【今日の1枚】Emarson,Lake&Palmer/Talkus(タルカス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Emarson,Lake&Palmer/Talkus
エマーソン・レイク&パーマー/タルカス
1971年リリース

プログレッシヴロックのスタイルと人気を

決定付けたロック史に残る名盤

 すでにスーパーグループとして注目されていたエマーソン・レイク&パーマー(EL&P)が、1970年11月にリリースされたデビューアルバムに続いて、1971年3月26日にニュー・キャッスル・シティ・ホールで行われた『展覧会の絵』のライブ録音と同時にレコーディングされたセカンドアルバム。同年5月にリリースされた『タルカス』は、全英アルバムチャートで1位、全米アルバムチャートで9位を記録し、キング・クリムゾンの1969年作『クリムゾン・キングの宮殿』がプログレッシヴロックの先駆者であるならば、本アルバムはEL&Pというグループを飛躍させた足がかりとなっただけではなく、プログレッシヴロックの新たなスタイルと人気を決定付けたロック史に残る名盤であるといえる。とりわけ日本での人気は凄まじく、『タルカス』のアルバムを聴いてロックを聴き始めた人やプログレッシヴロックに目覚めた人が続出し、50年近く経った現在でも好きなロックアルバムの上位に君臨するほど高い人気を誇っている。

 『タルカス』とは、アルバムジャケットにデザインされているアルマジロと戦車を合体させたような架空の怪物のことである。楽曲はタルカスが火山の中から現れて地上の全てを破壊し、海に帰っていくという壮大なストーリー仕立ての20分を越える組曲形式となっている。この想像上の怪物であるタルカスという名前は、キース・エマーソンがスタジオから帰宅途中に偶然ひらめいたものであると語っているが、楽曲自体はかつて在籍していたザ・ナイスの時代から持っていたと言われている。グレッグ・レイクという稀代のマルチプレイヤーと、カール・パーマーという躍動感あふれる若きドラマーを得たキース・エマーソンが、トリオという編成でクラシックの繊細さとロックのダイナミズムを融合した新たな音楽を目指そうとしたことは容易に想像できる。また、大きな弾みとなったのが、後にEL&Pの代名詞となるモーグ・シンセサイザーを本格的に導入したことである。まだ誰も使いこなすことができなかった高価なモーグシンセサイザーをキース・エマーソンは積極的に研究し、モノにするまで弾きまくったという。モーグ・シンセサイザーという新たな楽器を携えて、エマーソンが追い求める斬新なサウンドの構想と、クラシックで培われた作曲手法を用いて生み出されたのが、ロック史上において傑作アルバムと名高い『タルカス』ということになる。

★曲目★
01.Tarkus(タルカス)
 a.Eruption(噴火)
 b.Stones Of Years(ストーンズ・オブ・イヤーズ)
 c.Iconoclast(アイコノクラスト)
 d.Mass(ミサ聖祭)
 e.Manticore(マンティコア)
 f.Battlefield(戦場)
 g.Aquatarkus(アクアタルカス)
02.Jeremy Bender(ジェレミー・ベンダー)
03.Bitches Crystal(ビッチズ・クリスタル)
04.The Only Way ~Hymn~(ジ・オンリー・ウェイ)
05.Infinite Space ~Conclusion~(限りなき宇宙の果てに)
06.A Time And A Place(タイム・アンド・プレイス)
07.Are You Ready Eddy?(アー・ユー・レディ・エディ)

 もし今、本アルバムを手にしているのであれば、ジャケットの内側、もしくは中を開いて見て欲しい。そこには1曲目の『タルカス』の『噴火』(誕生)から『アクアタルカス』(海に帰る)までのイラストが描かれているはずである。アルバムの1曲目の『タルカス』はこうしたイラストを眺めながら聴いてみると、各パートの楽曲がイメージどおりになっていることが分かる。誕生を想起させるイントロ『噴火』は、3人のポテンシャルが一気に放出したようなパートであり、荘厳さを通り越してキースのキーボードが攻撃的すらある。『ストーンズ・オブ・イヤーズ』で静と動の“静”を強調するグレッグ・レイクの大らかなヴォーカルが入るパートとなっている。『アイコノクラスト』はタルカスの持つ大砲で敵を次々と破壊していくシーンであり、カール・パーマーの変則リズムとキースのエキサイティングなキーボードが冴えた楽曲で表している。『ミサ聖祭』は向かうところ敵無しのタルカスを“恐怖の使者”に例えて、すでに神のいない世界であることをグレッグが高らかに歌い上げている。しかし、そこにライオンの体とサソリの尾、コウモリの羽を持つ合成獣であるマンティコアが現れる。『マンティコア』のパートではカールの手数の多いドラミングと、雄叫びに近いキースの独特のキーボードでマンティコアの登場を表している。『戦場』ではマンティコアという強敵に立ち向かうシーンだが、力強いグレッグのヴォーカルに反して、どこか哀愁のあるキースのキーボードが印象的である。『アクアタルカス』は不意をつかれて目に毒針を食らってしまったタルカスが死を悟り、海へと帰っていくシーンである。ややコミカルなキースのキーボードと整然としたカールのドラミングの対比が、スゴスゴと負けて帰っていくタルカスのイメージを表しているようだ。そして再びイントロの楽曲に戻り、壮大な組曲『タルカス』は幕を下ろす。こうして聴いて見ると、イントロからドラマティックな展開であり、動を強調するキースのキーボードと静を強調するグレッグのコントラストが見事に織り成され、そこにカールの変則リズムのドラミングが加わってひとつのアートを極めているといっても過言ではない。グレッグの書いた歌詞は後付けだが、最初にこのタルカスの構想をキースから聞いたグレッグは唖然としたという。まるでキース・エマーソンのソロアルバムのようだからである。グレッグがあまり興味を抱かなかった一方、カールはモチーフと楽曲に興味を抱き、結果的にレコーディングは開始されるが、キースはグレッグのパートを持たせることによって、この『タルカス』を完成に導いている。

 

 レコードのB面を飾った小曲も紹介しておこう。2曲目の『ジェレミー・ベンダー』は、牧歌的ともいえるカントリー調の楽曲だが、3人がいかにも楽しそうに演奏しているのが分かるナンバーである。3曲目の『ビッチズ・クリスタル』は、キースのファンキーなオルガンプレイを中心としたナンバーであり、グレッグのシャウト風の熱いヴォーカルが堪能できる。4曲目の『ジ・オンリー・ウェイ』は、厳粛なパイプオルガンから始まり、ピアノをベースとしたバロック音楽に変貌する。グレッグのパイプオルガンとピアノに乗せたヴォーカルがあまりにも美しいナンバーである。5曲目の『限りなき宇宙の果てに』は、キースとカールの共作であり、無機質で単調なピアノと繊細なドラムを中心とした現代音楽風のナンバー。6曲目の『タイム・アンド・プレイス』は、キースの高らかなキーボードと力強いカールのドラム、そして熱いヴォーカルの3拍子が揃ったハードロック調のナンバー。7曲目の『アー・ユー・レディ・エディ』は、まさにブギウギ風のロックンロールであり、キースのピアノが全開したノリの良いナンバーになっている。グレッグ・レイクの言葉を借りるわけではないが、本アルバムははっきり言って、キース・エマーソンのプロモーション、もしくはソロアルバムである。キースのオルガン、またはピアノのプレイはクラシックはもとより、ジャズ、ファンキー、ハードロック、果ては現代音楽まで、どんなスタイルでも巧く演奏できる実力を見せ付けた内容だと言っても良い。キース・エマーソンがアメリカでも受け入れられているのは、こうしたジャンルに捉われない奔放さにあるのかもしれない。

 『タルカス』をリリースしたEL&Pは先に述べたとおり、全英アルバムチャートで1位、全米アルバムチャートで9位を記録し、その年のアルバム・オブ・ザ・イヤーに輝くことになる。『タルカス』は後にリリースされる1971年の『展覧会の絵』、1973年の『恐怖の頭脳改革』と並んでEL&P屈指の代表作となり、プログレッシヴロックの新たなスタイルを確立させた傑作となる。何よりも後のキーボードをメインとしたロックグループへの影響は凄まじく、本アルバムを指標とした組曲風のアルバムをリリースしたり、トリオグループが次々と誕生したりしたほどである。同年9月のイギリスのメロディー・メーカー誌の人気投票ではEL&Pは1位となり、各メンバーも担当楽器部門でそれぞれ1位を獲得している。また、組曲の中にある同じく架空の生物を表したタイトル「マンティコア」は、後にEL&Pが設立するマンティコア・レーベルの名前の元となっている。まさに本アルバムでEL&Pは世界的スーパースターに飛躍しただけではなく、プログレッシヴロックというジャンルを知らしめた偉大なる作品である。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は私をプログレの世界に引き入れたエマーソン・レイク&パーマーのセカンドアルバム『タルカス』を紹介しました。『タルカス』については様々な方がレビューしているので今更感がありますが、やはり通る道ということで自分なりにまとめてみました。最初に聴いたのは確かレンタルレコードで、当時はアメリカンロックやイギリスのニューウェイヴばかり借りて聴いていたのですが、エイジアをきっかけに一気に1980年代の音楽から1970年代の音楽に飛んだ初めてのアルバムが、このEL&Pの『タルカス』です。想像してみてください。1980年代当時はMTVやアメリカントップ40、ビルボードなどで、あのマイケル・ジャクソンやマドンナ、ワム、ティアーズ・フォー・フィアーズ、ジャーニー、TOTO、フォリナーなどのキラ星のようなアーティストによるヒット曲が次々と登場している中、何ゆえ1970年代の古い曲に行ってしまったのかと思うでしょうが、それだけ衝撃だったんですよ。わあ、こんな音楽があるんだなって。まあ、一時的にキング・クリムゾンやイエス、ピンク・フロイドといった大御所のプログレを聴いて、90年代にはハードロックやメタルに行ってしまうのですが、様々なジャンルの音楽を聴いて最後に残ったのが、やはりプログレだったというわけです。そういう意味ではこの『タルカス』が私の音楽鑑賞の幅を広げただけではなく、プログレに結び付けてくれた作品ということになります。感謝です。

 さて、本アルバムの『タルカス』は全ての物を破壊し尽くす架空の怪物ですが、なぜ、キース・エマーソンはこのようなコンセプトの楽曲を構想したのか、結局本人の言葉では語られていません。ただ、ジャケットのイラストを見つめてみるとアルマジロと戦車を合体させたこの怪物こそ、世の中の不条理を表現する生物を次々と破壊するシンボルになっているのだと思います。1970年代前後は未だ世界に戦争があり、環境問題があり、鬱憤の溜まった若者達による社会問題が表面化していた時代です。もしかしたら、そんなめぐるましく変化していく時代と誤った方向の文明に対する警鐘と皮肉が込められているのではないかと私なりに思っています。あくまでジャケットに描かれているイラストから想像しただけですが。そういえば本アルバムのエンジニアは、後にイエスのプロデューサーとなるエディ・オフォードが担当しています。7曲目の『アー・ユー・レディ・エディ』は、そのエディをからかった曲だそうですが、アルバムをつぶさに見ていたら、ご丁寧にエンジニアの名前のところに「Enginner:Eddy“Are You Ready”Offord」と書いてありました。(笑) 何度も聴いているアルバムですが、まだまだ発見がありますね。

それではまたっ!