【今日の1枚】Hölderlin/Hölderlins Traum(ヘルダーリンの夢) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Hölderlin/Hölderlins Traum
ヘルダーリン/ヘルダーリンの夢
1972年リリース

フォークロックに弦楽器やメロトロンを

掛け合わせた幽玄な音世界

 1970年代のドイツの至宝的レーベルの1つであるPILZの作品の中で、とりわけ評価の高いフォークロックグループ、ヘルダーリンのデビューアルバム。フォークロックをベースに弦楽器やメロトロンが絶妙に掛け合わされ、幽玄な音世界を作り出すドイツロマン主義を思わせる美しいサウンドが魅力となっている。紅一点のナニー・デ・ルイグの清楚で哀愁のあるヴォーカルは、あまりに劇的な1曲目からラストまで一気に聴かせたジャーマンフォークロックの傑作となっている。

 ヘルダーリンは1970年頃、ヨアヒム・ヴォン・グルンプコウとクリスチャン・ヴォン・グルンプコウの兄弟と、後にクリスチャンと結婚するオランダ生まれのナニー・デ・ルイグを中心に、ドイツのデュッセルドルフから東にある地方都市、ウッペルタールで結成されている。当初はドイツの詩人であるフィードリヒ・ヘルダーリンの歌詞を乗せた、英米のトラディショナルなフォークロックといったユニークなサウンドだったが、ヨアヒムがジャズやクラシックの要素を加味できないかと考え、弦楽器やメロトロンといった楽器を導入している。地元を中心に活動をしていたヘルダーリンは、今までフォークデュオのヴィットヒューザー&ウェストルップやインド音楽をベースにしたブレッセルマシーンといったグループを輩出していたPILZレーベルに参入する。PILZレーベルはドイツ音楽界の大御所であるロルフ=ウルリッヒ・カイザーが、1971年に築いたドイツのレコードレーベルであり、後にポポル・ヴーといった有名なグループも世に送り出している。ヘルダーリンは1971年にメンバーが固まったことで、PILZレーベルよりデビューアルバム『ヘルダーリンの夢』を発表する。メンバーはナニー・デ・ルイグ(ヴォーカル)、ヨアヒム・ヴォン・グルンプコウ(チェロ、キーボード、メロトロン、オルガン、アコースティックギター)、クリスチャン・ヴォン・グルンプコウ(ギター)、クリストフ・ノッペニー(ヴィオラ、ヴァイオリン、キーボード、フルート)、ピーター・カッシム(ベース)、マイケル・ブルックマン(ドラムス)の5人である。本アルバムは詩人ヘルダーリンに捧げられた厳かな内容になった作品であるが、フォーク調のギターとリズムを強調したベースとパーカッション、弦楽器とメロトロンを駆使した、これまでのフォークロックのイメージを覆すオリジナリティーあふれるサウンドになっている。
 
★曲目★
01. Waren Wir(私たちは)
02. “Peter” (“ペーター”)
03. Strohhalm (ストロー)
04. Requiem Für Einen Nicht(何も無い人のレクイエム)
05.Erwachen(目覚め)
06.Wetterbericht(天気予報)
07.Traum(夢)

 アルバムの1曲目の『私たちは』は、リリカルなアコースティックギターと弦楽器が鳴り響き、何よりもナニーの哀愁あふれるヴォーカルが素晴らしい曲。途中からメロトロンとアコースティックギター、フルート、オルガンによるアンサンブルは、まさにシンフォニックロックといっても良いほどの重厚なサウンドになっている。この曲でヘルダーリンが単なるフォークロックグループではないことが良く分かる。2曲目の『“ペーター”』はアコースティックギターによるヴォーカル曲になっており、清楚なナニーの歌声を強調した曲になっている。3曲目の『ストロー』は、ギターのアンサンブルにフルートをフィーチャーした曲。短い曲だがタブラやシタールをはじめとした弦楽器が配置されており、異国情緒のあるトラディショナルなサウンドになっている。4曲目の『何も無い人のレクイエム』は、ヴィオラ、フルート、ヴァイオリンの弦楽器をメインにした荘厳なヴォーカル曲になっており、リリカルなアコースティックギターとヴァイオリンの掛け合いが一級品の曲になっている。ここでは手数の多いドラムが強調され、より厚みのあるクラシカルなロックになったアルバムの中で最も聴き応えのある幻想的な楽曲になっている。5曲目の『目覚め』はフルートのソロから始まり、まさに夜から朝にかけた空間を表したような曲。ヴァイオリンとアコースティックギター、オルガンが優しく奏でられ、ナニーの厳かなヴォーカルが非常にマッチした美しい曲になっている。6曲目の『天気予報』は、リリカルなアコースティックギターと哀愁を秘めたナニーの歌声がオーヴァーラップした曲になっており、厳格なフォークロックを強調した内容になっている。7曲目の『夢』は、荘厳な響きのあるアコースティックギターの調べから、ドラムを中心としたリズムやフルート、弦楽器が加わってシンフォニックロック調に展開していくインストゥメンタル曲。クリストフ・ノッペニーの情緒豊かなヴァイオリンが素晴らしく、ラストまで躍動感あふれるハイテンションな演奏を繰り広げてくれる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、アコースティックギターを基調としたフォークロックでありながら、弦楽器やメロトロンを加えたクラシカルな演奏は、静と動のドラマティックな展開のあるシンフォニックロックといっても過言ではない。本作で脱退するナニーの歌声とギターによる幽玄な調べはかつてのフォークロックを凌ぐ演奏であり、まさにドイツロマン主義を象徴する傑作である。

 本アルバムをリリース後、ヴォーカルを務めたナニー・デ・ルイグが脱退。ヴォーカルが脱退したことでわずか1作でトラディショナルなフォークロックから方向転換を余儀なくされ、ジャズやロックを取り入れるようになる。そしてグループ名をドイツ語だった「Hölderlin」から「Hoelderlin」に変更。さらに所属レーベルもPILZからスピーゲライ(Spiegelei)へ移籍し、新メンバーを募って装いも新たにヘルダーリンは再出発を図ることになる。1975年には3年のブランクを経て、ジャーマンロックシーンにおける重要人物である音の魔術師コニー・プランクの手を借りて制作されたセカンドアルバム『Hoelderlin』を発表し、よりシンフォニックな作品となってドイツで注目を浴びることになる。この後ヘルダーリンは1976年に『Clowns & Clouds(道化師と雲)』、1977年に『Rare Birds』とコンスタントにアルバムをリリースし、1978年には中期ヘルダーリンを総括する2枚組ライヴアルバム『Hoelderlin Live Traumstadt』が発表される。その後、コマーシャル的な作りとなってプログレ色は少なくなるが、メンバーチェンジを経て1979年に『New Faces』を発表し、公式のスタジオアルバムとして最後となった『Fata Morgana』を1981年にリリースして解散している。しばらくメンバーの動向は不明だったが、1976年にアルバム『Clowns & Clouds(道化師と雲)』でベースとギター、ヴォーカルを務めたハンス・バールとドラマーのマイケル・ブルックマンを中心にヘルダーリンが2005年に再結成されている。そのアルバムにはゲストでクリストフ・ノッペニーやナニー・デ・ルイグが参加した通算8作目となるアルバム『8』のリリースを果たしている。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はドイツのロマン主義を思わせるトラディショナルフォークロックグループ、ヘルダーリンのデビューアルバム『ヘルダーリンの夢』を紹介しました。当初トラッド/フォークというと英国のペンタングルやダルシマー、スパイロジャイラ、メロウ・キャンドルといったアコギを中心としたメロディアスなサウンドをイメージしますが、ヘルダーリンはそこに弦楽器やメロトロンをフィーチャーしたシンフォニックロックといっても良いサウンドになっているのが特徴です。トラッド/フォークをメインに扱うPILZやSpiegeleiのレーベルからのリリースだったため、トラッド/フォークのグループとして取り扱われていますが、そんな枠に当てはまらないほどプログレッシヴなサウンドです。女性ヴォーカリストのナニー・デ・ルイグが参加した唯一のアルバムですが、幽玄なフォークロックのスタイルを維持しつつ、弦楽器やメロトロンを大胆に取り入れながら重厚なサウンドになっており、これまでの1970代年初期のドイツに多く存在したフォークロックを覆す画期的なサウンドになっていると私は思います。特にナニー・デ・ルイグが脱退したセカンドアルバムは、より顕著に表れたシンフォニックになっており、ドイツを代表するプログレッシヴロックの1つとなったほどです。本アルバムはそういったドイツの変動期にあたる音楽シーンを物語る重要な作品となっています。

 ヘルダーリンが最初に所属していたPILZレーベルですが、上記にもありますようにドイツ音楽界の大御所であるロルフ=ウルリッヒ・カイザーが、ドイツの大手レコード会社「BASF」のサブ部門として1971年に築いたドイツのレコードレーベルです。レーベルのロゴはキノコで、スリーヴとレコードのラベルに描かれていることで有名です。全20タイトルを輩出しており、ヴィットゥーザー&ヴェストルップやブレッセルマシーンといったトラッドフォークグループの他に、ワールドミュージックを展開するポポル・ヴー、後にクラウトロックの代表グループとなるヴァレンシュタインのアルバムもリリースしています。ほとんどはフォークの影響を受けたサイケデリックロックやコズミックロックがメインでになっています。いくつかのアルバムは高い評価を得て成功していたPILZレーベルですが、1972年にリリースしたポポル・ヴーの『Hosianna Mantra(ホシアナ・マントラ)』を最後にレーベルを閉じることになります。理由は諸説ありますが、ヘルダーリンがデビューアルバムをリリースした後に、PILZレーベルの創設者であるロルフ=ウルリッヒ・カイザーを訴えたことが始まりだそうです。原因は不明ですが、この訴訟によってPILZレーベルは無くなる事になります。ヘルダーリンがセカンドアルバムまで3年のブランクがあったのは、この訴訟による時間にとらわれていたからというのが一般的な話になっています。

 とはいえ、美しいギターによる幽玄な調べといい、ドイツ語の響きとマイナー調のメロディやチェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンといった弦楽器のアレンジの相まった重厚なサウンドは新鮮です。ぜひ、ヘルダーリンの独特のフォークロックをその耳で聴いてほしいです。

それではまたっ!