【今日の1枚】Fireballet/Night On Bald Mountain(はげ山の一夜) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Fireballet/Night On Bald Mountain

ファイアーバレー/はげ山の一夜

1975年リリース

ムソルグスキーの交響詩をメインに配した

ファイアーバレーの華麗なるデビュー作

 ムソルグスキーの交響詩『はげ山の一夜』のカヴァーをメイン曲に据えたファイアーバレーのデビューアルバム。元キング・クリムゾンのメンバーであるイアン・マクドナルドがプロデュースしたことで話題となった作品であり、アメリカの正統派プログレッシグロックとして未だにファンの多い隠れた名盤である。また、ネクターやアーサー・ブラウンズ・キングダム・カムなどのアルバムを配給していたレーベル、パスポート(1989年に破産)からリリースされたグループであり、同レーベルのアーティストの中でもトップクラスのコレクターアイテムとなった1枚である。

 ファイアーバレーは1971年にニュージャージー州北部で結成され、最初はファイアーボール・キッズというグループ名でライヴを中心に活動していたグループである。メンバーはリーダーのジム・コモ(ドラムス、ヴォーカル)、ブライアン・ハウ(キーボード)、リッチ・シュランダ(ギター)、フランク・ペット(キーボード)、マーティン・ビグリン(ベース)というツインキーボード仕立ての5人編成となっている。グループは当初から英国のキング・クリムゾンやイエス、ジェネシスといったプログレッシヴロックに傾倒しており、名プログレグループのコピーやクラシックの名曲をロック調にアレンジして演奏をしていたという。これは本アルバムの中でムソルグスキーの『はげ山の一夜』だけではなく、ドビュッシーの『沈める寺』などをモチーフにしているところから、クラシックとロックの融合を試みたグループであったことが分かる。上記にあるようにプログレのグループのアルバムを熱心に発表していたレーベル、パスポートと契約したところから大きな転機となり、当時、北アイルランドのプログレッシヴロックグループであるフループの『当世仮面舞踏会』のアルバムを手がけていたイアン・マクドナルドをプロデュースに迎えることに成功する。その際、メンバーから不評だったグループ名を心機一転し、ファイアーボール・キッズからファイアーバレーに変えて、1975年にデビューアルバムをリリースする。本アルバムはムソルグスキーの『はげ山の一夜』をメイン曲に据えたシンフォニックロックを真正面から取り組んだ作品となっており、ファイアーバレーの音楽的センスとテクニックが満遍なく発揮された内容となっている。

 

★曲目★

1.Les Cathedrales(カテドラル)

2.Centurion~Tales Of Fireball Kids~(センチュリオン~テイルズ・オブ・ファイアーボール・キッズ~)

3.The Fireballet(ファイアーバレー)

4.Atmospheres(アトモスフィア)

5.Night On Bald Mountain(はげ山の一夜)

 a.Night On Bald Mountain(はげ山の一夜)

  b.Night Tale(夜話)

  c.The Engulfed Cathedrale(飲み込まれた大伽藍)

  d.Night Tale~Reprise~(夜話~リプライズ~)

  e.Night On Bald Mountain~Finale~(はげ山の一夜~フィナーレ~)

★ボーナストラック★

6.Robot Salesman(ロボット・セールスマン)

7.Pictures Of The City~ライヴ1974~(ピクチャーズ・オブ・ザ・シティ~ライヴ1974~)

8.Say Anything(セイ・エニシング)

 

 本アルバムはプロデューサであるイアン・マクドナルドがサックスとフルートで演奏に参加している。叙情的な演出や楽曲はイアン・マクドナルドの手腕によるものが大きいが、2人のキーボード奏者による緻密なアンサンブルが大きな特色となっている。1曲目の『カテドラル』は、ギターとシンセサイザーによるアンサンブルが特徴となった10分を越える楽曲で、ゆるやかなテンポの部分は初期のキング・クリムゾンであり、中盤ではサックスの効いたジャズロックになっている。後半はシンセサイザーを中心としたクラシカルなアンサンブルとハーモニーになっているなど、複雑なテンポと楽曲がめぐるましく変化するドラマティックな内容になっている。2曲目の『センチュリオン』は、ファイアーボール・キッズ時代の楽曲となっており、前半は勇壮なシンセサイザーによるエマーソン・レイク&パーマーをオマージュした楽曲であり、後半のギターを加えた楽曲はジェネシスっぽく聴こえるユニークな展開になっている。3曲目のグループ名を冠した『ファイアーバレー』は、ギターをメインにしたクラシカルなナンバーであり、コーラスの部分がいかにもイエスらしさを感じる。後半には浮遊感のあるエレクトリックな楽器によるオーケストラで創り出されたアンサンブルとピアノソロのアレンジは見事である。4曲目の『アトモスフィア』は、イアン・マクドナルドのフルートをフィーチャーしたバラード曲。ジェネシスを意識したような楽曲が随所にあるが、シンセサイザーとフルートによる美しいメロディーが優しい雰囲気にさせてくれるナンバーである。5曲目は5つのパートからなる『はげ山の一夜』であり、パート1からエレクトリックの楽器で再現されたクラシックナンバーで、忠実な展開はもとより、パート2の叙情的でありながら力強いダイナミックな演奏はエマーソン・レイク&パーマーの『タルカス』を思わせる。また、イアン・マクドナルドのサックスやフルートが効果的に使われており、スリリングなシンセサイザーとギターと美しいメロトロンが交差する展開は彼らの高いセンスがうかがえる。パート3のキーボードアンサンブルから始まり、途中から荘厳なパイプオルガンに移行していく展開は聴き応え満点のナンバーだ。パート4ではパート2より力強いヴォーカルのリプライズを経て、最後のパート5で、まさにシンセサイザーによって、はげ山に現れた地霊チェルノボーグと共に大騒ぎした魔物や幽霊、精霊たちが夜明けとともに消え去っていくシーンを表している。こうしてアルバムを聴いてみると、キング・クリムゾンやエマーソン・レイク&パーマー、イエス、ジェネシスといった英国のプログレグループの曲調を良く研究しており、彼らなりにクラシックを導入しつつも2人のキーボーディストとギターによるアレンジが非常に効いた作品だと思える。とくにメイン曲である『はげ山の一夜』は、緻密に計算されたアンサンブルになっており、数あるクラシックカヴァーをしてきたロックグループの曲の中でもトップクラスと言えるほどの内容である。

 大胆にクラシックをアレンジした楽曲を組み入れたデビューアルバムは、話題にはなったもののセールス的には結びつまいまま、翌年の1976年にセカンドアルバム『Two Too』をリリースする。内容はコーラスをフィーチャーした優れたプログレッシヴロックアルバムだったが、ジャケットがプログレらしからぬバレリーナに扮したメンバーをあしらったものだったため、広く知れ渡ることなくその年にグループは解散してしまう。その後、前述の通りレーベルのパスポートが1989年に倒産したことにより、2014年に正規のオリジナル紙ジャケット盤がリリースされるまで、不法な海賊盤CDが出回って粗悪な代物が売られていたという。こうしてオリジナル盤が再発し、高音質で聴けるようになったことはプログレファンにとってうれしい限りである。なお、ドラムス&ヴォーカルを担当したジム・コモは、2018年2月6日にオレゴン州ポートランドで膵臓がんのため亡くなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はクラシック曲に真正面から取り組んだプログレッシヴロックグループ、ファイアーバレーのデビューアルバム『はげ山の一夜』を紹介しました。ファイアーバレーはSHM-CD盤で初めて聴いたグループですが、正直言ってイアン・マクドナルドがプロデュースしているという一点で購入したものです。アルバムを通して聴いたのですが、あからさまにキング・クリムゾンやエマーソン・レイク&パーマー、イエス、ジェネシスといった英国のプログレグループを意識したのではないかと思えるフレーズや楽曲が散りばめられており、まさにやりたい放題という感じです。前回、スターキャッスルというグループのアルバムを紹介しましたが、こちらはイエス愛にあふれた内容で逆に感心したものですが、ファイアーバレーはアメリカっぽさは皆無で完全に英国やユーロっぽい作りに徹しています。しかし、メインの曲であるムソルグスキーの交響詩『はげ山の一夜』は、キーボードやシンセサイザーを巧みに利用したダイナミックなアレンジ内容になっていて、この曲だけでもこのアルバムの価値は十分にあると思います。とくにキーボーディストのブライアン・ハウとフランク・ペットの2人の鍵盤楽器のアンサンブルは素晴らしく、ブライアンがオルガン+チェレステ、フランクがピアノ、シンセサイザー、メロトロンと使い分けて演奏していたそうです。

 

 ちなみにSHM-CD盤にはボーナストラック3曲収録されています。『ロボット・セールスマン』は、ストリングスとブラスセッション、メロトロンを駆使したドリーミーな曲になっていて、『Pictures Of The City~ライヴ1974~』は、まさしくキング・クリムゾンのアルバム『ポセイドンのめざめ』に収録されている曲をカヴァーしたライヴ音源になっています。そのオリジナルに忠実な演奏に対して彼らがいかに実力あるグループであるかが良く分かる内容になっています。最後の『セイ・エニシング』は、X-Japanのカヴァー曲です。日本語で歌っているので、けっこうびっくりしますよ!

 

それではまたっ!