【今日の1枚】Blue Motion/Blue Motion(碧き衝撃) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Blue Motion/Blue Motion

ブルー・モーション/碧き衝撃

1980年リリース

スイスの技巧派キーボードトリオ

ブルー・モーションの衝撃のアルバム

 スイスのテクニカル・シンフォニックグループであるCircus(サーカス)のドラマー、フリッツ・ハウザー率いるブルー・モーションの唯一のアルバム。サウンドはツインキーボードとドラムという変則トリオによる即興性の高いクラシック風のジャズロックであり、そのフリーフォームな展開と技巧的でエモーショナルな演奏は聴く者を圧倒させる名盤である。ブルー・モーションの登場は、アイランド、シナー、サーカスをはじめとしたスイスの音楽レベルの高さを証明した決定的な作品ともいえる。

 ブルー・モーションのドラマーであるフリッツ・ハウザーが在籍していたサーカスは、スイスの北西部の都市、バーゼルで1972年に結成されている。当時のサーカスの編成は特異であり、ドラマーのフリッツ・ハウザーのほか、マルコ・チェルレッティ(ベース)、アンドレアス・グリーダー(フルート、サックス)、ローランド・フライ(ヴォーカル、サックス)というゲルマン系3人とラテン系1人というメンバーであり、ギター&キーボードレスの変則編成となっている。1976年にファーストアルバム『Circus』、1977年にはセカンドアルバム『Movin‘ On』をリリースしており、凌ぎを削るテクニカルなアンサンブルがあまりにも衝撃的であり、スイスだけではなくヨーロッパで高い評価を得た作品となっている。転機となったのは1980年にアンドレアス・グリーダーが脱退し、かつて1978年に『Circus All Stars』名義で多数のゲストを迎えた『Live』に参加していたオルガン奏者、ステファン・アマンを迎えたことである。サーカスのサードアルバムとなる『Fearless Tearless And Even Less』を録音後、フリッツ・ハウザーがステファン・アマンを連れて結成したのがブルー・モーションである。

 

 ブルー・モーションの最大の特徴は、サーカス時代と打って変わってキーボードをメインに据えたことにある。しかも2人である。メンバーはフリッツ・ハウザー(ドラム、パーカッション)の他に、ステファン・アマン(ハモンドC3、シンセサイザー、エレクトリック・ピアノ、ホーナー・クラヴィネット)、ステファン・グリーダー(ピアノ)のトリオ編成で、1980年10月1日と2日にスタジオライヴとして録音。そして年内にリリースされたのが本アルバム『Blue Motion』である。

 

★曲目★

01.Stromboli(ストロンボリ火山)

02.FingersⅠ(フィンガーズⅠ)

03.MoontalesⅣ(ムーンテイルズⅣ)

04.Motions(モーションズ)

05.FingersⅡ(フィンガーズⅡ)

06.Blue Motion(ブルー・モーション)

07.31/8(31/8)

08.Stonehenge(ストーンヘンジ)

09.MoontalesⅠ(ムーンテイルズⅠ)

10.Motions(モーションズ)

11.Parking(パーキング)

12.Slow Motion(スロー・モーション)

 

 アルバムは全12曲となっているが、14分を越す曲から35秒のみの曲があるなど、非常に前衛的ともいえる即興性にあふれたクラシカルでジャジーなナンバーが揃っている。1曲目の『ストロンボリ火山』は、イタリアの地中海のティレニア海エオリエ諸島に属する島にある火山をモチーフにしたナンバー。力強いピアノとオルガンの反復フレーズと、正確無比なドラムをアクセントとした曲となっている。反復フレーズの後にはオルガンのソロとなり、端正なフレージングが続いてから今度はジャズ風なエレクトリック・ピアノがソロをとるようになる。後半ではフリーフォームの展開から再びピアノによるクラシカルなフレーズに変わったかと思うと、オルガンによる高速フレージングとそれに絡まるピアノで幕を閉じる。14分を越す大曲だが、緩急をつけた3人の息もつかせない演奏は1曲目にして圧巻である。2曲目の『フィンガーズⅠ』は、ステファン・グリーダーによるピアノソロ。35秒と短いながらもやや不安感を誘う曲だ。3曲目の『ムーンテイルズⅣ』は、ステファン・アマンによるオルガンソロであり、JSバッハを思わせるバロック調の内容になっている。4曲目の『モーション』は、フリッツ・ハウザーによるパーカッションソロである。5曲目の『フィンガーⅡ』は、2曲目の『Ⅰ』とは対照的にフリージャズ的なピアノ演奏になっているのが特徴である。6曲目の『ブルー・モーション』は、パーカッションと暗いピアノを中心にストリングス・シンセサイザーによる異様な緊張感にあふれた曲。7曲目の『31/8』は、伝統的なクラシック風のピアノソロになっている。数字は8月31日という意味らしく、低音の反復上で奏でた美しいメロディーが堪能できる。8曲目の『ストーンヘッジ』は、美しいピアノとオルガンによるテクニカルシンフォニックとなっており、技巧的なピアノとオルガンによるアンサンブルが圧巻である。エマーソン・レイク&パーマーを彷彿とさせるオルガンの反復や木琴を加えた高速フレージングは聴き応え満点である。1曲目がジャズ要素の強いナンバーだったのに対して、こちらはクラシック要素が強いナンバーだと言っても良いだろう。9曲目の『ムーンテイルズⅠ』は、フェンダーローズを使用したソロを中心とした曲で、非常にポップなメロディーに満ちた曲である。10曲目の『モーションズ』は力強いフリッツのドラムソロであり、11曲目の『パーキング』はステファン・グリーダーによるピアノによる即興、最後の12曲目の『スロー・モーション』は、ハイアットとエレクトリック・ピアノ、シンセサイザーが加わる哀愁のメロディーが堪能できるナンバー。オルガンが途中で切り込むなど単調では終わらない内容に、彼らの即興性がにじみ出た曲になっている。

 こうして聴いてみると、3人が3様の個性を十分に引き出したアルバムになっており、全体的に無機質で前衛的ともいえる演奏の中に、ジャズ特有の即興から生まれる緊張感やクラシックが持つ優美で叙情的な要素がきちんと備わっている。その点から言えば技巧性と叙情性の2つの要素を併せ持つスイス特有のロックサウンドを強く踏襲した作品でもある。とくにハイライトともいえる1曲目の『ストロンボリ火山』と8曲目の『ストーンヘッジ』、12曲目の『スロー・モーション』は、キーボードをメインとしたアンサンブルは一級品であり、彼ら3人の真骨頂となっている。これだけ魅力的なサウンドを披露したブルー・モーションは本アルバム1枚を残して解散してしまうが、そのサウンドは時代を越えた今でも強烈な印象を残している。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はスイスのグループであるサーカスから派生したテクニカルシンフォニックグループ、ブルー・モーションの唯一のアルバムを紹介しました。ブルー・モーションはSHM-CD盤が出た時に購入して初めて聴きいたのですが、ドラム、ベース、サックス、フルートという変則的な編成だったサーカス時代を受け継ぐような2人のキーボード奏者とドラムスという、これまた変則的なトリオとなっています。曲自体も即興性があり、キーボード奏者をメインとしているため、サーカスよりもクラシカルなアレンジが冴えた印象があります。ドラマーのフリッツ・ハウザーは相変わらず繊細なドラミングを披露しており、ジャジーな展開のところでは思わずため息が漏れるほどテクニカルです。ただ、演奏形態からして非常に前衛的なサウンドが目立つため、かなり聴く人を選ぶかもしれません。それにしても、高度な技巧を誇る音楽が多いスイスならではの音楽性はため息ものです。

 

 さて、ブルー・モーションが解散した後、ドラマーのフリッツ・ハウザーは前衛ジャズ、現代音楽のシーンで活躍し、世界的に知られるアーティストになっています。最近では2007年にソロアルバム『Flip/ Solodrumming』をリリースしており、モアレや物音系を用いた音響的アプローチを持つ繊細なパーカッションソロを聴かせてくれています。

 アルバムジャケットは、白をベースに手書きの筆記で表したグループ名がとてもお洒落です。キーボードを中心としたジャズロックが好きな人にはオススメです。

それではまたっ!