【今日の1枚】Clearlight/狂った猿の物語 | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Clearlight/Les Contes Du Singe Fou
クリアライト/狂った猿の物語
1976年リリース

トリプルキーボードによるスリリングな
シンフォニックロックになったグループの最高傑作

 1960年代末から1970年代にかけてのフレンチ・サイケデリアの中心人物であり、作曲家兼キーボード奏者のシリル・ヴェルドー率いるクリアライトのサードアルバム。ティム・ブレイクを含むトリプルキーボードを擁し、前作よりもクラシカル要素が増したことにより、クリアライト史上最もシンフォニックロック色の強い傑作となった作品である。本アルバムではヴォーカル曲が多くなり、人類によるさらなる高次への探求を位置づけたスピリチュアルな歌詞が作品に深みを与えている。

 グループの中心人物であるシリル・ヴェルドーは、フランスのパリに生まれて14歳の時にフランス国立音楽学校に入学して作曲、和製学、ピアノを学びつつ、学生運動の高まりの中で革命運動に加わったことで放校処分となった経歴を持っている。ニース音楽学院に移ったシリルは修士号を取得後にパリに戻り、バビロンというグループでギタリストを務めていたクリスチャン・ブーレと知り合ったことで、積極的にジャズやクラシック音楽をベースに電子音楽や東洋思想が練りこまれたサウンドを披露し、1960年代末から1970年代にかけてのフレンチ・サイケデリアの鬼才と呼ばれるようになる。その後、クリアライトというグループ名でヴァージンレコーズと契約を結ぶことになるが、当時、新興のレーベルだったヴァージンレコーズが推していたマイク・オールドフィールドの『チューブラーベルズ』に影響され、1975年にリリースされたファーストアルバム『クリアライト・シンフォニー』は、まさに『チューブラーベルズ』と同じレコードのA面、B面にそれぞれ1曲を擁した構成のアルバムとなっている。完成したアルバムはロマン主義的な色彩を持つ美しいサウンドが評判を呼び、その年に行われたゴングとのツアーも成功。そして同年にリリースされたセカンドアルバム『フォーエヴァー・ブローイング・バブルズ』は、デヴィッド・クロスなどを迎えて、ジャズテイストの強い作品となっている。この初期2作品は日本でも発売され、ゴングやアンジュ、タイ・フォン、ピュルサー、モナ・リザと共にフレンチ・プログレッシヴロックのひとつとして高く評価される。さらに同年の1975年にEMIレコーズからリリースされたサントラ盤『Delired Cameleon Family』では、彼のルーツであるサイケデリアに真っ向から取り組んでおり、彼の多才ぶりが改めて認識された作品となっている。そして1976年にレーベルをIsadoraに移して、初ともいえるヴォーカル入りのサードアルバム『狂った猿の物語』をリリースする。このアルバムはティム・ブレイク、フランソワ・マンダンと共にトリプルキーボードを擁し、ヴァイオリン奏者のディディエ・ロックウッドを迎えて作られ、クラシカルな曲調をメインとした壮大なシンフォニックロックとなっており、グループの最高傑作と呼ばれたアルバムである。
 
★曲目★
01. The Outsider(ザ・アウトサイダー)
02. A Trip To The Orient(東方への旅)
03. Lightsleeper's Despair(ライトスリーパーの落胆)
04. Soliloque(独り言)
05.Time Skater(組曲「タイム・スケイター」)
 a.Prelude(前奏曲)
 b.Countdown To Etemity(永遠のカウントダウン)
 c.The Cosmic Crusaders(宇宙十字軍)
 d.Stargazer(スターゲイザー)
 e.Return To The Source(根源の回帰)

 1曲目の『ザ・アウトサイダー』は、リリカルなピアノから始まるヴォーカル曲になっており、何よりもイアン・ベラミーのジェネシスのピーター・ガブリエルを彷彿とさせるヴォーカルが素晴らしい。中間のキーボードとピアノによるテクニカルなアンサンブルは非常に格調の高いシンフォニックロックとなっており、前2作品との違いを明確に表した曲となっている。2曲目の『東方への旅』は、ロマンティックなシリルのピアノとディディエの即興的なヴァイオリンのインタープレイが聴けるインストゥメンタル曲。オリエント色はそれほど強くはなく、クラシカルでありながら浮遊感を感じられる内容になっている。3曲目の『ライトスリーパーの落胆』は、イヴ・シュアールのギターがフィーチャーされたヴォーカル曲になっており、力強いドラミングとギター、キーボードのスリリングなアンサンブルは圧巻である。4曲目の『独り言』は、流麗なピアノをメインとしたクラシカルなインストゥメンタルナンバー。まさにシリルらしいロマンティズムに満ちあふれた美しい楽曲で、ヴァイオリンとの協奏は絶品である。5曲目の『タイム・スケイター』は5章からなる組曲となっており、1章目の『前奏曲』は、ハープシコードを用いたバロック調となった曲になっており、2章目の『永遠のカウントダウン』はイントロがジェネシスの曲の『Supper's Ready』を意識したかのようなヴォーカル曲であり、ピアノとヴァイオリンがエネルギッシュに繰り広げられる素晴らしい楽曲になっている。3章目の『宇宙十字軍』は、ピアノソロから始まり、徐々にテクニカルなジャズロックに変貌していく楽曲。変拍子のあるリズムからのディディエの即興的なヴァイオリンが全編にあふれていて、本アルバムのハイライトともいえる。4章目の『スターゲイザー』は、再び流麗なピアノをバックにイアン・ベラミーのヴォーカルが冴えた曲になっており、短いながらもハープシコードとピアノ、ヴァイオリンのアンサンブルが色濃く出ている。5章目の『根源の回帰』は、リリカルなピアノをバックにディディエのヴァイオリンが縦横無尽に弾きまくっているのが印象的なナンバーだ。こうして聴いてみると、前作までのアルバムと比べてサイケデリック色はほとんど無く、クラシカルなピアノを中心としたシンフォニックロックに徹していると言える。とくにディディエ・ロックウッドのヴァイオリンがシリルのピアノと良くマッチしており、クラシカルでありながら独特ともいえるスペイシーな世界観を作り出している。前作まではシリル・ヴェルドーのソロアルバム的な位置づけだったが、本アルバムではグループとしてのアンサンブルを重視しており、各メンバーのパートを最大限に活かした素晴らしい作品になっている。

 本アルバムはIsodoraというマイナーレーベルだったためにプロモーションが弱く、セールス的な成功は収めることはなく終わっている。しかし、フランスのジャズ界で有名なディディエ・ロックウッドが参加した本アルバムは、クリアライトのアルバムの中でも最高傑作として推す者が多い。1978年にはポリドールに移籍して4枚目のアルバム『ヴィジョンズ』をリリースし、ここでもディディエを迎えているが、サウンド自体は東洋志向の強い内容に変化している。しかし、ツアー中に4歳の息子のジョナサンを亡くす不運に見舞われ、傷心のシリルは世界旅行に出ては、東洋思想やヨガ、瞑想などを学び、後の自身の音楽のルーツとなっていくことになる。1980年に入ると再び創作意欲が高まり、『Offrandes』を皮切りに10作のアルバムをリリース。1990年代にはデジタル技術を取り入れたファーストアルバムの『クリアライト・シンフォニー』の拡大・再構築盤となった『クリアライト・シンフォニーⅡ』をリリースしている。このシンフォニーシリーズはシリルの音楽的な理論と解釈を世に問う活動を行い、1999年には『クリアライト・シンフォニー』のアップデート盤、さらには2014年にはスティーヴ・ヒレッジ、ティム・ブレイク、ディディエ・マレルブと共に最終形の『インプレッショニスト・シンフォニー』をリリースしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は以前に紹介した『クリアライト・シンフォニー』に続いて、鬼才、シリル・ヴェルドー率いるクリアライトのサードアルバム『狂った猿の物語』を紹介しました。このアルバムはクリアライトの初期3作の中でも最高傑作でありながら、最もセールス的に失敗した作品とされています。フランスのEMIレコーズ傘下のマイナーレーベルであるIsodoraからのリリースであったこともありますが、やはり音楽シーン自体がパンク/ニューウェイヴであったことが大きかったと思われます。本アルバムが最高傑作と言われているのは参加したメンバーが豪華で、シリル・ヴェルドー(キーボード)を中心に、フランソワ・マンダン(シンセサイザー)、ティム・ブレイク(シンセサイザー)、イヴ・シュアール(ギター)、ディディエ・ロックウッド(ヴァイオリン)、セルジュ・アウージ(ドラムス)、ジョエル・デュグルノー(ベース)、イアン・ベラミー(ヴォーカル)という顔ぶれです。ジョエルはZAOでおなじみであり、ディディエ・ロックウッドはフランスのジャズ界では重鎮です。ちなみにヴォーカルのイアンは、ビル・ブルーフォードのEARTHWORKSに参加しているメンバーとは別人です。とはいえ、イアンのソウルフルでピーター・ガブリエルを彷彿とさせるヴォーカルは個人的に絶品で、本アルバムのもう1人の主役といっても過言では無いです。そういう意味ではシリルのキーボードがメインですが、個々のパートが最大限に活かされた作品になっていると思います。

 さて、本アルバムの録音はフランスのパリにある16トラックのスタジオで行われたのですが、実は予算が無かったためにラフミックスがそのままリリースされたものになっているそうです。「ラフミックス」とは、その日のレコーディング作業の内容を確認したり、ミックス前に楽曲の完成形をイメージしやすくするために、各パートの音量や定位などを大雑把にミックスした音源のことらしいですが、実際聴いてみても全くそんなことを感じさせない内容になっています。それだけ彼らの演奏技術のレベルの高さを物語っているということです。ぜひクラシカルでジャジーさがミックスされた素晴らしいシンフォニックロックを聴いてみてください。

それではまたっ!