【今日の1枚】Clouds/Up Above Our Heads | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Clouds/Up Above Our Heads
クラウズ/アップ・アバヴ・アウア・ヘッズ
1970年リリース

後にロックキーボーディストの先駆者と呼ばれる
ビリー・リッチーが在籍していたスーパートリオ

 1960年代後半から70年代前半にかけて活動していたスコットランドのキーボードトリオ、クラウズのセカンドアルバム。本アルバムはファーストの3曲と未収録曲で構成された内容で、1970年にアメリカとカナダのみでリリースされたものだが、14分のインストゥメンタル曲を含んだプログレッシヴ色の強いアルバムとなっている。後年、キーボーディストのビリー・リッチーはロック・キーボーディストの先駆者として評価され、ドラマーのハリー・ヒューズはビル・ブルーフォードやカール・パーマーにレッスンした師匠として有名になり、当時、彼らがどれだけ並外れた演奏をしていたか再認識されたアルバムでもある。

 クラウズは元々、1960年代にスコットランドのシーンで活躍していたThe PremiersというR&Bを演奏するグループが母体となっている。メンバーはイアン・エリス(ヴォーカル)、ハリー・ヒューズ(ドラムス)、ビル・ローレンス(ベース)、ジェイムズ・ラファティ(リズム・ギター)、デレク・スターク(リード・ギター)の5人で活動していたが、知名度はあったものの特段に成功しているわけではなかったという。そこで打開策としてオルガン奏者をメンバーに加入するためにオーディションを行い選ばれたのがビリー・リッチーである。ビリーの加入によってグループは人気を得るようになったが、音楽性の違いや家庭の事情などでビル・ローレンスとジェイムズ・ラファティ、デレク・スタークの3人が脱退。メンバーが3人となり、グループで話し合った結果、イアン・エリスがヴォーカル兼ベースを担当するなど今までとは違ったラジカルな音楽を目指すことになる。グループ名を1-2-3に変更し、活動拠点をスコットランドからロンドンに移した彼らは、オリジナリティーを追求していたところ、マーキーの常駐グループに抜擢される。さらにザ・ビートルズのマネジメント会社だったブライアン・エプスタインのNEMSと契約を獲得するが、不幸にもブライアンが急死。代わりにロバート・スティグウッドがマネージャーとなるが、ロバートはザ・ビー・ジーズに力を入れていたため、1-2-3をおろそかにしてしまい、何と彼らをキャバレー・ツアーに送り出してしまったという。その結果、1967年に1-2-3はNEMSを離脱することになる。しばらく彼らはロンドン周辺の小さなクラブで演奏していたが、この1-2-3の音源は後のキング・クリムゾンやイエス、エマーソン・レイク&パーマーといったグループによって結実するほど、プログレッシヴなロックであったと言われている。

 彼らにとって大きな転機となったのが、イルフォードのクラブで演奏していた時、クリサリス・レーベルを立ち上げることになるテリー・エリスの目に留まって契約を結んだことである。条件はグループ名をクラウズと変えて、1-2-3の複雑な音楽から一般大衆寄りの音楽にすることだったが、大規模なツアーと楽曲の録音が約束されたという。特にアメリカツアーのシカゴ公演では、ビルボード誌が「いずれは巨人になるだろう」と予言するほど評価を得ている。しかし、テリーはジェスロ・タルのプロモーションに力を入れていたため、不運にも再びグループは脇に追いやられるハメになってしまう。そんなモチベーションの下がった状態が続いたグループの崩壊はドラマティックな形でやってくる。とあるコンサートでビリーが全ての機材をステージの上から投げ下ろし、ピアノに乗っかって観客の中に突っ込んでいくという行動に出てしまい、混乱の中で呆然とする観客をよそにビリーは悠然と会場を後にしたという伝説的なエピソードが残っている。こうしてグループはシーンから姿を消すことになるが、再び評価されるのは約20年後の1990年代になる。不運と不遇が折り重なったクラウドだが、3枚のアルバムを残しており、いずれも埋もれてしまうには惜しいほどの名盤である。特に本アルバムは、間違いなく後のプログレッシヴロックに影響を与えただろうと思われるテクニカルでセンス抜群の楽曲がズラリと並んでいる。

★曲目★
01.Imagine Me(イマジン・ミー)
02.Sing,Sing,Sing(シング、シング、シング)
03.Take Me To Your Leader(ワレワレは宇宙人だ)
04.The Carpenter(ザ・カーペンター)
05.Old Man(年老いた男)
06.Big Noise From Winnetka(ウィネトカからの大きな音)
07.In The Mine(鉱山にて)
08.Waiter,There’s Something In My Soup(給仕さん、僕のスープになにか入ってるよ)
★ボーナストラック★
09.The Warld Is Madhouse~Studio Outtake 1970~(ザ・ワールド・イズ・マッドハウス)
10.Once Upon A Time~Studio Outtake 1970~(昔ばなし)
11.America~Live At The Marquee~(アメリカ)

 改めてメンバーはイアン・エリス(ベース、ヴォーカル、ハーモニカ)、ビリー・リッチー(オルガン、ピアノ、ギター、ベース、ヴォーカル)、ハリー・ヒューズ(ドラム、トランペット)となっており、それぞれ複数の楽器を担当している。アルバムの1曲目の『イマジン・ミー』は、アグレッシヴなオルガンワークと力強いヴォーカルをメインとしたナンバーで、中間部のソロはEL&Pよりも先んじて「ナットロッカー」が演奏されている。後半の叩きつけるようなオルガンの即興はキース・エマーソンばりの奏法であり、聴く者を圧倒させてくれる。2曲目の『シング、シング、シング』は、1959年にルイ・プリマが作曲し、ベニー・グッドマン楽団が演奏したことで知られるインストゥメンタル曲。こちらもキース・エマーソンを思わせるホンキートンク風のピアノワーク、イアンのベースソロ、ハリーの正確無比のドラムソロがあり、3人のテクニカルな演奏が堪能できるナンバーだ。3曲目の『ワレワレは宇宙人だ』は、1968年のシングルA面を飾ったナンバーで、ブラスセクションを加えたオルガンハードロックになっている。後半の高速ジャズパートは必聴である。4曲目の『ザ・カーペンター』は、アップテンポのオルガンワークが印象的なヴォーカル曲。とにかくハリーの手数の多いドラムが素晴らしく、中間部のビリーのオルガンのアグレッシヴさは類を見ないほど革新性にあふれている。5曲目の『年老いた男』は、イアンのハーモニカソロから始まるブルース調のナンバー。サビの部分で数少ないビリーのギターが聴ける。6曲目の『ウィネトカからの大きな音』は、ヴォーカルパートを除いたリズムセクションが中心となったナンバーで、ハリーのパーカッションプレイとイアンの高速ベースが圧巻であり進歩的ですらある。7曲目の『鉱山にて』は、ビリーのアコースティックギターをベースにしたヴォーカル曲。トランペットとハーモニカが加わることで情緒たっぷりの哀愁のあるナンバーになっている。8曲目の『給仕さん、僕のスープになにか入ってるよ』は、オーケストレイションを擁した7分の大曲。ブラスパートを加わえたことで、とても華やかな内容になっているが、安定したリズムセクション上で歌うコーラスパートのバックに流れる美しいストリングスは注目である。こうして聴いてみると、キース・エマーソン率いるザ・ナイスと比べてしまうが、大きく違うのが群を抜いた正確性を持つリズムセクションと美しいヴォーカル、コーラスワークにある。そして何よりもアグレッシヴなプレイを披露するビリーのオルガンは、当時としては革新性の高いものであると感じられる。ザ・ナイスではキース・エマーソンがあまりにも巧すぎてバックが着いていけなかったことを考えると、クラウドがいかに優れたトリオグループであったかが良く分かる。

 音楽シーンから離れたクラウドが再び注目されるようになったのは、1990年代にデヴィッド・ボウイが「知られざる天才」として1-2-3について言及したことから始まる。後にスカイ・アーツが1-2-3とそのプログレッシヴロックに対する影響についてのTV番組を制作し、デヴィッド・ボウイとビリー・リッチーの友情が取り上げたという。こうして1-2-3とクラウドが再び注目されるようになり、その音楽性からアグレッシヴなキーボードを演奏するビリー・リッチーはロックキーボーディストの先駆者と呼ばれるようになる。また、イエスやエマーソン・レイク&パーマーが一躍トップグループになった時、そのドラマーであるビル・ブルーフォードやカール・パーマーにレッスンしたハリー・ヒューズは彼らの師として注目されることになる。ハリーはLevel 42やマイク+ザ・メカニックス、ケイト・ブッシュのギタリストであるアラン・マーフィー(1989年没)と共にMahatma Kane Jeevesを結成し、Celedoniaというグループの活動を経て音楽業界を離れている。またイアン・エリスはサヴォイ・ブラウンやアレックス・ハーヴェイ、ピート・タウンゼント、スティーヴ・ハケットなどとツアーを行い、テン・イヤーズ・アフターのリック・リー、そしてチャック・チャーチルと共にThe Breakersというグループを結成している。さらに、2017年9月には45年ぶりとなるマーキー主催のコンサートを行い、2017年にSHM-CD盤の紙ジャケがリリースされたことで今、再評価されつつあるグループとなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は隠れ名盤と呼び声高いクラウドのセカンドアルバム『アップ・アバヴ・アウア・ヘッズ』を紹介しました。このアルバム2017年のベル・アンティーク盤で入手したのですが、このアルバムを聴いて即座に残りの2枚を揃えました。本アルバムはビリー・リッチーのアグレッシヴでありながら上品なストリングアレンジのあるオルガンは素晴らしいのですが、それよりもハリー・ヒューズのドラムとイアン・エリスのベースの安定感が半端無いです。特にハリーの正確無比のドラミングは、さすがビル・ブルーフォードやカール・パーマーにレッスンしたという腕前だと思います。聴けば聴くほど、キース・エマーソン率いるザ・ナイスに比肩するキーボードトリオが、1960年代後半に存在していたというのは正直驚きです。

 さて、楽曲を聴いて何でこんな凄いグループが埋もれていたんだろうとつくづく思いましたが、ライナーノーツを読んでみて納得です。資金難やメンバーの離脱などで活動不可になったグループはいくつもあるのですが、クラウドの場合は明らかに機会の不運と不遇の連続だったことを知りました。特にブライアン・エプスタインの死は大きいです。かのザ・ビートルズですら解散の主な原因はエプスタインの死であると言われているほど、当時最も腕利きのマネージャーでした。もしかしたら彼が生きていたら世界進出も夢ではなかったかも知れません。ビリーがステージ上で機材を投げたくなる気持ちも(やってはいけませんが)何となく分かります。しかし、実力のあるグループはいつの日か光りが当たるものです。きっかけはデヴィッド・ボウイというのが何とも意外ですが、これによってクラウドと1-2-3が20年後の1990年代にやっと注目されることになります。個人的にデヴィッド・ボウイが話題にした1-2-3は、今回紹介したクラウドよりもさらに進歩的なサウンドだったらしいので、個人的に興味がありまくりです。 

それではまたっ!