【今日の1枚】Reale Accademia Di Musica/Same | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Reale Accademia Di Musica/Reale Accademia Di Musica
レアーレ・アカデミア・ディ・ムジカ/ファースト
1972年リリース

繊細なピアノと重厚なオルガンによる
儚さを演出したメロディが特徴のデビュー作

 その繊細で美しく叙情性を秘めた楽曲から今でも高い人気を誇るイタリアンロックグループ、レアーレ・アカデミア・ディ・ムジカの1972年のデビュー作。キーボーディストのフェデリコ・トロイアーニのオルガンとピアノによるリリカルなメロディを中心に、それを包むようなギターや優しいヴォーカルが幻想的な世界に誘ってくれる。春から初夏に向けたイタリアの風土や自然を曲にし、テクニカルな楽曲が多いイタリアにおいて感覚的な楽曲に比重を置いた傑作である。

 レアーレ・アカデミア・ディ・ムジカは元々、フォークスというローマ出身のグループに遡る。フォークスはイタリアン・ロックシーンの黎明期にあった古参のグループの1つであり、メンバーはヘンリク・トペル・カパネス(ヴォーカル)、フェデリコ・トロイアーニ(キーボード、ヴォーカル)、ペリクレ・スポンズィッリ(ギター)、ピエルフランコ・パヴォーネ(ベース)、ルッジェーロ・ステーファニ(ドラムス)の5人である。彼らは当時、イタリアですでに名声を得ていたエキペ84のリーダー格であったマウリツィオ・ヴァンデッリに見出され、約4年のあいだにローマを中心に活動をし、かのジミ・ヘンドリックスのサポート・アクトも務めたといわれている。彼らは1970年初頭にイタリアで行われたカラカリア・アンド・ヴァルドや1971年のヴィレッジオ・ポップ・フェスティバルといったメジャーなフェスティバルに参加して人気を高めていったという。しかし、4年という長きにわたって活動してきたがアルバムのリリースは無く、マウリツィオ・ヴァンデッリの紹介でコルディ・レーベルからアイアン・バタフライの『ソルジャー・イン・アウア・タウン』のイタリア語ヴァージョンである『Mi Scorri Nelle Vene』のシングルをリリースしただけだったという。後にやっと英詩によるアルバム制作に取り掛かることになったが、レコーディング中にグループの分裂騒動が起こり、テクニカル嗜好だったドラムスのルッジェーロ・ステーファニが脱退するなど、フォークスとしての活動は終止符を打つことになる。残ったメンバーはグループ名をレアーレ・アカデミア・ディ・ムジカと改名し、新ドラマーにロベルト・センツァソノを加入させている。改めてプロデューサーにマウリツィオ・ヴァンデッリが担当して本作品のレコーディングを行うことになる。しかし、ここでもギタリストのペリクレ・スポンズィッリが脱退してしまい、代わりに後にバンコに発展するグループ、レ・エスペリエンツェのギタリストのニコラ・アグリミを迎えて録音をしている。こうして完成したアルバムは、フェデリコ・トロイアーニのキーボードやピアノを大幅にフィーチャーし、繊細で叙情的ともいえるメロディ主体の幻想的なサウンドになっている。

★曲目★
01.favola(伝説)
02.Il Mattino(朝)
03.Ognuno Sa(各人)
04.Padre(父)
05.Lavoro In Citta'(街での仕事)
06.Vertigine(めまい)

 アルバムの1曲目の『伝説』は、リリカルなアコースティックギターから始まり、ヘンリクの憂いのあるヴォーカルが全編にあふれた曲である。途中から入るキーボードが幻想的で優しい雰囲気に包まれたメロディーが特徴になっている。2曲目の『朝』は、流麗なピアノとアコースティックギターをベースにしたヴォーカル曲で、フェデリコの奏でる天空から響くような不思議な調べのある美しいピアノが堪能できる。後半はドラムとベース、エレクトリックギターを交えたアンサンブルに昇華し、9分近くある長い曲でありながら音楽的恍惚を表現した素晴らしい曲である。3曲目の『各人』は、一転してピアノとギターをメインにした明るいイタリアンポップになった曲。ここでもフェデリコのブルース調のピアノを聴くことができる。4曲目の『父』は、キーボードによる荘厳なクラシカルさとギターによるへヴィさが同居した楽曲になっている。ニコラのブルース調のギターが哀愁に満ちており、それを追随するかのようなヘンリクの切々としたヴォーカルが印象的である。後半のフェデリコの幻想的なオルガンはまるで天空に誘うかのようである。5曲目の『街での仕事』は、フェデリコのピアノソロから始まり、序盤は淡々としたヴォーカルとややアヴァンギャルドが加味された楽曲になっており、後半ではイタリアのカンタトゥーレを意識したような牧歌的な美しいヴォーカル曲になったユニークな楽曲になっている。6曲目の『めまい』は、フェデリコの重厚なキーボードを主体としたプログレッシヴハードロックになっており、緊張感あふれるフレーズが続くミステリアスな展開が素晴らしく、キーボーディストであるフェデリコの腕前が存分に発揮された楽曲になっている。こうして聴いてみると、繊細で叙情的なフェデリコのピアノやキーボードが大きくフィーチャーされたことが功を成しており、特にインストゥメンタルパートでは2曲目の『朝』に象徴されるコーラスを巧みに利用したピアノによる美しいパッセージは見事としか言うほかは無い。喧騒とした都市から離れたイタリアの紺碧の夏の空を思い浮かべるようなノスタルジーさと、何とも言えない天空を誘うかのようなファンタジックさがある不思議なイメージこそ、本アルバムの最大の魅力であると思える。

 本アルバムのリリース後、しばらくはイタリア国内でギグを行うなどの活動をしていたが、ギタリストとベーシスト、ヴォーカリストがグループから離れ、残ったキーボーディストのフェデリコ・トロイアーニとドラマーのロベルト・センツァソノの2人となる。1974年にはギタリストのアドリアーノ・モンテドゥーロと共にアルバムを制作を開始し、彼の名を使ったタイトル『アドリアーノ・モンテドゥーロ&レアーレ・アカデミア・ディ・ムジカ』を発表する。このアルバムは山奥で遊ぶ小人たちを描いたファンタジックな作品になっており、フォークをベースにしているがフェデリコの雄大なキーボードプレイを大胆に取り入れた作品になっている。後に彼らは女性シンガーのNADAの1975年のアルバム『1930:Il Domatore Delle Scimmie』のバックを務めた後に解散し、レアーレ・アカデミア・ディ・ムジカとしての活動に終止符を打っている。キーボーディストのフェデリコ・トロイアーニはソロ活動に入り、『Strade』や『Federico Troiani』、『Hotel Eden』といったアルバムを1980年代初頭までリリースしている。また、1970年代活動期に録音されながら未発表に終わった幻のスタジオ作が発掘され、2013年に『LA COMETA』というタイトルでリリースされている。アコースティックかつ夢想的な音楽性ながら、よりカラフルに洗練された叙情的なサウンドになっており、事実上、レアーレ・アカデミア・ディ・ムジカのサードアルバムとして紹介されている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は数あるイタリアンロックの中でも最もリリカルでノスタルジックな楽曲が胸を打つレアーレ・アカデミア・ディ・ムジカのデビューアルバムを紹介しました。彼らのアルバムはアコースティックなピアノとギターを中心としており、まさに心が洗われるような美しいサウンドが特徴となっています。それでもフェデリコのピアノとオルガンは天空から響くような不思議な音色になっていて、テクニカルな印象の多いイタリアンロックグループの中でも、これだけ恍惚的というか感覚的なメロディを表現するのはなかなか少ないと思います。アルバムジャケットを眺めると、人気のいない亜空間で繰り広げられるマリオネットの踊り、それを壁越しで覗く獣人となっていて、まるで地方の田舎の人たちが何かに操られて過ごす都市部の人たちを揶揄しているようにも見えます。この不思議な空間こそが古臭いノスタルジックさと荘厳なファンタジックさが同居したレアーレ・アカデミア・ディ・ムジカの音楽性となっている気がします。

 1972年のイタリアの音楽シーンでは、これまでイギリスのロックに憧れて演奏するグループが多かったのですが、プログレッシヴロックを標榜とする新しいグループが誕生し、急激に変化していった時代です。彼らの母体であるフォークスは英語の歌詞で歌っていましたが、レアーレ・アカデミア・ディ・ムジカでは全編イタリアの歌詞になっています。理由はかっこいいと思っていた英語の歌詞から、イタリア人としてのアイデンティティが求められる楽曲へと音楽的価値観の変化があったからです。上記にもあるようにエキペ84という当時の人気グループでさえ、プログレッシヴなアルバムを制作しなくてはいけない風潮があったほどの大きな流れであり、まさにイタリアの音楽シーンの転換期となった時代ともいえます。ヴォーカルを務めたヘンリク・トペル・カパネスはスペイン人です。彼のイタリア語で歌う憂いのあるヴォーカルは、フェデリコのキーボードと相まって、そんな急激なイタリアの音楽シーンの変化に逆らうかのような夢心地な空間を作り上げています。

 決して派手さはないですが、イタリアの伝統と幻想美、そして叙情的な感覚を表現した本アルバムはイタリアンプログレッシヴロックの中でも異彩を放っています。ぜひ、フェデリコの美しいキーボードを中心とした美しいサウンドを聴いてみてください。

それではまたっ!