【今日の1枚】The Greatest Show On Earth/Horizons | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

The Greatest Show On Earth/Horizons
グレイテスト・ショウ・オン・アース/ホライゾンズ
1970年リリース

叙情美やヘヴィネスさが光る
屈折感に満ちあふれたジャズロックグループ

 女性の眼球の瞳の部分にメンバーたちが写りこむという、ヒプノシスの手による強烈なインパクトのカヴァーデザインを象徴としたグレイテスト・ショウ・オン・アースのデビューアルバム。スプーキー・トゥースを思わせるブラスセクションを加えたバラエティーあふれるジャズロックであり、その淡いトーンの荘厳なオルガンやブラスによるアンサンブル、タイトなドラム、スリリングなギターなど、陰影と気品を持った英国らしいメロディを持った傑作となっている。後にパブロックの代表グループとなるイアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズのメンバーとなるベーシストのノーマン・ワット・ロイが所属していた貴重なアルバムでもある。

 グレイテスト・ショウ・オン・アースの前身は、1968年に結成されたソウルミュージックグループのリヴィング・ディライツである。メンバーはインド生まれのノーマン・ワット・ロイ(ベース)、ガイス・ロット・ワイ(ギター)の兄弟を中心に、マイク・ディーコン(キーボード)、ロン・ブルーデンス(ドラムス)、そしてディック・ハンソン(トランペット)、テックス・フィルポッツ(サックス)、イアン・エイチスン(サックス)の3人のブラスホーンプレイヤー、さらにアメリカのニューオーリンズの黒人ヴォーカリスト、オジー・レインを加えた8人である。当初はこのメンバーで活動を開始していたが、ヴォーカリストのオジー・レインがアメリカに帰国することになり、代わりにイギリス人のコリン・ホートン・ジェニングスが加入する。この時点でグループはソウルミュージックから、新たな音楽性へと変化していくことになる。1970年にはプログレッシヴロックやハードロックなどのグループに対応するために設立したEMI傘下のレーベルであるハーヴェストと契約し、2月にリリースしたデビューシングルがヨーロッパでスマッシュヒットとなる。そうした経緯からすぐにアルバムの制作に着手し、彼らを見出したジョン・ピールがプロデューサーに迎えられ、1970年10月にアビィ・ロード・スタジオでレコーディングが開始される。6日間という短いスケジュールだったが、完成されたアルバム『ホライゾンズ』は、オルガンロックやジャズ、ソウル、R&Bをミクスチャーしたようなサイケデリックでアイデア満載の画期的な作品となっている。

★曲目★
01.Sunflower Morning(サンフラワー・モーニング)
02.Angelina(アンジェリーナ)
03.Skylight Man(スカイライト・マン)
04.Day Of The Lady(デイ・オブ・ザ・レィディ)
05.Real Cool World(リアル・クール・ワールド)
06.I Fought For Love(アイ・フォウト・フォー・ラヴ)
07.Horizons(ホライゾンズ)
08.Again And Again(アゲイン・アンド・アゲイン)

 1曲目の『サンフラワー・モーニング』は、荘厳なオルガンとタイトなドラムを中心としたヴォーカル曲で、叙情的ともいえるギターワークが冴えたブリティッシュロックになっている。コリンのヴォーカルが英国然とした陰鬱と気品さに満ちあふれており、曲を格調高いものにしている。2曲目の『アンジェリーナ』は、アコースティックギターとホーンセクションをメインとしたメロディアスなナンバー。ノーマン・ワット・ロイの推し進めるソウルフルな要素とジャズ要素を複雑にミックスされた内容になっている。3曲目の『スカイライト・マン』は、変拍子のあるノーマンのベースを中心としたリズムセクションとハードなギター、クラシカルなオルガンが複雑に入り乱れるファンキーな曲。その中で歌う憂いのあるヴォーカルが絶品であり、なかなか聴き所の多い楽曲である。4曲目の『デイ・オブ・ザ・レィディ』は、ディック・ハンソンのトランペットとアコーディオンから始まり、何とアコースティックギターとハープシコードによる美しいストリングスを聴かせてくれる叙情性たっぷりのナンバー。5曲目の『リアル・クール・ワールド』は、オルガンとギター、ブラスセクションによるヘヴィネスなアンサンブルであり、独特とも言えるメロディが全体を覆った内容になっている。中盤にはスリリングなガイスによる素晴らしいギターソロが堪能できる。6曲目の『アイ・フォウト・フォー・ラヴ』は、クラシカルで流暢なオルガンから始まり、緩急のある楽曲の中でギターとブラスセクションが交互に加わるサイケデリック風のプログレッシヴロックになっている。7曲目の『ホライゾンズ』は13分を越えるナンバーで、本アルバムのハイライトである。荘厳なオルガンから始まり、序盤はブラスセクションとオルガンによるロックになっており、ロン・ブルーデンスによる3分近い超絶なドラムソロを経て、パーカッションとフルートを中心としたジャズをはじめ、タイトなリズム上で高らかに響き渡るギターと重々しいオルガンといった、一言では言い表せない様々な要素が詰まった楽曲になっている。後半はブラスセクションとオルガンによるブリティッシュロックになっており、最後にチャーチオルガンで締めるユニークさがある。8曲目の『アゲイン・アンド・アゲイン』は、アコースティックギターをベースにしたヴォーカル曲であり、アルバムの中でも1、2を争うメロディアスな曲になっている。こうして聴いてみると、ブリテイッシュ然としたブラスロックでありながら、様々な要素をミクスチャーしたバラエティーあふれる音楽となっているといえる。何よりも曲を古くさせがちなブラスセクションが活きており、スリリングなギター、クラシカルなオルガンが入り乱れた当時の英国の屈折したサウンドが醍醐味となった作品である。

 本アルバムはヒプノシスの強烈なカヴァーデザインもあって受け入れられ、プログレッシヴな音楽として高く評価される。続いて同年にセカンドアルバム『ザ・ゴーイングス・イージー』をリリースするものの、ファーストと同じく8人のメンバーを維持するヒットに結びつかず、1971年にはグループが解散する流れになってしまう。ロン・ブルーデンスとテックス・フィルポッツ、イアン・エイチスンの3人は音楽業界から去ってしまうが、残るメンバーは次なるステップに移行している。ヴォーカリストのコリン・ホートン・ジェニングスは、チェイサーへの加入を経て、元グレイシャスのティム・ウィートリーと共にタゲットというグループを結成し、グレイテスト・ショウ・オン・アースのサウンドを引き継ぐアルバムを残している。ギタリストのガイス・ワット・ロイは、ハードロックグループであるファジー・ダックに加入して、1971年にアルバムをリリースしている。後に彼は1972年のスティーム・ハマーのラストアルバムや1975年のイースト・オブ・エデンのドイツEMIのアルバム、1977年のライミイのセカンドアルバムやマーマレードのアルバム、1981年にはボニー・タイラーのアルバムにも参加している。キーボーディストのマイク・ディーコンは、ロバート・パーマーとエルキー・ブルックスという二枚看板のヴォーカリストを擁したヴィネカー・ジョーというグループのセカンドアルバムに参加。様々なグループのアルバムに参加を経て、1977年にはジンジャー・ベイカーやスージー・クアトロのアルバムにも参加している。トランペッターのディック・ハンソンはセッションプレイヤーとなり、グラハム・パーカーやディヴ・エドモンズといったメンバーとレコーディングツアーに参加している。ベーシストのノーマン・ワット・ロイは、グループ解散後にジョン・ターンブルらとグレンコウというグループを結成。2枚のアルバムを残した後、チャーリー・チャールズとミッキー・ギャラガーを加えたラヴィング・アウェアネスを結成してアルバム1枚リリースし、イアン・デューリー&チャズ・ジャンケルと合流してイアン・デューリー&ブロックヘッズとして活動する。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1970年という複雑な音楽シーンの中で産み落とされたファンキーなプログレッシヴロックグループ、グレイテスト・ショウ・オン・アースの『ホライゾンズ』を紹介しました。アルバムジャケットは見ての通り、鬼才ヒプノシスのジャケットアートが強烈で、これまでリリースされてきたアルバムの中でもトップクラスのインパクトです。女性の瞳に魚眼で映りこむメンバーの写真は合成ですが、もし、レコードで持っていたら呪われそう…もとい、見つめられて気になって仕方が無いのではと思うほど存在感があります。アルバムはブリティッシュロックをベースにしたブラスセクションを加えたジャズ、R&B、ソウルなどの様々な要素をミックスしたファンキーなプログレッシヴな内容になっており、一言では言い表せないサウンドになっています。1曲1曲はメロディアスなヴォーカル曲かと思ったら、変拍子を含めた複雑な展開があったり、ソロ演奏や独特なアンサンブルがあったりするなど、単なるブリティッシュロックに捉われない屈折感が漂っています。ベーシストのノーマン・ワット・ロイが推し進めていくソウルフルな要素やブラスセクションの持つジャズテイストの要素、荘厳なオルガンによるクラシカルな要素が複雑に組み込まれ、後のミクスチャーサウンドの先駆けと言っても良い内容になっています。そういう意味では、このアルバムはやはり時代が産み落としたプログレッシヴなサウンドであると私は認識しています。

 アルバムの中でもひと際存在感のあるベースを披露するノーマン・ワット・ロイですが、解散後に様々なグループを経てパブロックの代表グループであるイアン・デューリー&ブロックヘッズで活動していくことを上記でもお伝えしました。彼は他にも様々なグループのレコーディングにも参加しており、意外なところではイギリスのニューウェイヴのグループであるフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの1983年のシングル『リラックス』の印象的なベースが、ノーマンのものらしいです。気になった方は本アルバムと合わせて聴いてみるといいかも知れません。

それではまたっ!