【今日の1枚】East/Faith(イースト/フェイス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

East/Faith
イースト/フェイス
1982年リリース

独特のメロディでグループの最高傑作となった
ジャズテイストの強いシンフォニックロック

 旧東欧諸国のひとつであるハンガリー出身のグループ、イーストのセカンドアルバム。遠い東洋を感じるようなメロディラインとギター、そしてキーボードによる激しいインプロゼーションに満ち溢れたサウンドになっており、マハヴィシュヌ・オーケストラを彷彿とさせるジャズテイストの強いシンフォニックロックとなっている。本アルバムは前作と同じメンバーながらも多彩な演奏を駆使しており、グループの最高傑作と呼び声高い。

 イーストは1974年にヤノス・ヴァルガ(ギター)、ゲザ・バルヴォルジィ(キーボード)、ミクレス・ザレスキー(ヴォーカル)、ペーテル・モザン(ベース)、イストヴァン・キラリー(ドラムス、パーカッション)の5人によって結成されたグループである。結成当時のハンガリーはソヴィエト連邦の統治下にあり、非常に国民への統制が厳しい中、国内で曲を演奏するには楽曲委員会の検閲に合格しなくてはならない状況下にあったという。かつて1970年代前半には、ILLES、METRO、OMEGAという3大ロックグループがハンガリーに存在していたが、ソヴィエト連邦の弾圧によって、ILLESが活動を禁じられ、OMEGAは活動の拠点をドイツに移している。こうした縛りに満足できるグループだけが実質的に活動できるようになったのが、V73、COLOR、PANTA RHEIであり、今回紹介するイーストである。イーストは当時ハンガリー国内でも人気のグループの1つであり、インストゥメンタルを中心に演奏していたグループである。後にイギリスを発端とした過激で反政府的な英国のパンク/ニューウェイヴの大きな流れがあったが、ハンガリー国内では認められず、かえってインスト中心のグループが生き延びる傾向にあったという。イーストはそんな自由が無く数少ないライヴ活動を5年近く続けている。やがて1981年にはハンガリーで最も古いレーベルであり、ロックやジャズのグループを輩出しているHungarotonからレコードデビューを果たすことになる。ファーストアルバムの『Jatekok』は、英語バージョンでもリリースされ、タイトルは『Blue Paradise』であり、日本でも邦題で『蒼い楽園』というタイトルで1983年にリリースされている。そのアルバムはセンチメンタルな叙情美が加味された翳りのあるキーボードをはじめ、メロディアスなロングトーンのギター、メランコリックなヴォーカルなど、アルバム全体を覆う重苦しく荘厳な雰囲気がいかにも東欧的なシンフォニックロックとなっている。このアルバムはハンガリー国内やヨーロッパで話題となり、特に日本のプログレファンにも高く評価されたという。今回紹介するセカンドアルバム『フェイス』は、彼らの演奏技術を駆使したジャズテイストの強いシンフォニックロックとなっており、その独特ともいえる手法と完成度の高さから東欧プログレの名盤として評価されている。

★曲目★※曲のタイトルは英語バージョン。
01.Faith(フェイス)
02.Search Yourself(自己の探求)
03.Magical Power(マジカル・パワー)
04.It Was Me(イット・ワズ・ミー)
05.The Happiness Of The Endless Space(美しい永遠の宇宙)
06.Born Again(復活)
07.Windows(ウインドーズ)
08.Losers(敗者)
09.Walkin' On The Clouds(ウォーキン・オン・ザ・クラウズ)
10.You Must Wait(ユー・マスト・ウエイト)
11.Meditation(静寂)

 アルバムの1曲目の『フェイス』は、重厚なストリングシンセサイザーを主軸にしたメロディーが印象的なナンバー。バックの伸びやかなギターがまさしくマハヴィシュヌ・オーケストラを彷彿とさせており、非常にドラマティックな内容になっている。2曲目の『自己の探求』は、哀愁のあるヴォーカルとブルース調の泣きのギターによるメロディアスな曲。3曲目の『マジカル・パワー』は、手数の多いリズムセクション上で切れ味抜群の高速ギターとキーボードのインタープレイが素晴らしいハードロックになっている。4曲目の『イット・ワズ・ミー』は、一転して美しいバラード調になっており、ギターのアルペジオ上でなだらかに歌うヴォーカルと後半の荘厳なシンセサイザーとコーラスに思わず聴き惚れてしまうシンフォニックな内容になっている。5曲目の『美しい永遠の宇宙』は、ファンク色が強いポップなインストゥメンタル曲。6曲目の『復活』は、ミディアムテンポのバラードで、ヤノスの華麗なアコースティックギターと切々と歌うミクレスのヴォーカルが光るナンバーになっている。後半の重層的なキーボードは幻想的であり、まさしく本アルバムのハイライトともいえる曲である。7曲目の『ウインドーズ』は、テクノ的なビート上をスペイシーなシンセサイザーとヴォーカルが特徴のナンバー。ニューウェイヴ的な感覚があり、彼らなりに次の時代を見据えたと思える楽曲になっている。8曲目の『敗者』は、中間部の重厚なギターワークがあり、全体的にダークな印象を与える曲。9曲目の『ウォーキン・オン・ザ・クラウズ』は、東欧らしい空間的なイントロから始まり、リズムセクションが入ると一転してジャズ・フュージョンに変化する秀逸な曲である。10曲目の『ユー・マスト・ウエイト』は、クラシカルなピアノから始まり、ミクレスの表現力豊かなヴォーカルが堪能できるナンバー。後半ではシンセサイザーとギターによるシンフォニックな楽曲になっており、アルバムで1、2を争う素晴らしい曲である。最後の11曲目の『静寂』は、曲のタイトルどおり眠りを誘うようなヴォーカルと静かなキーボードで幕を下ろしている。こうしてアルバムを聴いてみると、ジャズテイストのシンフォニックロックでありながら、ハードロック調からテクノ、ニューウェイヴ、フュージョンといった様々なジャンルがあり、グループとして次の時代を見据えた楽曲を披露していると思える。アルバムの1曲1曲は短いながらも濃密で、とくに重厚なシンセサイザーは聴き応えがあり、西欧とはひと味違う東欧の美的感覚が垣間見える作品になっているといえる。

 イーストは続けてサードアルバムの『Cracks In The Wall』をリリースするが、おそらく商業的な事情があったのか、ポップなアプローチのアルバムになっている。重厚なシンセサイザーを駆使したシンフォニックなロックは、本アルバムで最後となるが、彼らなりに生き残りを賭けたのかもしれない。プログレファンからは不評だったが、ポップアルバムとしては秀逸な作品である。1984年の『Az Aldozat』のアルバムはバレエ音楽としてプログラミングベースのインスト曲になり、1986年にはそのものずばりの『1986』というタイトルのアルバムをリリースしている。1990年代もアルバムを制作を続け、1996年の『Radio Babei』のアルバムを最後に解散している。ギタリストのヤノス・ヴァルガはソロ活動をしつつ、VJ GROOVELAND、ZIG-ZAG COMPANYに参加し、プログレファンの間で評判の高いVARGA JANOS PROJECTを通じて2000年代でも活動をしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はハンガリーのプログレグループであるイーストのセカンドアルバム『フェイス』を紹介しました。このアルバムを聴いたのはホント最近のことで、同じハンガリー出身のソラリスの『火星年代記』と共に聴いたのですが、それぞれインスト面でのアプローチが独特で、ソラリスはフルートを前面に押し出した一級のシンフォニックロックですが、本作のイーストは重厚なシンセサイザーの中でひと際メロディアスに奏でられるギターやピアノといったアコースティックな楽器が効いた内容になっていると思います。ハンガリーはリストやコダーイ、バルトークといった多くの作曲家を輩出していることから、クラシックの伝統と多民族国家らしいエキゾチックさの両方が息づいたサウンドが特徴といったほうか良いでしょうか。イーストの今でも通じる洗練された楽曲は、プログレファンだけではなく、ジャズロックやフュージョン好きにも受け入れられると思います。

 ちなみに何気に聴いた1994年の『Radio Babei』は、本アルバムに似たハードロック、ジャズ、フュージョン、エレクトロニックサウンドの要素をまとめた好作品となっています。イーストらしいメロディも不変で、同じく1994年9月24日のブダペストで行われたライヴ盤の『Ket arc』と合わせて聴くことをオススメします。

それではまたっ!