【今日の1枚】Gryphon/Red Queen To Gryphon Three(女王失格) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Gryphon/Red Queen To Gryphon Three
グリフォン/女王失格
1974年リリース

古典音楽をルーツに
プログレッシヴにアレンジされた最高傑作

 トラディショナルミュージックをルーツとし、トラッド的な手法でテクニカルな演奏が冴えるグリフォンのサードアルバム。前作の『真夜中の饗宴~Midnight Mushrumps~』では、ロックと伝承音楽が見事にハイブリッド化されたサウンドに音楽業界が注目を集めた傑作となったが、本作ではギターやキーボードが中心となったドライヴ感あふれるプログレッシヴなサウンドとなっている。彼らのルーツである古典音楽のエッセンスとエレクトリック化されたロックのスタイルが絶妙なまでに昇華した、グリフォンの作品の中でも最高傑作と名高いアルバムである。

 グリフォンの歴史は1971年に英国王立音楽大学に在学していたリチャード・ハーヴェイとブライアン・ガランドとの出会いから始まっている。彼らはチェリー・ウッドというフォークグループにいたギタリストのグレアム・テイラーを加えて、スペルホーンというグループを結成している。後にプログレッシヴなハードロックを演奏していたジャガーナットというグループにいたドラマーのデヴィッド・オーベールを加入させて、1971年末にグリフォンという名で活動をしている。ジャズクラブやパブを中心に活動をしていた彼らは、1973年にフォーク/トラッドの名門として知られるトランスアトランティックレコードからデビューを飾ることになる。ファーストアルバム『鷲頭、獅子胴の怪獣~Gryphon~』は、全12曲の中のほとんどの楽曲が、古典やトラッド音楽をアレンジしたものになっており、メンバーのオリジナル曲は3曲のみとなったアルバムになっている。ファーストアルバムで民間の伝承音楽やトラッドの音楽を高レベルにアレンジした彼らは、次にオリジナル志向を強めることになり、オーベールと共にジャガーナットに在籍していたベーシストのフィリップ・ネスターを加入させている。ベーシストが加入したことでより躍動感のあるサウンドとなり、傑作と誉れ高いセカンドアルバム『真夜中の饗宴~Midnight Mushrumps~』を1974年にリリースすることになる。このアルバムは1曲を除いた全ての楽曲をメンバーが作曲したマテリアルとなっており、ほとんどがインストゥメンタルナンバーとなっている。タイトル曲の『シェークスピアに捧ぐ:真夜中の饗宴~Midnight Mushrumps~』は、19分に及ぶ3部構成の曲になっており、古楽を学んできた彼らがこのような楽曲を提示できたのは奇跡的である。この曲の一部がロイヤル・シェイクスピア劇団によって演じられた『テンペスト』でも使用され、この作品をきっかけに音楽業界で注目されるようになる。当時のイエスのマネージャーだったブライアン・レーンの目にも留まり、1974年秋のイエスの北米ツアーに同行することになり、このツアーをきっかけにアメリカデビューも果たしている。このアメリカデビューは、グリフォンにとって古楽のエッセンスを取り入れたプログレッシヴロックを続けるべきか、それともアメリカ市場向けのサウンドに変化していくべきかといったプレッシャーが生まれ、グループは大いに悩んだといわれている。サードアルバムとなる本作『女王失格』は、そんなグループのプレッシャーを抱える前の1974年夏ごろにリリースされたものである。本アルバムはギターとキーボードを中心としたロックというスタイルに、彼らのルーツであるトラッドの手法と古楽のエッセンスを極限にまで取り入れた、他の追随を許さないプログレッシヴロックの傑作となっている。

★曲目★
01.Opening Move(オープニング・ムーヴ)
02.Second Spasm(セカンド・スパスム)
03.Lament(ラメント)
04.Checkmate(チェックメイト)

 アルバムは10分前後の4曲のインストゥメンタルでまとめられており、それぞれレコードでいうA面、B面に2曲ずつ配置された構成になっている。メンバーは前作同様、リチャード・ハーヴェイ(リコーダー、クルムホルン、キーボード)、ブライアン・ガランド(バスーン、クルムホルン)、デヴィッド・オーベール(ドラムス)、グレアム・テイラー(ギター)、フィリップ・ネスター(ベース)の5人となっており、ゲストにアーネスト・ハート(オルガン)、ペーター・レディング(アコースティックバス)が参加している。1曲目の『オープニング・ムーヴ』は、非常に切り返しの多い複雑な展開のあるパートになっており、リコーダーとクルムホルン、バスーンといった古典的な木管楽器が独特ともいえるサウンドを生み出している。単に古典音楽に終始しているのではなく、バックにキーボードやギターを組み込み、ドライヴ感のあるスリリングな楽曲になっているのが聴き所である。2曲目の『セカンド・スパスム』は、軽快なリコーダーの音色からキーボードやギターによる重厚なサウンドに変化していく曲。トラッド的な手法でダブルリードやギターが奏でられる音楽は確かに古さを感じてしまうが、ロックというフォーマット上で練りに練られたアレンジは新感覚と言ってもよいほどのサウンドになっている。3曲目の『ラメント』は、リチャード・ハーヴェイのリコーダーが冴えた曲になっており、イギリスの宮廷音楽、もしくは中世バロック音楽にも通じる威厳あるサウンドになっている。ここでも緩急のある複雑な展開の連続となっており、彼らの類い稀なるテクニカルな演奏が堪能できる。4曲目の『チェックメイト』は、グレアム・テイラーのアコースティックギターとリチャード・ハーヴェイのフルートをメインにした、英国の田園風景を思わせるような牧歌的な印象のある楽曲。後半では叙情的なバスーンとキーボードが加わり、美しいアンサンブルを披露している。曲のタイトルを見てみるとジャケットのイラストの通り、チェスの決まり手を表した内容になっていることが分かる。1曲目の『オープニング・ムーヴ』は最初の一手であり、最後のタイトルはそのまま『チェックメイト』となっている。リコーダーやクルムホルン、バスーンといった古典的な楽器を使用しながらもトラッドを一度解体し、ロックというフォーマット上で再構築したような複雑で切り返しの多い展開は、プログレッシヴロックというジャンルの中で非常に稀である。このようなサウンドを生み出せたのは、リチャード・ハーヴェイをはじめとしたメンバーの古典音楽を基礎とした知識と演奏技術があったからだろうと思える。

 本アルバムはイギリス国内で高い評価を得て、セカンドアルバム『真夜中の饗宴~Midnight Mushrumps~』と共にグリフォンの傑作の1枚となる。1975年にはベーシストだったフィリップ・ネスターが脱退し、新ベーシストのマルコム・ベネットとアコースティックベースのジョナサン・デイヴィーが参加した4枚目となるアルバム『レインダンス』を発表する。しかし、イエスとのツアーでアメリカ市場を意識したのかよりポップなサウンドに変化した内容になっている。4枚目のアルバムをリリース後、ギタリストのグレアム・テイラーとベーシストのマルコム・ベネットが脱退。1977年にはレーベルを移籍し大幅なメンバーチェンジを行ってリリースされた5枚目のアルバム『反逆児~Treason~』は、ヴォーカルをフィーチャーしたロック&ポップなスタイルになっている。時代の流れとはいえ、すでにプログレッシヴなサウンドの面影は無くなり、他のプログレグループと同じようにパンク/ニューウェイヴの影響もあって、グループはその年に解散することになる。解散後のメンバーのうち、リチャード・ハーヴェイはソロアーティストとしてTVのサウンドトラックを中心とした作品を多く残しており、グレアム・テイラーはアーシュリー・ハッチングスのアルビオン・バンドやホーム・サーヴィスといったグループでプレイしている。解散から30年以上経った2007年に、ウェブサイト上でグリフォンの再結成を突然発表し、ロンドンのクイーン・エリザベス・ホールで最後の公演から実に32年ぶりとなるコンサートを開催している。メンバーはリチャード・ハーヴェイとブライアン・ガランド、グレアム・テイラー、デヴィッド・オーベールのオリジナル4人が集まり、ファーストアルバム『鷲頭、獅子胴の怪獣』のナンバーを披露。その後、ベーシストのジョナサン・デイヴィー、キーボード奏者にグラハム・プレスケットが加わり、2015年まで精力的にライヴ活動を行う。2018年にはタイトなスケジュールのためにリチャード・ハーヴェイはグループを去ってしまうが、新しいメンバーと共に制作されたアルバム『ReInvention~再確立~』をリリースしている。また、2020年には最新アルバム『Get Out Of My Father's Car! 』を発表し、グループの健在ぶりをアピールしている。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はトラディショナルミュージックをルーツに、木管楽器を多用した古典的な音楽とエレクトリックなロックの融合によって究極的なサウンドとなったグリフォンの『女王失格』を紹介しました。前作の『真夜中の饗宴~Midnight Mushrumps~』は、まさに中世ルネッサンスを思わせる宮廷音楽のようなサウンドが魅力的でしたが、本アルバムはエレクトリックギターとキーボードを多用し、よりドライヴ感のあるロックが息づいた作品になっています。リズム的なギターやベース、ドラミングのほうに耳が寄ってしまいますが、リコーダーやクルムホルン、バスーン(ファゴットのようなもの)をテクニカルに演奏しつつ、切り返しの多い高速でスリリングな展開は、まさにプログレッシヴロックであると言わざるを得ません。一瞬、クラシックの室内楽を思い浮かべてしまいますが、ベースとドラムがロックのフォーマット上で演奏されているので、聴いていて異様にテンションが上がります。トラッド的な手法でここまでクオリティの高いサウンドは、当時のプログレッシヴロックの中でも一級品に仕上がっていると思います。

 さて、グリフォンはアルバムを聴いてのとおり、古典的な音楽のアレンジや高い演奏力は見事なものですが、そこには彼らの英国王立音楽大学時代から培われたライヴパフォーマンスにあります。1974年7月に『真夜中の饗宴~Midnight Mushrumps~』のアルバムリリース後に、オールド・ヴィック・シアターを拠点とするロイヤル・シェイクスピア劇団によって、一部の曲が『テンペスト』で使用されたことは上記でも書きました。この公演が評判を呼び、グリフォンがオールド・ヴィック・シアターで日曜夜のコンサートを開催できるようになったのですが、これは英国の国立劇場で開催された史上初のロックコンサートだったそうです。このコンサートでイエスのマネージャーを務めていたブライアン・レーンの目に留まることになったわけです。また、2000年代に入ってグリフォンが演奏したBBC音源が発掘され、Huxレコーズからリリースされているようで、ここでも高いライヴパフォーマンスを披露していて、彼らの実力が再評価されているそうです。多くのプログレッシヴロックの中でも今イチ、メジャーになり切れないグリフォンですが、個人的にもっと評価されても良いグループだと思います。

それではまたっ!