【今日の1枚】The Trip/Time Of Change | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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The Trip/Time Of Change
ザ・トリップ/タイム・オブ・チェンジ
1973年リリース

天才ドラマー、フリオ・キリコが在籍していた
イタリアン・キーボードトリオの傑作

 後にアルティ・エ・メスティエリというグループを結成して一斉風靡する、天才ドラマーのフリオ・キリコが在籍していたトリップの4枚目にして最終アルバム。クラシカルなシンセサイザーを駆使したキーボードトリオ編成で、ヴィスコーヴィの畳みかけるような壮大なキーボードとキリコの細かなパーカッションが絶妙な、イタリアン・キーボードトリオの金字塔となった傑作である。ザ・トリップはイギリスのロンドンでのグループ結成時、後にディープ・パープルに加入するギタリストのリッチー・ブラックモアも在籍していたことでも有名なグループである。

 ザ・トリップの歴史をさかのぼること1966年、ロンドンで元カマレオンティに在籍していたイタリア人のヴォーカリストであるリッキ・マイオッキが、サイケデリックロックの可能性を追求するために結成されたところから始まる。リッキ・マイオッキはロンドンで自身のバックを務めるメンバーとして、イアン・ブロード(ドラムス)、リッチー・ブラックモア(ギター)、ノルウェー人のアルヴィッド“ウェッグ”アンデルセン(ベース、ヴォーカル)、ウィリアム・グレイ(ギター)というイギリス人を中心にメンバーを集め、グループ名をマイオッキ・アンド・ザ・トリップという名で活動を開始する。しかし、1968年にはリッチー・ブラックモアが脱退し、代わりにルチアーノ・ガンドルフィが加入するものの、翌年には結成の中心人物だったリッキ・マイオッキをはじめ、イアン・ブロード、加入したルチアーノ・ガンドルフィが続けてグループから去ってしまうことになる。メンバーチェンジを繰り返して、最終的にはアルヴィッド“ウェッグ”アンデルセン(ベース、ヴォーカル)、ビリー・グレイ(ギター)、ジョー・ヴィスコーヴィ(キーボード)、ピノ・シノーネ(ドラムス)に落ち着いて、1970年にザ・トリップというグループ名に変えている。リッキ・マイオッキのバックから離れ、独自の路線で活動していくことになった彼らは、RCAイタリアーナと破格の契約を結ぶことに成功し、ファーストアルバム『ザ・トリップ』をリリースする。このアルバムはサイケデリック色の強いブルースロックであったが、翌年の1971年にリリースされたセカンドアルバム『Caronte』から、プログレッシヴ色の強いヴィスコーヴィのキーボードが中心となったクラシカルな要素が前面に押し出されるようになる。このセカンドアルバムには亡くなったジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスに捧げた曲もあり、コンセプトアルバムとしても話題となった作品である。

 セカンドアルバムをリリース後、ギタリストのビリー・グレイとドラマーのピノ・シノーネが脱退。新たに加わったのが元I Ragazzi Del SoleやMarto' E I Judasでドラマーとして活動していた当時20歳のフリオ・キリコである。キリコはすでに卓越したドラムセンスを持っており、アンデルセンとヴィスコーヴィの2人は、彼を加えたトリオグループとして活動することを決意する。1972年にサードアルバムとなる『Atrantide(アトランテイス)』は、ヴィスコーヴィのキーボードを中心としたエマーソン・レイク&パーマーばりのサウンドを披露し、さらにギミックを施したアルバムカヴァーが人気を呼び、この作品をザ・トリップの最高傑作に推す者も多い。5月にはローマで行われた“Roma Villa Ramphili”で8万人の前で演奏してイタリアでの知名度を確実にしている。そしてグループはTridentレーベルに移して、1973年に4枚目となるアルバム『タイム・オブ・チェンジ』をリリースする。本アルバムはヴィスコーヴィのキーボードがさらにクラシカルになり、キリコのドラミングの繊細度が増したキーボードトリオとして最も洗練された作品となり、イタリアのプログレッシヴロックの名盤に数えられている。

★曲目★
01.Rhapsodia(ラプソディ)
02.Formura Nova(新星)
03.De Sensibus(感覚)
04.Corale(聖歌)
05.Ad Labitum(アドリブ)

 アルバムの1曲目の『ラプソディ』は、20分を越える大作となっており、イントロはクラシカルなヴィスコーディのシンセサイザーから始まり、パーカッシヴなピアノとキリコの繊細なドラミングによるアグレッシヴなアンサンブルに移行する。まさにエマーソン・レイク&パーマーばりのオルガンとシンセサイザーを駆使したサウンドが堪能できる逸品である。クラシカルな雰囲気の中でジャジーなピアノに転じるが、隙間の一切無いキリコの超絶なドラミングがあまりにも凄すぎる。8分過ぎにはアンデルセンのベースソロがあり、3人それぞれが自身のテクニックを存分に活かした素晴らしい曲になっている。2曲目の『新星』は、ファズを効かせたベースとホンキートンク風のピアノを中心となったナンバー。曲中にはシンセサイザーによるソロやベースソロがあり、ここでもキリコの手数の多さでは右に出る者はいないと言われるほどの凄まじいドラミングが堪能できる。3曲目の『感覚』は、AREAにも通じる打楽器を中心にヴォイスやシンセサイザーなどの効果を活かしたナンバー。まさにタイトル通り、新感覚の打楽器による協奏曲である。4曲目の『聖歌』は、バッハを思わせる端正なハモンドオルガンによる荘厳なクラシックベースによる歌曲。徐々にたたみかけるような複数のオルガンが美しく響き渡り、ヴィスコーヴィのセンスが光った名曲である。5曲目の『アドリブ』は、流麗なピアノソロから始まり、ヴィスコーヴィの持つクラシック、ジャズ、ブルースといったイディオムをピアノ1本で表現したナンバーになっている。こうして聴いてみると、ヴィスコーヴィのキーボードやピアノをメインにしたアルバムであることは間違いないが、1曲目の『ラプソディ』ではキーボードトリオとしての楽曲のセンスや整合性、アイデアは一級品であり、ジャズロックとしても最高峰である。また、2曲目の『新星』ではキリコの超絶なドラミングを聴いて、改めて素晴らしいドラマーであると認識するはずである。イギリスのプログレッシヴロックの影響による鍵盤楽器が主体のサウンドながら、クラシックやジャズ、現代音楽、ロックといったエンターテイメント路線を受け継いでおり、イタリアの成熟した音楽シーンが垣間見れる作品になっている。

 本アルバムはイタリアやヨーロッパで高い評価を得たものの、ドラマーのフリオ・キリコが脱退を表明して自身のグループであるアルティ・エ・メスティエリの結成に動いたことに話題が移り、傑作でありながらセールス的に成功とは言えずに終わってしまう。残されたメンバーは元Osage Tribeのドラマーだったヌンツィオ・ファヴィーアを迎えてグループの存続を図るが、最終的に解散することになる。キーボーディストのジョー・ヴィスコーヴィは、1974年の終わりごろにアクア・フラジーレで短期間プレイした後、ドラマーのヌンツィオ・ファヴィーアと共にディク・ディクに加入している。一方のベーシストのアルヴィッド“ウェッグ”アンデルセンは、1974年に交通事故に遭ったために演奏活動を断念し、DJや音楽誌の編集を務めるようになったという。なお、解散から35年以上経った2010年には、イタリアで行われたProg Exhibitionに参加するためにザ・トリップを再結成している。メンバーにはキーボーディストのジョー・ヴィスコーヴィとドラマーのフリオ・キリコ、ベーシストのアルヴィッド“ウェッグ”アンデルセンのオリジナルメンバーの他に、ゲストとしてギター&ヴォーカルのファブリツィオ・キアレッリ、ベーシストのアンジェロ・ペリーニが参加した5人編成で演奏し、イタリアのプログレファンを大いに喜ばせた。この模様は日本でもCD、DVD化されている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は超絶なドラムテクニックで有名なフリオ・キリコが在籍していたキーボードトリオ、ザ・トリップの4枚目のアルバム『タイム・オブ・チェンジ』を紹介しました。後にフリオ・キリコが結成するアルティ・エ・メスティエリの方から先に聴いていましたが、アルティ・エ・メスティエリが即興的なジャズベースの作品になっているのに対して、本アルバムはジョー・ヴィスコーヴィの巧みなキーボードによるクラシックをベースにした作品になっていると思います。どちらもキリコの素晴らしいドラミングが堪能できる作品ですが、やはりあの凄まじい手数のドラミングはジャズ向きであると思えます。とくにアルバムの1曲目の『ラプソディ』と2曲目の『新星』は、クラシックとジャズが混合した楽曲になっており、クラシカルなキーボードとジャジーなドラミングのせめぎ合いは一級品です。この2曲のためにアルバムを購入したとしても決して損ではないです。エマーソン・レイク&パーマーを彷彿とさせるナンバーが多いですが、キリコのドラミングがあまりにも凄すぎて、一瞬彼らを越えているのでは?と思ってしまうほど個人的に高く評価しています。

 さて、ザ・トリップは1966年にリッキ・マイオッキのバックバンドとして結成されていますが、この時イギリスの多くのグループが活動の拠点をドイツやイタリア、フランスなどに移していた時代でもあります。また、その逆も然りで、リッキ・マイオッキはイタリアでイギリスのグループの曲をカヴァーをしていたカマレオンティのヴォーカリストでしたが、脱退後に単身でイギリスに向かい、自身のグループであるマイオッキ&ザ・トリップを結成したことは先に述べました。ここから1967年に活動拠点をマイオッキの母国であるイタリアに移しています。当初はギタリストのリッチーブラックモアをはじめとしたイギリス人を中心としたメンバーでしたが、少しずつイタリア人のメンバーにチェンジしていく過程があるのが面白いです。他にイギリスから活動拠点を他の国に移行したプログレのグループといえば、ドイツから後にアメリカに本拠を置いたネクターや後期のベガーズ・オペラ、人気だったフランスに拠点を置いたソフト・マシーンやゴングなどがあります。かのザ・ビートルズも初期はドイツで演奏していたといいます。そんな中、ザ・トリップは本場イギリスからイタリアに活動拠点を置いた代表的なグループということになります。

 本アルバムはサイケデリックロックとして活動を開始した5人編成から、最終的にトリオグループとなった最後のアルバムです。精鋭で洗練されたサウンドになっていることはもちろん、3人のクラシックやジャズをベースにした一級品のキーボードロックをぜひ、聴いてみてほしいです。

それではまたっ!