【今日の1枚】CMU/Space Cabaret(スペース・キャバレー) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

CMU/Space Cabaret
CMU/スペース・キャバレー
1973年リリース

よりクールなカンタベリーミュージックにシフトした
クロスオーヴァーロックの傑作

 後に1980年代の人気フュージョングループ、シャカタクの結成メンバーとなるリーダーのロジャー・オデル率いるCMUのセカンドアルバム。1971年のデビュー作『オープン・スペーシズ』は、ブルースやジャズ、ロックを掛け合わせたクールなサウンドだったが、本作はメンバーチェンジを経て、よりカンタベリー色の強いプログレッシヴロックに変化している。そのクールで革新的なサウンドは、ソフト・マシーンやハットフィールド&ザ・ノース、キャラヴァンといったグループと双璧する、1970年代のカンタベリーミュージックシーンを彩った隠れた名盤でもある。

 CMUは1970年にロジャー・オデルと妻であるラレイン・オデルを中心に結成されたグループである。ロジャーはイングランド南東部で育ち、学生だった14歳でダンス系音楽のグループを結成して、エセックス州やハートフォード州などのクラブで演奏活動をしていたという。彼が活動していたテムズ川河口付近はカンタベリー地方に通じており、後にカンタベリーの代表的なキーボード奏者になるアラン・ゴーウェンと親交を持ち、ベーシストのジョン・ホージーと共にジャズトリオを結成している。他にフィル・ミラー、ロル・コックスヒルなどとも交流し、ロジャーはこの親交を通じてカンタベリー系の音楽に魅了され、様々なメンバーとセッション活動することになる。その活動時に妻となるラレインと出会い、妻と共に自身のグループを持つために動き始めることになる。1970年頃に拠点として活動していたケンブリッジでメンバーを募り、CMUというグループを結成。1971年にフォーク&トラッド系で有名なトランスアトランティック・レコーズからデビューを果たすことになる。メンバーはロジャー・オデル(ドラムス)、ラレイン・オデル(ヴォーカル)、テリー・モーティマー(キーボード、ギター)、エド・リー(ベース)の4人であり、後にイアン・ハムレット(リードギター)、ジェイムズ・ゴードン(ヴォーカル)が加入した6人編成となっている。デビューアルバムである『オープン・スペーシズ』は、エンジニアとしても名高いジョー・ボイドと、フェアポート・コンヴェンションの人脈の作品を手がけたジェリー・ボーイズがプロデュースし、ブリティッシュ・ジャズロックをベースにしたブルージーなプログレッシヴサウンドとなっている。フォークという固定観念の強いトランスアトランティック・レコーズの一連の作品の中でも異色といわれたアルバムである。そしてセカンドアルバムに向けて制作を始めるが、大幅なメンバーチェンジを行っている。ロジャー・オデル(ドラムス)、ラレイン・オデル(ヴォーカル)、イアン・ハムレット(リードギター)はそのままに、新たに本作のほとんどの作曲を手がけたリチャード・ジョセフ(ヴォーカル、アコースティックギター)、元マルスピラミに所属していたリアリー・ハッソン(キーボード)、セッションプレイヤーであるスティーヴ・クック(ベース)に交代している。1973年にリリースしたセカンドアルバム『スペース・キャバレー』は、凄腕のメンバーが加入したことにより、カンタベリー系のジャズロックを加味し、様々なジャンルをバランスよく融合したプログレッシヴなサウンドに変貌している。

★曲目★
Space Cabaret(組曲「スペース・キャバレー」)
01.Space Cabaret(スペース・キャバレー)
02.Archway 272(アークウェイ 272)
03.Song From The 4th Era(ソング・フロム・ザ・フォース・エラ)
04.A Distant Thought, A Point Of Light (ア・ディスタント・ソウト、ア・ポイント・オブ・ライト)
05.Doctor,Am I Normal?(ドクター、アム・アイ・ノーマル?)
06.Dream(ドリーム)
07.Lightshine(ライトシャイン)
★ボーナストラック★
08.Heart Of The Sun(ハート・オブ・ザ・サン)

 アルバムは7曲からなる『スペース・キャバレー』という名の組曲となっており、大きくは前半の5曲と後半の2曲に分けられている。幕開けとなる1曲目の『スペース・キャバレー』は、リチャード・ジョセフとラレイン・オデルによる弾き語り風のヴォーカル曲であり、甘い雰囲気のままフェードアウトし、2曲目に移行する。2曲目の『アークウェイ 272』は、手数の多いロジャーのドラムスとリアリーのキーボードが冴えたメロディアスなヴォーカル曲であり、カンタベリー系のミュージックに良く似たジャズ風味のギターを加味した技巧的なサウンドになっている。3曲目の『ソング・フロム・ザ・フォース・エラ』はスティーヴ・クックのベースが冴えた3拍子の楽曲であり、コーラスの部分はまさにジャケットのイラストのような宇宙空間で踊っているような雰囲気のある曲である。4曲目の『ア・ディスタント・ソウト、ア・ポイント・オブ・ライト』は、リアリーのダイナミックなオルガンが聴き所となっており、テンポはゆるやかながらサイケデリックな要素のある幻想的なギターとオルガンが鳴り響き、少しずつ盛り上がっていくナンバーである。5曲目の『ドクター、アム・アイ・ノーマル?』は、アコースティックギターをベースにしたリチャード・ジョセフによるヴォーカル曲。ここでもスティーヴのベースや繊細なロジャーのドラミングなど、バックのリズム隊がしっかりと存在感を出している。後半の6曲目の『ドリーム』は、9分以上の大曲になっており、幻想的な雰囲気の中でラレイン・オデルを加えたコーラスから始まり、タイトなリズムと重いベース、エレクトリックギターが絡み合っていくナンバー。3:20あたりからファンキーな曲調に変化し、ワウワウのギターを含めたジャズエッセンスのあるヴォーカル曲になり、5分過ぎからキーボードを加味したサイケデリックなサウンドになるという、1曲に様々なジャンルの楽曲が含まれたプログレッシヴなサウンドになっている。7曲目の『ライトシャイン』も10分以上の曲であり、ピアノのように弾くキーボード上で歌うリチャード・ジョセフから始まり、流麗なキーボードソロに導かれるようにラレイン・オデルの憂いのあるヴォーカルになる。そして後半はクールなジャズロックになり、かのソフト・マシーンやキャラヴァンを彷彿するカンタベリー系のサウンドになっていく。ディストーションを利かせたオルガンを中心としたテクニカルでモダンな演奏は聴いていてワクワクするほどである。ボーナストラックの『ハート・オブ・ザ・サン』は、1972年にリリースしたシングル曲であり、ギターとキーボードを中心としたややファンキー風味のあるヴォーカル曲になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみるとジャズやフォーク、ブルース、サイケデリックといった様々なジャンルの楽曲を実にオリジナリティーあふれるアレンジで融合しているように感じる。顕著に表れているのは6曲目の『ドリームス』と7曲目の『ライトシャイン』であり、ジャズをベースに複雑な展開ながら様々なジャンルのエッセンスが効いたサウンドになっている。中でも『ライトシャイン』は、ロジャーが当初から望んでいたカンタベリー系のジャズとなっており、非常に技巧的なアレンジとなっている。

 CMUはこのセカンドアルバムをリリースした後、なし崩し的に解散してしまうことになる。理由はセールス的に芳しくなかったことと、セッション的な意味合いの強いメンバーで集められたグループであったことが大きい。ロジャーはしばらくブランクを置いてロンドンのセッションミュージシャンを集めてノーザン・ライツというグループを結成。そこにはシンガーにティナ・チャールズ、ベーシストに後のバグルスやイエスのヴォーカリストを務めるトレヴァー・ホーンがメンバーとして在籍していたという。後にチャールズとホーンが脱退し、ロジャー・オデル、ジル・セイワード、ナイジェル・ライト、スティーヴ・アンダーウッドのラインナップとなり、そのグループとは別にビル・シャープ、キース・ウィンターと共にジャズロックユニットであるトラックスを始動させている。トラックスはメンバーチェンジ後にノーザン・ライツと合体し、1980年にシャカタクとなる。シャカタクは1980年代のフュージョンブームに乗っかり、大ブレイクするグループとなる。ロジャー・オデルといえば、やはりシャカタク結成時のメンバーとして名が知れており、CMUというグループが相対的に忘れられてしまった感は歪めない。1970年代初頭のプログレッシヴロックの黄金期の中で、カンタベリー系ジャズを意識しながら、フォークやブルース、サイケデリックな音楽をブレンドした革新的な音楽を模索したCMUは、アンダーグランドに沈めておくには惜しいグループである。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は多彩なジャンルをジャズやサイケデリックなサウンドと融合したCMUのセカンドアルバム『スペース・キャバレー』を紹介しました。シャカタクといえば私も、アルバムの『Night Birds』や『Invitations』は当時よく聴いていました。というより、あの当時は音楽好きの周囲がシャカタクを聴いている人が多かったです。CMUは2007年の紙ジャケット化に伴い、『オープン・スペーシズ』といっしょに購入したものですが、このCMUがかのシャカタクのドラマーであるロジャー・オデルが在籍していたグループだとは露知らず、あれだけシャカタクが人気だったにも関わらず、ここまで浮上しなかったグループも珍しいなあと思いました。とはいえ、CMUとシャカタクのサウンドに共通点があるかといえば、う~んと言わざるを得ません。CMUはフォークやブルースのエッセンスをジャズやサイケデリックと融合したサウンドですが、このような他ジャンルを融合したプログレッシヴロックは当時多くあり、1970年初頭のあまりにも濃すぎた時代であったことを考えると埋もれてしまっても仕方が無いと思います。それでもカンタベリー系の正統なブリティッシュロックを受け継いで、革新的なサウンドを追求しようとする本アルバムを改めて聴くと、演奏レベルや楽曲センスも決して色褪せることのない素晴らしいサウンドであると気付きます。ロジャーが後にシャカタクという洗練されたジャズ・フュージョンで一世風靡しますが、激動の時代に一度はプログレッシヴなサウンドにシフトしたものの、結局、ロジャーが本来望んでいたジャズに立ち戻っただけなんだろうと個人的には思っています。

 さて、CMUがあまり注目されなかった理由のひとつとして、アルバムリリースしたトランスアトランティック・レコーズにあります。トランスアトランティック・レコーズはフォーク/トラッドの名門でして、まさかここからプログレの作品が出るとは思わなかったらしく、ファンを混乱させた可能性があります。CMUの他にもマルスピラミもそうですし、そういえば以前に紹介したグリフォンもそうでしたね。こうしたレーベルの方向性や思惑などで、本来メジャーになってもおかしくないグループが売れなかったり、解散をせざるを得ない状況を作ってしまったりすることがあるようです。

 端正で丁寧な演奏を志向しているため、同時代のプログレやサイケデリックロックにあったような派手さはないものの、フォークやブルース、ジャズをうまく溶かし込んだバランスの良いサウンドとなっています。聴いたことの無い方は、ぜひCMUのサウンドを聴いてみてくださいな。

それではまたっ!