【今日の1枚】Triade/1998:La Storia Di Sabazio | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Triade/1998:La Storia Di Sabazio
トリアーデ/1998:サバツィオの物語
1973年リリース

即興性のある演奏が繰り広げられる
若きキーボードトリオの唯一のアルバム

 イタリアのエマーソン・レイク&パーマーと呼ばれたキーボードトリオ、トリアーデが唯一残したアルバム。その音楽性はハモンドオルガン、ピアノを中心としたバロック風のクラシカルな作風となっており、緊迫感あふれる即興性の高い演奏が繰り広げられた内容になっている。当時のレコードにはクレジットが記載されておらず、謎に包まれたグループだったが、後にバンコやP.F.M.のサポートアクトを務める実力派のトリオだったことが分かっている。ジャケットは大胆に金箔をあしらったものを使用しており、現在、状態の良いものはレコード1枚数万円にも及ぶコレクターアイテムになっているという。

 トリアーデは近年になってメンバーや状況が分かってきたグループで、2003年にイタリアン・プログレ愛好家、アウグスト・クローチェの執念と、元カンポ・デ・マルテのギタリスト、エンリコ・ロサの記憶力によって明らかになったとされている。それまではメンバーらしき写真とラストネームだけの作曲クレジットだけだったそうである。このトリオは1970年頃にイタリアのフィレンツェで結成されている。メンバーのキーボーディストであるヴィチェンツォ・コッチミリオは、フィレンツェの代表的なクラブ「Space Electronic(スペース・エレクトロニック)」で公演していたピーター・ハミル率いるヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターをよく見に来ていたという。ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターはイギリス出身のプログレグループだが、イタリアで絶大な人気を誇っていたグループであり、イタリアの各地でツアーを行っていたという。そこで同じくライヴを見に来ていたベース兼ヴォーカルを担当するアゴスティーノ・ノビーレと出会うことになる。アゴスティーノは当時、1960年代に後にアレアに加入するパオロ・トファーニやSensation’s Fixに加入するフランコ・ファルジーニが所属していたNoi Tre(ノイ・トレ)というグループで活動していたという。ヴィチェンツォはアゴスティーノとの出会いで意気投合し、キーボードトリオととしての音楽性を追求すべく、新たなグループの結成に動くことになる。ヴィチェンツォの家の居間を借りて互いに持ち寄った曲でリハーサルを行いつつ、ドラマーを加入させるために多くのオーディションを行ったそうである。中にはあまりに複雑な音楽にスティックを投げ捨てるような者もいたが、ジョルジョ・ソラーノという当時18歳だった腕利きのドラマーを見つけ出すことになる。3人編成となったことで、グループ名をギリシャ神話のモイライ(運命の三女神)を指したトリアーデと命名し、CGD系列のDerbyというレーベルと契約することになる。曲はヴィチェンツォとアゴスティーノの共作で行い、レコーディングにはエリオ・ガリボルディをプロデューサーに迎えている。録音に費やした時間は3日間という短いスケジュールで行ったため、一発録りに近い非常にライヴを意識したような緊迫感あふれる演奏になったという。こうして1973年にデビューアルバムとなる『1998:サバツィオの物語』がリリースされることになる。

★曲目★
01.Sabazio(サバツィオ組曲)
a.Nascita(誕生)
b.Il Viaggio(旅)
c.Il Sogno(夢)
d.Vita Nuova(新しい人生)
02.Il Circo(チルコ)
03.Espressione(表現力)
04.Caro Fratello(親愛なる兄弟へ)
05.1998(1998 Millenovecentonovantotto)

 アルバムはレコードのA面を占める4曲からなるサバツィオ組曲(ヴィチェンツォ作曲)とB面を占める4つのオリジナル曲(アゴスティーノ作曲)の計8曲の構成になっている。タイトルのサバツィオとは、古代トラキア、フリギアを中心に崇拝された豊穣神であるサバジオス(Sabazios)のことであろうと思われる。『サバツィオ組曲』は、幻想的な近代クラシックになっており、キーボード、ベース、ドラムスに加えて、チェロ、ヴィブラフォン、パ-カッションが使われた即興的なインストゥメンタルになっている。最初の『誕生』は、徐々に無調風になっていくオルガンとチェロによるアンサンブルとなっており、チェロやティンパニを効果的に使用した曲になっている。次の『旅』は、オルガンを基調とした複雑な転調のあるユーモラスな曲になっており、後半は一転してストリングス・シンセサイザーとオルガンによる幻想的な楽曲に生まれ変わる。次の『夢』は、不気味なユニゾンを繰り返すオルガンとチェロ、ドラムスによる現代音楽風のアンサンブルになっている。不安を高めるようなオルガンが印象的だが、次第に穏やかな響きを取り戻していく極端な音楽性が面白い。次の『新しい人生』は、ヴィチェンツォ・コッチミリオによる流麗でリリカルなピアノ・ソロになっており、美しい調べで前半を終えている。後半の2曲目にあたる『チルコ』は、ハモンドオルガンを駆使したエマーソン・レイク&パーマーばりのクラシカルなプログレッシヴロックである。流れるようなオルガンの中で手数の多いドラミングが印象的であり、アグレッシヴな演奏が前面に打ち出された内容になっている。3曲目の『表現力』は、シンセサイザーとピアノ伴奏をベースにアコースティックギターによる弾き語りになっている。アゴスティーノ・ノビーレの憂いのあるヴォーカルとピアノ、アコースティックギターの絡みが美しく、イタリアンカンタトゥーレを思わせる内容になっている。4曲目の『親愛なる兄弟へ』は、アグレッシヴなバロック風のオルガンが暴れまくるオープニングパートから、弾き語り風の素朴なヴォーカルパートへと移行するドラマティックな展開のある曲。濃厚なギターとシンセサイザーの味わいのある曲風は極めてイタリア的であり、後半のオルガンソロは前半のアグレッシヴさと対照的になっているのが好印象である。5曲目の『1998』は、アコースティックギターソロによるイントロから、哀愁あふれるヴォーカルパート、そしてオルガン、シンセサイザーとのユニゾンへと発展していく。間奏ではハモンドオルガンとシンセサイザー、チェンバロのアンサンブルによるクラシカルな楽曲になり、広がりのあるシンフォニーになっていく。こうしてアルバムを通して聴いてみると、やはりエマーソン・レイク&パーマーを意識した曲作りになっているが、ピアノやオルガンソロを組み入れているためか、ややダイナミックさに欠けた印象である。しかし、その流麗なピアノやオルガンソロは本格的なクラシックの素養があり、チェロを加えたバロック風のフレーズをふんだんに取り入れた馴染みやすい内容になっている。一方、アルバム後半では弾き語り風の牧歌的な曲になっており、イタリアンロックならではの抒情性がにじみ出た内容となっている。

 トリアーデは本アルバムリリース後に、当時人気急上昇だったバンコやP.F.M.のサポートアクトとして国内を回り、ライヴでも好意的に受け入れられ、ラジオでも頻繁に流れたという。しかし、音楽誌に取り上げられることはなく、国内ではあまり成功することができなかったそうである。そんな時にプロデューサーのエリオ・ガリバルディが、ドイツのミュンヘンに転勤。新しく担当したマネージャーが、よりコマーシャルな方向性を要求したがメンバーは拒否している。これが原因でレーベルのサポートが無くなってしまい、グループはあえなく解散となってしまう。後のインタビューでアゴスティーノ・ノビーレは、「時代を考えると、マネージャーの言い分はもっともな助言だった」と回顧している。解散後、キーボーディストのヴィチェンツォ・コッチミリオは、ディク・ティクから誘いを受けるが断っている。このディク・ティクのキーボードプレイヤーにはザ・トリップのジョー・ヴィスコーディが担当することになる。彼はその後にボローニャ芸術大学を卒業して生徒の前で教壇に立ち、後にピアノバーの演奏者となって世界中に飛び回ったというが、惜しくも2012年1月28日に亡くなっている。アゴスティーノ・ノビーレはいくつかの地元のグループの経験を経て、クラシックオーケストラで活動。後年はベーシストとしてピアノバーで働き、ロサンゼルスにしばらく移住し、現在ではポルトガルのマディラ諸島に移り住んでいるという。最後まで妥協を許さなかったグループとしては、再結成の話も無く寂しいものになってしまったが、アルバムはそんなメンバーの状況に反するかのように時代を越えて再評価されていくことになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアのエマーソン・レイク&パーマーと呼ばれたクラシック全開のキーボードトリオ、トリアーデのデビューアルバム『1998:サバツィオの物語』を紹介しました。トリアーデは当時、まだ某プログレ専門CDショップが新宿の地下にあった時に紙ジャケで見かけたものですが、やたらと目立つジャケットに見入って購入した記憶があります。聴いてみると前半はキース・エマーソンのクラシカルなキーボードに支えられた楽曲のイメージが強く、後半はレ・オルメのようなアコースティックギターとシンセサイザーによる情感的なヴォーカル曲になっています。双方とも両グループの域を越えているとは言えず、聴く人によっては物足りないと思ってしまうかも知れません。しかし、アルバム内の『表現力』は、静かなアコースティックギターのイントロからソリーナの音色が被さった瞬間、典型的なイタリアンシンフォニックロックに変貌するところや『親愛なる兄弟へ』は、畳み掛けるようなクラシカルなオルガンからアコースティックギターの爪弾き、そしてハモンドオルガンで締める展開は素晴らしいのひと言です。個人的に後半のスケール感のあるオルガンやシンセサイザーの響きのある楽曲が心地よく、彼らの高いセンスがとても感じられます。

 さて、このトリアーデの印象的なジャケットにはいくつか逸話があり、当初のアルバムデザインは同じCGD系列のガリバルディの『ヌーダ』の3面開きのジャケットを担当したコミックデザイナー集団の“CREPAX”に依頼しようとしましたが実現できなかったそうです。そこでジョルジョ・ソラーノの妻であるフロリンダ・ソラーノが描いた線画を用いたといわれています。この線画はギリシャ神話の運命の三女神を指していて、クロトー、ラケシス、アトロポスの三姉妹となっています。三位一体として活動する彼らを理解しないと描けないフロリンダならではの秀逸な線画となっています。そしてジャケットは数あるイタリアの変形ジャケットの中でも一際目立つ豪華金箔ジャケットになっています。オリジナルのレコードはそれはもう非常に擦れやすいものとなり、ミント状態で現存するものが少ないコレクター泣かせのアイテムになったと言われています。状態の良いものは1枚数万円にもなったというのも頷けます。

 バロック全開のクラシカルなオルガンやピアノ、そしてイタリア的な叙情性を持ったアコースティックギターとヴォーカルは、エマーソン・レイク&パーマー、レ・オルメ好きにはぜひ聴いて欲しいアルバムです。

それではまたっ!