇ではないのですが、2001年からシリーズで上映された『ロード・オブ・ザ・リング』が大好きで、そこに登場する魔法使いのガンダルフの名前のついたアーティストって珍しいな~と思いつつ購入したものです。ライナーノーツを読んでみたら、やはりJ・R・R・トールキンの『指輪物語』のガンダルフから取ったものだったんですね。セカンドアルバムではそのままズバリ、『指輪物語』を題材にしたトータルアルバムを出していて、どれだけ好きなのよと思ってしまいました。後にガンダルフのワーナー時代のアルバムを聴きましたが、今回紹介した『失われた王国の物語』とファーストアルバム『Journey To An Imaginary Land』がプログレ的なアプローチがあり、1人で全ての作業を行った点から個人的にオススメです。

 さて、数あるニューエイジ系の音楽と大きく違うところをあえて言うのであれば、ガンダルフ自身がプレイするギターにあると思います。上記にもありますが、自身が憧れていたというスティーヴ・ハケット風のギターソロは、思った以上にテクニカルであり叙情的でありアルバムの一番の聴き所になっています。ワーナー時代の5枚のアルバムは、すべて彼自身がプレイするギターが随所にあり、シンセサイザーという機械的な音源とギターという人間が作り出す音源がうまくマッチしていると感じます。同じマルチアーティストのマイク・オールドフィールドほど高い緻密性や実験性は見られないものの、ガンダルフの奏でる楽曲は幻想的でありながら何となく“優しさ”に満ちあふれています。あれだけ複数のキーボードをはじめとする多彩な楽器を使用しているのにも関わらず、まったくクドさを感じないのは、かなり聴き手を意識して作られているからだろうと思います。その優しさのある音楽が後のスピリチュアル・ミュージックに行き着いた根源なのかも知れません。

 幼少の頃に聞いたクラシックや映画のサウンドトラックから始まり、ロックンロールやプログレのグループを経てマルチ・インストゥメンタリストとなったガンダルフが、ひとつの到達点として織り成した幻想的なサウンドになっています。ぜひ、機会があったら聴いてみてください。

それではまたっ!