【今日の1枚】Absolute Elsewhere/古代宇宙人の謎 | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Absolute Elsewhere/In Search Of Ancient Gods
アブソリュート・エルスホェア/古代宇宙人の謎
1976年リリース

宇宙考古学研究家の著書を
コンセプトに制作されたプロジェクトアルバム

 1974年の映画『The Marseills Contract』のサントラでエレクトロニクス担当だったポール・フィッシュマンが、映画プロデューサーである兄のジャック・フィッシュマンの協力を得て制作されたプロジェクトアルバム。1960年代のミステリーブームの火付け役として名高いSF作家で宇宙考古学研究家のエーリッヒ・フォン・デニケンの著書『太古の宇宙人』をコンセプトにしており、メロトロンやピアノ、シンセサイザーを駆使した壮大なシンフォニックロックになっている。ところがメンバーには、イエスやキング・クリムゾンのドラマーで知られるビル・ブルーフォードが参加しているにも関わらず、長年CD化されてこなかった幻のアルバムでもある。

 1976年にワーナーよりリリースされた本アルバムは、全楽曲を手がけているシンセサイザー奏者のポール・フィッシュマンを中心に制作されたものである。いちシンセサイザー奏者だった彼が、このようなプロジェクトアルバムを手がけるに至った経緯は不明だが、そこには兄であり映画音楽プロデューサーとして名を馳せていたジャック・フィッシュマンの存在があったと思われる。ジャックはかつてロイ・パッドとソングライティングでコンビを組み、1970年のラルフ・ネルソンが監督を務めた映画『ソルジャー・ブルー』や『ツェッペリン』、1972年の映画『爆走』などのサウンドトラックのプロデュースを務め、映画音楽の分野で活躍していた人物である。1974年に制作された映画『The Marseills Contract』のサントラでは、弟のポール・フィッシュマンがエレクトロニクス担当で参加しており、本アルバムはそういった映画音楽関係の人脈によって企画されたものだろうと推察される。

 アブソリュート・エルスホェアと名づけたプロジェクト名のメンバーには、ポール・フィッシュマン(シンセサイザー、フルート、アコースティック&エレクトロニックピアノ、メロトロン、ストリングス)、ジョン・アストロップ(ベース)、フィリップ・サッチ(ギター)、ビル・ブルーフォード(ドラムス、パーカッション)の4人である。ジョン・アストロップとフィリップ・サッチの2人の経歴は不明だが、それぞれ兄のジャック・フィッシュマンが引っ張ってきた映画音楽に関わるミュージシャンだと思われる。それよりも驚いたのがドラムスとパーカッションに、イエスやキング・クリムゾンで活躍していたビル・ブルーフォードが参加していることだろう。1976年当時のビル・ブルーフォードといえば、1974年のキング・クリムゾンの『Red』以後の数年間はセッションマンとしての活動が多い。1975年から1976年までジェネシスのツアーメンバー、1976年には一時的にナショナル・ヘルスのメンバー、同時期にはパブロフズ・ドッグの『At The Sound Of The Bell』のアルバムに参加していたといわれる。本アルバムもそういったセッションマンとして活動していた時期に声をかけられたのだろうと思われる。今回、テーマとして自称宇宙考古学研究家のエーリッヒ・フォン・デニケンの著書『太古の宇宙人』をモチーフにしているが、元々、1968年に著された『Chariots Of The Gods?(邦題:未来の記憶)』が全世界的にベストセラーになり、古代ミステリーブームとなっていた時期である。こうした背景から1975年にポール・フィッシュマンは古代史にまつわるミステリーを楽曲にし、シンセサイザーを駆使したインストゥメンタル作品を制作することになる。こうして録音を経て1976年にリリースされたのが、本アルバムの『古代宇宙人の謎』である。

★曲目★
01.Earthbound(地球へ)
 /Future Past(フューチャー・パスト)
02.Moon City(月の都市)
03.Miracles Of The Gods(神の奇跡)
 /El Enladrillado(着陸地点)
 /The Legend Of Santa Cruz(サンタクルズの伝説)
 /Pyramids Of Teotihuacan(テオティワカンのピラミッド)
 /Temple Of Inscriptions(碑文の寺院)
04.The Gold Of Gods(神の純金)
05.Toktela(無限の宇宙)
06.Chariots Of The Gods(神の戦車)
07.Return To The Stars(惑星への帰還)

 1曲目の『宇宙へ』/『フューチャー・パスト』は、神秘的なシンセサイザーとなだらかなリズムセクションで始まり、中盤では美しいフルートが加わるナンバー。後半ではギターをフューチャーしたインプロゼイション的な演奏を聴かせてくれる。2曲目の『月の都市』は、荘厳なシンセサイザーを中心とした楽曲でSF的な効果音を加味したサウンドになっている。3曲目の『神の奇跡』から『碑文の寺院』まで5つのパートに分かれた楽曲になっており、本作のメインとなっている曲である。最初のイントロはいきなりメロトロンが押し寄せるプログレッシヴな内容で、キャメルを思わせる繊細で美しいフルートが印象的である。またクラシカルなピアノの響きが叙情的であり、シンフォニックロックとしても名曲である。後半ではビル・ブルーフォードの力強いドラミング上でクロスオーバーするシンセサイザーによってクライマックスを迎える。4曲目の『神の純金』は、一転してコミカルタッチのシンセサイザーが全編にあふれた曲になっており、映画のコミカルなワンシーンを思い浮かべてしまう内容だ。5曲目の『無限の宇宙』もシンセサイザーを中心とした短い楽曲で、ベートーヴェンの『月光』を思わせる内容になっている。6曲目の『神の戦車』は、デニケンの処女作である『未来の記憶』をモチーフにした10分を越える大曲である。ピアノ、シンセサイザーをメインとしたシンフォニックな曲であり、ゆるやかなイントロから次第に盛り上がっていく展開になっている。中盤ではここまで控えめだったビル・ブルーフォードの手数の多いドラムがメインとなり、後半ではギターをフィーチャーしたフュージョン的なサウンドに変化する。7曲目の『惑星への帰還』は、宇宙のサウンドスケープ的な楽曲であり、スペースファンタジーを思わせる内容になっている。こうして聴いてみると、本アルバムのプロデュースには兄のジャック・フィッシュマンが担当しているためか、全編映画のサントラのような雰囲気が漂う。それでもポールの奏でる神秘的なシンセサイザーの楽曲は、他のダンカン・マッケイやエイドリアン・ワグナーといったシンセサイザー奏者とはまたひと味違う、エニドやキャメルといった叙情派シンフォニックロックに寄せた作りになっているのが本アルバムの大きなポイントであろう。

 アブソリュート・エルスホェアは本作をリリース後に、別のテーマで二作目を計画していたが残念ながら断念している。結局、1枚のアルバムのみでプロジェクトは終わってしまうが、アルバム自体はプレスした枚数が少なかったため、市場でレコードを見ることがほとんどなくレア盤となったことは言うまでもない。とくにビル・ブルーフォードが参加したアルバムであるにも関わらず、長らくCD化されず、オフィシャルとしてCDがリリースされたのは2006年の紙ジャケット盤が初めてである。ちなみに後のポール・フィッシュマンはシンセサイザー奏者として、1980年にバクスター(ギター)、ローランド・ヴォウガン・ケリッジ(ドラムス)、ナイジェル・ロス・スコット(ベース)と、エレクトロ・ポップ・ユニットであるRe-Flexを結成。1983年には『The Politics Of Dancing(邦題:危ないダンシング)』を発表している。また、1985年にはローランド・ヴォウガン・ケリッジ(ドラムス)とジョナサン・ホワイトヘッド(キーボード)らとThe Adventuresを結成して活動しているほか、1988年にサム・ブラウンが発表した『Stop!』には、ポール・フィッシュマンとフィリップ・サッチの2人が参加している。一方のビル・ブルーフォードはセッションマンとしての活動を経て、1977年にソロ名義のアルバム『フィールズ・グッド・トゥ・ミー』をリリースすることになる。 



 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はシンセサイザー奏者のポール・フィッシュマンのプロジェクトアルバム『古代宇宙人の謎』を紹介しました。このアルバムは紙ジャケで入手したものですが、はっきり言ってビル・ブルーフォードのクレジット名を見て購入したものです。最初に聴いた感想は、シンセサイザー特有の宇宙空間をイメージしたサウンドスケープ的なものかなあと思いましたが、3曲目の『神の奇跡』の素晴らしい叙情的なシンフォニックを聴いたときに考えが一変しました。やはりメロトロンは偉大です。それだけではなくフルートやピアノがリリカルで、単にシンセサイザーに頼るような楽曲にしていないところに好感が持てます。また、6曲目の『神の戦車』の後半では、さすがと思わせるようなビル・ブルーフォードのドラミングが堪能できます。こんな素晴らしいアルバムが、つい最近までCD化されていなかったなんてびっくりです。

 さて、冒頭でも紹介しましたとおり、本アルバムのテーマには宇宙考古学研究家エーリッヒ・フォン・デニケンの著書『太古の宇宙人』をモチーフにしています。日本でも同タイトルで出版されているようですが、現在、かなり入手困難な状況らしいです。SF小説は過去にいくつか手にしていますが、この著書はまだ読んだことはありません。ちなみに『太古の宇宙人』の内容をかいつまんで説明すると、地球の古代文明には宇宙人が残していった痕跡が数多くあって、モアイやドルメンもナスカの地上絵も、みんな古代に地球にやってきた宇宙人の仕業であるというものです。半分はデニケンの主張が加味されていると思いますが、とくに当時のSF小説にはノンフィクションであるにも関わらず、フィクションとして受け入れる熱狂的なファンがいたそうで、デニケンの古代ミステリー小説も一部信じている人も多かったとか言われています。デニケンの説を信じるかどうかは置いといて(※科学者や歴史学者からは否定されている)、個人的に謎が解明されていない歴史ミステリーは好きなので、ちょっとロマンを感じてしまうのは分かる気がします。そういう意味では1970年代という時代は、音楽にしろ小説にしろ映画にしろ裾野が広がった時代なんだなあとつくづく思います。

 そういえばSF小説といえば、ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」を最近読みました。

それではまたっ!