【今日の1枚】Strange Days/9 Parts To The Wind | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Strange Days/9 Parts To The Wind
ストレンジ・デイズ/ナイン・パーツ・トゥ・ザ・ウインド
1975年リリース

英国然としたキャッチーな
メロディにあふれた幻のアルバム

 1970年代後期に台頭したパンク/ニューウェイヴの影響で姿を消した幻のグループ、ストレンジ・デイズの唯一のアルバム。イエスやジェネシスといった往年のプログレッシヴロックに影響を受けつつも、ケストレルやイングランドに通じる英国の田園を思わせるキャッチーなメロディにあふれた名盤である。シンフォニックパートやジャズパートがあるなど、確かなテクニックによる高レベルな演奏は、後に一級品の英国ロックとして再評価されつつある。

 ストレンジ・デイズは僅かな期間でしか活動していなかったため、彼らの情報はほとんどない。しかし、ストレンジ・デイズの前身となったと言われているトラヴィスというグループが存在する。このトラヴィスはポール・トラヴィス(ヴォーカル、ギター)を中心としたグループで、メンバーはブライアン・ジョーンズ(ドラムス)、フィル・ウォルマン(ヴォーカル、ベース)、エディ・スペンス(キーボード)、グレアム・ウォード(ヴォーカル・ギター)となっており、英国でポップグループとして活躍していたという。このトラヴィスというグループを進化させたのがストレンジ・デイズということになる。彼らは主にカレッジ・サーキットで活躍し、精力的にクラブなどでギグを行ったり、EMI以前のセックス・ピストルズのライヴの前座に抜擢されたりと彼らの知名度は徐々に高まっていったという。後にグレアム・ウォードを中心としたストレンジ・デイズというグループ名になり、リトリート・レコーズからアルバムのリリースを打診される。それが本アルバムの『ナイン・パーツ・トゥ・ザ・ウインド』である。レコーディング時のメンバーはグレアム・ウォード(ヴォーカル、リードギター)のほか、グレアムの弟であるディヴ・ウォード(ドラムス)、フィル・ウォルマン(ヴォーカル、ベース)、エディ・スペンス(キーボード)の4人編成である。また、プロデューサーにはウィッシュボーン・アッシュを手がけたデレク・ローレンとビッグ・ジム・サリヴァン、エンジニアにはルネッサンスやELOを手がけたディック・プラントが担当しており、なかなか豪華なバックアップで制作されている。

★曲目★
01.9 Parts To The Wind(ナイン・パーツ・トゥ・ザ・ウインド)
02.Be Nice To Joe Soap(ビー・ナイス・トゥ・ジョー・ソープ)
03.The Journey(ザ・ジャーニー)
04.Monday Morning(マンデー・モーニング)
05.A Unanimous Decision(ア・ユナニマス・ディシジョン)
06.18 Tons(18トン)
★ボーナストラック★
07.Monday Morning~Single Varsion~(マンデー・モーニング~シングル・ヴァージョン~)
08.Joe Soap~Single Varsion~(ジョー・ソープ~シングル・ヴァージョン~)

 本アルバムは6曲構成(ボーナストラックの2曲はシングル・ヴァージョン)となっており、すべてグレアム・ウォードが作詞作曲をしている。1曲目のタイトル曲『ナイン・パーツ・トゥ・ザ・ウインド』は、オルガンとピアノのユニゾンを活かしたバッキングのヴォーカルが、どこか英国情緒を思わせるキャッチーなメロディにあふれたナンバー。シンフォニック要素を加味した牧歌的なフォークロックであり、この1曲で彼らのサウンドスタイルが確立されているのが分かる。2曲目の『ビー・ナイス・トゥ・ジョー・ソープ』は6分を越える曲であり、イントロのオルガンワークとギターによるインタープレイがジェネシスを彷彿させるプログレ的なアプローチのあるナンバー。また、ヴォーカルパートではハープシコードを活かしたストローブスを思わせる英国風のアコースティックな演奏が光っている。3曲目の『ザ・ジャーニー』は、情感のこもったグレアム・ウォードのヴォーカルと落ち着いたキーボードによる哀愁のバラードになっており、間奏のキーボードとアコースティックギターのアンサンブルは英国の田園風景を思わせる優しい曲になっている。10分を越える曲だが、まったく飽きさせない内容になっている。4曲目の『マンデー・モーニング』は、シングルカットされた軽快なリズムと端正なオルガンによるポップナンバー。間奏のエディ・スペンスのシンセサイザーによるインタープレイとグレアム・ウォードのギターが冴えた短いながらも聴き所が満載の曲である。5曲目の『ア・ユナニマス・ディシジョン』は、オルガンをベースにしたシアトリカルなグレアム・ウォードのヴォーカルを中心としたナンバー。コーラスワークやオルガンワークがジェネシスを思わせる要素があり、後半のアップテンポな演奏は彼らのテクニカルな部分が発揮された曲である。6曲目の『18トン』は8分を越える曲であり、優しいオルガンとエレピに乗せたコーラスから始まる。次第に楽器の数が増えて楽曲に厚みが出てきて、ブリティッシュロック調に変貌していくのが面白い。ユーモアのあるキーボードワークと中間部のテクニカルなギターソロが聴き所であり、力強いグレアム・ウォードのヴォーカルと共に静かにフェードアウトしていく流れになっている。こうして聴いてみると、単にキャッチーなメロディで終始しているわけではなく、随所でキーボードやオルガンによるシンフォニック的な要素やオールド・ジャズ的な要素を加味しており、最後まで一気に聴けてしまう不思議な魅力がある。また、英国ロックの哀愁とフォークロックの牧歌性が合わさったようなサウンドは、懐古的というより、聴く者の琴線に触れる優しさがあるように感じる。

 ストレンジ・デイズは本アルバムと2曲のシングルをリリースした後、1976年にギタリストとして頭角を現しはじめたゴードン・ギルトラップのツアーに同行している。ゴードンはアルバム『ヴィジョナリー』をリリースしてセールス的に成功し、ライヴツアーを計画していたがバックを務めるバンドがいなかった。そこで選ばれたのがストレンジ・デイズである。このツアーの音源は『Live At The BBC』にあるらしく、ストレンジ・デイズがバックで演奏した4曲、エディ・スペンスが参加した1曲が収録されているという。しかし、グループとしてのゴードン・ギルトラップのツアーの同行はこの1回のみで、スペンスのみがそのままギルトラップと同行するようになる。そこでストレンジ・デイズの活動は終了しており、グループは解散している。その後の各メンバーの動向はセッションミュージシャンとして活動をするものの陽の目に出たということは聞かない。しかし、唯一、エディ・スペンスのみはゴードン・ギルドラップのツアーを経て、1980年にThe Glitter Bandに加入し、2000年に突入しても活動をし続けているという。ストレンジ・デイズはパンク/ニューウェイヴの影響を受けたことで短い活動期間だったが、もう2、3年早くデビューしていたら、もっと名を馳せたグループになっていたかも知れない。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はケストレル、イングランドに並ぶ伝統のブリティッシュロックの花を咲かせたストレンジ・デイズのアルバムを紹介しました。ストレンジ・デイズがケストレルやイングランドと違う点は、メロトロンを使用しているかどうかぐらいです。彼らの音楽はユニークなキーボードワークやオルガンが象徴的であり、フォークロックをベースにしているためか、ストレンジ・デイズのほうが非常に牧歌的です。タイトル通り9つの楽曲がありますが、最後まで一気に聴けてしまうのは、音楽性というよりもやはりグレアム・ウォードのメロディセンスにあるのではないかと思っています。それとこのグループはパンク/ニューウェイヴの影響をモロに受けたグループで、上記にもあるようにストレンジ・デイズはロンドンの100クラブでEMI以前のセックス・ピストルズの前座を務めています。すでにプログレッシヴロックとパンクの逆転劇がここで起こっており、1975年~1976年辺りの音楽シーンでパンクが新しい音楽として受け入れられていたということが分かります。パンクを否定、肯定するわけではありませんが、陰鬱した時代をぶっ壊したいという若者の沸々とした感情は分かる気がします。

 さて、ストレンジ・デイズの名前を語るときに外せないのが、1998年にCDジャーナルの別冊として創刊され、2016年4月の廃刊まで音楽雑誌として発売してきた「月刊ストレンジ・デイズ」です。元々、レコード・コレクターズ(ミュージックマガジン社)を買って読んでいましたが、2000年過ぎた辺りからストレンジ・デイズに鞍替えしています。理由は単純にプログレを多く扱っていたからです。もっと言えばレーベルを基調とした内容になっており、初めてレコードやCDにレーベルを意識したというプログレ共々お世話になった雑誌です。ちなみに最初に買った2000年6月号は、オブスキュア&アンビエントレーベルの特集になっていて、アンビエントといえばブライアン・イーノですね。他に英トラッドロック特集やトッド・ラングレン、XTC、ピンク・フロイド、スティーヴ・ハウなどを扱っています。抜けている号もありますが、今でも大事に取ってあります。もう捨てるに捨てられません。

 グループ名と雑誌名に関連性があるとは思えませんが、ストレンジ・デイズ=奇妙な日々(変わった日々)を謳歌しようと名付けた気持ちはよく分かる気がします。確かに当時は毎日が楽しかったな……。。゚(゚´Д`゚)゚。

それではまたっ!