【今日の1枚】Dice/Dice(ダイス/北欧の夢) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Dice/Dice
ダイス/北欧の夢
1978年リリース

技巧と叙情が激しく重なり合う
スウェーデンが誇るダイスのデビューアルバム

 スウェーデンのシンフォニック・プログレでカイパと並び、高い人気と実力を誇るダイスのデビューアルバム。カイパが叙情派シンフォニックと呼ばれる幻想的なサウンドである一方、ダイスは技巧派シンフォニックと呼ばれ、緻密なアンサンブルを得意としている。ダイスの真骨頂はその複雑で畳み掛けるような変拍子の展開にあり、その中で時折魅せるギターとメロトロンによる北欧らしい叙情性に富んだメロディを併せ持ったサウンドが最大の魅力となっている。たった2枚のアルバムを残した伝説のグループとして、ヨーロッパだけではなく日本でも未だカリスマ的な人気を誇っている名盤である。

 ダイスは元々、ギタリストのオルヤン・ストランドベルクとキーボーディストのレイフ・ラールソンの2人によって、1972年に結成されたグループである。2人はストックホルムの進学校で出会っており、結成以前にも共に活動しており、本アルバムの5曲目にある『組曲“フォーリーズ”』は、ダイス結成以前に作曲されたものである。当時のスウェーデンは英国のプログレッシヴロックの影響を受けた多くのミュージシャンがおり、ストランドベルクとラールソンの2人もインストゥメンタルなシンフォニック・ロックを目指すビジョンを持っていたという。そこで翌年の1973年に数ヶ月を費やして、アルブレヒト・デューラーの絵画『The Horsemen Of The Apocalypse』という4人のシンボリックなライダーをモチーフにした40分に及ぶ組曲を作成している。その後にドラマーのペル・アンデルソンが加入して、トリオとして活動を開始し、この時に本アルバムに収録されている数曲をプレイし、1975年にベーシストのフレデリック・ヴィルドが加わったことで、本格的なツアーをはじめている。当時のスウェーデンではカイパが華々しくデビューしており、ラグナロクやボ・ハンソン、トレッティオアリガ・クリゲット、サムラ・ママス・マンナなどのプログレッシヴロックグループが成功していた時期であり、ダイスも国営ラジオでオンエアされ、野外コンサートでのギグでは多くのファンに支持されたという。その後、メンバーの共同出資で自らのスタジオを設立し、1977年の1月からレコーディングを開始。彼らは約1年以上かけて2枚分のアルバムの録音をしている。その2枚の1つが前述の4人のライダーをモチーフにした40分を越える組曲『The Four Riders Of The Apocalypse(黙示録の4人の御使い達)』であり、もう1つは22分を越える『組曲“フォーリーズ”』を含む4~7分の小曲でまとめられたものである。本アルバムはその『組曲“フォーリーズ”』を含んだ小曲をデビューアルバムとし、1978年にリリースすることになる。

★曲目★
01.Alea Lacta Est(東方の国)
02.Annika(アニカ)
03.The Utopian Suntan(理想郷の日光浴~もしくはオゾン層による紫外線への恐怖~)
04.The Venetian Bargain(ヴェネツィア条約)
05.Follies(組曲“フォリース”)
 a.Esther(エスタール)
 b.Labylinth(ラビリンス)
 c.At The Gate Of Entrudivore(エントルーディヴォーレの門にて)
 d.I'm Entrudivorian(エントルーディヴォリオン)
 e.You Are?(ユー・アー?)
 f.You Are…(ユー・アー…)

 本アルバムにはリードヴォーカリスト、サックス奏者として、ロベルト・ホルミンがさらに加わっている。インストゥメンタル曲を標榜していたダイスがデビューアルバムの数曲にヴォーカル曲を加えたのは、商業的な成功を目指していたというより、インストゥメンタルのみだと受けにくい風潮があったからだと思える。それでも1978年というプログレッシヴロックの終焉に登場した本アルバムは、テクニカルな演奏と変拍子、メロトロンによるシンフォニック、北欧ならではの冷たさと温もりを感じる叙情的なメロディといったプログレッシヴロックの醍醐味がすべてそろっていると言っても過言ではない仕上がりとなっている。1曲目の『東方の国』は、ダイスの転がる音から始まり、勢いのあるギター、そしてメロトロンが追い打ちをかけて、すぐに聴く者を圧倒させる変拍子の展開へと続くなど、単調な演奏は一切無く、まさにこの1曲目でダイスの凄まじい変拍子を伴った技巧的な演奏が堪能できる。2曲目の『アニカ』はフォーカスのヤン・アッカーマンに似た叙情的なギターとリリカルなピアノを中心としたインストゥメンタル曲である。3曲目の『理想郷の日光浴』はモノクロ映画で流れるようなコミカルな曲で、後半はリズミカルな演奏でピッチが段々とアップしていく流れから、彼らが単にテクニカルだけではないセンスが光るナンバーである。4曲目の『ヴェネツィア条約』は、ピアノとメロトロン、そして独特なギターフレーズによる美しいシンフォニックなインストゥメンタルであり、こちらも単調な演奏が無い畳み掛けるような変拍子の多い曲になっている。極め付けは5曲目の22分に及ぶ『組曲“フォーリーズ”』だろう。叙情的なギターとメロトロンから始まるこの曲は、全体的にクラシカルであり冷たさが漂う曲調だが、3分過ぎからの澄み渡るようなギターとメロトロンによるフレーズがあるなど、聴く者を最後まで逃さない曲構成は素晴らしいの一言である。『エントルーディヴォーレの門にて』から曲調が変わり、流麗なピアノとヴォーカルが奏でられ、『エントルーディヴォリオン』から技巧的なアンサンブルとなって大団円を迎える。とにかく次から次へと新たなフレーズや曲調がめぐるましく変化し、彼らの超絶的なテクニックとメロディセンスが一際目立った逸品となっている。

 これだけ1曲に複雑ともいえる変拍子や曲調を変化させながらプレイできているのは、単に彼らの演奏技術の高さによるものだけではない。オルヤン・ストランドベルクとレイフ・ラールソンの2人が、グループ結成以前から長年を費やして綿密に練られた曲作りにあると考えられる。まさにストランドベルクのギターとラールソンのメロトロン、もしくはピアノによる技巧と叙情の激しい重なり合いである。後にマテリアルアルバムとしてリリースされる『The Four Riders Of The Apocalypse(黙示録の4人の御使い達)』も、組曲とはいえ、恐ろしいほどの変拍子とメロディで繋いだアルバムとなっており、2人が目指そうとしたインストゥメンタル曲の真髄として名盤に数えられている。ダイスは本アルバムのリリース後の活動の記録は残っていない。話によるとメンバーはそれぞれ、顔を合わせつつも人脈がらみで他のグループのライヴのエンジニアとして手伝ったり、セッション・ミュージシャンとなったり、CMや映画音楽の仕事をしたりと、他のジャンルの仕事を手伝う中、グループは開店休業状態が続いてしまったといわれている。時代の流れとはいえ、これだけの技量とセンスを持ちながら、たった2枚のアルバムで終わるにはあまりにも惜しいグループである。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は北欧の伝説的なグループ、ダイスのデビューアルバム『北欧の夢』を紹介しました。私がこのアルバムと出会ったのは1990年代の後半だったでしょうか。すでにこの『北欧の夢』は1989年にベル・アンティークから早くもCD化を果たしていたようで、スウェーデン系のプログレではカイパと並び比較的に早い段階で入手したアルバムです。初めて聴いたときは内容の衝撃と大発見の喜びの両方があって、このアルバムからまだカイパ以外聴いていなかった北欧のプログレに目覚めたものです。ええ、あちこちのレコードCDショップに探しに行ったものです。スウェーデン系ではトレッティオアリガ・クリゲットやボ・ハンソン、フィンランド系ではペッカ・ポーヨラ、タブラ・ラサは、その後に入手したアルバムで非常に満足しています。私がこのダイスを高く評価している理由は、プログレならではの要素というか理想形がすべて備わっているところです。単調なフレーズなんて一切無い、畳み掛ける変拍子なんて聴いていてゾクゾクするではありませんか。しかも北欧ならではの冷たさの中で温もりを感じるようなメロディは、牧歌的であり哀愁すら感じてしまいます。初めて聴いてから随分経ちますが、全く飽きが来ないばかりか、昨今、ますます聴くほどに愛着が湧いてしまっています。「とにかく何も言わず、ただただ聴いてもらいたい」の一言に尽きます。

 

 さて、本アルバムは1978年リリースということで、プログレとしては下火になりつつある後期の部類に入ります。しかし、彼らがジェントル・ジャイアントやエマーソン・レイク&パーマーのレコードを聴いてプログレに目覚め、5年近く維持し続けたというのはある意味凄いです。実はファーストアルバムの企画中、著名なレコードプロデューサーのキム・フォウリー(「ナットロッカー」、EL&Pなど)がロサンゼルスからスウェーデンに飛び、一緒に曲を書いたりプロデュースしたりしたことが大きなモチベーションになったそうです。自分たちの蓄積していた音楽のアイデアは膨大であり、2枚のアルバムをレコーディングしたものの収めきれなかった楽曲もあったといわれています。そんな本アルバムは彼らが吟味して収録した楽曲であり、プログレの醍醐味が備わったものばかりです。ぜひ、味わって聴いてほしいです。また、マテリアルアルバムの『The Four Riders Of The Apocalypse(黙示録の4人の御使い達)』も名盤なので、どこかで紹介したいと思います。

それではまたっ!