【今日の1枚】Yes/Close To The Edge(イエス/危機) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Yes/Close To The Edge
イエス/危機
1972年リリース

イエスの黄金ラインナップによる究極の
構成美を実現した偉大なるトータルアルバム

  前作『Fragile(こわれもの)』に続き、ジョン・アンダーソン、スティーヴ・ハウ、クリス・スクワイア、リック・ウェイクマン、ビル・ブルーフォードという黄金メンバーによって創作された、イエスの5枚目のアルバムにして最高傑作。18分を越える『Close To The Edge(危機)』の曲を中心としたグループ初の大作主義傾向となったトータルアルバムであり、メンバーの超絶技巧の演奏から生まれる凄まじいほどの緻密な楽曲構成が全編を通して創出されたプログレッシヴロックのひとつの完成形として、今もなお燦然と輝く名盤となっている。本国イギリスではオフィシャルチャートで最高4位、アメリカのビルボードのアルバムチャートで最高3位にランクインするなど、グループにとって初の大ヒットとなったアルバムでもある。

 本アルバムの録音は1972年3月に前作の『Fragile(こわれもの)』のリリースに伴うコンサートツアー中、2日間だけロンドンウェスト・エンドのアドヴィジョン・スタジオで次作に向けた数トラックから始まっている。ツアーが終了した同年5月に、シェパーズ・ブッシュのバレー学校ですでに録音されていたトラックにアレンジを加えてリハーサルを行っていたが、曲のアレンジが日を追うごとに徐々に複雑になっていき、次の日には全員がアレンジの内容を忘れるという事態が頻繁に起こるようになったという。これによってリハーサル毎に全て録音しなければならない作業が続き、長い時間をかけて録音作業をしたものの、結局、一曲も完成にこぎつけた曲が無かったと言われている。後にビル・ブルーフォードは、この状況を見てまさにグループにとって「崖っぷち」であったと語っている。ここからアルバムのタイトルである『Close To The Edge(危機)』に繋がっている。

 なぜこのような録音スタイルになってしまったのか? それは前作と同様の作品を繰り返すことを良しとしないイエスの完璧主義にある。今まで書き溜めていたイエスの叙情詩的な素晴らしい曲は10分を越えるものだったが、曲の長さを問題とはせず、自分たちが言いたいことやりたいことを伝えるために時間を費やす選択をしたのが一因とされている。濃密なインストゥメンタル部の演奏は単にメンバーのジャムセッションではなく、あくまで意識的に曲の効果を完璧にするために練りに練られた内容であったことが彼らの主義を物語っている。こうした曲の意図や効果を最大限に発揮する“構成美”を実現するために、レコーディングはアレンジにアレンジを加え、途方も無い時間を費やす結果になったと言われている。そんな状況に力を注いだのがエンジニアでプロデューサーのエディ・オフォードである。彼は1972年7月、イエスのメンバーが再びアドヴィジョン・スタジオに入り本格的に録音作業を再開した際、同スタジオのエンジニアでプロデューサーであった彼は、コンサートでの素晴らしいパフォーマンスをそのまま次のアルバムに活かせないかと考え、スタジオ内にコンサート同様のセットを用意したそうである。また、スティーヴ・ハウのギターの響きを良くするために木製の小屋を作って演奏させたり、ビル・ブルーフォードのドラミングの共鳴音がライヴ音に近くなるために木製の台座の上にドラムセットを置いたりと少しでもライヴ感を増すために動いたという。しかし、エディがもっとも頭を悩ませたのが、スタジオ内で24時間ぶっ通しの作業が何日も続いたことによる、各メンバーの苛立ちや不満といったストレスが今にも爆発しそうな雰囲気だったとされている。彼はメンバーの間に立って特に不満を募らせていたビルに配慮しつつ、各曲の各パートを録音してはその都度メンバー間で議論を繰り返して全員が納得いく物が出来上がるまで修正を繰り返す手法に付き合い、ほぼ不眠不休でミキシング作業を続けていたという。その結果、即興音楽を目指していたビル・ブルーフォードはこの作風を嫌い、「まるでエベレスト山を登らされているようだ」と形容して、本アルバムのレコーディング後に脱退することになる。ビルは後に振り返って「自分の持てる全てを出し切り、最高のパフォーマンスができたのはエディがいたおかげ」と語っており、スティーヴ・ハウは後のインタビューで「当時のエディはイエスのレコーディングチームの一部となっていたんだ。その後、彼は僕らの人生の一部になったよ」と語っており、エディ・オフォードが本アルバムの完成に貢献しただけではなく、イエスの6番目のメンバーとして重要な存在になったことを表している。こうして数ヶ月に及んだ録音作業は終了し、1972年9月13日に『Close To The Edge(危機)』というタイトルでリリースされることになる。完成したアルバムはイエスのキャリアの中ではもちろん、さらにプログレッシヴロックというジャンル中でも頂点を極めた傑作となっている。

★曲目★
01.Close To The Edge(危機)
Ⅰ.The Solid Time Of Change(着実な変革)
Ⅱ.Total Mass Retain(全体保持)
Ⅲ.I Get Up I Get Down(盛衰)
Ⅳ.Seasons Of Man(人の四季)
02.And You And I(同志)
Ⅰ.Coad Of Life(人生の絆)
Ⅱ.Eclipse(失墜)
Ⅲ.The Preacher The Thecher(牧師と教師)
Ⅳ.Apocalypse(黙示)
03.Seberian Khatru(シベリアン・カートゥル)
★ボーナストラック★
04.America~Single Version~(アメリカ~シングル・ヴァージョン~)
05.Total Mass Retain~Single Version~(トータル・マス・リテイン~シングル・ヴァージョン~)
06.And You And I~Alternate Version~(同志~オルタネイト・ヴァージョン~)
Ⅰ.Coad Of Life(人生の絆)
Ⅱ.Eclipse(失墜)
Ⅲ.The Preacher The Thecher(牧師と教師)
Ⅳ.Apocalypse(黙示)
07.Siberia~Studio Run Through Of “Seberian Khatru”~(シベリア~“シベリアン・カートゥル”スタジオ・ラン・スルー~)

 アルバムのオリジナルは3曲構成になっており、ボーナストラックは2009年のSHM-CD盤を基にしている。ここでは3曲を中心に紹介していこう。1曲目の『Close To The Edge(危機)』は、ジョン・アンダーソンが創作した4つの楽章からなる18分を越えた大曲。3楽章以外はすべて共通の構成となっており、そのためにそれぞれ繊細な主旋律と緻密な演奏が求められている。イントロは美しい鳥のさえずりによるエフェクトに導かれ、次第に音が最高潮に達した際に激しい演奏が加わる。ジョンの短いヴォーカルが入るとブレイクするが、後のスティーヴ・ハウの流れるようなリフのギターからメインの主旋律に移行する。第1楽章と第2楽章ではジョンを中心としたコーラスとイントロのエフェクトが呼応するような構成であり、バックの演奏が緻密で疾走感があり、まるで何かに駆り立てられているかのような激しさがある。スティーヴはエレクトリック・シタールを使っており、ヴォーカルラインに合わせてエスニック風に奏でているのが印象的である。第3楽章は天空に導くような美しいエフェクトが奏でられ、ジョンの牧歌的な輪唱による優しいヴォーカルとリック・ウェイクマンのパイプオルガンが響き渡る神秘的な内容になっている。「I Get Up」、「 I Get Down」と、まさに目覚め眠れと力強く歌うジョンの歌詞の効果が一段と表れた楽曲でる。第4楽章では立ち込める雲を払うかのような疾走感あふれるアンサンブルから始まり、息を呑むようなリック・ウェイクマンのキーボードと、手数の多いビル・ブルーフォードのドラミングが素晴らしい。そして第1楽章にあったパートを経てクライマックスを迎えた後、イントロにあった鳥のさえずりと共にフェードアウトしていく。まさにイエスの構成美が昇華した見事な曲である。2曲目の『同志』は、スティーヴ・ハウの12弦ギターで始まり、リック・ウェイクマンのメロトロンとジョン・アンダーソンの徐々に立ち昇っていくようなヴォーカルを中心とした壮大な内容で、その温かみのある楽曲は前曲の高揚した気持ちを静めてくれるような優しさがある。後半では緩やかな中で存在感のあるクリスとビルのリズムセクションの中で、スティーヴが徹底的に練習したというスティールギターが使われている。3曲目の『シベリアン・カートゥル』は、陽気なギターのリフとヴォーカルを中心としたメロディアスな楽曲だが、後半の荘厳さと相まってやや暗い要素のあるナンバー。スティーヴの弾くメインのギターラインは何とビル・ブルーフォードが作曲している。

 本アルバムは先にも述べたとおり、本国イギリスであらゆる批評家から賞賛され、アルバムチャートでは4位に急上昇する大ヒットとなった。イエスはそれまでの作品から大きく進歩した本アルバムから、より冒険的になり自信を深めることになる。しかし、長くかかったレコーディングによって、ビル・ブルーフォードはキング・クリムゾンに加入するためにグループを離れることになる。メンバーはビルの代わりにドラマーを探す決断を下し、エディ・オフォードの友人でよく本アルバムのレコーディングスタジオに来ていたアラン・ホワイトが加入する。彼はジョン・レノンやジョージ・ハリスンなどとのセッションで有名になっていたドラマーであり、すでにメンバーとも仲良くなっていたという。一方、グループから離れて前進したいと切望していたビル・ブルーフォードだが、収録された本アルバムでのドラミングは壮観であり、最高潮の状態で彼はグループを去ったのだと言える。最強のメンバーで制作されたと言われる『危機』は、現在でもプログレッシヴロックのひとつの完成形として、イエスの歴史の中でもプログレッシヴロックの歴史の中でも重要なアルバムとなっている。しかし、当時としてはプログレッシヴロックの全盛期であり、メンバーの激変や音楽的な方向性を未だ模索している段階で、それぞれ自身の価値を見出そうとしていた時期である。イエスの次のアルバム『海洋地形学の物語』で、さらにメンバー間の不協和音が表沙汰になったことを考えると、想像以上にグループは“危機”的状態だったのだろうと思われる。



 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイエスの最高傑作と名高い『Close To The Edge(危機)』のアルバムを紹介しました。このアルバムはエマーソン・レイク&パーマーの『タルカス』とほぼ同時期に聴いており、レコードレンタル店でレコードを借りてテープに録音した記憶があります。イエスは『ロンリー・ハート』が収録されたトレヴァー・ラビンのいるアルバム『90125』も好きですが、ファンからすればイエスといえば『こわれもの』と『危機』であるとやや譲らない空気感があったものです。1989年にアンダーソン・ブルーフォード・ウェイクマン・ハウ(略称:ABWH)名義でアルバム『閃光』が発表された時、こちらが王道扱いされてイエスの名を再度知らしめたトレヴァー・ラビンのいたイエスが邪道扱いされたのはあんまりだなと個人的に思ったものです。最終的に2つのグループが合流して1991年に『Union(結晶)』というアルバムがリリースされた時は、正直ホッとしました。1991年当時は私自身ヘヴィメタルやハードロックに没頭していた時期ですが、1980年代後半から1990年代にかけてのイエスに関するニュースはホントに事欠かなかったです。

 さて、本アルバムはイエスの代名詞といえる超絶技巧と構築美にあふれたトータルアルバムです。18分を越える1曲目の『危機』のスリリングな展開は5人のメンバーの成せる技であり、聴けば聴くほど繊細で奥深い楽曲に圧倒されます。本アルバムは特にアメリカで高く評価されて、イエスのサウンドスタイルに影響を受けてプログレッシヴロックを目指すグループが数多く誕生したと言われています。アメリカンプログレでイエスっぽいサウンドが多いのは、『こわれもの』をはじめ、この『危機』のアルバムの叙情性と技巧性に憧れたのかも知れません。また、今回の『危機』のアルバムにあるイエスのロゴは、かのロジャー・ディーンがデザインしています。バブルロゴと名付けられた特徴的なロゴは、後に『90125』と『ビッグジェネレイター』を除く全てのアルバムに使われることになります。

それではまたっ!