【今日の1枚】Quatermass/Quatermass(クォーターマス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Quatermass/Quatermass
クォーターマス/クォーターマス
1970年リリース

キーボードをメインに革新的な
サウンドを生み出した英ハードロックトリオ

 後にディープ・パープルに参加するロジャー・クローヴァー、イアン・ギランが在籍していたことで知られるロックグループ、エピソード・シックスのジョン・グスタフソン(ベース、ヴォーカル)とミック・アンダーウッド(ドラム)、そして1980年代にセッションミュージシャン、映画音楽家として活躍するジョン・ピーター・ロビンソン(キーボード)の3人が組んだハードロックトリオ、クォーターマスの唯一のアルバム。キーボードをメインに据えて、クリームやザ・ナイスと同じトリオ編成から繰り広げられるそのサウンドは、R&Bやハードロック、クラシックなどのジャンルを越えた革新的なプログレッシヴロックとして今なお高く評価されているアルバムである。また、翼竜が高層ビルの谷間を飛遊するヒプノシスの手による強烈なアルバムジャケットと、新興レーベルであったハーヴェストからのリリースということで、当時はマニアの間ではコレクターアイテムとして人気となった作品でもある。

 クォーターマスの中心人物はジョン・グスタフソンで、彼は1950年代末から活動するベテラン・ミュージシャン、マージービートのブームを起こしたザ・ビッグ・スリーのメンバーである。1963年にザ・ビッグ・スリーを脱退した彼は、同グループのライアン・グリフィスとザ・シニアーズを結成し、翌年にはザ・マージービーツに参加し、1965年には再度グリフィスとザ・ジョニー・ガス・セットを結成している。ヒット作が出ないまま1966年にはザ・マージービーツのジョン・バンクスとジョニー・アンド・ジョンを結成し、その後もクォーテーションズに参加するなど、様々なグループを結成しては渡り歩く活動をしていた。そして1969年にロジャー・クローヴァーの代わりにエピソード・シックスに参加することになるが、そこにドラマーのミック・アンダーウッドとキーボード奏者のジョン・ピーター・ロビンソンと出会うことになる。ミック・アンダーウッドはリッチー・ブラックモアも在籍したアウトローズやジェームズ・ロイヤル・セットのメンバーとして活躍してきたミュージシャンであり、一方のジョン・ピーター・ロビンソンは英国王立音楽院を卒業した後、クラシックの仕事を蹴ってジャズやロックの世界でセッション・ミュージシャンとして活動してきた実力者である。当時のエピソード・シックスはグループの中心的な存在だったロジャー・クローヴァーとイアン・ギランが第2期ディープ・パープルに引き抜かれた影響で迷走しており、ジョン・グスタフソンはエピソード・シックスから離れて新たなグループを模索していたという。そこでセッションミュージシャンとして実力者であった2人に声をかけ、1969年9月にトリオグループであるクォーターマスを結成する。彼らは早くも12月にマーキーでお披露目ライヴを行い、翌年の1月にはアルバム・レコーディングを開始。そして同年5月にデビューアルバム『クォーターマス』をリリースすることになる。

★曲目★
01.Entropy(エントロピー)
02.Black Sheep Of The Family(ブラック・シープ・オブ・ザ・ファミリー)
03.Post War,Saturday Echo(ポスト・ウォー、サタデー・エコー)
04.Good Lord Knows(グッド・ロード・ノウズ)
05.Up On The Ground(アップ・オン・ザ・グラウンド)
06.Gemini(ジェミニ)
07.Make Up Your Mind(メイク・アップ・ユア・マインド)
08.Laughin Tackle(ラヴィン・タックル)
09.Entropy -Reprise-(エントロピー -リプライズ-)
★ボーナストラック★

(ブリティッシュ・レジェンド・コレクションより)
10.One Blind Mice(ワン・ブラインド・マイス)
11.Punting(パンティング)

 本アルバムの特徴はジョン・グスタフソンの1960年代のR&Bとジャズロック、そしてジョン・ピーター・ロビンソンのクラシック・ミュージックが根底にあるプログレッシヴなジャズロックとハードロックの二面性を擁した個性的なサウンドにある。前衛的なノイジーなサウンドである1曲目の『エントロピー』から始まり、2曲目の『ブラック・シープ・オブ・ザ・ファミリー』は、リッチー・ブラックモアが魅了したというリフを主体としたハードロック調の曲である。3曲目の『ポスト・ウォー、サタデー・エコー』は9分に及ぶ大曲であり、高らかなキーボードから始まり、グスタフソンによるR&B的なヴォーカルとジャズをミックスさせたプログレッシヴな要素のあるナンバー。4曲目の『グッド・ロード・ノウズ』は、ロビンソンのチェンバロ風のキーボードを主軸にしたヴォーカル曲であり、アルバムの中で最もクラシカルなナンバーである。5曲目の『アップ・オン・ザ・グラウンド』は、中間部のキーボードソロが聴き応えのあるナンバーであり、6曲目の『ジェミニ』は、緩急のあるリフを主体としたハードロックであり、2曲目の『ブラック・シープ・オブ・ザ・ファミリー』に通じる王道的なサウンドである。7曲目の『メイク・アップ・ユア・マインド』は、R&Bをベースにしたヴォーカル曲だが、中間部のノイジーを効かしたキーボードソロが前衛的であり、ジャジーでありながら変拍子のあるユニークなサウンドになっている。8曲目の『ラヴィン・タックル』は10分を越える大曲であり、ジャズテイストなサウンドから始まり、徐々にプログレッシヴで前衛的なサウンドに変貌していく流れがあまりにも見事であり、1970年代初期の過渡期にあったブリティッシュロックの変革を1曲の中に封じ込めた内容になっている。また、曲作りはグスタフソンとロビンソンの2人が主に行っているが、もう1人スティーヴ・ハモンドというアーティストがいる。2曲目の『ブラック・シープ・オブ・ザ・ファミリー』や6曲目の『ジェミニ』の作曲者でありギタリストである。さらにストリングスのアレンジやチェロ奏者のポール・バックマスターも参加しており、彼らの存在が本アルバムのサウンドに大きく影響していることを付け加えておこう。

 アルバムをリリース後のクォーターマスは、ドイツやスウェーデンをはじめとしたヨーロッパツアーをはじめ、1970年の12月にはブラック・サバスやサボイ・ブラウンと共にアメリカツアーを行い、そのままフィルモア・イーストでザ・キンクスやバター・フィールド・ブルース・バンドのサポートを務めている。1971年初頭にはクリス・トーマスをプロデューサーに迎えてセカンドアルバムのレコーディングを開始するが、途中でロビンソンが体調を崩したために中断。ロビンソンの復帰後にドイツツアーを行うが、グループとして成功することができず、同年4月に解散している。1年半というあまりにも短い活動期間だった。ジョン・グスタフソンは後にハード・スタッフというグループを結成して1973年まで活動し、ロキシー・ミュージック、イアン・ギラン・バンドと渡り歩くことになる。ミック・アンダーウッドは、ストラップスというグループを経てイアン・ギラン・バンドを解体して作られたギランに参加。そしてジョン・ピーター・ロビンソンはサン・トレーダー、ブランドXのグループを渡り、フィル・コリンズやブライアン・フェリー、マイク・ラザフォード、デヴィッド・ボウイのアルバムなど、セッションキーボーディストやアレンジャーとして数多くのアーティストの楽曲に参加している。また、1985年代以降のロビンソンは幾多のテレビシリーズや映画、ドラマの作曲者としてあまりにも有名である。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はアンダーグラウンドからプログレッシヴに向かう革新的なハードロックを披露したクォーターマスの唯一のアルバムを紹介しました。かつてハードロックを主に聴いていた頃、ディープ・パープルやレインボーは通る道で、その中でクォーターマスの名は常に出てきたのですが、当時のクォーターマスのレコードは人気が高く、さらには高価で手が出ず、CD化した90年代になって初めて聴いたのものです。当初は単純にハードロックの亜流として聴いていましたが、後にプログレッシヴロックを聴くようになってから、ディープ・パープルやレッド・ツェッペリンが目指したハードロックをベースにしたジャズやクラシックといったジャンルをミクスチャーした、ある意味、前衛的なプログレサウンドなんだと気づいたものでした。唯一無二のジョン・ピーター・ロビンソンのキーボードは、今聴くとけっこうクセになります。

 それと本アルバムの収録曲にはディープ・パープルやレインボーファンにはあまりにも有名なエピソードがあります。ギタリストであるリッチー・ブラックモアがディープ・パープルを脱退した理由のひとつが、本アルバムの2曲目に収録されている『ブラック・シープ・オブ・ザ・ファミリー』のカヴァーをグループでレコーディングできなかったことだと言われています。リッチー・ブラックモアはクォーターマスの『ブラック・シープ・オブ・ザ・ファミリー』の曲を相当惚れ込んでいて、カヴァー曲にすることを提案するもののメンバーに拒否されてディープ・パープルを脱退し、レインボー結成の一因となったということです。一瞬、ホントかな~まさかそんな事で~と思ったりもしましたが、レインボーのファーストアルバム『銀嶺の覇者』にしっかり収録されていました(笑) どんだけ好きなのよっ! まあ、リッチーのワガママは筋金入りですからねぇ~(笑)

それではまたっ!