【今日の1枚】Earth And Fire/Atlantis(アトランティス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Earth And Fire/Atlantis
アース&ファイアー/アトランティス
1973年リリース

幻の大陸「アトランティス」の隆盛と荒廃を描いた
グループ最高峰の一大コンセプトアルバム

 オランダでフォーカスと比肩する高い人気を誇るアース&ファイアーのサードアルバム。ヒッピー・カルチャーに触発されたビート・ポップ・グループだった彼らが、メロトロンを起用した前作のセカンドアルバム『アムステルダムの少年兵』でシンフォニックロックサウンドに変貌し、さらにプログレッシヴなサウンドを推し進めた本作『アトランティス』は、グループとして頂点を極めた傑作として名高いアルバムである。本作は幻の大陸「アトランティス」の興亡を描いた一大コンセプトアルバムとなっており、その卓越したメロディーラインと演奏はグループとしての充実ぶりが如実に表れた作品となっている。また、ガネーシャをはじめとしたインド神を描いた曼荼羅を思わせる美しいジャケットイラストは、今見ても鮮烈である。

 アース&ファイアーは1968年にクリス・クールツ(ギター)、ヘラルト・クールツ(キーボード)の双子の兄弟によって結成されたグループである。2人はオランダのアムステルダムとロッテルダムの中間地点にある北海沿岸の都市、ライデンで生まれており、幼少期はオランダから独立したばかりのインドネシアで生活していたという。10代になってオランダに戻り、デンハーグでザ・スウィング・トゥインズというグループを2人で結成し、主に英米のヒット曲をレパートリーにしながらライヴ活動を行っていたという。1967年にセース・カリス(ドラムス)、ハンス・ズィーク(ベース)が加入し、オーパス・ゲインフルというグループを結成。しばらく4人で活動をしていたが、ヴォーカリストの必要性を感じ、ソウル系ギタリストのエリック・ウェニングの紹介で女性ヴォーカリストのマヌエラ・ベルロートが加入する。彼女はリゼットという芸名でソロシングルを出すなど、プロとしてのキャリアを積んでいたアーティストである。彼女が加入したことをきっかけに、1968年11月23日にグループ名をアース&ファイアーと変えている。

 メンバーが5人となった彼らは精力的にライヴを行い、ライトショーなどとコラボレートした派手なサイケデリック・パフォーマンスを繰り広げていたという。しかし、グループとして徐々に知名度がアップしていた矢先に、ヴォーカリストのマヌエラ・ベルロートが目の病気によりグループから脱退。彼らは彼女の代わりとなるヴォーカリストを関係する各方面に働きかけ、1969年9月にイェルネイ・カーグマンという新たな女性ヴォーカリストを迎える。彼女はアース&ファイアーが初めてのプロデビューとなる。やがてオランダのロックシーンを築いたグループ、ゴールデン・イヤリングと接触する機会を持ち、そのマネージャー兼プロデューサーであるフレッド・ハーイェンの元で本格的なレコーディングを行い、契約したポリドールからデビューシングル『シーズン』をリリースしている。『シーズン』はオランダのチャートで最高位2位を記録し、トップ40に14週連続でチャートインするヒットとなったという。続くシングル『ワイルド・アンド・エキサイティング』も最高位4位を記録し、デビューから立て続けにヒットを飛ばしたことにより急速にグループは注目を集めるようになる。1971年にシングルを含めたデビューアルバム『アース&ファイアー』をリリースし、オランダのみならず、ドイツや日本、イギリスでもリリースされ、オランダのメディアではその年で最も期待されるグループとして評価される。しかし、そうしたプロミュージシャンとしての不安からかオリジナルメンバーだったセース・カリスが脱退。後任にカリスの紹介でトン・ファン・デル・クレイがドラマーとして加入することになる。新たなメンバーでレコーディングされたシングル『ロック・インヴィテーション』で初めてメロトロンが導入され、セカンドアルバム『アムステルダムの少年兵』ではプログレッシヴロックが台頭してきた中で制作されたことで、よりシンフォニックな内容になり、レコードのA面を組曲で構成する大作志向となっている。セカンドアルバムは当然のごとくセールス的に成功し、高い評価を得ることになる。そしてシンセサイザーを導入し、レコーディングに時間をかけてさらにシンフォニックな作風に仕上がったのが、1973年3月にリリースされた本作の『アトランティス』である。

★曲目★
01.Atlantis(アトランティス)
 a.Prelude(序曲)
 b.Prologue~Don't Know~(序幕~ドント・ノウ~)
 c.Rise And Fall~Under a Cloudy Sky~(興亡~アンダー・ア・クロウリー・スカイ~)
 d.Theme Of Atlantis(アトランティスのテーマ)
 e.The Threat~Suddenly~(脅威~サドゥンリー~)
 f.Destruction~Rumbling From Inside The Earth~(滅亡~ランブリング・フロム・インサイド・ジ・アース~)
 g.Epilogue~Don't Know~(終幕~ドント・ノウ~)
02.Maybe Tomorrow,Maybe Tonight(メイビー・トゥモロウ、メイビー・トゥナイト)
03.Interlude(間奏曲)
04.Fanfare(ファンファーレ)
05.Theme Of Atlantis(アトランティスのテーマ)
06.Love,Please Close The Door(ラヴ、プリーズ・クローズ・ザ・ドア)

 前年にシングル『嘆きの青春』がグループ初のチャートで首位を獲得し、グループとして最も充実した中でリリースされた本アルバム『アトランティス』は、レコードのA面を組曲、B面に小曲を配したアルバムのトータリティを意識した構成になっている。1曲目は16分を越えるアルバムメインとなる7つの構成からなる組曲『アトランティス』であり、冒頭から3連符で刻まれるリズム上で流れるギターが秀逸で、彼らの卓越した叙情性あふれるメロディセンスが堪能できるナンバーである。伸びやかで情感的なカーグマンのヴォーカル、ファズの効いたギター、音に深みを与えているシンセサイザーやメロトロンなどを駆使して、幻の大陸アトランティスの興亡を表現している。特に中盤の『アトランティスのテーマ』は美しいシンセサイザーとギターによるインストゥメンタル曲は必聴である。2曲目の『メイビー・トゥモロウ、メイビー・トゥナイト』は、シングルカットされた曲でシンセサイザーを前面に押し出したキャッチーなメロディのあるナンバー。3曲目の『間奏曲』は、クラシカルなギターとシンセサイザーによるインストゥメンタル曲で、4曲目の『ファンファーレ』は、やや重い曲調だが暗さの中で一筋の光を見出すようなメロディが特徴であり、カーグマンの妖艶なヴォーカルが冴えたナンバーである。5曲目の『アトランティスのテーマ』は、組曲に含まれている同曲のシングルヴァージョンである。6曲目の『ラヴ、プリーズ・クローズ・ザ・ドア』は、アコースティックギターとカーグマンのヴォーカルを中心としたメロディアスなナンバーであり、バックのメロトロンがキング・クリムゾンを彷彿とさせる美しい曲である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前作のアルバム『アムステルダムの少年兵』はやや陰鬱とした空気感が漂うシンフォニックサウンドだったが、本作はより叙情性と明快さが増したメロディラインを重視した内容になっている。特にシンセサイザーとメロトロンが効果的に使われており、アース&ファイアーが叙情派シンフォニックロックの代表格となった所以のサウンドに満ちあふれているのがよく分かる。

 アース&ファイアーは本アルバムをリリースした後、フォーカスと共にオランダで不動の人気を博し、1974年にはフォーカスとヨーロッパをはじめ、トルコやスカンジナビア諸国のツアーを回ることになる。同年6月にシングル『ラヴ・オブ・ライフ』をリリースし、3週連続で2位を記録するなどグループは相変わらず高い人気を維持するが、この曲のリリース後にベーシストのハンス・ズィークが脱退し、代わりにテオ・フルツが加入することになる。新たなメンバーで4枚目のアルバム『来たるべき世界』をリリース。このアルバムは近未来の人口爆発と機械化社会に警鐘を鳴らしたコンセプトアルバムだが、メロトロンやシンセサイザーを起用したシンフォニックなサウンドになっているものの、リズムがファンキー寄りな作風に変化している。これは交代したフルツの影響もあるが、プログレッシヴロックそのものの変化が求められた結果なのかもしれない。その後もコンスタントにアルバムやシングルをリリースを続けていたが、1978年にドラマーのファン・デル・クレイが脱退。ツアーで同行したことのあるアブ・タンブールが正式加入し、マテリアルアルバム『Reality Fills Fantasy』をリリースする。しかし、ヴォーカリストのカーグマンがソロ転向を意識した作品作りを始めており、1982年11月に『In a State Of Flux』がリリースされた6ヵ月後の1983年5月にアース&ファイアーは活動を休止することになる。カーグマンは後にソロとしてデビューし、多くのアルバムをリリースし、オランダで歌手として成功する。また、1989年にはカーグマンをはじめ、一時的にかつてのメンバーとアース&ファイアーを再結成して、アルバム『フェニックス』をリリースするが、そこにはクールツ兄弟の名は無い。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はオランダの叙情派シンフォニックロックの代表格であるアース&ファイアー『アトランティス』を紹介しました。実はこのグループの歴史をたどってみると、デビューシングルの『シーズン』は日本でもリリースされており、かのバナナラマがカヴァーして一斉風靡したショッキング・ブルーの『ヴィーナス』とともに紹介されていて、いち早く日本で認知されたオランダのロックグループとなっています。本アルバムはCD化された『アムステルダムの少年兵』と共に購入して聴いていて、フォーカス、トレースと並んで好きなオランダのグループでもあります。メロトロンを導入するきっかけが、英国のムーディー・ブルースやキング・クリムゾンを意識していたとヘラルト・クールツが語っていた通り、メロトロンを効果的に使用したメロディセンスは抜群です。2004年にはアース&ファイアーの紙ジャケ盤がリリースされて、ファーストアルバムを含めて入手していますが、ファーストはロジャー・ディーンが手がけた幻の英国ネペンサ盤の変則ジャケットになっているんですね~、大変満足しています。このファーストにはデビューシングルの『シーズン』をはじめとした未収録シングルが含まれています。

 さて、アース&ファイアーというグループ名の由来は、結成当時のメンバーの5人がいずれも火と地の星座(火の星座に属するのは牡羊座、獅子座、射手座、地に属するのは牡牛座、乙女座、山羊座)の生まれだったからだそうです。イェルネイ・カーグマン以外のメンバーは交代することがあっても偶然に火と地の生まれだったと言われています。そう考えるとカーグマンのソロ転向の曲作りや計画が始まったのをきっかけに、グループが活動休止に追い込まれていったのは、ある意味運命的だったのかも…というのは言いすぎでしょうか。また、カーグマンといえばフォーカスのベーシストであるベルト・ルイテルと結婚していまして、本アルバムのリリース後にフォーカスと共にヨーロッパ周辺のツアーをした時から付き合っていたとも言われています。もっと言うと、カーグマンのソロアルバムのプロデューサーにはベルト・ルイテルが担当しています。まさか……いやいや、売れてきたらソロ活動したいのはどのアーティストにもあることだし……ねぇ、べ、べつに勘ぐってないですよ。うん。( ゚д゚ )シンジテマスヨ

それではまたっ!