【今日の1枚】Circus/Circus(サーカス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Circus/Circus

サーカス/サーカス

1969年リリース

業界きってのサックス奏者である

メル・コリンズが在籍していた唯一のアルバム

 1960年代後半から1970年代にかけて、イギリスのスティールギター奏者のB・J・コール、ピアノ奏者のニック・ホプキンズと並んでセッションマンとして知られるサックス奏者のメル・コリンズ。彼はピンク・フロイド、バッド・カンパニー、B・B・シートン、クラナド、ストレイ・キャッツなど、多彩なグループと共演し、さらにキング・クリムゾン、キャメル、スネイブ、ココモ、アルヴィン・リー・アンド・ザ・カンパニーといったグループの正規メンバーとして活躍する。本アルバムはそんな彼がキング・クリムゾンに加入する前に在籍していたサーカスの唯一のアルバムであり、セッションマンとしてあまり自己主張の少なかった彼が、例外ともいえる作曲を手がけた数少ないアルバムでもある。

 メル・コリンズは1947年9月5日にイギリス王室領のマン島で生まれており、彼の父はBBC専属のサックス・プレイヤーとして数々の録音に参加したセッションマンである。幼少期はピアノとクラリネットの教育を受けていたが、父の影響からジャズに親しみを覚え、ソニー・ロリンズやチャールズ・ミンガスを好んで聴いていたという。1960年代半ばには転向したサックスを片手にロンドンに渡り、複数のローカルグループで演奏し、18歳になるとThe Dagoesというツアーサポートグループに参加している。メル・コリンズがサックス奏者として頭角を現すのは、1961年に結成されたストームズヴィル・シェイカーズという、後にサーカスの母体となるグループである。メンバーの中心人物はキーボード奏者でコンポーザー、そしてヴォーカリストでもあるフィリップ・グッドハンド・テイトであり、結成当初のラインナップには後にサーカスのメンバーとなるベーシストのカーク・リドルも在籍していたという。グループは1965年に渡英したラリー・ウィリアムズのバックを任され、『The Larry Williams Show』と『Larry Williams On Stage』の2枚のレコーディングに参加している。後にギタリストのイアン・ジェルフズが加わり、1966年にバーロフォンからデビューシングルである『I’m Gonna Put Some Hurt On You/It’s A Lie』をリリースする。このシングルの発表後にメル・コリンズがサックス奏者として加入している。そしてさらに2枚のシングルをリリースした後にグループ名をサーカスに変えている。サーカス名義でリリースしたデビューシングル『Gone Are Songs Of Yesterday/Sink Or Swim』は、プロデューサーにマンフレッド・マンのマイケル・ダボを起用。しかし、ヒットチャートを狙った作品だったが大きな成功とはならず、1968年にはサイケデリック風の曲にした『Do You Dream/House Of Wood』をリリースするが、こちらもヒットには至らなかったという。その結果、ラヴ・アフェアに楽曲提供することでコンポーザーとして評価を高めていたリーダーのフィリップ・グッドハンド・テイトが、グループから離脱することになる。

 

 残されたメンバー4人はメル・コリンズを中心に活動を続行し、よりジャズ色の強めていったという。彼らはマーキー主催の水曜日のレギュラーとなり、トランスアトランティック・レコードと契約。マーキーのレギュラーを務める傍ら、ロンドンのウィルスデンにあるモーガン・サウンド・レコーディング・スタジオでファーストアルバムのレコーディングを開始している。その時のメンバーは、メル・コリンズ(テナーサックス、フルート)、イアン・ジェルフズ(ギター)、カーク・リドル(ベース)、クリス・バロウズ(ドラムス)の4人であり、レコーディング・セッションのゲストとしてキース・ブリーズビー(パーカッション)が参加している。プロデューサーにはサイケデリック・ポップグループとして知られるニルヴァーナのレイ・シンガーが担当し、エンジニアには後にローリング・ストーンズの一連の作品を手がけるアンディ・ジョンズが担当している。本アルバムは全8曲のうち5曲がカヴァー曲であり、残りの3曲はメル・コリンズが手がけた曲となっており、ソフトタッチのヴォーカル曲とジャズ色の強いインストゥメンタルの曲が混在する魅力的な作品に仕上がっている。

 

★曲目★

01.Norwegian Wood(ノルウェーの森)

02.Pleasures Of A Lifetime(一生の喜び)

03.St.Thomas(セイント・トーマス)

04.Goodnight John Morgan(グッドナイト・ジョン・モーガン)

05.Father Of My Daughter(ファーザー・オブ・マイ・ドーター)

06.Ⅱ B.S.(Ⅱ B.S)

07.Monday Monday(マンデー・マンデー)

08.Don't Make Promises(ドント・メイク・プロミセス)

 

 アルバムの1曲目の『ノルウェーの森』は、いわずと知れたビートルズの『ラバー・ソウル』に収録されている曲のカヴァー。ビートルズ・ヴァージョンのシタールに代えて、イアン・ジェルフズの歪んだギターの音色が特徴であり、メル・コリンズのサックスが歪んだギターを中和するような内容になっている。2曲目の『一生の喜び』は、メル・コリンズが作曲したナンバーで、ジェルフズの爪弾くようなギターから始まり、サイケデリックな香りを残しつつもソフトタッチなヴォーカルが冴えたメロディアスな曲になっている。3曲目の『セイント・トーマス』は、ソニー・ロリンズの傑作と言われている『Saxophone Colossus』に収録されたナンバーで、ジャマイカのセイント・トーマスを題材にした楽曲である。この曲でメル・コリンズはサックスではなくフルートで挑んでいる。4曲目の『グッドナイト・ジョン・モーガン』は、アルバムのA面を締めくくる小曲となっており、5曲目の『ファーザー・オブ・マイ・ドーター』もコリンズが作曲したナンバー。この曲では多重録音によるジェルフズとの二重唱が美しいメロディアスな内容になっている。6曲目の『Ⅱ B.S.』は、チャールズ・ミンガスのカヴァーであり、やや勢い任せのアンサンブルが心地よいナンバーで、最もメル・コリンズの力強いサックスが堪能できる曲になっている。7曲目の『マンデー・マンデー』は、ママス・アンド・パパスのジョン・フィリップスの作品。コリンズの美しいフルートとジェルフズの小粋なギターが効いたナンバーになっている。8曲目の『ドント・メイク・プレジャーズ』は、アメリカのシンガーソングライターであるティム・ハーディンの作品。ハーディンの原曲に近づけようと吹き込むコリンズのサックスが聴けるナンバーとなっている。こうして聴いてみると、リードヴォーカルをギタリストのジェルフズが担当しているものの、本アルバムの主役は明らかにメル・コリンズであることが分かる。幼少期に影響を受けたとされる、ソニー・ロリンズやチャールズ・ミンガスのナンバーを加え、尚且つオリジナル曲を提供している点から、彼のアルバムに対する思い入れは相当強かったのだろうと思える。また、本アルバムでジャズやロック、ポップス、サイケデリックといった様々なジャンルに対して、どの音楽でも挑もうとする柔軟な姿勢が垣間見えており、後にプログレッシヴロックやファンク、ロカビリーに至るまで広げていく、彼のセッションマンとしての地位を築く大きなきっかけとなったアルバムともいえる。

 メル・コリンズは本アルバムをリリース後に、同じマーキーの日曜日のレギュラーだったキング・クリムゾンのロバート・フィリップに誘われてグループを脱退。リーダーを失ったサーカスは間もなく解散となってしまう。ベーシストのカーク・リドルは、ジャッキー・リントンのバックバンドに加入し、ギタリストのイアン・ジェルフズはフランスに渡り、ヴァレリー・ラグランジュの公私にわたるパートナーとなって活躍することになる。メル・コリンズは周知の通り、キング・クリムゾンで一躍脚光を浴びて、後に50人近いミュージシャンとライヴやレコーディングをサポートし、音楽業界きってのサックス奏者として活躍することになる。最近では2011年にロバート・フリップが主導する「キング・クリムゾン・プロジェクト」として発表された『ア・スケアシティ・オブ・ミラクルズ』の収録に参加し、1974年にゲスト参加したアルバム『Red』以来、37年ぶりにロバート・フリップとの共演を果たしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は英国きってのセッションマンで、サックス奏者であるメル・コリンズが、キング・クリムゾン加入前に在籍していたサーカスのアルバムを紹介しました。メル・コリンズの名はキング・クリムゾンで初めて知ったのですが、強く意識したのはキャメルの5枚目のアルバム『雨のシルエット』です。彼の柔らかいサックスの音が、叙情的なサウンドであるキャメルに良く合っていると感じました。後で知ったのはアラン・パーソンズ・プロジェクトの1982年のアルバム『アイ・イン・ザ・スカイ』やティアーズ・フォー・フィアーズの名盤である『シャウト』、中島みゆきの1990年のアルバム『夜を往け』にもサックス奏者として参加しているんですね。まさにセッションマンの鑑です。そんなセッションマンとして自分の役割を担ってきたメル・コリンズが、例外ともいえる自己主張を表しているのが本アルバムになります。アルバムを聴いた人にとっては、キング・クリムゾンのメル・コリンズには遠く及ばないと思うかも知れませんが、サックスだけではなくフルートまで使用し、ジャズやロック、ポップスなど多彩なジャンルの中で演奏しきっているのは、流石としか言いようがありません。すでにこの時から、英国でめぐるましく変化する音楽シーンを彼なりに感じていたのかも知れませんね。

 

 さて、サーカスというグループは英国に2つあることをご存知でしょうか? 1つはメル・コリンズが在籍していたCIRCUSであり、もう1つは1970年代初期に『ONE』というアルバムを残したCIRKUSというグループがあります。後者はスペルにKが使われていることから、“K”のサーカスと言われています。メロトロンを駆使したハードなプログレッシヴロックとなっているのですが、たった1枚のアルバム(自主制作)で解散しているため、幻のグループとなっています。他にもスイスにCIRCUSというプログレグループがありますし、そういえば日本にもヒット曲『アメリカン・フィーリング』で有名なサーカスという男女4人のグループがいましたねぇ~。うわ~懐かし~! 確かCD持っていたはず! どこだっけ~? …すみません、話が逸れてしまいましたが、Kの“CIRKUS”は機会がありましたら紹介したいなと思っています。

 

それではまたっ!