【今日の1枚】Kaipa/Kaipa(カイパ) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Kaipa/Kaipa

カイパ/ファースト

1975年リリース

北欧シンフォニックプログレの至宝、

カイパのデビューアルバム

 北欧のフォーク&トラッドの影響を受けたと思われる、狂おしいほどの抒情と柔らかく温もりのあるメロディに包まれたスウェーデンが誇るカイパのデビューアルバム。本アルバムは愛の力と自然を讃えたロイネ・ストルトの歌詩と美しい曲世界を構築する多彩なキーボード、優美なギター、骨太のベース、そして何よりも優しく情感のこもったヴォーカルにファンや批評家から大絶賛を受け、北欧シンフォニックプログレの最高峰と呼ばれた傑作である。

 カイパの前身は1964年に活動していたハンス・ルンディン(ハモンドオルガン、ピアノ、シンセサイザー)、トーマス・エリクソン(ベース、ヴォーカル)を中心としたS:T Michael Sect(セント・マイケル・セクト)というグループから始まる。1970年にはサン・マイケルズというグループに改名してアルバムをリリースしており、その後ウラ・カイパというグループ名を経て、ドラマーのイングマール・ベルイマンが加入した折、1974年にカイパと改名している。1974年6月に野外フェスでカイパとして初のステージが行われ、最初はトリオ編成だったという。やがてギタリストの必要性から当時17歳だったロイネ・ストルトを加入させ、今度は4人でストックホルムの野外フェスを行い、大きな反響を受ける。転機となったのはスウェーデン各地のコンサートやライヴの活気ある演奏や音楽を反映させた「トンクラフト」というラジオ番組に出演して知名度を上げたことである。彼らは同時に複数のレコード会社にデモテープを送り付けた結果、メジャーレーベルであるデッカと契約することに成功。1975年7月にマーカス・ミュージック・スタジオでレコーディングが行われ、20曲を録音。そのうちメンバーによって11曲に絞られ、最終的に8曲にするという吟味に吟味を重ねた究極のアルバムが1975年にリリースすることになる。

 

★曲目★

01.Musiken Är Ljuset(音楽は輝き)

02.Saker Har Två Sidor(表と裏)

03.Ankaret(錨)

04.Skogspromenad(夜の散歩)

05.Allting Har En Början(ものごとには始まりがある)

06.Se Var Morgon Gry(夜明け)

07.Förlorad I Istanbul(イスタンブールでの当惑)

08.Oceaner Föder Liv(海は生命を生み出す)

 

 カイパのサウンドは主にキャメルやジェネシスといった叙情派グループをイメージすると言われているが、イギリスのプログレッシヴロックの影響を受けつつも独自のアイデンティティとオリジナリティを兼ねそろえた神秘的で美しいメロディこそ彼らの最大の持ち味であるといえる。1曲目の『音楽は輝き』は、まさにカイパの音楽性を物語っていると言ってよいほどのメランコリックでどこか懐かしいメロディにあふれた楽曲であり、このオープニング曲で聴く者を虜にしてしまう心温まる曲である。「輝きは音、音は命」と綴る歌詞に、カイパの音楽の方向性が見てとれる。2曲目の『表と裏』は、ジャズっぽい流麗なピアノと叙情的に歌うヴォーカルから始まり、中盤に骨太のベースとドラム上で泣きのギターが鳴り響くというメロディアスな曲である。3曲目の『錨』は、まさに帆を揚げて大海原に出んとするメンバーたちの意気込みが感じられる曲である。ハンスによる陰影のあるヴォーカルと優雅に響くシンセサイザー、泣きのギター、的確に刻まれるドラムによって紡ぎ出されたサウンドは、彼らの音楽に対する「美学」が込められているかのような名曲である。4曲目の『夜の散歩』は、当時のラジオでのリクエストの多かった曲であり、北欧の伝統的ともいえるフォーク/トラッド調のメロディにあふれたインストゥメンタル曲である。5曲目の『ものごとには始まりがある』は、高らかに鳴り響くギターをメインに据えたアンサンブルであり、6曲目の『夜明け』は、どこまでも優しいヴォーカルとシンセサイザー、そしてギターによる心温まる幻想的な曲になっている。7曲目の『イスタンブールでの当惑』は、異国情緒にあふれるエキゾチックな曲になっており、軽快な楽曲でありながら彼らのテクニカルな演奏が堪能できるナンバーだ。最後の曲である『海は生命を生み出す』は、自然を讃えた神秘的なサウンドであり、シンセサイザーを中心とした空間的な広がりが感じられる曲になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、カイパの作り出すサウンドは北欧独特の雰囲気と混じり合った今ある楽器を最大限に活用した豊穣な美旋律に尽きる。シンフォニックなキーボード群や優美で伸びやかなギター、独創的なリズムを作り出すドラムと骨太のベース、さらに訴求力のある韻を踏んだ歌詞とハンス・ルンディンの情感あふれるヴォーカルは素晴らしく、ただただ聴く者を幸福にしてくれる奇跡的な名盤であるといえる。

 1975年の12月にリリースされた本アルバムは、ファンだけではなく批評家ですら熱狂的に迎えられ、スウェーデン国内にとどまらず欧州にまで、カイパの知名度は轟くことになる。続く1976年にさらにプログレ色の強いセカンドアルバム『Inget Nytt Under Solen』をリリースし、こちらも大絶賛を受ける。しかし、1977年にハンスの負担を減らすためにヴォーカリスト、マッツ・ロフグレンを加入させるが、ベーシストでヴォーカルを担当していたトーマス・エリクソンが音楽的不一致を理由に脱退する。後任にマッツ・リンドバーグが加入した新体制で、1978年にサードアルバム『Solo』をリリースする。この3枚のアルバムでカイパの名声は高まり、メジャーグループとして確固たる地位を築き上げる。だが、カイパに危機的状況が待ち受ける。1979年にロイネ・ストルトがソロアルバムをリリースし、これが成功するとロイネはマッツ・リンドバーグを引き連れてカイパを脱退し、1980年に新グループであるファンタジアを結成する。ロイネ・ストルトという中心人物を失ったカイパは、脱退したマッツ・リンドバーグを呼び戻し、ロイネの代わりにマックス・オーマンというギタリストを加入させて、ABBAのレーベルであるPolarから4枚目のアルバムをリリースするが、セールス的には結びつかなかったという。その後、メンバーを代えながら活動するものの、世の中はニューウェーブの時代となっており、1983年に惜しまれつつカイパは解散することになる。カイパは常に理想を追い続け、伝統と革新、技巧と叙情が織り交ざった北欧の代表的なグループとして、今なお多くのプログレファンから愛され続けている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は北欧シンフォニックプログレの代表格であるカイパのデビューアルバムを紹介しました。北欧には多数のプログレグループが存在しますが、個人的にその中でもひと際メロディが頭の中に残るのはカイパとダイスです。ちなみにカイパとダイスは北欧の二大シンフォニックプログレと呼ばれています。カイパは日本では遅れて1980年代に紹介されたそうで、私は1990年代にCD化された初期3作を入手し、現在では紙ジャケを購入して重宝しています。カイパの作り出すメロディはクラシックを基調とする他のプログレとは違って、北欧の伝統音楽でもあるフォークやトラッドから来る温もりのあるサウンドが特徴です。決して派手ではないものの、人の心の中にある琴線というか、情緒に訴えかけるような優しさのあるメロディだと思います。とにかくハンス・ルンディンのクラシカルなキーボード群とヴォーカル、ロイネ・ストルトの甘美なギターは素晴らしく、よくよく聴いていると骨太のベースを含めたリズム隊がしっかり効いていて、彼らのひとつひとつの演奏が奇跡的なメロディに結びついているのだと思います。また、当時のスウェーデンにはABBAという世界的なスターがいた中で、プログレッシヴロックを根付かせたカイパの存在は大したものです。

 

 「ジャングルの寺院の上をたゆたう星の旅人」という神秘的なジャケットデザインは、ギタリストのロイネ・ストルトが描いたものだそうです。ロイネ・ストルトは3枚のアルバムをリリースした後にカイパを脱退し、ファンタジア、そしてソロを経てザ・フラワー・キングスを創設します。彼がカイパで魅せたサウンドやメロディは、1曲目の歌詞にあるように音楽の持つ輝きや力そのものを形にしたのであり、その叙情的で幻想的なサウンドはザ・フラワー・キングスにも受け継がれています。聴くたびに「あれ?この曲はカイパっぽいな~」と思うことがしばしばあります。それだけカイパ=ロイネ・ストルトのサウンドは他のグループには中々無い独創的でオリジナリティにあふれています。

 

 カイパは2000年代に入って、ロイネ・ストルトがハンス・ルンディンのソロアルバムに参加したのを契機に、2002年にカイパの復活アルバム『Notes From The Past』をはじめ、3枚のアルバムをリリースしています。その後、ロイネ・ストルトは脱退してしまいますが、2015年~2017年の間に初期メンバーだったトーマス・エリクソンとイングマール・ベルイマンと共に、ハンスを中心とした新カイパともいうべき、カイパ・ダカーポを結成して、アルバム『原点回帰』と『ライヴ・イン・ストックホルム2017』を発表しています。

 

 私としては北欧プログレッシヴロックの入門として聴きたいという方に、カイパをオススメしています。とくに本アルバムは、叙情的なサウンドとはこういうものですよ~と言いたいくらいの傑作だと思います。

 

それではまたっ!