【今日の1枚】Caterina Caselli/Primavera(組曲「春」) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Caterina Caselli/Primavera
カテリーナ・カセッリ/プリマヴェーラ(組曲「春」)
1974年リリース

イタリアの先駆的な女性ロックシンガー
カテリーナ・カセッリの天性の歌唱力が光る名盤

 後年ではイタリアの音楽プロデューサー、女優、テレビ司会者などで活躍するカテリーナ・カセッリが、1974年にシンガーだった時代に残した5枚目のアルバム。CGDレコードのオーナーの子息であるピエロ・シュガーと結婚し、出産後の復帰作としてリリースされた本アルバムは、イ・プーのプロデューサーで知られるジャンカルロ・ルカリエッロと、オーケストラ・アレンジを行ったダニーロ・ヴァオーナなど、イタリアの新しい時代を担う音楽クリエーターたちと共に作り上げた傑作でもある。日本では初めて国内盤として紹介されたカテリーナ・カセッリの唯一のアルバムとして、未だに高い人気を誇っている。

 カテリーナ・カセッリは1946年10月25日にイタリアのエミリア=ロマーニャ州、モデナ県サッスォーロ生まれで、1963年のカストロカーロ新人コンテストでジリオラ・チンクエッティに続いて準優勝したのがきっかけでMRCと契約してデビューしている。MRCはほどなく破産して、カテリーナはCGDレコードに移籍。そのCGDレコードで夏のバカンスの間、フィアットの自動車のスポンサードでイタリア中を旅するという過酷なスケジュールと、激しい観客の反応で有名なカンタジーロ・コンテストで新人部門でエントリーし、後にナイトクラブ「パイパー」でパイパーガールと呼ばれ、ティーンのアイドルとして活躍する。カテリーナの名を一躍有名にしたのは、1966年『青春に生きる』でサンレモ音楽祭に初出場して入賞し、さらに同年のフェスティバル・バールに『涙を許して』で優勝したことだろう。当時のRCAレコードにはビート系女性シンガーとして敵なしだったリタ・パヴォーネという人気のアーティストがおり、彼女とカテリーナ・カセッリはライバル同士として君臨していた。リタ・パヴォーネは非常にはっきりした美しいイタリア語と小気味よいリズムで歌い、コケティッシュな風貌にボーイッシュな魅力で人気を博していたが、一方のカテリーナ・カセッリは全くの逆のタイプといっても良い感じだった。カテリーナはガンガン歌うワイルドなイメージであり、これまで若者を捕らえてきたリタのスタイルを古いものにしてしまい、1967年以降はリタを凌駕してロックの女王となっている。その後もカテリーナのスタイルを標榜するフォロワーやアーティストが登場し、カテリーナはイタリア女性ロックシンガーの先駆者と呼ばれるようになる。1969年にはCGDレコードのオーナーの子息であるピエロ・シュガーと結婚。その2年後に出産して改めて音楽界に復帰したのが、1974年にリリースした本アルバムの『Primavera(組曲「春」)』である。

★曲目★
01.Primavera(春-序章-)
02.Momenti Si,Momenti No(ひとときの夢)
03.Desiderare(憧れ)
04.Il Magazzino Dei Ricordi(思い出の店)
05.Una Grande Emozione(溜息)
06.Prima Non Sapevo(愛の遍歴)
07.Io Delusa(失したもの)
08.Piano Per Non Svegliarti(静かな眠り)
09.Buio In Paradiso(天国の秘密)
10.Noi Lontani,Noi Vicini(あなたを想って)
11.PrimaveraⅡ(春)

 本アルバムはカテリーナ・カセッリが28歳の時の作品で、歌手として成功し、結婚や出産を経て彼女の人生にとって一番充実した時期に作られたものである。アルバムの注目すべき点は、プロデューサーにジャンカルロ・ルカリエッロを迎えたことだろう。イ・プーのアルバムのプロデューサーでもあり、1970年代のイタリアンポップスやプログレッシヴロックを牽引した凄腕の人物である。彼の元に次々と才能あるアーティストが集まり、本アルバムのオーケストラ・アレンジを行ったダニーロ・ヴァオーナもその1人である。そんな才能あるアーティスト達の手によって作り上げられた本アルバムは、カテリーナ・カセッリの類まれなる歌唱力を引き出しただけではなく、カンタトゥーレ、ロックが席巻していたイタリアの次なる時代を見据えた新たなポップス&ロックの変革をもたらした傑作となっている。1曲目の『春-序章-』のイントロからダニーロの手による美しいストリングによるオーケストレイションをバックに、優しくたおやかに歌うカテリーナの歌声が聴き手の心が洗われるような名曲がズラリと並んでいる。2曲目の『ひとときの夢』と3曲目の『憧れ』は、シングルカットされ、『ひとときの夢』はチャートで24位を記録している。1曲1曲が丁寧にそして秀逸なストリングアレンジが心地良い叙情性を醸し出し、「春」をモチーフとした切々と様々なシーンが歌われており、イタリアンポップスだけではなくクラシカルなプログレッシヴロックに通じる美学が込められている。カンタトゥーレやカンツォーネ、そしてクラシックというイタリアの音楽の歴史を経ながら、新たな音楽性を加味した才能あふれるアーティストたちによって作られた本アルバムは、まぎれもなくイタリアでしか生まれない音楽であり傑作であることは間違いない。優美なメロディーを堪能しつつ、最後の曲『春』を聴き終えた後の余韻は計りしれない。

 本アルバムの曲作りにはカテリーナが結婚前に付き合いのあった作家、クラウディオ・ダイアーノ・フォンターナやロベルト・ソフィーチ、ルイジ・アルベルティッリを起用しながら、そこにイ・プーやリッカルド・フォッリ、アリーチェ・ヴィスコンティ、ジャンニ・トーニといった新たな音楽クリエーターを掛け合わせたものである。見方を変えれば自分のアルバムを実験台にして、次なる音楽に挑戦したものであると言っても過言ではないだろう。その後、イ・プーを脱退したリッカルド・フォッリがルカリエッロの元に復帰し、ソロアルバム『世界』を制作して成功し、アリーチェ・ヴィスコンティのアルバムもダニーロが現場指揮をするなど、本アルバムのチームが制作をしているのが良い例だろう。カテリーナ・カセッリは1975年に『Una grande emozione』のアルバムをリリース後に引退し、その後、CGDレコードはワーナーブラザーズに買収されてしまうが、CGDレコードのオーナーだった夫のピエロ・シュガーと共にシュガー・ミュージックの副社長として音楽制作を再開。アンドレア・ボッチェリやフリッパ・ジョルダーノ、エンツォ・グラニャニエッロ、ジェラルディーノ・トラヴァート、エリーザ・ガッゾーサなど次々にスターを輩出して、イタリアの音楽界で最も有力な制作プロダクションとして育て上げている。カテリーナは1990年『Bisognerebbe non pensare che a te』でサンレモ音楽祭に自らエントリーして入賞し、久しぶりのアルバム『Amada mia』をリリースし、再び歌手として音楽活動を果たしている。

 

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はイタリアの歌姫、カテリーナ・カセッリの『プリマヴェーラ 組曲「春」』を紹介しました。アルバムを購入した当時はイタリアの音楽事情が疎かったため、このアルバムを聴くまではカテリーナ・カセッリの存在は知らなかったというのが本音です。しかし、アルバムを初めて聴き終えて、そのあまりにも美しい音楽に思わずアルバムジャケットを胸に抱きしめてしまったくらい感動してしまいました。今では気持ちが落ち込んだ時に聴くアルバムとして重宝しています。このアルバムを通じてイ・プーのアルバムにも触れましたが、『ロマン組曲』や『オペラ・プリマ』が、まさしくプロデューサーのジャンカルロ・ルカリエッロが息づいた作品として溜息が出るくらい美しくまとめられた作品だと思います。最近、年をとったからでしょうか、やはり普遍的な優美なメロディーこそ、人の誰もが響くものであることを改めて認識した次第です。

 実はカテリーナ・カセッリが在籍するCGDレコードには、1970年から1980年代にイタリアのポップシーンを牽引する2人のプロデューサーが存在します。1人は上記にもあったジャンカルロ・ルカリエッロと、もう1人がジャンカルロ・ビガッツィです。ルカリエッロは本アルバムとイ・プーのプロデューサーとして君臨しますが、ビガッツィは作曲作詞家として数々のヒット曲を世に出し、1991年のオスカー賞を受賞した映画『Mediterraneo』の音楽担当したことで知られています。この2人をCGDレコードが擁していたというのが奇跡的で、特にジャンカルロがいなければ本アルバムは生まれなかったと言われています。本アルバムが若い次世代を担うアーティスト達を集め、さらに輩出していったことは上記でも語った通りです。

 カテリーナ・カセッリは2021年現在、75歳です。シュガー・ミュージックの社長は息子に譲り、実質的なバックアップを務めつつ、イタリア音楽界の女王として今なお引っ張っているそうです。

それではまたっ!