【今日の1枚】Pulsar/Halloween(ピュルサー/ハロウィン) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Pulsar/Halloween
ピュルサー/ハロウィン
1977年リリース

ダイナミックな“静”と“動”の対比を活かした
フレンチ・シンフォニックロックの最高傑作

 アンジュ、アトールと並ぶ1970年代のフレンチ・シンフォニックロックを代表するピュルサーが、フランスCBSに移籍してリリースされたサードアルバム。前作までのサイケデリックでスペイシーな要素を抑えて、シンセサイザーとメロトロン、フルートを駆使した叙情的で神秘的なサウンドを実現し、彼らの最高傑作と呼ばれている作品でもある。メンバー全員が内向的な文学青年だったことから、物悲しさや儚さといった歌詞が起因とする不思議なムードに満ちあふれたサウンドは逸品のひと言である。

 ピュルサーは1970年にフランスのリヨンで結成されたグループである。この時のメンバーはジャック・ロマン(シンセサイザー、キーボード、メロトロン)、ヴィクトル・ボッシュ(ドラム)、ジルベール・ガンディル(ギター、リードヴォーカル)、ローラン・リシャール(ピアノ、フルート)、フィリップ・ロマン(ベース、ヴォーカル、作曲)の5人編成で、最初は地元のクラブを中心にステージやギグを行いつつ、フランスのレコード会社に何度もデモテープを持ち込んでは却下される日々を送っていたという。それから5年近く経ったある日、イギリスのカンタベリーミュージックの礎を作ったキャラヴァンのリチャード・シンクレアと知り合い、リチャードのプッシュもあってフランスのグループとしては初の英キングダム・レコーズとの契約を果たすことになる。1975年のデビューアルバム『ポーレン』は、ピンク・フロイドとタンジェリン・ドリームをミックスさせたようなエモーショナルな作品となり、比類の無い甘美で情感的なメロディにあふれた作品となっている。その個性的ともいえるサウンドは翌年の1976年にリリースされたセカンドアルバム『The Strands of the Future(終着の浜辺)』でも活かされており、聴き手の感受性を直接刺激するようなリリカルな内容からフレンチロックの代表作と呼ばれるようになる。ピュルサーのこの2作品は日本を含む各国で紹介され、高い評価と商業的な成功を収める。後にドイツやフランスを中心にツアーを敢行し、地元のフランスでは確実なポピュラリティを獲得して期待も大きかったと言われている。英キングダム・レコーズからフランスのCBSと新たに契約を交わし、サードアルバムのレコーディングは1977年の秋にスイスのジュネーブにあるアクエリアス・スタジオで開始。そこでドラマーのヴィクトル・ボッシュがとある少女を主人公とする夢想的でミステリアスな物語(ハロウィン)をモチーフとした、壮大なトータルアルバムを作成することになる。ファーストアルバムで脱退したベーシストのフィリップ・ロマンの代わりにミッシェル・マソンが新たに加入し、エンジニアには元メインホースのメンバーだったパトリック・モラーツとジャン・リストーリが務める。また、ジャン・リストーリは本アルバムでチェロを演奏し、グループのマネージャーだったザヴィエル・ドゥブックがパーカッションでサポートしている。こうして1977年末にサードアルバム『ハロウィン』がリリースされることになる。

★曲目★
Halloween Part I (ハロウィン パート1)
01. Halloween Song(ハロウィンの歌)
02. Tired Answers(タイアード・アンサーズ)
03. Colours of Childhood(幼き頃の色彩)
04. Sorrow in My Dreams(夢の中の悲しみ)
Halloween PartⅡ(ハロウィン パート2)
05. Lone Fantasy(孤独な空想)
06. Dawn over Darkness(闇が明けるとき)
07. Misty Garden of Passion(ミスティ・ガーデン・オヴ・パッション)
08. Fear of Frost(フィアー・オヴ・フロスト)
09. Time(時)

 本アルバムは9つの場面を持ったレコードでいうA面とB面を最大限に利用した、それぞれ20分を越えるトータルアルバムである。そこに登場人物の役割を演じるゲストヴォーカルが加わった形で、摩訶不思議なサウンドタペストリーとなった究極の作品となっている。『Halloween Part I 』と銘打たれた内容は4つのパートに分かれており、1曲目の『ハロウィンの歌』は、プロローグにアイルランドの伝承曲でアメリカでは『ダニーボーイ』として有名な曲を当時7歳の少女に歌わせた名曲。2曲目の『タイアード・アンサーズ』は、メロトロンとフルート、アコースティックギターを用いたやや重めのトーンからなる叙情美にあふれたアンサンブルになっている。3曲目の『幼き頃の色彩』は、夢の中に誘うようなピアノとクリアなアコースティックギター、そして美しいメロトロンをバックにジルベールのヴォーカルが冴えたナンバー。時折響く、エレクトリックギターがサウンドのスリリングさをより高めている。4曲目の『夢の中の悲しみ』は、前曲よりも重いトーンの中でミステリアスなシンセサイザーとメロトロンが独特の雰囲気を醸し出しているヴォーカル曲である。何かを求めるような物悲しげなヴォーカルが静かにフェードアウトしていく様はどこか儚げでもある。『Halloween PartⅡ』と銘打った内容は5つのパートに分かれており、5曲目の『孤独な空想』はエフェクトを多用した空間的なサウンドから始まっている。アコースティックギターやチェロが奏でられて叙情的なサウンドに変わり、一気に甘美なアンサンブルへと昇華している。6曲目の『闇が明けるとき』は、まさに霧を払うかのようにエレクトリックギターを中心とした重厚なサウンドだが、ヴォーカルが加わると再びアコースティックギターとフルートによる美しい楽曲に満ちあふれた素晴らしい内容になっている。7曲目の『ミスティ・ガーデン・オヴ・パッション』は、幻想的なキーボードの音色による空間的な曲になっており、8曲目の『フィアー・オヴ・フロスト』は、恐怖を演出するようなキーボードの演奏から手数の多いパーカッションとギターによる即興的な演奏に転調しており、この曲で鬱蒼とした叙情美を払うかのような内容になっている。9曲目の『時』は、荘厳なシンセサイザーによる賛美歌のようなヴォーカルが特徴的なナンバーで、ミステリアスな少女の夢物語である『ハロウィン』の幕は閉じられる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、メロトロンやピアノ、アコースティックギターによる「静」の部分と手数の多いパーカッションとエレクトリックギターによる「動」の部分の対比が良く表れており、とくに「静」の部分は重いトーンの中で奏でられるあまりにもクリアなアコースティックギターが神秘的すらあるように思える。また、歌詞の内容が文学的であり、人間の持つ内面的な言葉が綴られているが、そこには少女の切ない願いと希望に満ちた歌になっている。単に叙情的なサウンドであるとは片付けられない不思議な魅力に詰まった作品である。

 本アルバムはメジャーであるCBSからリリースされたものの、残念ながら商業的な成功に結びつくことは無かったという。理由はCBSの担当だったディレクターが替わったことで、支援を受けられなくなってしまったためである。ほどなくアルバムは廃盤の憂き目に遭い、さらにレーベルが大手過ぎたために再発もままならず、今では叙情派屈指の傑作となっている『ハロウィン』は幻の名盤として、長らくプレミアムアイテム化となってしまうことになる。グループはこれだけ創造性を有したアルバムが商業的に失敗したことに落ち込み、1981年演劇用に作られた小曲集の4作目にあたる『Bienvenue au Conseil d'Administration』を最後に活動停止してしまう。しかし、8年後の1989年に長い沈黙を破って復帰作『Gorlitz』を発表し、その前作と変わらない充実したサウンドにかつてのファンは大いに喜んだという。しかし、そのまま活動を続けるかと思いきや再び沈黙。次にメンバーは活動を再開するのは何と18年経った2007年であり、それまで流動的だったベーシストを除く4人が集まってニューアルバム『Memory Ashes』のリリースを果たしている。




 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は叙情派フレンチ・シンフォニックロックの代表格であるピュルサーのサードアルバム『ハロウィン』を紹介しました。フレンチプログレはアトールを初期に聴いていましたが、アンジュやモナ・リザのような演劇肌のようなグループはずいぶん後になって聴いたものです。このピュルサーのグループも後の部類に入りますが、とくに本アルバムの『ハロウィン』は最近になって良さを実感したアルバムでもあります。メンバーが傾倒していたというマーラーの作曲技法やイタリアの映画監督であるルキノ・ヴィスコンティの『ベニスに死す』における物語の描写などが盛り込まれた展開や歌詞など、後になって知ってみれば、彼らが本アルバムに対してどれだけ力を注いだのかが良く分かります。それにも増してフランス特有の不思議なムードが全編を通して醸成されており、鬱蒼とするぐらい叙情性と神秘性にあふれている点では、他の追随を許さない傑作となっていると思います。

 さて、聴いた方は分かると思いますが、曲の中で演奏されているアコースティックギターの音があまりにもクリアなことに驚かれると思います。理由は本アルバムのレコーディング前に、マハヴィシュヌ・オーケストラのギタリストであるジョン・マクラフリンがレコーディングしていたのが理由とされています。ギターのチューニングから録音設定まで完璧だったそうで、最初からベストのセッティングの状態でレコーディングに入ったそうです。この時にジョン・マクラフリンがレコーディングしていたのは、1977年にCBSからリリースされた『Natural Elements(ナチュラル・エレメンツ)』だったようです。

 プログレッシヴロックは、後になってその作品性の良さやスポットライトが当たることが多々ありますが、本アルバムはまさに極めつけといっても良いほどの作品です。アメリカが発行している音楽雑誌である「Goldmine」誌は、2008年にプログレッシヴロックのトップ25アルバムの1つとして、ピュルサーの『ハロウィン』をリストアップしたそうです。時代を越えるとはこのようなことなんですね~。

それではまたっ!